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2012年11月

2012年11月 7日 (水)

「第三百三十四話」

 私が喫茶店を営んでいる理由は1つだ。いつの日にかシュールな客がやって来る!ただ、それだけだ。そして今さっき、念願のシュールな客らしき男が、この喫茶店にやって来た。
「いらっしゃいませ。」
その男は、右足を引き摺りながら、カウンターの席に座った。
「とにかく熱くて濃いコーヒーを頼む。」
「かしこまりました。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
私は、シュールな客らしき男に釘付けになった。
「・・・・・・・・・ん?俺の顔に何かついてるのか?」
「いえ、ただ・・・・・・。」
「ただ?」
「右足、どうしたんですか?」
「朝、目を覚ましたら、足首から下を鰐に喰われただけだ。」
「は、はあ。」
私は、思った。これは、シュールなのか?と。ドクドクと右足から血を流し、青ざめた顔でコーヒーを待つ男。これは、シュールと言うより、事件なんじゃないのか?あまりにも事件がシュールを上回り過ぎてる客なんじゃないのか?私は、右足を鰐に喰われた男を前に、こうして自慢のコーヒーを自慢気に淹れていても良いのか?とりあえず救急車的なモノを呼んだ方が良いのではないのか?ただ、自慢のコーヒーを淹れながら、もう一人の私は、こう話し掛けて来る。その頭の中にある事件感を取り除いたら、この男はかなりシュールな客だぞ!と。
「お待たせしました。」
「ありがとう。」
この男が出血多量で死にそうになったその時は、救急車的なモノを呼べばいい。それまで、もう少しだけ、ほんの少しだけ、シュールを探ってみよう。とりあえず私は、自慢のコーヒーを男がどんな風に飲むのかが気になった。
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
砂糖もミルクも入れず、男はカップを口元へと近付けた。さあ早く!早く私にシュールな飲み方を見せてくれ!
「・・・・・・・・・ん?」
「えっ?」
その時、凝視する私の目と男の目が合った。
「気になるか?」
「えっ?」
「何で俺が、鰐に右足を喰われたってのに、こうして喫茶店で自慢のコーヒーを満喫しようとしているのかが。」
「あ、いや、その。」
ムチャクチャ気になるっしょ!そこ気にならないマスターがいますかって、話っしょ!ドクターなら或いは、ほっとかないのかもしれないけど、あいにく私はマスターなんですよってんですよ!
「たまたま朝目を覚ますと、鰐に右足を喰われてただけだ。勇気を喰われてた訳でもなければ、ましてや夢を丸ごと喰われてた訳じゃない。鰐に右足を喰われて医者に行くような奴は、鰐に右足を喰われて困る奴がすればいい。鰐に右足を喰われたとこで困らない俺は、こうして喫茶店で自慢のコーヒーを優雅に飲んでればいい。ただ、それだけの話だ。」
「なるほど。」
