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2012年6月

2012年6月 6日 (水)

「第三百十二話」

「隊長?随分と、変な場所に出ちゃいましたね?」
「ああ、変な場所だな。変な場所か、変な場所じゃないか、と聞かれたら私は、こう答えるよ。変な場所だ、とな。」
「まさか、ジャングルを抜けると、こんな変な場所に辿り着くとは、想像もしてませんでしたね。」
「ああ、想像もしていなかったな。ジャングルを抜けると、こんな変な場所に辿り着くと想像していたか、想像していなかったか、と聞かれたら私は、こう答えるよ。想像していなかった、とな。」
「地図上では、我々はまだ、ジャングルの中のはずなんです。」
「地図を広げなさい!」
「既に広げています。ほら、隊長。見て下さい。我々は、ここからジャングルに入りました。そして、このルートを辿り・・・・・・隊長?珍しい蝶を捕まえるのとか、後でにしません?とりあえず今は、1回地図を見て下さい。」
「珍しい蝶か、珍しくない蝶か、と聞かれたら私は、こう答」
「その言い回しももういいでしょ。とりあえず地図を見て下さいよ。」
「どれどれどれどれ。」
「近い近い近い!破けちゃう破けちゃう!地図が破けちゃいますよ!隊長!」
「臭いな。この地図。」
「別にいいじゃないですか。臭くても。」
「臭いから、こんな変な場所に辿り着いてしまったんじゃないか?」
「地図が臭いからって辿り着かないですよ。何で地図の臭さで地形が変わるんですか。そして、別にこの地図、臭くないですからね。だとしたらきっと、隊長の鼻の穴の中が臭いんですよ。」
「あっはっはっはっはっ!」
「僕、そんなに豪快に笑う様な事、言いました?」
「腹減った。」
「どんな合図ですか!」
「なあなあ?この変なヤツについてる変な果物、食べれると思うか?」

「まず、その変なヤツが何か分かりませんし、それについてる変な物が果物かどうかすらも分かりませんから、やめた方がいいですよ。お腹、壊しますよ?」
「何かこの変なの果物っぽいんだけどなぁ?」
「光る果物なんて、聞いた事もないですよ。絶対に食べちゃダメですよ。まあ、まずその変なのが噛み砕けるのかってとこですけどね。」
「思うんだが?」
「何ですか?」
「何で私、隊長なの?」
「はあ?隊長が隊長じゃなかったら、一体誰が隊長なんですか!」
「隊長じゃなくて、ボス、がいい。」
「立場的な話じゃなくて、呼び方的な話でしたか。ボスでも何でも構いませんよ。」
「よし!では、今から私の事は隊長ではなく、優勝候補、と呼びたまえ。」
「ボスはどこへ行ったんですか?優勝候補って何なんですか、優勝候補って!どっから出て来たんですか!」
「何か、優勝候補って強そうだろ?」
「まあ、確かに強いから優勝候補なんでしょうけど、隊長から優勝候補はおかしくないですか?そもそも何で強さが必要なんですか?」
「君が何でもいいと言うから、私はそうしたまでであって、そこを否定されても困るだろ!」
「ちょっと、マジな激怒じゃないですか。まあ、隊長がそれがいいなら、僕もそれに従いますよ。」
「隊長ではなーい!」
「優勝候補がそれがいいなら、僕もそれに従いますよ。」
「うむ。」
「で、優勝候補?これからどうしますか?来た道を戻りますか?それともこのまま、この変な場所を突き進みますか?」
「そんな事、決まっているだろ!」
「そうでしたね。我々探検家に後戻りすると言う選択肢は、ありませんでしたね!」
「優勝するに決まっているだろ!」
「何が?完全に優勝候補の方向へ引っ張られているじゃないですか!何なんですか!我々は何の競技の真っ最中で!どんな相手と争っているんですか!」
「前歯折れた。」
「何でその光る変な物を食べようとしちゃったんですか!しかもこんな変なタイミングで!って、待って下さい。」
「ん?」
「もしかして、優勝候補?我々が見ているこの変な場所、本当に我々は見ているんでしょうか?」
「えっ!?そのなぞなぞ、難易度高過ぎだろ。最初はもっとポピュラーな奴から頼むよ。」
「このタイミングで、なぞなぞ始める訳がないじゃないですか!そして、何でそんなマジな感じで頭を下げているんですか!そうじゃなくて!いいですか?我々は、このジャングルの何か、例えば植物、幻覚作用の強い花粉を飛ばす植物によって、幻覚を見せられているんだとしたら?」
「えっ!」
「結構な距離で、結構な音量でしたけど?だから、この変な場所は、幻だとしたら?優勝候補!ここを不用意に歩くのは危険です!一歩先は底なし沼があるかもしれません。」
「ふん。底なし沼がなんだ。反対側から出ればいいではないか。」
「そこまで息が続けばな!地球の裏側まで息が続けばな!って、本当に底がないから底なし沼って訳じゃないですから!」
「そうなの!?詐欺じゃん!」
「どんな詐欺ですか!誰が得をするんですか!」
「業者だろ?」
「はあ?とにかく!我々は非常にマズイ状況なんですよ!この幻覚をどうにかしなければ、2人とも死んでしまいますよ!とりあえずは、ここに留まりましょう!」
「よし!なら、突き進もうではないか!」
「隊長!」
「優勝候補!だ。」
「優勝候補!僕の話を聞いていたんですか?」
「だからだ。」
「こんなとこで探検家魂を見せたって、死んでしまったら意味無いですよ!もう少しここに留まって様子を見るのが賢明な判断です!」
「いいや、それは違うな。」
「何が違うんですか!」
「なぜなら、ここに留まる事の方が危険だと教えてくれたのは、君ではないか。」
「はあ?」
「幻覚の張本人は、君なんだろ?」

