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2012年5月

2012年5月 2日 (水)

「第三百七話」

 地下商店街へと続く階段の入り口、その向かって左隣に、看板が毛で覆われた店がある。

第三百七話
「狼男屋」

「はあ?」
「だから、狼男屋ですよ。看板、見ませんでしたか?昔から看板見ないで入って来られるお客さんが多くて困っているんですよ。」
「いやいやいや、毛むくじゃらで何も見えないからでしょ!何なんだろう?感覚で、そりゃあ興味本意で入っちゃいますよ。」
「今、流行っているのはですね。この狼男災害対策グッズです。」
「いや何で普通に商売始めちゃってんの?まず狼男に襲われる事がない!」
「違いますよ。狼男に襲われる事がないのは、私どもも理解していますよ。」
「はあ?なら、狼男災害対策グッズって、何!?」
「だから、災害対策グッズですよ。中身は普通の災害対策グッズです。いいですか?懐中電灯に水、レトルト食品にマスク、携帯用トイレに防寒シート、ロープに手袋。」
「すいません?」
「何ですか?」
「何で全て毛むくじゃら?」
「狼男災害対策グッズ、ですから。」
「全く解決になってない。毛むくじゃらのマスクとか嫌だし、水も毛むくじゃらじゃん!全く対策になってないし!」
「あとは、ヘルメットに牙!」
「ここに来て狼男の要素出て来た!?と思ったらデカ!象クラスですよね?その牙!てか、災害対策グッズに絶対に要らないでしょ!牙!」
「歯に何か詰まった時とか?」
「いやいやいや、血が出ちゃう血が出ちゃう!そもそも牙の重さに耐えられなくて、腕がプルプルしちゃって的が絞れないでしょ!入れたいなら楊枝でいいし!無いならその辺の小枝でするからいいよ!」
「狼男災害対策グッズ、なんで。」
「その言葉で片付けられないレベルだからね!牙だけなら、象災害対策グッズだからね!」
「今、流行っているのはですね。狼男ウルトラサイクロンバキューム小型掃除機です。」
「いやさぁ?」
「何でしょうか?」
「おかしいでしょ?いや、むしろよくぞ商品化したと誉めたいよ!」
「ありがとうございます。」
「皮肉ですよ。本当にこれを見て何も感じないんですか?貴方は?」
「軽そうだな!と思います。持ち運びに便利だな!と思います。メチャクチャ吸い込みそうだな!と思います。」
「で?」
「凄く欲しい!と凄く思います。」
「商売下手だろ!絶対ダメだよね!掃除機を毛むくじゃらにしたら絶対ダメだよね!本体自体がゴミの山だよね!買ったその日に毛を吸い込みまくりだよね!」
「ご安心下さい。もしもの場合は、何年経っても無料で毛の方は新品と付け替えさせていただきます!」
「何で要らないサービスにそんな力入れちゃった?何で要らないサービスの売り込みに、そんな一生懸命に頭下げれる?」
「こちら、ロングタイプもございます。」
「毛が?もう掃除してんのか何してんのか分からないよ!」
「狼男ウルトラサイクロンバキューム小型掃除機ですから、掃除です。」
「掃除が掃除として成立しないだろって!ねぇ?需要があんの?今、流行ってるって、これ買う人がいるの?」
「他に今、流行っているのはですね。」
「どこで流行ってんの?ねぇ?どこで?まずはそこんとこを詳しく!」
「狼男サプリメントです。」
「毛玉じゃん!単なる毛玉じゃん!」
「目にいいです。」
「なら、ブルーベリーを選ぶね!てか、狼男の要素なら、毛が生えるとかじゃないの?」
「そんな画期的な!?」
「いやいやいや、毛玉飲んで目が良くなる仕組みの方が画期的でしょ!これ、狼の毛玉なんですか?」
「勿論、羊の毛です。」
「勿論の引用おかしいから!狼男、いや百歩譲ったとこで狼の毛でないとでしょ!何で羊?むしろ童話的には真逆なチョイスじゃん!」
「目にいい毛を選別していたら、たまたま羊に辿り着いただけなんです。」
「あそう。」
「はい。」
「って、だいたい目にいい毛って何なんだ!そんな毛が存在するか!」
「存在します!」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「だったら何で貴方はメガネを掛けてるんだ!飲めよ!毛玉!」
「これは、お付き合いメガネです。」
「お付き合いメガネ?」
「ええ、近所のメガネ屋さんから、お付き合いで購入したメガネなんです。」
「あそう。」
「はい。私用メガネは、ちゃんと自宅にございます。」
「って、どっちみち掛けてんじゃんかよ!メガネ!目悪んじゃんかよ!」
「すいません。毛玉が苦手なもので。」
「得意な人の話を聞いた事がない!毛玉って言っちゃってるしね!」
「そうですね?今、流行っているのはですね。」
「何も聞いてませんけど?」
「狼男捕獲用麻酔銃です。」
「ならまず狼男の分布図を下さい。」
「狼男分布図です。」
「毛むくじゃら!何も見えないよ!単なる四角い毛の塊だよ!で、ルールとして狼男何々って事はだよ?それって単なる麻酔銃だし、分布図でしょ?」
「対蝉用です。」
「粉々に砕け散るだろ!蝉!」
「コツとしましては、狼男捕獲用麻酔銃を構えまして、スコープを覗きまして、引き金を引くだけです。」
「そのコツでない方のコツを是非とも聞きたいもんだね!って毛むくじゃらのスコープでどうやって照準合わせんだよ!まずそのコツを聞きたいもんだね!」
「長年の勘です。」
「じゃあ、スコープいらないよね!って長年の勘を費やしたとこで、砕け散るだろ!蝉!」
「こちら、15万8970ワオー、になります。」
「まずその通貨持ってない!」
「現在、1ワオーは148ワンとなっております。今が買い時かと!あれ?お客様?どちらへ?」
「果てしなく暇でやる事がなかったら、また来ます。」
毛むくじゃらのドアの前で立ち止まり、店員を背にしてそう言うと、男は店を出て行った。
「またのお越しを心よりお待ちしております。」