なるほどじゃないだろ!私!しっかりしろ、私!私、しっかりしろ!意味が不明過ぎるだろ!どのピースをどう組み立ててパズルを完成させればいいのかだろ!シュールな話だが、これは何かそう!ハードボイルドなカオリがプンプンする話だぞ?あまりにも上回り過ぎてないか?ハードボイルド感が!殺し屋か?この目の前のシュールな客は、殺し屋なのか?いや、ハードボイルド=殺し屋って考えは、安直過ぎる。うんそうだ。世の中にはハードボイルドなピエロがいても良いし、ハードボイルドな美少女アイドルがいたって良い。時にはハードボイルドな雨上がりに、ハードボイルドな虹が掛かる事だってあるかもしれない。いやいやいや、今はハードボイルドなんてどうだって良いのだよ。問題は、このシュールな客が実は、ハードボイルドだったって時の大きな衝撃波に私の体が持ちこたえられるのかって!そう言った感じの話っしょ!
「ウマイな。」
「えっ?」
「コーヒーだよ。」
「あ、ありがとうございます。」
人って人間は不思議な生き物で、自らが自慢に思っているモノを誰かに誉められたとこで、これっぽっちも嬉しくない。頑張れ私の愛想笑い!
「一枚、好きなカードを引いてくれ。」
「はい?」
男は、おもむろに上着のポケットからトランプを取り出し、軽快にシャッフルすると、それを私に差し出した。
「格別なコーヒーを飲ませてくれた礼に、手品を披露しよう。」
「マジシャンなんですか?」
「いいや。」
「なるほど。」
だから!何が一体なるほどなんだ!私!この状況で喫茶店のマスターが淹れた自慢のコーヒーに対してのお礼が、マジシャンではないマジックでは釣り合いがとれないだろ!蟹獲り名人が、お礼に自ら描いた蟹の水墨画をプレゼントするようなもんだぞ!だが、この現状を覆す現実がある。それは、蟹獲り名人が蟹を獲る以上に、趣味の水墨画のスキルが上回る大どんでん返しだ。つまりは、男がどんな職業だかは分からないが、その腕以上にマジックの腕が上回ると言うシュールな展開だ!
「どうした?遠慮しないで、選んでくれ。」
「じゃあ、これ。」
「カードを見てくれ。」
「見ました。」
「マスターが選んだカードは、クラブのジャック、違うか?」
「正解です。」
「カードの中身が全部クラブのジャックって思われちゃ困るからな。もう一枚選んでくれ。」
「じゃあ、これ。」
「カードを見てくれ。」
「見ました。」
「スペードのエース。」
「正解です。もう一枚、いいですか?」
「ああ、構わないよ。」
「じゃあ、これ。」
「ハートのクイーン。」
「スゴイ!!一体、どんなタネなんですか?」
「知りたいか?」
「知りたいです!」
「簡単さ。こうしてカードをシャッ」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
男は、たぶん出血多量で死んだと思われる。しかし、男のその顔からは、幸福感が漂っていた。きっと格別なコーヒーを飲み、得意のマジックを披露して、最期をむかえると言うのが、男の人生の終わらせ方だったのだろう。男は、私が待ちに待ったシュールな客だったのかもしれない。最高の客だったのかもしれない。だが、必ずしも思い描いた理想が、現実で理想の結末をむかえるとは限らなかった。