第三百十二話
[食人植物」

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2012年6月13日 (水)

「第三百十三話」

「ねぇ!」
「あっ、おはよう。」
「あっ、おはよう。じゃないっての!ねぇ!分かる?今、12時だから!お昼だから!」
「なら、こんにちは。」
「あのさぁ?別に挨拶なんてどーだっていい訳よ!アタシが言いたいのは、良い?アタシが言いたいのは!捜査会議さぼって一体何してたんだ!!って事。」
「いや、今日は出るつもりだったんだよ。」
「いやそれ、聞き飽きたから。」
「本当なんだって!」
「なら、どーして捜査会議に顔出さないのよ!」
「良い?顔出さなかったんじゃなくて、顔出せなかったの。」
「顔出せなかった人が、何で呑気にお弁当食べてる訳?ねぇ!どーしてそうなる訳?」
「ここに来る途中でさ。スーパーマーケットに寄ったんだよ。朝食を買う為にね。」
「昼食でしょ?」
「いや、本当に朝食なんだって、疑うなら万引きGメンのおばちゃんを証人として呼んで来ようか?」
「結構です!」
「で、店長さんと万引きGメンのおばちゃんが、そのスーパーマーケットで多発する万引きの話をしてるのが、たまたま耳に入ってさ。で、詳しく事務所でお茶菓子食べながら、万引きGメンのおばちゃんの愚痴やら去年生まれたお孫さんの話やら聞いてたのさ。」
「いやいやいや、完全なる井戸端会議じゃない!やっぱり捜査会議さぼってたんじゃない!」
「まあ、良いじゃないか。万引きGメンのおばちゃんの話も進展の無い捜査会議も、どっちも眠くなるような話なんだからさ。お互い、状況は同じだった訳なんだからさ。」
「いやいやいや、全然!違いますから!捜査会議にお茶菓子ありませんから!」
「で?彼がマンションに出入りした痕跡は見付かったの?」
「見付かってたら、ここに居ません!」
「だよね。」
「もう、無理かもしれないわね。拘留時間もそろそろ限界だしね。」
「姿なき殺人者か。」
「ねぇ?何か、メチャクチャ楽しんでない?」
「そんな事ないよ。」
「透明人間とか瞬間移動とか考えてんじゃないの?」
「彼に透明人間や瞬間移動の能力があったら、彼はとっくに逃げてるだろ?」
「アタシは!アナタが言いそうな事を言ったまでですから!如何にもアタシが考えたみたいな感じで返さないでくれる?」
「時間を止めたとか!」
「ほらね。」
「嘘だよ。彼が時間を止めれたら、もっといとも容易く逃げれてるはずだからね。」
「いやいやいや、真面目にその結論に達する思考回路が凄いわよ。」
「彼は、何らかの方法でマンションに入り、交際相手の元恋人を殺害し、そして何らかの方法でマンションを出た。」
「正確には、交際相手だと思い込んでいたその交際相手だけどね。セキュリティの厳しいあのマンションで防犯カメラに一切映らずに、それを実行するのは、まず不可能よ。」
「でもでも、彼はそれを実行した。」
「ええ。死角ゼロの防犯カメラを掻い潜ってね。」
「彼が犯人なんだよね?」
「ええ、それは間違い無いと思うわ。」
「だったら、別に彼で良いじゃん。」
「あのさぁ?紛いなりにも刑事の端くれでしょ?状況が彼を犯人だと指し示していても、彼が防犯カメラに映っていなかったら、犯人に出来ないのよ。」
「面倒臭いね。」
「そうね。でも、それが仕事でしょ?その進展ゼロの会議に出るのも仕事でしょ?それでアタシ達って、お給料貰ってるんじゃないの?お茶菓子食べておばちゃんの話を聞く為に居るんじゃないのよ!お給料貰ってる訳じゃないのよ!」
「うわっ!?まだ、お茶菓子の事を根に持ってんの?」