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2012年5月 9日 (水)

「第三百八話」

「ギィィィィィィ!」
人の断末魔の様な音を立てながら、扉は閉まろうとしていた。
「バタン!」
と、同時にロングヘアーの美しい女性は、読んでいた本を閉じ、隣の椅子の上に置いた。
「随分と、遅かったのね?」
「ああ、随分と、待たせちまって悪かったな。」
「あら?随分な、挨拶ね?」
「挨拶?ああ、お別れの挨拶か。随分と、余裕で本を読んでたみたいだが、俺をここまで近付けたのは、随分な間違いだったな。」
「あら?そう?でも、貴方に私が撃てるのかし」

「バン!」

女の後ろに立っていた中年の男は、女の後頭部に当てていた銃の引き金を引いた。女の上半身は机に力無く倒れ込んだ。
「そーゆー感じじゃねぇんだよ。撃つとか撃たねぇとか、そーゆー感じじゃな。俺に撃つしか選択肢が残されていない様に、てめぇには撃たれるって選択肢しか残されてねぇんだよ。」
「なら、ルールを決めましょうよ。」
「バ、バカな!?」
男は驚愕した。目の前には、撃ち殺した女が脳ミソを撒き散らしながら死んでいると言うのに、大きな円卓の向かい側には、死んだはずの女が、笑顔で語り掛けているからだ。
「随分と取り乱してるみたいだけど、どう?とりあえず、銃を下ろして、座って少し、話でもしない?」
「何だこれは!?どーなってんだよ!」
「だから、その辺を座ってゆっくり話をしましょ?ねっ?」
「ふざけんな!」
「それは、妹よ。」
「妹?」
「ええ。」
「おいおいおい、警察なめんなよ?」
「別に、なめてないわ。」
「妹だと?てめぇに妹なんて居ないのは調査済みだ!」
「調査済み?随分な調査ね。なら、もう一度、調査した方がいいわね。今、貴方が撃ち殺したのは、私の双子の妹よ。」
「双子の妹?」
「ねぇ?少し謎めいてきたと思わない?深夜の図書館、刑事と殺人犯、死んだ女が目の前で生きている。どう?少し話を聞いてみたいと思わない?ほら、座って!ねっ?」
そう言うと女は、椅子に腰掛けた。それを見た男は、銃を握った右手を円卓に置き、椅子の上の本を左手で払いのけ、その椅子に腰掛けた。

