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2012年5月23日 (水)

「第三百十話」

「貴様を殺す。」
少年は、銃を向けてそう言った。これは、何時からのお話?今日からのお話?昨日からのお話?それともアタシが生まれるずっと前からのお話?
「なぜ、アタシを殺すの?なぜ、アタシなの?」
気付くとアタシは、夢中で理由を探していた。必死で少年にその答えを求めていた。
「俺は、暗殺者。だから、貴様を殺す。だから、貴様なんだ。」
「暗殺者?それってつまり、誰かがアタシを殺す様に、キミに依頼したって事?」
「さあ?」
「守秘義務ってやつ?」
「そう思いたかったら、そう思えばいい。だが、そう思おうが思うまいが、貴様が死ぬって言う話の結末は変わらない。」
どんでん返しにも程がある。アタシの人生の最期が、最後の最後で、どうしてこんな最期なの?この先、物語がどんな風に展開するのかって、わくわくしながらページを捲ったら突然、目の前に死が訪れる。そんなどんでん返しが現実に存在するって言うの?死が訪れたんじゃなくて、少年は私が訪れるのをこの場でじっと待ち伏せてたの?アタシ?アタシが死に飛び込んだの?でも、少年は暗殺者。むやみやたらに殺人を楽しむ殺人鬼とは違う。
「キミ、何時からここに?」
「さあ?何時からかな?覚えてる様で覚えてないな。ただ、それを知ってどうなる?知る必要が何処にある?それを知りたがる根拠は何だ?知ったとこで、貴様の死は確定していると言うのに。」
「根拠?」
根拠は無いわ。根拠なんてもんは無い。仮に根拠があるとすれば、少年が暗殺者で、誰かがアタシを殺す様に依頼したなら、その犯人を割り出せるもしれない。けど、根本的にそれは違う。犯人がどうかより、少年の事を知りたい自分が自分の中にいる。世の中に知りたい事なんて無限大にある。でも今のアタシが知りたい事は、アタシを殺す為に少年を雇った雇い主が誰なのか?じゃなくて、この少年自体の存在意義!
「キミの事が知りたいからよ?」
「俺の事?だから、俺は暗殺者だと言っただろ?」
「ええ、聞いたわ。でも、キミの存在は何なの?」
「俺の存在だと?」
「そう!キミの存在!」
「貴様、死を目前にして、頭がイカれたか?」
「かもね。」
確かに、少年のそれは、図星なのかもしれない。死を目前に、逆に冷静さを取り戻した感覚だったけど、もしかしたらそれすら、パニックの1部なのかもしれない。アタシの中にまだ、これは現実なんかじゃないって感覚が、そうさせてるのかもしれない。でも、この何時もな感じで空間を覆う空気感が、それを阻んでいる。これは、夢なんかじゃないんだって、痛いくらいに肌を刺激する。それでもなお、アタシには理解出来ない。暗殺者に命を狙われる理由以上に、暗殺者の少年自体の存在が!でもこの絶対的な死の現実を回避出来るなら!もしかしたら方法はこれしか!
「無駄だ。」
「えっ?」
「今、貴様が考えた、もしかしたら?は、もしかしない。」
「な、何を言ってるの?」
「貴様の人生のページは、ここで終わりって事だ。捲っても捲っても、その先に貴様のストーリーは、用意されていない。この現実から脱出する方法はないんだよ。無駄だ。現状がリフレインするだけだ。」
「・・・・・・・・・こんな終わり方ってある!」
「なら、燃やすか?貴様のストーリーが描かれた絵本を?それとも破り捨てるか?無駄なんだよ。どんな方法をとっても結局は貴様の死に結び付くだけだ。いい加減、気付けよ。あるんだよ!世の中には不条理以上の不条理ってのがな!ある日突然、暗殺者に命を奪われる日ってのがな!ページを捲ってもまた俺は貴様の命を狙う。何なら捲るか?捲ってみるか?0%の勝利に賭けてみるのか?だが忠告しよう。ページを捲ったらその瞬間、次のページの俺は貴様を撃ち殺す。」
死ぬの?えっ?何で?どうしてアタシが?なぜアタシが?えっ?何?何これ?今更?ウケる!アタシったら、今更こんな事を考えてんの?随分とおめでたい奴なのね!アタシってばさ!
「ペラ!」
そしてアタシは、その絵本のページを捲った。
「バン!」

第三百十話
「絵本の中の暗殺者」

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