「いやいやいや、お茶菓子なんてどーでもいいから!お弁当なんて呑気に食べてないで、早くアタシ達も捜査に行きましょうって事を言いたいのよ!」
「万引きGメンのおばちゃんが言うにはさ。」
「万引きGメンのおばちゃんの話どーでも良くない?」
「事件があった当日も万引きがあったんだってさ。」
「ああそう!それは大変ね!ねぇ?良い?良い良い?万引きと殺人じゃ!管轄が違うの!アタシ達が万引き犯の捜査してどーすんの?」
「いいや、それは違うよ?」
「何が違うの?」
「万引きされたのが、ネクタイだからさ。」
「スーパーマーケットにネクタイ?」
「実は、あのスーパーマーケットってさ。色々な物が売っててね。凄く便利なんだよね!この前なんかさ!まさか無いよなと思って行ってみたら!なんとあっ」
「いやいやいや、そこら辺の説明、どーでも良いです。」
「で、確か捜査資料によると、繊維質なもので首を絞められたってあったよね?」
「まさか!?彼が殺害する為にネクタイを万引きした訳!?」
「だと思ってさ。万引きGメンのおばちゃんに、防犯カメラの映像を見せてもらったんだよ。」
「で?」
「何も映ってなかったよ。」
「はあ?何なのよそれ!まるで事件と関係無いんじゃない!」
「いや、だからさぁ。映ってなかったんだよ。」
「はあ?」
「確かに次の瞬間ネクタイは万引きされた。でも、彼が出入りする姿は防犯カメラに映ってない。でも、ネクタイは何者かに万引きされた。」
「だから、何なの?」
「似過ぎてない?」
「カメラの故障とか、たまたま映像が撮れてなかったんじゃないの?」
「そこでボクは、1つの仮説を設けた!」
「いやいやいや、良いから!良いですから!仮説設けなくて!早く捜査行かない?」
「彼は、故意に電波障害を引き起こす事が出来る能力の持ち主なのでは?とね。」
「そのドヤ顔、いつか殴りたいわね。何なのよ!その都合の良い能力は!」
「能力ってのは、常に都合の良いものだよ?ボクはボクの設けた仮説に確信を持った!」
「持たなくていいから!」
「でも、そこで万引きGメンのおばちゃんが一言ボクに言ったんだよ。」
「いい病院紹介するわよ?かしら?」
「電波障害なら、全く映像が映らなくなるんじゃないの?それに他の防犯カメラも故障するんじゃないの?ってね。」
「真面目に受け答えしちゃったのね。」
「そう言われたらもう、事件は暗礁に乗り上げたも同然さ。お手上げだよ。」
「いやいやいや、ずーっと、暗礁に居たんだよ?」
「だから、そこでボクは、万引きGメンのおばちゃんにお茶のお代わりをお願いする事にした。」
「ねぇ?これ、何の話になってんの?捜査行こうよ!働こうよ!」
「席を立った万引きGメンのおばちゃんが躓いてあるボタンを押しちゃったんだよ。これ、そん時の防犯カメラの映像が録画されてるヤツ。再生するよ?」
「しなくて良いから!」
「いい?ここ!ここでネクタイが万引きされた!」
「熱くなってる意味がわからないんだけども?」
「で、万引きGメンのおばちゃんが躓いた拍子に押しちゃったボタンがこれさ。」
「スロー再生ボタンが何なんでしょうか?」
「万引きGメンのおばちゃんを支えながらボクが目にした映像が、これさ!」
「えっ!?」
「透明人間でも瞬間移動でも時間を止めたでも電波障害でもない!彼は、速いんだ!ただただ速いんだよ!人の何倍もの速度で移動出来る人間だったんだよ!だから、防犯カメラの映像を普通に再生しただけじゃ映らなかったんだよ。映って無い映像を見て、人はわざわざスロー再生なんてしないからね。良い?」
「・・・・・・・・・良い。」

