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2012年9月 5日 (水)

「第三百二十五話」

 この家には、かーちゃん、と呼ばれる存在と、じーちゃん、と呼ばれる存在の二人が居た。他にも、とーちゃん、と呼ばれる存在や、ばーちゃん、と呼ばれる存在、ねーちゃん、と呼ばれる存在や、にーちゃん、と呼ばれる存在、ぼくちゃん、と呼ばれる存在が居るが、この日は、出掛けてi居なかった。
「かーちゃん!」
「何ですか?じーちゃん!」
「冷蔵庫に、メロンがあったろ!」
「じーちゃん?冷蔵庫にメロンがあるんじゃなくて、メロンを作る人が居るから、メロンがあるんですよ?冷蔵庫の中で自動的にメロンが生産されるなら、メロンを作る人達はどうなるんです?そんなバカな話がある訳ないんですから、この世のゴミ以下みたいな事を言わないで下さい。」
「すまん。いやいやいやいや、すまんじゃないよ。かーちゃん、誰もそんな事を思っちゃいないよ。」
「だったら何ですか?見ての通り忙しいんですから、早く言って下さい。」
「忙しいって、こうして二人で向かい合って座ってハーブティーを飲んでるだけじゃないか。いい加減にテーブル買わないか?」
「テーブルは買いませんっ!!!」
「なぜ、テーブルの話になると、そんなに声を荒げるんだか、不可解だ。かーちゃんとテーブルの間に一体何があったと言うんだ?」
「ハーブティーをこうして飲みながらも、私は世界平和を祈っているんです。それはとても!じーちゃんが考えてるより遥かにとても!忙しい事なんです!」
「すまん。いやいやいやいや、すまんじゃないよ。何だそりゃ!そうじゃなくて、冷蔵庫の中にメロンを作ってる人が作った頂き物のメロンが入ってるだろ?」
「ええ、入ってますよ?それがどうかしたんですか?」
「丸々一個食べていいか?」
「何だって!?」
「だから、わし一人で丸々一個食べていいか?って聞いてるんだ。」
「お前、バカなの?」
「バカだよ。」
「なら、仕方無いか!どーぞ!ってなる訳がないだろ!!今夜みんなで食べようと思って冷やしといたメロンを何で貴様一人に食べさせなきゃならんのじゃい!」
「わしの夢だったんだよ!メロンを丸々一個食べるってのは!幼い頃からの夢だ!夢見て夢見て夢見続けて来た夢だ!それがまさに今!この冷蔵庫の中にあるんだ!どーよ!」
「どーよもなにも!てめぇ!じーちゃん!冷蔵庫指差してんじゃねぇよ!冷蔵庫指差していいのはな!冷蔵庫指差していいのはな!冷蔵庫指差し検定二級以上だ!」
「すまん。いやいやいやいや、すまんじゃないよ。そんなありもしない資格の話でなくてだな!今はメロンの話だ!」
「ありもしないって、お前は世界中の資格と言う資格を全て把握してんのかよ!冷蔵庫指差し二級以上の人がいるから!地球は今日も回ってるんだ!」
「どんな理論だ!それは!」
「難しい話は分かんねぇよ!チョップするぞ!」
「チョップ、嫌!と言うかそんな話じゃないんだよ!」
「メロンの話だろ?」
「メロンの話だよ。」
「ダメだっつってんじゃん!」
「わしがメロン丸々一個食べる検定二級を持っていてもダメなのか!」
「ダメだよ!」
「何でだよ!こんちくしょいっ!」
「今夜、みんなで食べるっつってんじゃん!」
「今夜、みんなで食べる分は、今夜、みんなで食べる分で、わしが丸々一個食べる分は、わしが丸々一個食べる分で、それでいいじゃん!そうすればいいじゃん!」
「メロンは一個しかねぇだろうが!何で、お前の下らない夢の為に、みんながメロン我慢しなきゃならんのじゃい!!」
「イチゴの時は、丸々一個食べさせてくれたじゃないか!」
「お前、頭だいじょーぶか?イチゴ一個とメロン一個が何で同等の価値なんだよ!体積が違うだろ!」
「色も違う!」
「違うところ探しゲーム開始してんじゃねぇよ!」
「味は一緒!」
「病院行け!」
「病院行くからメロン丸々一個食べさせてくれ!」
「どんな取引だ!あのさぁ?みんなでメロンを食べるじゃダメなの?」
「なら逆に、かーちゃんに問おうではないか。みんなでメロンを食べなきゃダメなのか?」
「ダメだろ!」
「ダメか!」
「そーだよ!みんな今夜のメロンを楽しみにしてんだよ!」
「よし分かった!メロン争奪トーナメント戦を開催します!」
「何をどう?分かってトーナメント戦って発想に辿り着いたんだ?」
「教えてやらん!だがしかし!メロン丸々一個食べさせてくれたら、教えてやらんでもない!」
「だからどんな取引だ!矛盾だらけだろ!お前しか得しねぇじゃねぇか!」
「よし!なら恥を承知で聞こうじゃないか!メロン丸々一個食べていいですかっ!」
「ダメです!」
「じゃあもういいよ!メロン丸々一個食べてやるから!」
「どんな理論だよ!」
「メロン理論だよ!」
「いやもう、メチャクチャな事を言おうが、絶対に食べさせないからな!」
「例えば、わしがメロン丸々一個食べたら、世界が平和になるとしたら、どうする?」

「食べさせない。」
「何でだよ!何でなんだよ!こんちくしょいっ!世界が平和になるのに何でメロン丸々一個食べさせてくれないんだよ!独裁者かよ!」
「独裁者は、じーちゃん!貴様じゃい!!」
「なら、今夜みんなで食べよう!」
「最初からそう言ってんじゃん!」
「しかし、その前にわしが毒味をしようではないか!だから、メロン丸々一個食べさせて!」
「何味だそれは!」
「メローン!!」
「泣いたって食べさせねぇよ!」
「メーロン!メーロン!メーロン!メーロン!」
「うっせ!!」
「おい!かーちゃん!」
「何だ!」
「わしは、メロン丸々一個食べる!」
「この段階で、勢いだけで押し通せると思ってたんですか?」
「勢いだけで押し通すのなら今しかないと!」
「いいか?じーちゃん?次にメロン丸々一個食べさせてくれとか言ったら!この私がメロン丸々一個食べてやるからな!」
「掟破りの逆メロン丸々一個食べさせてくれだと!?そんな作戦に引っ掛かると思うなよ!あっ!?言っちゃった!」
「バカかよ!」
「かーちゃん。」
「何ですか?」
「わし、もうメロン丸々一個食べたくない。」
「えっ?」
「メロンに丸々食べられたい!」
「・・・・・・・・・。」
それは、とても暑い夏の日の雲一つない午後3時の事だった。

第三百二十五話
「好き過ぎて ―夏― 」

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