第三百八話
「スリーティーズ・シティ・ライブラリー」

「そう、それでいいわ。でも気を付けて?ルールを守らないと、今度は貴方がそうなるから。」
そう言うと女は、男の横の死体を指差した。
「なあ?なあなあなあ?俺は、てめぇのお遊びに付き合う気はねぇんだよ。」
「だったらなぜ、私と話をする為に座ったの?奇妙だからでしょ?まるでこの空間が現実ではないような奇妙な感覚に襲われたからでしょ?もしかして、自分は夢を見ているんじゃないか?幻を見ているんじゃないか?それとも女の幽霊と話しているんじゃないか?安心して、間違いなくこれは現実。地球上全ての人間が共有している時間の流れの中の出来事だから。」
「そんな哲学染みた話を聞かされるなら、俺は席を立ち、今すぐてめぇを撃ち殺す。」
「ルールはルール。」
「ああ?」
「貴方が座った時点で、ルールは成立しているのよ?」
「言ってる意味が分かんねぇよ。」
「大丈夫。簡単なルールだから。いい?ちゃんと守ってね?もし、貴方が私を撃ち殺したら、貴方は死ぬ。いい?気を付けて、これは夢でも幻でもなく、現実なの。」
「快楽殺人鬼の悪あがきか?命乞いか?圧倒的不利な状況下で、訳の分からねぇ話をして、1秒でも生きていたいって事か?」
「違うわ。これは、忠告。貴方が1秒でも長く生きていられる事のね。それに訳が分かってないのは、貴方の方じゃないの?刑事さん?」
「別に、生きていたいなんて、思ってねぇよ。ただ、てめぇより1秒でも長く生きれればそれで満足なだけだ。」
「可哀想に、ここに来るまでに、貴方は一体何を失ってしまったの?幸福?愛?信頼?真実?」
「全部だ。仲間は死に、恋人は死に、そして俺も死んだ。」
「可哀想。」
「ああ、可哀想だな。皿の横に払いのけられたグリンピースよりも可哀想な奴だよ俺は!」
「私は好きよ?グリンピース。でも、貴方は生きてる。これは現実。」
「生かされてる。」
「誰に?」
「誰に?」
「ええ、誰に生かされてるいるの?」
「てめぇにだよ!この糞女ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「バン!」

男は、右手に握った銃を天井に向け、引き金を引いた。
「危なかったわね。私を撃っていたら、最悪の結末だったわ。」
「勘違いすんなよ?訳が分からない状況だろうが、追い詰めてんのは、てめぇじゃねぇ!俺だ!死神がちらついてるてめぇに何が出来る?ええ!」
「刑事さんが、随分と憐れだから教えて上げるわね。」
「何だと!?」
「確かに今、追い詰められているのは、私。でも、私はそんな銃で撃たれても死なない。」
「遂に頭がイカれたか?まあ、最初っからイカれてはいたがな。」
「正確に言えば私は死ぬ。でも、私の意志は死なないの。永遠にね。だから分かる?無意味なのよ刑事さん。この状況が、この時間が、貴方の存在が!」
「それはつまり、てめぇの後継者が居るって事か?」
「いいえ。後継者じゃないわ。私が居るのよ。」
「憐れは妄想に取り憑かれたてめぇだよ。」
「随分と頭の悪い刑事さんね。私の意志と思考が続く限りそれは後継者じゃなくて、私なのよ!」
「神にでもなったつもりか?まあ、そう言う下らない話は、俺にじゃなくて死神にでも聞かせてやってくれよ。」
「刑事さん?その引き金を引いたら、貴」

「バン!」

男は、女に向けた右手に握った銃の引き金を引いた。頭を撃ち抜かれた女は、机に力無く倒れ込んだ。そして、深く一度深呼吸をすると男は席を立ち、断末魔の様な音を立てる扉の方へと、2階に続く階段の前を通って向かった。
「ルールは守ってもらうわよ?刑事さん。」
「何だと!?」
男は、円卓の2つの死体を見た。そして、階段から降りて来る女を見た。
「そう。双子でも3つ子でも4つ子でも5つ子でもない。私なの。意志と思考を共有した私なの。理解した?刑事さん。」
「整形で顔を同じにして、犯行を繰り返していやがったのか!誰だ?誰がオリジナルだ!」
「オリジナル?確か、フランス革命の時に死んだって聞いてるわ。」
「何だと!?」
「あら!本気にしたの?冗談よ。でも、オリジナルは随分と昔に死んだのは確かよ。」
「コピーめ。」
「コピー?全く理解してないようね、刑事さん!コピーとかオリジナルとか関係無いの!私は私なの!同じ容姿、同じ意志、同じ思考、それは私以外の何者でもないのよ?いい?追い詰められてたのは、刑事さん?私じゃない。貴方なの方よ。」
8人の女達は、男を取り囲み、左手に握った銃を男の頭に向けた。
「ふざけんなこのやろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

