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2012年5月 9日 (水)

「第三百八話」

「ギィィィィィィ!」
人の断末魔の様な音を立てながら、扉は閉まろうとしていた。
「バタン!」
と、同時にロングヘアーの美しい女性は、読んでいた本を閉じ、隣の椅子の上に置いた。
「随分と、遅かったのね?」
「ああ、随分と、待たせちまって悪かったな。」
「あら?随分な、挨拶ね?」
「挨拶?ああ、お別れの挨拶か。随分と、余裕で本を読んでたみたいだが、俺をここまで近付けたのは、随分な間違いだったな。」
「あら?そう?でも、貴方に私が撃てるのかし」

「バン!」

女の後ろに立っていた中年の男は、女の後頭部に当てていた銃の引き金を引いた。女の上半身は机に力無く倒れ込んだ。
「そーゆー感じじゃねぇんだよ。撃つとか撃たねぇとか、そーゆー感じじゃな。俺に撃つしか選択肢が残されていない様に、てめぇには撃たれるって選択肢しか残されてねぇんだよ。」
「なら、ルールを決めましょうよ。」
「バ、バカな!?」
男は驚愕した。目の前には、撃ち殺した女が脳ミソを撒き散らしながら死んでいると言うのに、大きな円卓の向かい側には、死んだはずの女が、笑顔で語り掛けているからだ。
「随分と取り乱してるみたいだけど、どう?とりあえず、銃を下ろして、座って少し、話でもしない?」
「何だこれは!?どーなってんだよ!」
「だから、その辺を座ってゆっくり話をしましょ?ねっ?」
「ふざけんな!」
「それは、妹よ。」
「妹?」
「ええ。」
「おいおいおい、警察なめんなよ?」
「別に、なめてないわ。」
「妹だと?てめぇに妹なんて居ないのは調査済みだ!」
「調査済み?随分な調査ね。なら、もう一度、調査した方がいいわね。今、貴方が撃ち殺したのは、私の双子の妹よ。」
「双子の妹?」
「ねぇ?少し謎めいてきたと思わない?深夜の図書館、刑事と殺人犯、死んだ女が目の前で生きている。どう?少し話を聞いてみたいと思わない?ほら、座って!ねっ?」
そう言うと女は、椅子に腰掛けた。それを見た男は、銃を握った右手を円卓に置き、椅子の上の本を左手で払いのけ、その椅子に腰掛けた。

第三百八話
「スリーティーズ・シティ・ライブラリー」

「そう、それでいいわ。でも気を付けて?ルールを守らないと、今度は貴方がそうなるから。」
そう言うと女は、男の横の死体を指差した。
「なあ?なあなあなあ?俺は、てめぇのお遊びに付き合う気はねぇんだよ。」
「だったらなぜ、私と話をする為に座ったの?奇妙だからでしょ?まるでこの空間が現実ではないような奇妙な感覚に襲われたからでしょ?もしかして、自分は夢を見ているんじゃないか?幻を見ているんじゃないか?それとも女の幽霊と話しているんじゃないか?安心して、間違いなくこれは現実。地球上全ての人間が共有している時間の流れの中の出来事だから。」
「そんな哲学染みた話を聞かされるなら、俺は席を立ち、今すぐてめぇを撃ち殺す。」
「ルールはルール。」
「ああ?」
「貴方が座った時点で、ルールは成立しているのよ?」
「言ってる意味が分かんねぇよ。」
「大丈夫。簡単なルールだから。いい?ちゃんと守ってね?もし、貴方が私を撃ち殺したら、貴方は死ぬ。いい?気を付けて、これは夢でも幻でもなく、現実なの。」
「快楽殺人鬼の悪あがきか?命乞いか?圧倒的不利な状況下で、訳の分からねぇ話をして、1秒でも生きていたいって事か?」
「違うわ。これは、忠告。貴方が1秒でも長く生きていられる事のね。それに訳が分かってないのは、貴方の方じゃないの?刑事さん?」
「別に、生きていたいなんて、思ってねぇよ。ただ、てめぇより1秒でも長く生きれればそれで満足なだけだ。」
「可哀想に、ここに来るまでに、貴方は一体何を失ってしまったの?幸福?愛?信頼?真実?」
「全部だ。仲間は死に、恋人は死に、そして俺も死んだ。」
「可哀想。」
「ああ、可哀想だな。皿の横に払いのけられたグリンピースよりも可哀想な奴だよ俺は!」
「私は好きよ?グリンピース。でも、貴方は生きてる。これは現実。」
「生かされてる。」
「誰に?」
「誰に?」
「ええ、誰に生かされてるいるの?」
「てめぇにだよ!この糞女ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「バン!」

