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2012年4月25日 (水)

「第三百六話」

 気付くと俺は、目の前の人間の首を絞めていた。

第三百六話
「呪いの街に住む男」

「ここがなぜ、呪いの街と言われてるんだ?」
車を降りた俺は、サングラスを外し、街を見渡し呟いた。都市伝説にもならない都市伝説を取材するのが俺の仕事だ。都市伝説を取材してる同業の間では、そんな俺自身の事が都市伝説になってるぐらいだった。そして、今回の取材は、呪いの街に住む男、だ。何時間も車をブッ飛ばし、辿り着いたゴーストタウン。なぜか男は人口1人のこの街で、カフェを営んでた。
「注文は?」
見たところ60代に見えるやつれた男だったが、見様によったら、40代かもしれない不思議な雰囲気を醸し出してた。俺はとりあえずコーヒーとスクランブルエッグとトーストのセットを注文した。男は、黙ったまま厨房の方へと、ゆっくり歩いていった。店の真ん中にUの字型のカウンターがあり、左右に4人掛のテーブルが3つずつあり、カウンターの奥に厨房があった。厨房はガラス張りで、男が調理してる姿が見えた。店内は緑を基調とした作りで、右奥にジュークボックスが置いてあった。街並みに比べると、あまりにも不釣り合いな空間で、逆にこの生活臭が気持ち悪かった。
「お待ちどう。」
店内を見渡してた俺の目の前に、男はスクランブルエッグとトーストが乗った皿とコーヒーを置いた。
「なかなか美味そうじゃないか。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
それらは、お世辞にも美味そうだなんて言えた代物じゃなかった。スクランブルエッグとトーストは焦げ付き、コーヒーからは、コーヒーの香りがしなかった。
「いや、本当に何て言うか、独創的で美味そうだよ。ここまで足を運ばなきゃ味わえない味とでも言うのかな?」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
今にも吐き出しそうだった。スクランブルエッグとトーストを逆によくぞここまでの味にしたと、誉めたいぐらいだった。口の中のこれらを流し込もうと口に含んだコーヒーがまた、何とも独創的過ぎて俺には難し過ぎる味だった。
「ケチャップあるかい?」
ここで俺は、初めて調味料の有り難みを知った。この世にケチャップと言う素晴らしい発明を生み出してくれた、どっかの誰かに俺は、個人的に何かをプレゼントしたくなった。
「はいよ。」
「これは?」
「自家製のケチャップだ。」
この世に神が本当に居ないんだと感じた瞬間だった。男が差し出したケチャップがケチャップと言うなら、俺が今まで目にして来たケチャップは、一体何だったんだ?
「自家製とはまた、随分と凝ってるじゃないか。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
そもそもの概念として、俺にケチャップを植え付けたケチャップの発明者を俺は恨んだ。ここまで来たら、明日の心配をしてる場合じゃない。体がどうなろうが取材は俺にとって命より大事なもんだ。俺はベタベタした汚いビンの蓋を開けると、スクランブルエッグの上に得たいの知れないドロドロの紫色の物をかけた。
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
カウンターの中で男は黙って俺を見ていた。紫色のスクランブルエッグをフォークで掬い上げ、俺は奇跡ってヤツに賭けてみる事にした。見た目でクソ不味いが実際は美味い食べ物なんて、この世に腐るほど存在する。これもその中の1つなんだと、俺は紫色のスクランブルエッグを口に運んだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
奇跡なんてもんは、起きた後に、どっかの誰かが口にする事で、何かが起きる前に当事者が願う代物じゃない。
「・・・・・・・・・うっうっ!」
気付くと俺は、目の前の男の首を絞めていた。こんなもんを食わされて、果たして首を絞めない奴がいるんだろうか?殺意とは違う殺意。呪いの街に住む男の取材なんて、もはや記憶の片隅にもなかった。
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
男は白眼をむいて息絶えた。俺は、男を店の裏に埋めると、また数時間掛けて自宅へと戻った。もちろん、男を埋める時に、一緒に胃袋の中にあったもんも埋めてやった。
「ただいま。」
「おかえりなさい。」
家に着くと、妻が熱い包容と柔らかい唇で俺の帰りを迎えてくれた。
「お疲れ様。」
「本当に今日は、疲れたよ。」
「夕御飯の用意してあるから、早く来てね。」
「ああ。」
そう言うと妻は、ダイニングの方へと小走りに去っていった。助かった。そう心の底から思った。妻の手料理を食べて、今日の日の事は全て忘れよう。
「夕食はなんだ?」
「スクランブルエッグよ!」
「えっ!?」
テーブルの上にはスクランブルエッグ。その横には、紫色のケチャップが入ったベタベタした汚いビンが置かれていた。
「・・・・・・・・・・・・
うっ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
気付くと俺は、妻の首を絞めていた。

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コメント

おもしろかったです!
今回タイトルが先に示されていたのはこういう効果だったのですね~^^

投稿: 水晶 | 2012年4月27日 (金) 01時03分

最高の褒め言葉!
ありがとうございます\(^o^)/

タイトル位置も上手くいった様で、シメシメです。

コメント、ありがとうございました。m(_ _)m

投稿: PYN | 2012年5月 3日 (木) 23時57分

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