「バン!」

同時に発射された8発の銃声は、乱れる事なく綺麗に図書館の中を1発に反響していた。
「だからルールを守らないと死ぬって、随分と忠告したのに。」
「バカな刑事さん。」
「まあでも?」
「ここまで辿り着いて私を2人。」
「殺した事は、誉めて上げるわ。」
「意志と思考の共有。」
「それが続く限り。」
「私は永遠に。」
「死なない。」
両膝を付き頭を吹っ飛ばされた男を見下しながら、女達は笑った。

「ピーーーーーーーーーーーー!」

その電子音は、男から聞こえた。
「やるわね。最初から、刑事さん?これが狙いだったのね。私を全て消すこ」

「ボン!!」

この日、図書館は知識の街、スリーティーズ・シティから跡形も無く消え去った。

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2012年5月16日 (水)

「第三百九話」

 蜘蛛って生き物、知ってんだろ?俺が朝、布団の上で何時もの様に目覚めるとさ。天井から糸を垂らして目の前に、これくらいの蜘蛛がいやがったんだよ。
「おはよう。」
あれ?っと思ったよ。一瞬な。でもまあ、蜘蛛が人の言葉を喋らない生き物だとも限らねぇし、だいたい眼鏡掛けてる時点で賢そうだったから、まあこれはこれで有りなのかなってさ。
「おはよう。」
だからまあとりあえず俺は、蜘蛛に挨拶を返した訳だ。んで次に俺は、んで?んで何なんだ?って思ったね。いや、んで?って、この状況で思わない奴が居やがるんだったら、そいつは余程の蜘蛛博士なんだろうなって事だ。だが俺は、蜘蛛博士の称号も無きゃ、嫁すら居やがらねぇ。だから、んで?って思っちまったんだ。
「俺に何か用か?」
そのオーソドックスでスタンダードな質問を聞いた蜘蛛は、ゆっくりと、聞いてる方は少しイライラする感じなぐらいゆっくりと、語り出しやがった。俺はそれを二度寝の誘惑に耐えながら聞いていた。
「選べってのか?」
「そうだ。昨日の記憶が無い今日を過ごすのか?今日の記憶が全て掻き消される明日を過ごすのか?それをお前が選ぶのだ。」
何の為に?俺は、素直にそう思ったね。けど、それを蜘蛛に問い掛ける程、俺は野暮じゃない。こうなっちまったらもう、こうなっちまった現状を受け入れてやるしかない。絶対的現実に無駄な抵抗をする事程、無駄な事なんてないからな。ましてや、これを夢だって考えちまったら、それはもう果てしなくナンセンスって奴だな。だったら何だ?最初の段階で噛んで剥がした右手の親指の爪は、何なんだ?ってなりやがる。この激痛がもたらしやがる意味を考えたら、これが夢だなんて思う奴は、余程のレスラーぐらいだ。
「あまり時間は無い。あと数分でお前が選択しないのであれば、その時はお前の命が消える。」
理不尽って言葉があるだろ?だがどうだ?理不尽って言葉を使うにはまだ、あまりにも理不尽でやがる程に理不尽な話だ。死をちらつかせての選択肢とはまた、芸の無いこった。だいたい既に答えって奴は出ちまってるってのに、やれやれ。え?昨日の記憶が無い今日を過ごすか?今日の記憶が全て掻き消される明日を過ごすか?なあ?こんな陳腐な選択肢があるか?人は毎日、意識しながら空気を吸って吐いてやがるか?考える必要があんのか?
「俺は、今日の記憶が全て掻き消される明日を過ごす!」
ここは力強く!そして堂々と、更には涼しげに言ってやるのが、礼儀ってもんだ。
「それで良いのだな?」
蜘蛛のその言葉が俺には、涙目の負け惜しみにしか聞こえなかった。おい?おいおいおい?正気か?一体誰が昨日の記憶が無い今日を過ごしやがんだ?そんな危険な今日を過ごすぐらいなら俺は、今日一日を寝て過ごすに決まってんだろ?この選択肢を迷いやがる奴なんていやがらねぇよ!
「では、良い一日を!」
そう言うと蜘蛛は、スルスルと天井に上がって行きやがった。んで、天井の隙間へ姿を消しやがった。それをぼーっと眺めながら俺は、二度寝の仕度に取り掛かった。
「何が良い一日をだよ、まったく。でもまあ、たまには一日中布団の中でゴロゴロってのも良いもんかもしんねぇな。」
目を瞑り、現実と夢の世界の狭間をウタウタしながら俺は、爪を噛み剥がす時、右手の親指にしか爪が残ってなかった事が少しだけ気掛かりだったが、どうやらそいつを気掛るより先に、夢の世界へ行っちまいそうだ。

