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2012年8月 8日 (水)

「第三百二十一話」

「ニャー!ニャー!」
高い木に登り、自力では降りれなくなってしまった猫がいた。しかし、猫は泣き声を上げながらも実のところ安心していた。なぜならこの小さな町には、この小さな町の平和を守る正義の味方が、2人もいるからだ。そして何よりも今、その正義の味方の2人が、真下に馳せ参じてくれたからだった。
「で?どっちが行くんだ?俺か?アンタか?」
「勿論!私が助けに行きたいのは、やまやまだが!ここは、キミに譲っても良いと考えている!」
「はあ?」
「何かな?何か反論でもあるのかな?」
「譲る?あのなぁ?先にこの公園に来たのは、俺だぞ?何でその俺が、あとから来たアンタに偉そうに上から目線で、譲られなきゃならないんだ?」
「それは失敬。では、キミが行きたまえ。」
「だから!何なんだよその偉そうな態度は!だったら、猫の救出はアンタに譲ってやるよ!」
「結構。」
「何で断るんだよ!」
「私の見解ではこうだ。家から公園まで、1485歩。往復で2970歩。ここから猫まで15歩。往復で30歩。ギリギリだ。ギリギリは嫌いだ。何かあった時、そのギリギリの判断が命取りになる。正義の味方は常に余裕を持って任務をこなさなければならないと考えている。」
「いや、ギリギリなら何で来たんだよ!公園の入り口で俺の姿を見たら帰ればいいだろ?いいか?しかもアンタの今の見解だと、アンタもギリギリかもしれないけど、俺だってギリギリなんだからな!」
「それは違う。」
「何が違うんだよ。」
「私の家の隣に住んでいるキミには、3歩の余裕がある。だからここは、キミが行くべきだ。」
「べき、になっちゃってんじゃねぇか!3歩はギリギリじゃねぇのかよ!」
「3歩は余裕のある歩数だ。だからキミしかいない。」
「しかいない、になっちゃったぞおい!なあ?3歩もギリギリなんだぞ?いいか?そのギリギリをどうしようかって考えてたから、アンタが現場に間に合ったんだからな?」
「それは逆に言うならば、キミが3歩も余裕があると言うのに、のんびり考えていたから、私は現場に間に合ってしまったと解釈すれば良いのかな?」
「はあ?間に合ってしまった、ってなんだよ!間に合ってしまった、ってよ!しかも、のんびり、って何なんだよ!」
「だってそうだろ?助けを求めている可哀想な猫を目前に、何を考える必要がある。正義の味方ならば、迷わず救出するのが道理ではないのか?」
「ならアンタが駆け付けた時に真っ先に救出に行けばいいだろ!何で俺の隣に突っ立ってんだよ!」
「立場が違うのだよ!キミと私とではね!」
「同じだろうが!」
「3歩!」
「それが何なんだよ!さっきっから3歩、3歩ってよ!」
「キミは、この3歩の違いの大きさが理解出来ないのか?ギリギリの私と3歩のキミ!3歩だぞ!キミは3歩もあるのだぞ!そんなに余裕をもて余してると言うのに、何を迷う必要がある!」
「おい?確かに俺には、3歩の余裕がある。でもそれはアンタと比べた場合の話だろ?俺は俺で、3歩ってのはギリギリなんだよ!これっぽっちの余裕もないんだよ!いいか?何かあったら3歩だってヤバい歩数なんだよ!」
「押してやろうか!」
「何でだよ!何で急にそうなるんだよ!押してお互いに何のメリットがあるんだよ!」
「すまない。つい、頭に血が昇ってしまって、本当にすまない。」
「ああ、いいよ。って、俺何かアンタの頭に血が昇る様な事を言いました?」
「どうだろうか?ここは一旦休戦して、お互いに力を合わせて猫を救出すると言うのは?」
「いや別にそもそも戦ってないしって、協力って、どうするつもりだよ。」
「3歩余裕のあるキミが、木を蹴ると言うのは、どうだ?そして、驚いた猫が落ちて来るのを3歩余裕のあるキミがキャッチする。完璧だとは思わないか?」
「俺だけじゃん!どこがどう、お互いに力を合わせた?」
「合わせているではないか。」
「どこがだ!俺ばっかしだろ!」
「私は、アイデアを捻り出したではないか。」
「なあ?30回、木を蹴っても猫が落ちて来なかったら、どうすんだ?」
「3歩余裕があるではないか。あと3回で猫を驚かせて落とせばいいではないか。その時は、私が猫をキャッチして上げよう!」
「あのな?だったら木に登って猫を救出する方が早いだろ!何でそんな危ない賭けをしなきゃならないんだよ!」
「だったらゆけい!」
「ゆくよ!ゆくけど何でアンタに指示されなきゃならないんだよ!」
「見ていて焦れったいからに決まっているだろ。」
「俺がゆくんだから俺のタイミングでゆかせろよ!だいたい焦れったいならアンタがゆけばいいだろ!」
「何度も言っているだろう?私にはあまりにもギリギリ過ぎるのだと!キミは、あまりにも若い!若いがゆえに1歩の重要性を理解していない!」
「アンタは!逆に1歩を重要視し過ぎてんだよ!」
「見たまえ!」
「ん?」
「あんなところに梯子があるではないか。きっと公園の用具に違いない。」
「おお!あれを使えば歩数を節約出来る!いや、だけどあそこまで結構な距離があるぞ?」
「大丈夫だ。私の見解ではこうだ。あの梯子まで、15歩。往復で30歩。任せたぞ!」
「だから何で俺なんだよ!」
「だからギリギリだと、何度言えば理解出来るのだね!キミは!」
「いや、絶対に往復で30歩は無理だろ!」
「キミには3歩があるではないか!」
「その3歩でも無理だろ!明らかに!」
「それでもキミは正義の味方か!木の上の猫よりも!そんなに歩数が大切か!」
「アンタだろ!!ギリギリ、ギリギリって、さっきっからそればっかだろ!」
「仕方無いだろう!押してやろうか!」
「だから何で押すんだよ!」
「私はその昔!命を救う事が出来なかった!」
「えっ?」
「あと1歩あれば!あと1歩あれば救う事が出来た命をだ!いいか!私の1歩やキミの1歩はな!人1人の命と同じなのだ!」
「まさか、そんな事があったなんて、俺知らなくて、悪かったよ。」
「理解してくれたのなら、それで構わない。まあ、と言う過去もあるかもしれないと言う未来の話だけどな。はっはっはっ!」
「はあ?」
「押してやろうか!」
「何でだよ!何なんだよアンタは!って、えっ!?」
「はて?何やら頭に肉球な感触が?」
と、その時、高い木の上でバランスを崩した猫が、3000歩マンの頭に見事に着地した。
「ニャー!」


第三百二十一話
「3000歩マンと3001歩マン」

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