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2012年4月18日 (水)

「第三百五話」

 ベンチに座り、公園のグラウンドで小学生野球チームが、次の大会への出場を決める予選決勝戦の試合を観戦しているお爺さんがいた。
「隣、いいですかな?」
「どうぞどうぞ。」
そこへ、お爺さんがもう1人やって来て、ベンチに腰掛けた。
「よっこいしょ!」
「野球、お好きですか?」
「いえ、それほどではありませんが、こうして少年達がする野球を観るのは好きですな。」
「私もです。」
二人は、顔を見合わせて笑った。
「まだ、点数は入ってないようですな。」
「ええ、なかなかの接戦です。」
「接戦ですな。」
「出来ればどっちも大会に出場させてやりたいもんです。」
「そうですな。」
「しかし、それは出来ない。」

「ですな。」
「それにしても今日は、絶好の野球日和ですね。」
「そうですな。これ程の野球日和はこの時期滅多にないですからな。」
「ここ最近は、天気が悪かったですからね。」
「どんよりでしたな。散歩したくても雨を警戒して、結局は降らなかったなんて日ばっかりでしたからな。本当に今日は、絶好の野球日和ですな。」
「傘を持ち歩いて散歩も鬱陶しいですからね。」
「そうですな。」
「あっ!ヒットでノーアウトのランナーが出ましたよ!」
「おおっ!ヒットでノーアウトのランナーが出ましたな。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「ああ!三振だ!」
「三振ですな。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「ああ!また三振だ!」
「また、三振ですな。」
「あっという間にツーアウトですね。」
「あっという間でしたな。けど、野球はツーアウトからと言いますからな。」
「言いますね。」
「もしかしたら、もしかするかもしれませんな。」
「もしかしますかね?ホームランですかね?」
「かもしれませんな。」
「野球の醍醐味ですね。」
「野球の醍醐味ですな。」
「出るか!」
「出ますかな?」
「打て!えっ!?」
「なっ!?」
「頭に当たりましたか?」
「どうやら頭に直撃ですな。」
「バッターの少年、倒れちゃいましたけど、大丈夫ですかね?」
「大丈夫ですかな。」
「相手のピッチャーも心配そうに見てますね。」
「心配そうに見てますな。」
「動きませんよ?」
「動きませんな。」
「動きませんよ?」
「動きませんな。」
「ああ、たくさん人が集まってきましたよ?」
「たくさん人が集まってきましたな。」
「まだ動きませんよ?」
「まだ動きませんな。」
「これって、まさかですかね?」
「そのまさかかもしれませんな。」
「このタイミングだったんですかね?」
「タイミングだったのかもしれませんな。」
「あの少年、死んじゃったんですかね?」
「死んじゃったのかもしれませんな。」
「だったら、やっぱり可哀想ですね。」
「しかし可哀想とは、一概には言えませんな。」
「なぜです?」
「大好きな野球をしてる最中に死んだとしたら、それはもしかしたら、少年にしたら本望だったのかもしれませんですからな。どうせ死ぬなら、そんな死に方なのかもですな。」
「ポジティブですね。」
「実際には生まれて間も無く死んでしまう赤子もいますからな。」
「まあ、そうですけど、あっ!動いた!」
「生きてましたな。」
「生きてましたね。」
「こんな事もあるもんなんですな。」
「あるもんなんですね。」
「では、私はこれで失礼しますかな。ここに居てもしょうがいですからな。」
「私は、ここまで観ていたので最後まで試合を観ていきますよ。」
「野球日和ですからな。」
「ええ。絶好の野球日和ですから!」
「また、どこかで会えるといいですな。」
「きっと会えますよ。」
後から来たお爺さんは、ベンチから腰を上げると、帽子を少し浮かし、軽い会釈をすると風景に溶け込むように消えて行った。それを見届けると、少年野球を観ていたお爺さんはまた、再開された試合を観戦していた。

第三百五話

「死神達の午後」

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