第三百九話
「have a nice day」

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2012年5月23日 (水)

「第三百十話」

「貴様を殺す。」
少年は、銃を向けてそう言った。これは、何時からのお話?今日からのお話?昨日からのお話?それともアタシが生まれるずっと前からのお話?
「なぜ、アタシを殺すの?なぜ、アタシなの?」
気付くとアタシは、夢中で理由を探していた。必死で少年にその答えを求めていた。
「俺は、暗殺者。だから、貴様を殺す。だから、貴様なんだ。」
「暗殺者?それってつまり、誰かがアタシを殺す様に、キミに依頼したって事?」
「さあ?」
「守秘義務ってやつ?」
「そう思いたかったら、そう思えばいい。だが、そう思おうが思うまいが、貴様が死ぬって言う話の結末は変わらない。」
どんでん返しにも程がある。アタシの人生の最期が、最後の最後で、どうしてこんな最期なの?この先、物語がどんな風に展開するのかって、わくわくしながらページを捲ったら突然、目の前に死が訪れる。そんなどんでん返しが現実に存在するって言うの?死が訪れたんじゃなくて、少年は私が訪れるのをこの場でじっと待ち伏せてたの?アタシ?アタシが死に飛び込んだの?でも、少年は暗殺者。むやみやたらに殺人を楽しむ殺人鬼とは違う。
「キミ、何時からここに?」
「さあ?何時からかな?覚えてる様で覚えてないな。ただ、それを知ってどうなる?知る必要が何処にある?それを知りたがる根拠は何だ?知ったとこで、貴様の死は確定していると言うのに。」
「根拠?」
根拠は無いわ。根拠なんてもんは無い。仮に根拠があるとすれば、少年が暗殺者で、誰かがアタシを殺す様に依頼したなら、その犯人を割り出せるもしれない。けど、根本的にそれは違う。犯人がどうかより、少年の事を知りたい自分が自分の中にいる。世の中に知りたい事なんて無限大にある。でも今のアタシが知りたい事は、アタシを殺す為に少年を雇った雇い主が誰なのか?じゃなくて、この少年自体の存在意義!
「キミの事が知りたいからよ?」
「俺の事?だから、俺は暗殺者だと言っただろ?」
「ええ、聞いたわ。でも、キミの存在は何なの?」
「俺の存在だと?」
「そう!キミの存在!」
「貴様、死を目前にして、頭がイカれたか?」
「かもね。」
確かに、少年のそれは、図星なのかもしれない。死を目前に、逆に冷静さを取り戻した感覚だったけど、もしかしたらそれすら、パニックの1部なのかもしれない。アタシの中にまだ、これは現実なんかじゃないって感覚が、そうさせてるのかもしれない。でも、この何時もな感じで空間を覆う空気感が、それを阻んでいる。これは、夢なんかじゃないんだって、痛いくらいに肌を刺激する。それでもなお、アタシには理解出来ない。暗殺者に命を狙われる理由以上に、暗殺者の少年自体の存在が!でもこの絶対的な死の現実を回避出来るなら!もしかしたら方法はこれしか!
「無駄だ。」
「えっ?」
「今、貴様が考えた、もしかしたら?は、もしかしない。」
「な、何を言ってるの?」
「貴様の人生のページは、ここで終わりって事だ。捲っても捲っても、その先に貴様のストーリーは、用意されていない。この現実から脱出する方法はないんだよ。無駄だ。現状がリフレインするだけだ。」
「・・・・・・・・・こんな終わり方ってある!」
「なら、燃やすか?貴様のストーリーが描かれた絵本を?それとも破り捨てるか?無駄なんだよ。どんな方法をとっても結局は貴様の死に結び付くだけだ。いい加減、気付けよ。あるんだよ!世の中には不条理以上の不条理ってのがな!ある日突然、暗殺者に命を奪われる日ってのがな!ページを捲ってもまた俺は貴様の命を狙う。何なら捲るか?捲ってみるか?0%の勝利に賭けてみるのか?だが忠告しよう。ページを捲ったらその瞬間、次のページの俺は貴様を撃ち殺す。」
死ぬの?えっ?何で?どうしてアタシが?なぜアタシが?えっ?何?何これ?今更?ウケる!アタシったら、今更こんな事を考えてんの?随分とおめでたい奴なのね!アタシってばさ!
「ペラ!」
そしてアタシは、その絵本のページを捲った。
「バン!」