男は、右手に握った銃を天井に向け、引き金を引いた。
「危なかったわね。私を撃っていたら、最悪の結末だったわ。」
「勘違いすんなよ?訳が分からない状況だろうが、追い詰めてんのは、てめぇじゃねぇ!俺だ!死神がちらついてるてめぇに何が出来る?ええ!」
「刑事さんが、随分と憐れだから教えて上げるわね。」
「何だと!?」
「確かに今、追い詰められているのは、私。でも、私はそんな銃で撃たれても死なない。」
「遂に頭がイカれたか?まあ、最初っからイカれてはいたがな。」
「正確に言えば私は死ぬ。でも、私の意志は死なないの。永遠にね。だから分かる?無意味なのよ刑事さん。この状況が、この時間が、貴方の存在が!」
「それはつまり、てめぇの後継者が居るって事か?」
「いいえ。後継者じゃないわ。私が居るのよ。」
「憐れは妄想に取り憑かれたてめぇだよ。」
「随分と頭の悪い刑事さんね。私の意志と思考が続く限りそれは後継者じゃなくて、私なのよ!」
「神にでもなったつもりか?まあ、そう言う下らない話は、俺にじゃなくて死神にでも聞かせてやってくれよ。」
「刑事さん?その引き金を引いたら、貴」

「バン!」

男は、女に向けた右手に握った銃の引き金を引いた。頭を撃ち抜かれた女は、机に力無く倒れ込んだ。そして、深く一度深呼吸をすると男は席を立ち、断末魔の様な音を立てる扉の方へと、2階に続く階段の前を通って向かった。
「ルールは守ってもらうわよ?刑事さん。」
「何だと!?」
男は、円卓の2つの死体を見た。そして、階段から降りて来る女を見た。
「そう。双子でも3つ子でも4つ子でも5つ子でもない。私なの。意志と思考を共有した私なの。理解した?刑事さん。」
「整形で顔を同じにして、犯行を繰り返していやがったのか!誰だ?誰がオリジナルだ!」
「オリジナル?確か、フランス革命の時に死んだって聞いてるわ。」
「何だと!?」
「あら!本気にしたの?冗談よ。でも、オリジナルは随分と昔に死んだのは確かよ。」
「コピーめ。」
「コピー?全く理解してないようね、刑事さん!コピーとかオリジナルとか関係無いの!私は私なの!同じ容姿、同じ意志、同じ思考、それは私以外の何者でもないのよ?いい?追い詰められてたのは、刑事さん?私じゃない。貴方なの方よ。」
8人の女達は、男を取り囲み、左手に握った銃を男の頭に向けた。
「ふざけんなこのやろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

「バン!」

同時に発射された8発の銃声は、乱れる事なく綺麗に図書館の中を1発に反響していた。
「だからルールを守らないと死ぬって、随分と忠告したのに。」
「バカな刑事さん。」
「まあでも?」
「ここまで辿り着いて私を2人。」
「殺した事は、誉めて上げるわ。」
「意志と思考の共有。」
「それが続く限り。」
「私は永遠に。」
「死なない。」
両膝を付き頭を吹っ飛ばされた男を見下しながら、女達は笑った。

「ピーーーーーーーーーーーー!」

その電子音は、男から聞こえた。
「やるわね。最初から、刑事さん?これが狙いだったのね。私を全て消すこ」

「ボン!!」

この日、図書館は知識の街、スリーティーズ・シティから跡形も無く消え去った。

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