第三百十三話
「超高速人間」

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2012年6月20日 (水)

「第三百十四話」

「おいこら先生!先生おいこら!」
「倒置法!?」
「何も倒置法になってねーだろうが!」
「女子、女子女子。汚いよ言葉遣い。まともな教育受けろよ。」
「まともな小説書かない先生に言われたくねーよ!」
「倒置法!?」
「ああ?なんすかそれ?さっきっから!先生の中でマイブームなんすかそれ?」
「で?今日は何の用なの?原稿は昨日渡したよね?ちゃんと渡したよね?まさか!?金か!金を借りに来たんだな!このやろう!とっとと帰りやがれ!」
「何で今日、アタシが来たのか。」
「その急に社会人に戻る癖、止めた方がいいよ?結婚出来ないよ?」
「どちらかと言えばこっちがナチュラルなんだよ!って結婚した事もない奴が人の結婚をとやかく言うなよな!」
「分かったぞ!私を殺しに来たんだな!」
「どんな展開?そんなんじゃねーよ!」
「だったら何で、何でもない日に来るんだよ!人の平和を乱すな!この悪め!」
「一回マジで脳ミソ掻き回してやろうか?いいすか?これは、編集長の命令で来たんですよ!」
「あのクソメガネ!」
「編集長、メガネ掛けてないし、で!ででで!先生がいっっっつも〆切ギリギリギリギリで書き上げるもんだから!一緒にアイディアを絞り出して来いって、スゲェ下らねー仕事を言い渡されたんすよ!」
「倒置法!?」
「それ、何にでも使えるオールマイティーな言葉じゃねーからな!」
「なるほど、それは本当に下らない仕事だ。」
「下らな過ぎて笑えるね!何でアタシの貴重な時間をこんな事に使わなきゃならないんすかね!誰が悪いんでしょうかね!ええ?」
「・・・・・・・・・政治?」
「おめーだよ!!おめぇの頭がポンポンポンポンアイディア出せばこんな事にはなってねーんだよ!ポンポンポンポンアイディア出せねーなら小説家なんて辞めちまえよ!それか最終奥義を使って人間なんて辞めちまえよ!」
「どーやって死のうかな?出来るだけ人に迷惑掛けて死のうかな?」
「こっそりひっそり!どっかで淋しく1人で死んでろ!」
「まあまあまあ、人間死ぬ時は死ぬとしてだ。キミが心配している様な事態にはならないから安心しなさい。すぐに休日に戻して上げようではないか!」
「どーゆー意味すか?」
「にっぶいねぇ?だから、結婚出来ないんだよ!」
「次、言ったらマジで掻き回すからな!」
「だっから~!あるんだよ!」
「何が!」
「来週分のアイディアは既に私の頭の中にある!って事じゃないか!」
「マジかよ!先生、それマジなのかよ!」
「マジ、と言う言葉を使うのであれば、マジ!」
「で?それは一体どんな話なんすか?」
「ちょっ!肩を叩く力加減!」
「ああ、わりぃわりぃ!で?どんな話なんすか?」
「今回は、やりつくされたネタ、を書きたいと思います!」
「ああ?何だよそれ!どーゆー意味すか?」