第三百三十四話
「迷惑な客」

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2012年11月14日 (水)

「第三百三十五話」

「失礼します。お呼びでしょうか、校長。」
「先生?なぜ、校長室に呼ばれたのか分かりますよね?」
「いやしかし校長!今朝の事は!」
「魔が指しただなんて言い逃れは出来ませんよ!」
「すいません!気付いたら左足が勝手に!明日からはちゃんと右足から家を出ます!」
「はあ?」
「えっ?僕が今日、左足から家を出たから、それで校長は僕に処罰をくだそうとしているんですよね?すいませんでした!教育者として、まだまだ未熟者でした!」
「何を謝られているのか、そして何が巻き起こっているのか、さっぱりですよ。教育者が毎朝、右足から家を出なければならないと言うルール知らないですよ。何なんですかそれ!おまじないじゃあるまいし!」
「僕のおまじないですよ!おまじないじゃあるまいし!じゃなく!おまじないなんです!この右足理論は、立派なおまじないなんです!」
「おまじないなんじゃないですか!教育者とか関係無いじゃないですか!単なる先生個人の日々のおまじないなんじゃないですか!おまじないをしなかったからって、わざわざ校長が教諭を呼び出す訳がない!」
「では、僕には心当たりがありません。失礼しました。」
「ちょっと待ちなさい!スカート!」
「スカート?」
「キミは今朝、下駄箱の辺りで女生徒のスカートをめくりましたね?なぜそんな小学生みたいな事をしたんですか!」
「校長、お言葉ですがここは小学校です!」
「だからなんだ!だからって教師が小学生みたいな事をしていい訳がない!キミは自分が何をしたのか理解しているのですか?これは犯罪ですよ!」
「確かに教師が女生徒に行うスカートめくりは、悪ふざけ以上、犯罪未満です!」
「いや、犯罪だ!なぜキミはスカートめくりをしたんだ!いや、理由など関係無い。キミは、女生徒のスカートをめくった。この事実だけで十分です。キミには、今日でこの小学校を辞めてもらいます。いや、その前に警察に行って償ってもらう必要があります。」
「ちょっと待って下さい、校長!受話器を置いて、僕の話を聞いて下さい!」
「何ですか?言い訳なら通用しませんよ?防犯カメラの映像があるんです!」
「僕は、スカートめくりなんてしていない!」
「こりゃあ、たまげた!とんでもないお調子者が現れましたね!スカートめくりをしていない?ならキミがしたのは、一体何だと言うんです!」
「僕がしたのは、スカートめくりではなく!めくりスカートです!」
「そうだったんですか。すまん、私の勘違いでした。もう帰ってくれて構いませんよ。とか言うとでも思ってるのか!」
「言わないんですか!」
「言わないですよ!言わないんですよ!これがね!」
「なぜ!」
「それは、先生が何を言ってるのか意味不明だからです!スカートめくりもめくりスカートも同じだからです!」
「はあああああああ。」
「何で溜め息?この変態教師!」
「校長が、何も分かっちゃいないからですよ。」
「私が一体、何を分かっちゃいないと言うんですか!」
「めくりスカート!をですよっ!!」
「ガーン!」

第三百三十五話
「めくりスカート」

「んで、先生?めくりスカート、とは?」
「いやいやいや、話はそこで終わってんだよ?何でわざわざ、めくりスカートを説明しなきゃならないんだよ!」
「ガーン!って、今時、短編小説の終わり方が、ガーン!って、有り得ませんよ。」
「有り得たんだよ。これが、有り得ちゃったんだよ。」
「何ですか、それ。しかも、何でガーン!ってしているのかすら、理解出来ませんよ。」
「別に理解して貰おうだなんて最初から思ってないさ。」
「全然かっこよくないですから!いや、理解させろよ!小説なんだから!」
「なあ?もう、このあとがき的な会話とかやめにしないか?何か、本編であまりにも分かりにくかったから補うが為のあとがき的なこれ、やめようよ。恥ずいよ!俺は!」
「だったら!恥ずかしくない作品書いたらどうだって言うんですよ!めくりスカートって何なんですか!」
「めくりスカートって言うのはな。空間に漂うめくりの事だよ。」
「空間に漂うめくりって何ですか?」
「だから、その空間内に足を踏み入れると、人は何かをめくっちゃうんだよ。この場合はスカートだったけど、本を読みながら空間内に足を踏み入れたなら、その人はページめくっちゃうんだよ。その場合は、めくりページな。人は自分の意志でめくっているんじゃない!めくりによってめくらされているんだ!」
「それならそうと、だったらなんで本編でそう説明しないんですか!てか、それ絶対に今考えましたよね?」
「・・・・・・・・・考えてねぇし!いいか?する必要がないと思ったからだよ。校長が、ガーン!って言ってんだよ!この一言が全てを説明してるだろ?だからあのガーン!は、そう言うガーン!だよ!ああ、嫌だ嫌だ!いいじゃんか!こう言う作品をこう言う感じに受け止めたっていいじゃんかよ!」
「いいんですか?先生は、こんな作品で本当にいいんですか?そんな、今考えたかのようなこじつけのような説明でいいんですか?」
「いいんだよ。だいたい何もかも説明すりゃあ、いいってもんじゃないんだよ。」
「では。」
「では?」
「そろそろ。」
「そろそろ?」
「殴っていいですか?」
「嫌だよ。」
「先生?」
「何?」
「UFO!」
「そんな古い手に引っ」
「おりゃあ!」
「な、何を!?嫌だって言ったのにー!!」
「素直に引っ掛かったフリでもしとけば!或いは鼻を殴られなくてもすんだかもしれませんね!これは!読者に代わって!私が代表しての!怒りの鉄拳制裁だ!思い知ったかっ!未熟者!」
「ガーン!」
「まだふざけた事を!」
「お、おい!やめろ!やめろって!馬乗りとかやめろ!分かった!分かったから!俺が悪かったから!なっ!ごめん!ごめんって!ごめんなさーいっ!!早くページをめっくてくれーっ!!!」

