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2012年10月 3日 (水)

「第三百二十九話」

 アタシが都会の人混みを歩いていると、男がアタシに声を掛けてきた。
「お姉さん、綺麗だね!時間ある?」
所謂、ナンパね。
「えっ?ちょちょちょ!お姉さん?ちょっと!何してんの!?」
アタシは、人に綺麗って言われるのが大嫌いだった。確かにアタシは綺麗だけど、それはアタシに言ってはいけない特別な言葉。だからアタシは、アタシに綺麗って言う上部だけの誉め言葉を使う人間には、何時もこうして制裁をしてやる事にしているの。
「いっっ!いててて!な、何で!?お姉さん!?」
「何で?だってアナタ、今アタシの事を綺麗って言ったでしょ?」
「言ったよ!言ったけど!何してんだよ!何なんだよこれ!いいいててててて!」
「良かった。もしアタシの聞き間違いで、こんな事をしてしまっていたら、とんだ失礼ですものね。」
「いや、これでも十分失礼だろ!と、とにかくほどいてくれよ!いてぇよ!」
「それは断るわ!」
「何だよ!何でだよ!どうして綺麗って言って!こんな事されなきゃならないんだよ!ブスってけなした訳じゃないんだぞ!綺麗って言ったんだぞ!誉め言葉じゃねぇか!」
「誉め言葉?どこが?」
「誉め言葉だろ!誰が聞いたって誉め言葉じゃねぇか!いいから、ほどいてくれよ!なっ?いてぇんだよ!」
「誉め言葉?アタシは、そうは思わなかったわ。それに、痛みを感じてくれなきゃ、こうしてる意味が無いわ。」
「何でだよ!女性に対して、綺麗って言葉は誉め言葉だろ?誉め言葉以外の何なんだよ!」
「価値観の違いね。」
「か、価値観?な、何だよ価値観って!」
「言われる事が誉め言葉だと捉える人間はいるわ。でも、アタシは違うの。誉め言葉を言う人間が、果たしてその言葉を言うに相応しい人間かどうか?」
「はあ?い、意味が分かんねぇよ!っていってーっ!!」
「アタシを綺麗だと言うに相応しい人間かどうかって事よ。いい?それに相応しくない人間が放つ誉め言葉なんて、誉め言葉じゃないの。つまり、アナタは初対面のアタシに向かってブスと言ったも同じなの。」
「何言ってんだよ!同じな訳がねぇだろ!綺麗は綺麗だろ!どんな人間から見たって、綺麗は綺麗なんだからいいじゃねぇか!」
「まったくだわ。考え方が甘いわね。」
「いててててて!!」
「アタシは、それを良しとしない。ううん、むしろ逆にそれを侮辱とすら考えてる。まだ、初対面でブスと言われた方がましだわ。世界中のカレーの味を知らない人間が、どこかの・・・そうね、あのお店のカレーを口にして、美味しいと言ったら、果たしてシェフは何て思うかしら?」
「素直に嬉しいだろ!喜ぶだろ!いってーっ!!」
「いいえ、きっと侮辱されたと思うはずよ。そこで嬉しがったり喜んだりするシェフは、超一流のシェフじゃないわ。」
「何だよそれ!何なんだよそれ!カレー食って素直に気持ち伝えた客の気持ちは、どーなるんだよ!」
「素直な気持ち?だからその言葉は、安易なだけよ。世界中のカレーを食べ尽くした訳でもないのに、軽々しく美味しいだなんて口にしてしまう。侮辱と屈辱を無意識に与える愚か者よ。」
「お前!どんな思考してんだよ!」
「綺麗や美味しい、それら誉め言葉って言うのはね?そんな軽々しいモノではないのよ!そんな軽々しく口にしてはいけない言葉なのよ!!」
「ってぇぇぇぇぇぇ!!お、おれ、おれ、おれ、折れる!?軽々しいとか軽々しくないとか、綺麗や美味しいは感想だろ?誉め言葉であり、一瞬の感情だろ?その時に感じた素直な気持ちじゃねぇか!」
「それがアタシは許せないって言ってんのが、まだ分からないの?その素直な気持ちが邪悪な言葉って言ってるのが、分からないの?」
「分からねぇよ!邪悪ってなんだよ!頭おかしいんじゃねぇの!その価値観も分からねぇし!何でこうなってんのか!この価値観も分からねぇよ!」
「分からないなら分からないで構わないわ。特に分かられたくもないし、分かってもらおうとも思ってないから。ただ、アナタみたいな人間が許せないだけよ。何もしないで無視してやり過ごせるほど、アタシは出来た人間じゃないの。」
「てめぇ!ふざけんなよ!いい加減にしねぇと裏返すぞ!!」
「裏返せるもんなら!裏返してみなさいよ!!」

第三百二十九話
「四の字固め」

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