「つまりだな?毎回毎回、斬新さに手を出し過ぎてたって事だよ。だから、ここは逆にあえて、やりつくされたネタ、を題材にする!斬新が一回りして辿り着く境地ってヤツさ!」
「手抜きか煮詰まったの境地だろ?んまあ、面白ければ別にどーでもいいけど、やりつくされたネタ、って一体どんな話を書くつもりなんすか?」
「やりつくされたネタ!と言えば、タイムマシーンじゃない?」
「そうなんすか?」
「タイムマシーンだろ?」
「そうなんすかね?」
「タイムマシーンだよ!」
「じゃあ、そうなんじゃねーの。」
「違うの?」
「知らねーよ!先生がアイディアあるっつったから、こっちは黙って聞いてるだけだろうが!タイムマシーンが、やりつくされたネタ、だろうがどーでもいいんだよ!」
「いやいやいや、世の中の認識として、やりつくされたネタ、って感覚が欲しいんだよ。でも、キミの反応を見ると、タイムマシーンはそうでもないのか?」
「だいたい、やりつくされたネタ、ってそもそもなんなんすか?ネタにやりつくされたもやりつくされてないもあるんすか?面白ければそれでよくね?パクりじゃないならそれでよくね?」
「あれか?何か良い事を言ってやった風情か!」
「んなんじゃねーよ!読者が面白いと思ったら、それでいいんじゃねーの?って話っすよ。」
「私も楽しくなければ、それもう既に私の作品ではないのだよ!」
「なら、先生も楽しい!読者も楽しい!んな作品を書けばいいだろうが!簡単な話だろうが!」
「その角度からは簡単だが、この角度からは簡単ではないんだぞ?じゃあ、余命的な話はどうだろうか?」
「いんじゃねーの?」
「どこかに閉じ込められた男女数人が次々と謎の死を遂げる話とか?」
「書きたきゃ書けば?」
「落ちこぼれチームが成長してくスポ根とか!」
「スポ根って、まあいんじゃないすか?」
「全く一緒にアイディア絞り出してくれないじゃないか!」
「ああ?何に言ってんすか?だから、こっちは先生がアイディアあるっつったから、聞いてだけだって言ったろ?やりつくされたネタ、ってまさかタイムマシーンだけだったんじゃねーだろうな!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・正解!」
「溜めてんじゃねーよ!」
「もうピーマン嫌いな子供の話にしようかな?」
「んだよその話!どんな話だよ!投げやり感も適当感も開き直り感も満載じゃねーか!」
「ピーマン嫌いな子供がな。タイムマシーンに乗って、大人になった自分を見に行くんだよ。そこで、ピーマンを嫌いだったが為に落ちぶれた自分の姿を見て、がっかりする。そして現在に戻って、未来を変える為にそこから必死でピーマンを食べる!サクセスストーリーだよ!どーだよ!え?どーなんだよ!」
「面白い!」
「だろ!」
「とでも言うと思ったのかよ!」
「何だ、引っ掛け問題か。性格悪いぞ。」
「おめーに言われたくねーよ!ああああ!もう時間の無駄だから、そのピーマンの話でいいよ!」
「で、いいよ?」
「ああ、でいいよ。」
「貴様、これでこの話が大ヒットしたら!その時は土下座だからな!」
「上等だよ!してやるよ!」

