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2012年8月 1日 (水)

「第三百二十話」

 軽快なピアノの曲が流れる酒場のカウンターの一番端の席には、ガンマンが座り、その隣にはさっきまで舞台で踊っていた踊り子が座っていた。
「どうだった?」
「どうだったって?」
「んもう!アタシの躍りに決まってるでしょ!」
「ああ、良かったよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「なんだよ。」
「見てなかったくせに。」
「見てたさ。」
「んまっ、そう言う事にしてあげるわ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「ねぇ?」
「ん?」
「暗くない?何か、暗いわよ。こんなに賑わってる酒場で、逆によくそんな暗く振る舞えるわね。マスター!アタシも同じのね!」
「いつからここには、常にニコニコしてろってルールが出来たんだ?」
「別にそんなルールは無いけどさ。サンキューマスター!」
「おいおいおい、まだ踊るんだろ?」
「大丈夫!ちょっとお酒が入った方が妖艶なの知らないの?んで?何かあったの?ああ!また保安官とケンカしたとか?」
「アイツとケンカしたぐらいで、なんで俺が暗くならなきゃならないんだ?」
「ほら!やっぱり暗いんだ!オーケー!今日は特別にこの胸で泣いてもいいわよ?」
「はあ?なんでそうなる?ガキじゃあるまいし。」
「アタシからしてみれば、男なんていつまで経ってもガキだけどね。ほら!」
「ほら、じゃねぇよ。別に泣く理由なんてないし、泣きたかったら、どこか別のとこで泣くよ。」
「あーそっ!」
「お前の方がよっぽどガキじゃねぇか。」
「んでんで?どうしてそーんな暗い顔しる訳?」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「ほーら!」
「・・・・・・・・・この前、ある男からの依頼で、ある男を撃ったんだ。」
「悪党退治?悪党を退治して、暗くなってんの?今更?」
「悪党ってのは、ある角度から見た時は、正義なのかもしれないって思ったんだよ。」
「ん?ああ、まあそうかもね。」
「俺から見たら悪党だが、あそこでポーカーを楽しんでる奴等から見たら、正義なのかもしれない。」
「ん?いやいやいや、あの人達は、毎日楽しくお酒を飲みながらポーカーが出来ればいいんだって!この時代がどう移り変わっていこうが!全くお構い無しな人達なんだって!」
「例えだろ。アイツらじゃなくて、神父だって宿屋のばあさんだって牧場主の親子だって保安官だって、誰でもいいんだよ。」
「アタシでも!」
「ああ、お前でもいいさ。」
「でもさぁ?やっぱり多くの人間が悪いって思う事をしてるなら、それは悪党でしょ?だいたい、その多くの人間が悪いって思う事をしてる悪党だって悪い事をしてるって思ってしてるんだしさ!」
「・・・・・・・・・極端な話。」
「ねぇ?」
「ん?」
「タバコやめたら?」
「ほっとけよ。いいか?極端な話だ。ある男がしている事を良いと思う人間と悪いと思う人間が、半々だったらその男は、悪党なのか?正義なのか?」
「極端過ぎない?」
「だから、極端な話って言ったろ?」
「難しいわねぇ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・おい。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・おい。」
「ちょっと黙っててよ!考えてんだから!」
「すまない。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・分かんない!」
「はあ?」
「だから、分かんない!」
「何だそれ!」
「だって、分かんないんだから仕方無いでしょ!だいたい、極端な話が極端過ぎなのよ!だってそんなの有り得ないもん!」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「でも!」
「ん?」
「でーも!」
「でも?」
「仮に、その男を正義だと思う人間と悪党だと思う人間が、ぴったり半分だったとしたら!」
「ああ?何で俺を指差すんだよ。」
「アナタが決めればいんじゃない?」
「なに?」
「アナタが最後の一人になって、その男が正義なのか悪党なのかを決めればいんじゃない?」
「俺が?」
「そう!だって、そうでもしなきゃ決まらないもの!で!それでいんじゃない?それで全て解決!」
「ああ、お前に聞いたのが間違いだった。」
「はあ?なにそれ!人が真面目に考えて真面目に答えて上げたのに、その言い方はないんじゃないの?」
「悪かったよ。ありがとな。」
「感謝してない!絶対!感謝してない!」
「してるさ。」
「ホントに?」
「神に誓って感謝してるよ。」
「じゃあ、キスして!」
「はあ?」
「ほら、早く!」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・って、なに!?ただ眺めてるだけって、なんなの!?」
「いや、目を瞑ったお前の目玉が、ギョロギョロ動くのが面白くてな。ほら、ピアノが終わったぞ!出番だろ?行って来いよ。」
「あっ!そっ!撃ち殺されちゃいなっ!」
「はっ、ありがとよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「ん?どうした?早く行けよ。今度はちゃんと見ててやるからさ。」
「誰を退治したのか知らないし知りたくもないし聞かないし聞きたくもないしどうでもいい事だけど・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「アタシは、アナタが正義だと思ってるから。」
そう言うと踊り子は、舞台へと向かった。
「・・・・・・・・・ありがとよ。」
踊り子の後ろ姿を見ながら、ガンマンは呟いた。そして間も無くして、この国の新しい大統領を決める選挙が行われた。

第三百二十話
「動く時代」

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