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2012年11月21日 (水)

「第三百三十六話」

「アナタ?」
「ん?」
「あの子がね?小学生になったから、犬を飼いたいって言い出したのよ。」
「あの子って?」
「我が娘よ!どっかの子の話をしてどうすんのよ!」
「いやほら、仕事から疲れて帰って来て、飯食ってる最中に知らんあの子の話をされてたらどうしようかと思ってさ。確認だよ確認!確認、大事!あっ、そうだ!ちょっと今のを先輩後輩風にして言ってみてよ!」
「はあ?」
「だから、お前が後輩で俺が先輩って体だよ。」
「何で?」
「何でもだよ。ほら早く早く!」
「せ、先輩、あの子がっスね!小学生になったから、犬を飼いたいって言い出してるんっスよ!」
「じゃあ次は博士と助手って体で!」
「博士!あの子が小学生になったから、犬を飼いたいって言い出してるんですが!」
「医者と看護師!」
「先生!あの子が!あの子が小学生になったから、犬を飼いたいって言い出してます!」
「店長とバイト!」
「コントじゃないんだから!何をしてんのよアタシ達は!てか、アタシだけバカみたいじゃない?ねぇ?そもそも何々と何々なのに、アタシしかやってなくない?」
「犬ねぇ?」
「いやいやいや、急に真面目にならないでよ!」
「別に飼ってもいんじゃないか?犬だろ?何もワニを飼いたいって話でもないんだしさ。」
「でもね、アナタ?その犬の面倒は結局、ほとんどアタシがしなきゃならなくなるのよ?きっと、いや絶対に!」
「でも犬の面倒なら大丈夫だろ?ワニならまだしもさ。犬の面倒ならさ。」
「あの子はちゃんと自分で面倒見るって言ってるけど、結局アタシが餌をあげたり、散歩に連れていかなきゃならないのよ?それにほら、生き物でしょ?万が一って事があるじゃない?」
「死を経験するのも教育だろ?ワニならちょっと、アレだけどさ。」
「そうだけど、何年も飼ってからなら?それは教育になるかもしれないけど、飼ってすぐに死んじゃったら、あの子に悪影響なんじゃないかって、心配なのよ。」
「考え過ぎじゃないか?いや、お前が心配するその気持ちがいけないって訳じゃなくて、ペットの死に対して、例え飼って1ヶ月で死んだとしても、あの子は我々が思ってるより、弱い子じゃないさ。」
「そうかしら?」
「そうだよ。で、確認なんだけどさ。」
「なに?」
「犬を飼いたいって言ったんだよな?」
「そうよ?」
「ワニを飼いたいじゃなくて、犬を飼いたいなんだよな!」
「そう。」
「よーく思い出してみろ?犬か?」
「ええ。」
「本当にワニじゃなくて犬なんだろうな!」
「犬だって!」
「俺イヤだぞ!明日になって聞いてみたら、実はワニでしたなんて話!」
「ワニ、何!何、ワニ!普通に考えてどこの小学生がワニを飼いたいって言い出すのよ!犬に持ち出す比較対照がおかしいでしょ!」
「じゃあ何だ?猫ならいいのか?」
「そうよ。」
「猫はアレルギーだから俺がイヤだ!」
「犬!犬を飼いたいって話なんです!」
「お前もか!」
「あの子がよ!何?アタシも犬が飼いたいって言ったら2匹飼う訳?」
