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2012年5月 2日 (水)

「第三百七話」

 地下商店街へと続く階段の入り口、その向かって左隣に、看板が毛で覆われた店がある。

第三百七話
「狼男屋」

「はあ?」
「だから、狼男屋ですよ。看板、見ませんでしたか?昔から看板見ないで入って来られるお客さんが多くて困っているんですよ。」
「いやいやいや、毛むくじゃらで何も見えないからでしょ!何なんだろう?感覚で、そりゃあ興味本意で入っちゃいますよ。」
「今、流行っているのはですね。この狼男災害対策グッズです。」
「いや何で普通に商売始めちゃってんの?まず狼男に襲われる事がない!」
「違いますよ。狼男に襲われる事がないのは、私どもも理解していますよ。」
「はあ?なら、狼男災害対策グッズって、何!?」
「だから、災害対策グッズですよ。中身は普通の災害対策グッズです。いいですか?懐中電灯に水、レトルト食品にマスク、携帯用トイレに防寒シート、ロープに手袋。」
「すいません?」
「何ですか?」
「何で全て毛むくじゃら?」
「狼男災害対策グッズ、ですから。」
「全く解決になってない。毛むくじゃらのマスクとか嫌だし、水も毛むくじゃらじゃん!全く対策になってないし!」
「あとは、ヘルメットに牙!」
「ここに来て狼男の要素出て来た!?と思ったらデカ!象クラスですよね?その牙!てか、災害対策グッズに絶対に要らないでしょ!牙!」
「歯に何か詰まった時とか?」
「いやいやいや、血が出ちゃう血が出ちゃう!そもそも牙の重さに耐えられなくて、腕がプルプルしちゃって的が絞れないでしょ!入れたいなら楊枝でいいし!無いならその辺の小枝でするからいいよ!」
「狼男災害対策グッズ、なんで。」
「その言葉で片付けられないレベルだからね!牙だけなら、象災害対策グッズだからね!」
「今、流行っているのはですね。狼男ウルトラサイクロンバキューム小型掃除機です。」
「いやさぁ?」
「何でしょうか?」
「おかしいでしょ?いや、むしろよくぞ商品化したと誉めたいよ!」
「ありがとうございます。」
「皮肉ですよ。本当にこれを見て何も感じないんですか?貴方は?」
「軽そうだな!と思います。持ち運びに便利だな!と思います。メチャクチャ吸い込みそうだな!と思います。」
「で?」
「凄く欲しい!と凄く思います。」
「商売下手だろ!絶対ダメだよね!掃除機を毛むくじゃらにしたら絶対ダメだよね!本体自体がゴミの山だよね!買ったその日に毛を吸い込みまくりだよね!」
「ご安心下さい。もしもの場合は、何年経っても無料で毛の方は新品と付け替えさせていただきます!」
「何で要らないサービスにそんな力入れちゃった?何で要らないサービスの売り込みに、そんな一生懸命に頭下げれる?」
「こちら、ロングタイプもございます。」
「毛が?もう掃除してんのか何してんのか分からないよ!」
「狼男ウルトラサイクロンバキューム小型掃除機ですから、掃除です。」
「掃除が掃除として成立しないだろって!ねぇ?需要があんの?今、流行ってるって、これ買う人がいるの?」
「他に今、流行っているのはですね。」
「どこで流行ってんの?ねぇ?どこで?まずはそこんとこを詳しく!」
「狼男サプリメントです。」
「毛玉じゃん!単なる毛玉じゃん!」
「目にいいです。」
「なら、ブルーベリーを選ぶね!てか、狼男の要素なら、毛が生えるとかじゃないの?」
「そんな画期的な!?」
「いやいやいや、毛玉飲んで目が良くなる仕組みの方が画期的でしょ!これ、狼の毛玉なんですか?」
「勿論、羊の毛です。」
「勿論の引用おかしいから!狼男、いや百歩譲ったとこで狼の毛でないとでしょ!何で羊?むしろ童話的には真逆なチョイスじゃん!」
「目にいい毛を選別していたら、たまたま羊に辿り着いただけなんです。」
「あそう。」
「はい。」
「って、だいたい目にいい毛って何なんだ!そんな毛が存在するか!」
「存在します!」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「だったら何で貴方はメガネを掛けてるんだ!飲めよ!毛玉!」
「これは、お付き合いメガネです。」
「お付き合いメガネ?」
「ええ、近所のメガネ屋さんから、お付き合いで購入したメガネなんです。」
「あそう。」
「はい。私用メガネは、ちゃんと自宅にございます。」
「って、どっちみち掛けてんじゃんかよ!メガネ!目悪んじゃんかよ!」
「すいません。毛玉が苦手なもので。」
「得意な人の話を聞いた事がない!毛玉って言っちゃってるしね!」
「そうですね?今、流行っているのはですね。」
「何も聞いてませんけど?」
「狼男捕獲用麻酔銃です。」
「ならまず狼男の分布図を下さい。」
「狼男分布図です。」
「毛むくじゃら!何も見えないよ!単なる四角い毛の塊だよ!で、ルールとして狼男何々って事はだよ?それって単なる麻酔銃だし、分布図でしょ?」
「対蝉用です。」
「粉々に砕け散るだろ!蝉!」
「コツとしましては、狼男捕獲用麻酔銃を構えまして、スコープを覗きまして、引き金を引くだけです。」
「そのコツでない方のコツを是非とも聞きたいもんだね!って毛むくじゃらのスコープでどうやって照準合わせんだよ!まずそのコツを聞きたいもんだね!」
「長年の勘です。」
「じゃあ、スコープいらないよね!って長年の勘を費やしたとこで、砕け散るだろ!蝉!」
「こちら、15万8970ワオー、になります。」
「まずその通貨持ってない!」
「現在、1ワオーは148ワンとなっております。今が買い時かと!あれ?お客様?どちらへ?」
「果てしなく暇でやる事がなかったら、また来ます。」
毛むくじゃらのドアの前で立ち止まり、店員を背にしてそう言うと、男は店を出て行った。
「またのお越しを心よりお待ちしております。」

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