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2012年10月17日 (水)

「第三百三十一話」

「な、何してんだ、お前!?」
「ごめんなさい!」
夕飯を終え、俺はソファーに座りウィスキーグラスを片手に、漫画原作のまるで別作品に仕上がったファン泣かせで誰かの自己満足的な実写映画を観ていると、妻は俺の後ろに立ち、銃弾を後頭部から撃ち込んだ。俺は、持っていたウィスキーを目の前のテーブルに置くと、とりあえず謝る妻を隣に座らせた。
「本当にごめんなさい!」
「どゆこと?」
俺は、生きてる。生きてる実感ってヤツを体感するなら、もしかしたらおもいっきり今なのかもしれない。だが、俺には死んでないリアリティーの方が不思議でならなかった。確かに銃弾は、俺の頭を撃ち抜いた。まるで俺の怒りが具現化したかのように、目の前のテレビが破壊されているのが、証拠だ。だが、妙だった。それは、俺が無傷だって事だ。これは夢かマジックか?妻は、一体俺に何をしたんだ?
「ごめんなさい!」
「いや、ごめんなさいはもういいから、説明してくれないか?お前、今俺の頭を手に持ってるその銃で撃ったよな?」
「ええ、撃ったわ!」
そう言うと妻は、銃をテーブルの上に置いた。そしてやはりこれは、夢でもマジックでもなく、真実だった。じゃあ、なぜ俺は死んでない?死んでないどころか、なぜ無傷なんだ?
「ごめんなさい!」
「!?」
妻が突然、俺に抱き付いてきた。俺は困惑したが、震える妻の頭を優しく撫でてやった。
「って、優しく撫でてる場合じゃない!どう言う事なんだよ!何なんだこれは!何でお前は俺を撃った!何で撃たれた俺は死んでないんだ!」
妻を突き放すと俺は、溢れ出る謎をおさえる事が出来なかった。気付くと濁流の様に俺は、妻に責め立てていた。
「ごめんなさい!」
「謝ってばっかりじゃ解らないだろ?」
少し落ち着こう。俺まで興奮してたら、この摩訶不思議に飲み込まれてしまって、闇をさ迷う事になってしまう。俺は、グラスに残ったウィスキーを一気に飲み干し、テーブルに置いた。妻は一体何をしたんだ?
「まず、順を追って聞いていくぞ?お前は、俺の後ろに立った。」
「そう。」
「そして、銃を後頭部に当てた。」
「ええ。」
「で、撃った。」
「そうよ。撃ったわ。」
「頭を撃ち抜かれた俺は、こうして無傷で生きてる。」
「本当にごめんなさい!生きてるだなんて思わなかったの!」
生きてるだなんて思わなかった?確かに妻はそう言った。じゃあ、俺が生きてるっていう事態は、妻にとっても不測の事態だったって事か?いや、自分が銃弾を頭に撃ち込んだ人間が生きていたら、それは誰でも不測の事態か。ちょっと待てよ?そもそも何で俺は、妻に頭を撃ち抜かれないとならないんだ?
「最近、アナタの帰りが遅くて、それでアタシ!」
「ん?」
妻は、何を語り出してるんだ?俺を撃ち殺す為の経緯か?まさか仕事で帰りが遅くなっただけで俺は頭を撃ち抜かれたのか?そんな下らない利用で妻が夫の頭に銃弾を撃ち込んでたら、人類は明日にでも絶滅する。
「浮気してるんじゃないかって思ったの!」
「そんなバカな!俺は仕事で帰りが遅くなっただけだ!何で浮気なんか!」
「分かってる!分かってるわ!でも電話でもよく女の人と話してたし!」
「それは!ウチの弁護士事務所に新しく入ってきた秘書の!」
「分かってる!分かってるのよ!でも不安だったのよ!」
「不安?今までだって仕事で遅くなる事はあっただろ?」
「ええ、あったわ!でも、そのたびにアタシは不安だったの!アナタに家で待ってるだけの妻の気持ちが分かる?」
「ちょっと待ってくれ。その分、俺は埋め合わせとして家族サービスしていたじゃないか!」
「そう!アナタはしてくれてた!」
「じゃあなぜだ!」
「それが逆にアタシの中のアナタへの不安感を増幅させてたのよ!外で別の女の人と楽しんでるから!その罪滅ぼしに家族サービスをしていると思ったの!」
「バカげてる。」
「そう!全てアタシがバカだったの!こんな素晴らしい夫をずっと疑ってたアタシがバカだったの!本当にごめんなさい!」
妻の不安な気持ちが全て理解出来た訳ではないが、全て理解しようと思えば、理解出来た。だから俺は、抱き付いて震える妻の頭を優しく撫でてやった。
「生きててくれて良かった。」
生きててくれて良かった?さっきは生きてるだなんて思わなかった、と口にした。どう言う事だ?まるで俺が生きているのが偶然や奇跡の類いではなく、最初から選択肢の1つにある様な言い方だ。
「この銃、一体何なんだ?」
「この銃はね。浮気している人だけを撃ち殺してくれる銃なの。」
抱き付く妻は、優しい口調で摩訶不思議な事を耳元で囁いてくれた。摩訶不思議過ぎるが、俺の身に巻き起こったリアリティーを考えると、納得出来ない事もなかった。首筋に優しくキスをする妻を横目に、俺は撃ち抜かれたテレビの箇所が妙に気になっていた。

第三百三十一話
「撃ち抜かれた妻」

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