「おいちょっと待てよ!そしたら俺だって俺の犬を飼うぞ!2人だけなんてズルいからな!ああ、そしたらあれだ!3人の犬の中で誰の犬が1番強いのか戦わせよう!負けないぞー!」
「ズルいって、何?ねぇ?バカなの?どうしてそう言う発想になっちゃうのよ!」
「俺、バカなのか?」
「今のところ、残念ながらバカね!」
「今のところって事は、こんなバカな俺にもまだチャンスがあるって事か?」
「まあ、これからの言動次第ではね。」
「そうか。ありがとう!本当にありがとう!俺、頑張るよ!」
「意味不明な両手握手とかしてる暇があるなら、この問題について、どうか真面目に取り組んでくれない?」
「まず、タイムマシーンを作ってみようと思う!そしたら俺がバカじゃないって証明出来るだろ?」
「プラモデルじゃないんだから!そもそもアナタにそんなポテンシャルがあるんだったら、今頃、豪邸で暮らしてるわよ!」
「おいちょっと待て!」
「あ、ごめん。少し言い過ぎた。何も今の暮らしに不満があるって意味じゃないから、勘違いしないでね。」
「俺にはタイムマシーンを作るポテンシャルは無いのか!?」
「知らないわよ!ポテンシャルの話をされたって分かる訳ないじゃない!ポテンシャルなんだから!あるかもしれないし無いかもしれないし!それはタイムマシーンを作ってみないと分からない!それがポテンシャル!で、アナタにタイムマシーンを作るポテンシャルがあるか無いかなんて、別に分からなくてもいい事だから!今は、あの子が犬を飼いたいって言い出したって話をしてるの!それ以外の話なんてしてないの!それ以外の話は、どーだっていいの!」
「今日な。外回りの途中に喫茶店に立ち寄ったんだよ。今まで行った事ない街の今まで行った事ない喫茶店で、誰に会ったと思う?何と、誰にも会わなかったんだよ!いやもちろん、人はたくさんいたよ?でも、知り合いは1人もいなかったんだよ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「びっくりだよな!」
「びっくりよ!よく、このタイミングで、そんな話が出来たものね?今まで行った事ない街の今まで行った事ない喫茶店なんだから、今まで会った事もない人だらけに決まってるでしょ!何かあれね?アナタ、恐いわね。」
「恐い?別に牙とか角とか無いけどなぁ?もちろん毒とかも持って無いし。」
「小学生かよ!」
「そう言えば聞いてくれよ!娘がもう小学生なんだよ!いやぁ、子供の成長って早いよなぁ。ついこの間までハイハイしてたかと思ったら、小学生だもんなぁ。」
「知ってる!アタシの娘でもあるから!って、ちょっと待って!」
「何だよ。どうした?」
「ちょ、ちょっと目眩が・・・・・・・・・。」
「だ、大丈夫ですか?」
「な、何なの?犬を飼うか飼わないかって、こんなにも難しいもんなの?こんなにもカロリーを消費するもんなの?」
「その通りです!その通りなんですよ!奥さん!ペットを家庭で飼うと言うのは、こんなにも難しいものなのです!こんなにもカロリーを消費するものなのです!いかがでしたか?無料体験コースの方は?よろしければぜひフィットネスクラブの会員に御入会を!」
「考えとくわ。」

