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2012年7月11日 (水)

「第三百十七話」

「ジー!ジジジジジ!」
「相変わらずだな。」
その何時になったら誰が取り替えるんだ?って電球が切れかかったそんな相変わらずな薄暗い廊下を歩き、私は万能薬屋の1つ奥の店に入った。

第三百十七話
「種屋」

「居ないのか?」
「居るよ。」
「相変わらずだな。」
薄暗い店の奥には、相変わらずな店主が少し高い位置に座って、種を虫眼鏡で見ていた。
「人生ってのは、相変わらずぐらいがいいのさ。」
「そうかいそうかい。ただ、あの電球は取り替えた方がいいと思うぞ?」
「あれはあれで、ここが出来た時からああ言うもんだから、あれはあれでいいのさ。」
「そう言われてみれば、地下商店街が出来た頃から、あの電球は切れかかってたな?」
「そう言う相変わらずさが、人の心を落ち着かせるもんなのさ。」
「いや、あれは落ち着かないだろ。むしろ、切れかけの電球を最初から誰も取り替えようとしてない変わり者達の集まりなんだろ?ここは?ん?一体どんだけ切れかけてんだ?あの電球は?」
「んで?その変わり者達の集まるそんな商店街のこの店に、キミは何をしに来たんだ?」
「相変わらずだな。」
「相変わらずさ。」
「種屋なんだ種を買いに来たに決まってるだろ?ところでさっき虫眼鏡で見てたあれ、何の種なんだ?」
「ああ、これ?」
そう言うと店主は、子供の様な無邪気な笑顔と共に、左手を差し出した。その手のひらの上には、どす黒い種が置かれていた。
「何だ?このどす黒い種は?何だか見てると吸い込まれそうになる。」
「世界征服。」
「何!?世界征服の種なのか!?」
「安くしとくよ?」
「この歳で世界征服も無いだろう。」
「世界征服に年齢は関係無いさ。」
「まあ、そうかもしれないが、世界征服自体に興味が無いってことよ。」
「何で?」
「何でって、世界征服したって、別にだろ?」
「世界が征服出来るんだから、別にって感じじゃないんじゃないの?」
「そうか?」
「そうさ!きっとこの世界を自分の思い通りに出来て、毎日楽しいと思うよ?毎日がハッピー!」
「俺は、いいよ。そんなに言うなら、自分で使ったらどうなんだ?」
「僕が、世界征服?」
「ああ。」
「あれだよ?僕が世界征服したら、逆立ちで歩く事を義務付けるよ?」
「何なんだよその進化に逆らった様な義務は!」
「あれだよ?僕が世界征服したら、口で呼吸する事を廃止するよ?」
「だから何で進化に逆らった様な廃止すんだ!」
「あれだよ?僕が世界征服したら、水中でしか会話しちゃいけなくしちゃうよ?」
「いやもう、それのどこがどう一体毎日がハッピーなんだよ!」
「僕は楽しいけど?」
「相変わらずだな。」
「世界征服ってのは、相変わらずぐらいがいいのさ。」
「いや意味分からん。」
「まあ、そもそもが前人未踏の世界征服だからね。意味が分からなくて当然さ。」
「いや意味が分からんのは、そっちじゃなくて・・・・・・。」
「こんな種も一緒に入荷したけど?」
そう言うと店主は、子供の様な無邪気な笑顔と共に、今度はマーブル状に輝く虹色の種が置かれた左手を差し出した。
「これは何の種だ?」
「真の世界征服の種さ!」
「はあ?」
「まあ、世界征服ってのはさ。そう言うもんなのさ。」
「いや、どう言うもんなんだかさっぱりだが?」
「いいかい?誰かが世界征服をする!でもそれは世界征服であって世界征服ではない!」
「世界征服であって世界征服ではない?なら、世界征服じゃないだろ、それ!」
「いいかい?つまりは、世界征服と言う大きな世界征服の中の小さな世界征服って事さ!」
「おいおいおい?それじゃあ、何が一体世界征服で、何が一体世界征服でないのか、分からないじゃないか。」
「その世界征服が世界征服でないなら果たして世界征服とは一体?って、昔何処かの国みたいなところの偉そうな人が言っていたとかいないとか?」
「全部あやふや!」
「まあ、世界征服なんてもんは、各々が決めればいいのさ。なんてったって!世界征服は自由なのだからさ!!」
「物凄く訳の分からない事を、物凄く大声で叫ぶんじゃないよ。」
「これ見てよ!」
店主が見せてくれたのは、ダンボール一杯に入っている世界征服の種と真の世界征服の種だった。
「はあ?」
「だから、世界征服ってのはさ。こんなもんさ。」
「そんな事を言うのアンタぐらいだよ。」
「で、これ!」
そう言うと店主は、子供の様な無邪気な笑顔と共に、真っ赤な種が置かれた手のひらを差し出した。
「次から次へと何なんだ?」
「超世界征服の種さ!んでこの黄色い種が、猛烈世界征服の種さ!そしてそしてこの緑色の種が、激烈世界征服の種さ!そしてそしてそしてなんと!」
「おいおいおい?一体いつからこの店は世界征服の店になったんだ?」
「いやぁ、何か居眠りしながら発注してたら、こんな事になっちゃったんだよね!」
「相変わらずだな。」
「相変わらずさ。」
「呑気に笑ってる場合かよ!」
「ははは!んで?今日は何の種を買いに来たのさ!」
「ん?ああ、朝顔の種を貰えるか?」
「相変わらずだね。」
「相変わらずだ。」
「毎度!」
朝顔の種が入った袋を手に私は、薄暗い廊下を来た時とは逆方向に歩いていた。
「相変わらず、か。」
「ジー!ジジジジジ!」

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