第三百十四話
「社会現象」

「すいませんでした!」
「うむ。」

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2012年6月27日 (水)

「第三百十五話」

「おはよう。」
「誰!?」
貴方はもし、愛する娘の記憶が、ある朝突然消えていたらどうしますか?
「だ、誰って、パパだよ。朝っぱらから何を言ってるんだ。まったく。」
「知らない!」
「え?」
「知らないわ!おじさん、誰なの?」
明日で25になる娘は、明日結婚する。男手1つで育ててきた25年間。亡き妻との約束を果たそうとしていた前日の朝。朝食の用意がされたテーブルに着こうとした瞬間、サラダが盛られた皿をテーブルに置こうとこちらを振り向いた愛する娘の記憶が突然、消えていたらどうしますか?
「冗談・・・なんだよな?パパの事をからかってんだよな?明日の結婚式で緊張してるだけなんだろ?そうしてジョークでほぐそうとしてるだけなんだろ?そんな事しなくてもパパは大丈夫だから。」
「アタシ、結婚・・・するの?」
「えっ?」
「アタシ、誰と結婚するの?」
「お、おい!?」
「しないわ!結婚なんてしないわ!」
「おい!どーしたんだよ!しっかりしろ!」
「触らないで!」
この時、分かりました。両肩に置いた手を振り払った娘の態度で、その力加減で、私は本当に娘には記憶が消えているのだと分かったんです。
「病院行こう!なあ?結婚式は延期して、すぐ病院へ行こう!」
「・・・・・・・・・・・・。」
泣きながら頭を抱えて座り込んだ無言の娘を見て、私は咄嗟に救急車を呼ぼうと電話機がある部屋へ向かおうとしました。でも次の瞬間、娘は信じられない一言を発したのです。
「ママはどこ?」
「何だって?」
「おじさん、ママをどうしたの?ママは、どこにいるの?」
「何を言ってるんだ。」
「ママー!」
「ママは・・・ママは、25年間前に死んだじゃないか。」
「嘘よ!」
「嘘じゃない!ママは、もういないんだ。」
「違う。ママは、生きてる。」
「なあ?いいから、すぐに病院に行こう!なっ?病院で診てもらおう。」
「死んだのはママじゃない。」
「えっ?」
「パパよ。」
「今、何て言ったんだ?」
「25年前に死んだのは、ママじゃなくてパパ。」
「そんなバカな!パパは、こうして生きてるじゃないか!」
「ねぇ?誰なの?おじさんは、一体誰なの?」
「パパだよ。お前のパパだよ。」
「ママはどこ?ママはどこなの?ねぇ?ママに何をしたの?ママに何をしたのよ!」
いや、妻は娘を生んですぐ、娘をその手に抱く事なく息を引き取った。それは、忘れようにも絶対に忘れられない、とてもとても暑い、最高の喜びと最低の悲しみが同時に押し寄せた夏の午後。出産前日、私の手を握り締め、娘を立派なお嫁さんにしてね、と言った妻の顔は今でもしっかりと覚えている。あの笑顔が瞼の裏に焼き付いていたからこそ私は、挫けずに今日まで娘と一緒に生きてこれたんだ。それなのに、これは何なんだ?何が起きているんだ?
「どうなってんだ・・・・・・。」
「ママを殺した?」
「何っ!?」
「ママを殺したんでしょ!」
「・・・・・・やめてくれ。」
「おじさん!ママを殺したのね!そうなんでしょ!強盗なんでしょ!」
「そんな物を向けちゃいけない。お前は明日、花嫁になるんだぞ?」
「訳の分からない事を言わないで!!ママを返してよ!!」
包丁を握る娘の両手は震えていた。頼む。この世に神が存在するなら、どうかお願いだ。娘の記憶を戻してくれ。娘が私を殺す前に、どうか、どうか。

三百十五話
「この物語をハッピーエンドにして下さい」

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