第三百三十六話
「ペットダイエット」

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2012年11月28日 (水)

「第三百三十七話」

「どうなんですかね?」
「どうなのかねぇ?」
「どうなんでしょう?」
「お兄ちゃん、ずーっと迷ってるが決まらんのかい?推し。」
「推しって・・・・・・。」
「推しじゃろ?」
「推しとかではないでしょ。」
「推しじゃろ。」

第三百三十七話
「アイドル屋」

「雑貨屋さんですよね?」
「お兄ちゃん。雑貨屋だったらオレだって雑貨屋って看板を出すさ。でもここが雑貨屋じゃなくてアイドル屋だから、アイドル屋って看板を出しとるんじゃろ?」
「お婆さん?」
「何だい!ババアがアイドル屋を営んじゃいかんのか?」
「いや誰が営んでも構いませんよ。ただ、ボクはここがアイドル屋じゃないでしょって言いたいだけですよ。」
「お兄ちゃん?アイドル屋だからって、足を踏み入れたらそこにアイドルがいると思ったら大間違いってもんじゃよ?」
「誰も店にアイドルがいると思ってませんよ。ましてや店主がアイドルだとも思ってませんよ。ただ、ここにアイドルのグッズがあると思って足を踏み入れたんですよ。ボクは。」
「冒険家か!」
「この心意気でボクが冒険家なら誰もが冒険家ですよ。」
「アイドル屋っつぅのはのぅ。この店の商品の中からお客さんが家で、買ったその商品をアイドル的に使ってもらうって店じゃよ。」
「なら、雑貨屋でいいじゃないですか!てか、雑貨屋ですよね?無理矢理に店の言い方を変えてるだけで、雑貨屋丸出しですよね?」
「この、束子なんかどうじゃ?今日から束子推しじゃ!」
「束子推しなんてなりませんし!束子推しませんよ!」
「束子はのぅ?ええぞ?束子を使ってると、何だか心の底から、束子!って感じがしてええぞ!」
「当たり前でしょ!束子使ってて、スポンジって感じがしたら手のひらの感覚を疑いますよ!」
「ダメか束子?」
「いや、もはや束子がどうのこうのじゃないんですよ!話は!」
「何で?きっと、お兄ちゃんの家で、わししはアイドルになれると思うんだがなぁ?」
「いや気持ちが悪いでしょ!友達とかが遊びに来て、束子の事をわししだなんて呼んでたら!」
「誰も友達とかが遊びに来た時まで、わししをわししと呼べなんて言っとらんじゃろ?だいたい、わししはオレが付けたニックネームなんだから、お兄ちゃんはお兄ちゃんで、ニックネームを付ければええじゃろ。」
「嫌ですよ!何で束子に独自のニックネーム付けなきゃいけないんですか!」
「別に呼び捨てでもええと思うぞ?」
「その雑貨をアイドル感覚に置き換えるのやめてもらえません?」
「菷はどうじゃ?今日から菷推しじゃ!」
「推しませんよ菷!」
「菷はのぅ?ええぞ?菷を使ってると、何だか心の底から、菷!って感じがしてええぞ!」
「当たり前でしょ!菷使ってて、スポンジって感じがしたら手のひらの感覚を疑いますよ!」
「菷はのぅ。塵取りとユニットを組んでおるんじゃ。だから、菷を買うなら塵取りも一緒に買っとくれよ。」
「ユニットっておかしいでしょ!ユニットって!」
「何がおかしいんじゃ!菷を使ってたら塵取りを使いたくなるし、塵取りを使ってたら菷を使いたくなるじゃろ!」
「それを無理矢理にユニットって言っちゃうのがおかしいんですよ!菷も塵取りも買いませんよ!だいたい、まずは塵取りだけを使ってる状況が不可思議でしょ!」
「うききととりりじゃぞ?」
「だから?」
「石鹸推しはどうじゃ?今日から石鹸推しじゃ!」
「推さないんですよボクは石鹸を!」
「石鹸はのぅ?ええぞ?石鹸を使ってると、何だか心の底から、石鹸!って感じがしてええぞ!」
「当たり前でしょ!石鹸使ってて、スポンジって感じがしたら手のひらの感覚を疑いますよ!」
「けんんじゃぞ?」