第三百十話
「絵本の中の暗殺者」

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2012年5月30日 (水)

「第三百十一話」

「おい!人間!」
「何だ!魔物!」
これは、古の話。人間界にまだ、魔物と呼ばれる異形の存在が居た頃の話。魔物は、人間を襲い、奴隷にし、食していた。人間は、そんな魔物を絶滅させるべく、英雄を募った。
「お前に!俺様ガ倒せるのか!」
「それは知らん!」
「知らん?ブハハハハ!人間の英雄とは!また随分と阿呆なんダな!」
「俺は、ここで命を落とすかもしれない!いや!落とすだろう!だが!人間は、お前ら魔物になんか!絶対に負けない!」
「そりゃあ、おい。無駄死に、って奴ダゾ?なあ?人間よ。死ぬのガ分かりきってる戦いなんて無意味ダとは思わないか?死ぬくらいなら、素直に俺様達の奴隷になって長生きしたらドうダ?」
「確かに、確かにこれは無駄死にかもしれない。」
「そうダ!無駄死になんてしてドうする?さっさと剣を捨て、投降したらドうダ?このダダっ広い草原の上に無意味に散った数百の仲間の死体みたいにはなりたくないダろ?こんダけ人間ガ束になったとこデ、俺様すら倒せない。なあ?これデ一体、人間はドうやって魔物の支配から逃れられるってんダ?分かったんなら人間。ほら、さっさと剣を捨てろ。」
「魔物の奴隷になるってのはもう!人間じゃなくなるって事だ!俺は最後まで人間だ!」
「ああ下らねぇ!全く下らねぇ!魔物の奴隷になろうガ、人間は人間ダろ?それとも何か?奇跡ってのを信ジてんのか?本当に人間ガ魔物を討伐出来るなんて思ってんのか?」
「きっとそれは、俺の時代には叶わない願いかもしれない。だけど!いつの日にかその時代は必ずやって来る!」
「ブハハハハ!もう笑うしかねぇよ!奴隷になる気ガないんなら、死んデ俺様の餌になれ!」
「ハハハハハハ!」
「ん?何ガそんなに可笑しい!餌になるのガ嬉しいのか?それとも気デも狂ったか?」
「いや、お前がとても憐れだからだよ。」
「憐れ?ふっ、人間よ。吠えるなら、もっと後世に残る様な立派な言葉デも吠えてみたらドうダ?」
「まだ分からないのか?魔物の支配なんて、そう長くないって事が!」
「それこそ有り得ない!有り得ないゾ人間!俺様達は最強の生物ダ!この世界のピラミッドの頂点に君臨してる生物ダ!俺様達の支配は未来永劫ダ!」
「だから憐れだって言ってるんだ。いつの時代にどんな方法で魔物が絶滅するのかは知らん!今日かもしれないし数百年後かもしれない!だが、確実に魔物は滅びる!」
「人間?そろそろ、死んドくか?お前は、今まデデ一番つまんねぇ人間ダよ。それとも予言者にデもなったつもりか?」
「いいや、これは予言なんかじゃなく、確実に訪れる決められた未来だ。」
「ふ~ん。」
「鼻をほじってるお前が憐れで仕方無いから、最後に教えてやるよ。それから俺を殺して食らえばいい!」
「それはそれは、親切にありガとうゴザいます。」
「冒頭で既に書かれてるだろ?この時代が魔物の居た頃の話だってな!」
「それ、ズるくねぇ?」

第三百十一話
「魔物の居た頃の話」

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