「言いにくい!だいたい何なんですか!一番最後から二番目の文字を頭に一番最後の文字を続けて二文字ってそのニックネームの付け方の方程式は!」
「けんんは、もうすぐ卒業しちまうんじゃぞ?買うなら今しかないんじゃぞ?」
「いや卒業って、何からの卒業なんですか!単に使用期限が迫って来てるだけでしょ?」
「お兄ちゃんは、夢が無いのぅ?留学とかかもしれないじゃろ?」
「お婆さんに夢があり過ぎなんだと思いますけど?」
「人間なぁ。死ぬまで夢を追い掛けんといかん!人間は、夢を追い掛けるのをやめた時、終わるんじゃ!夢を追い掛けるのをやめた時、人間の皮を被った化け物になっちまうんだよ!」
「何の話をしてるんですか?なら因みに、お婆さんは今でも夢を追い掛けてるんですか?」
「もちろんじゃ!世界征服をな!」
「ギャップが!夢を実現させようとしている現実とのギャップが酷い!」
「夢は夢じゃ。持ち続ける事に意味があり、抱き続ける事に意味があるんじゃ!」
「世界征服の夢を持ってる雑貨屋なんて、何かの機関に目を付けられますよ?」
「スリッパ推しじゃ!今日からスリッパ推しじゃ!」
「そんな気迫で推しを迫って来ても、威圧に負けて買いませんよ?」
「スリッパはのぅ?ええぞ?スリッパを使ってると、何だか心の底から、スリッパ!って感じがしてええぞ!」
「当たり前でしょ!スリッパ使ってて、スポンジって感じがしたら足の裏の感覚を疑いますよ!って、その売り文句の変な統一感は何なんですか?いや統一感以前に売り文句自体がおかしな感じなんですけどね!」
「じゃあ、お兄ちゃんが考えとくれよ!」
「嫌ですよ!」
「ッパパの為に考えとくれよ!てか買っとくれよ!」
「考えないし買わないし、ニックネーム付けない方がいんじゃないですか?言いにくいったりゃありゃしませんよ?」
「ッパパはのぅ。今月、新曲をリリースするんじゃよ。」
「ここに来て物凄い嘘を放り込んで来た!スリッパが歌なんか出す訳がないでしょ!」
「お兄ちゃんがプロデュースしてやればええじゃろ。」
「完全にボク、どうにかなっちゃってますよね!そんな事をしたら!」
「なあ、お兄ちゃん?」
「何ですか?」
「もし、オレがアイドルだったらどうする?」
「んな訳がないでしょ!急に何なんですか!」
「ベリベリベリって、顔面の皮膚を剥がしたら、お兄ちゃんが推しとるアイドルだったらどうする?」
「何を突然、言い出すんですか。そんなスパイ映画みたいな事がある訳ないでしょ!」
「そして、お兄ちゃんに愛の告白したらどうする?」
「有り得ない!いや、そんな事が現実に有り得る訳がない!」
「それはどうかのぅ?」
「なら、顔面の皮膚を剥がしたらいいじゃないですか!ベリベリベリって!で、愛の告白をしたらいいじゃないですか!」
「・・・・・・・・・。」
「何で黙るんです?それは顔面の皮膚を剥がしてもアイドルじゃないからでしょ!肉丸出しだからでしょ!」
「いやフラれたら傷付くなぁと思ってな。」
「どこを心配してるんですか!」
「乙女心じゃろ。」
「乙女心って。」
「分かった!そこまで、お兄ちゃんが疑うなら!顔面ベリベリしてやろう!」
「技みたくなってますけど?」
「じゃが!それが見たいならまず!店にある商品を全て買うんじゃ!」
「とんだ詐欺じゃないですか!まったく!とんでもない店に足を踏み入れちゃったよ!」
「店を出る前に、お兄ちゃん!聞いとくれ!」
「何ですか?」
「オレは、何時でもこのステージにおるからな。」
「投げキッスきもっ!二度と来るか!」
「ガラガラガラッ!ピシャッ!!」
その古びれた木造の店は、商店街に建つ一際目をひく30階建てのオフィスビルの横に、ひっそりと佇んでいた。
「ベ・・・ベリベリベリベリベリ・・・・・・。」

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