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2012年11月28日 (水)

「第三百三十七話」

「どうなんですかね?」
「どうなのかねぇ?」
「どうなんでしょう?」
「お兄ちゃん、ずーっと迷ってるが決まらんのかい?推し。」
「推しって・・・・・・。」
「推しじゃろ?」
「推しとかではないでしょ。」
「推しじゃろ。」

第三百三十七話
「アイドル屋」

「雑貨屋さんですよね?」
「お兄ちゃん。雑貨屋だったらオレだって雑貨屋って看板を出すさ。でもここが雑貨屋じゃなくてアイドル屋だから、アイドル屋って看板を出しとるんじゃろ?」
「お婆さん?」
「何だい!ババアがアイドル屋を営んじゃいかんのか?」
「いや誰が営んでも構いませんよ。ただ、ボクはここがアイドル屋じゃないでしょって言いたいだけですよ。」
「お兄ちゃん?アイドル屋だからって、足を踏み入れたらそこにアイドルがいると思ったら大間違いってもんじゃよ?」
「誰も店にアイドルがいると思ってませんよ。ましてや店主がアイドルだとも思ってませんよ。ただ、ここにアイドルのグッズがあると思って足を踏み入れたんですよ。ボクは。」
「冒険家か!」
「この心意気でボクが冒険家なら誰もが冒険家ですよ。」
「アイドル屋っつぅのはのぅ。この店の商品の中からお客さんが家で、買ったその商品をアイドル的に使ってもらうって店じゃよ。」
「なら、雑貨屋でいいじゃないですか!てか、雑貨屋ですよね?無理矢理に店の言い方を変えてるだけで、雑貨屋丸出しですよね?」
「この、束子なんかどうじゃ?今日から束子推しじゃ!」
「束子推しなんてなりませんし!束子推しませんよ!」
「束子はのぅ?ええぞ?束子を使ってると、何だか心の底から、束子!って感じがしてええぞ!」
「当たり前でしょ!束子使ってて、スポンジって感じがしたら手のひらの感覚を疑いますよ!」
「ダメか束子?」
「いや、もはや束子がどうのこうのじゃないんですよ!話は!」
「何で?きっと、お兄ちゃんの家で、わししはアイドルになれると思うんだがなぁ?」
「いや気持ちが悪いでしょ!友達とかが遊びに来て、束子の事をわししだなんて呼んでたら!」
「誰も友達とかが遊びに来た時まで、わししをわししと呼べなんて言っとらんじゃろ?だいたい、わししはオレが付けたニックネームなんだから、お兄ちゃんはお兄ちゃんで、ニックネームを付ければええじゃろ。」
「嫌ですよ!何で束子に独自のニックネーム付けなきゃいけないんですか!」
「別に呼び捨てでもええと思うぞ?」
「その雑貨をアイドル感覚に置き換えるのやめてもらえません?」
「菷はどうじゃ?今日から菷推しじゃ!」
「推しませんよ菷!」
「菷はのぅ?ええぞ?菷を使ってると、何だか心の底から、菷!って感じがしてええぞ!」
「当たり前でしょ!菷使ってて、スポンジって感じがしたら手のひらの感覚を疑いますよ!」
「菷はのぅ。塵取りとユニットを組んでおるんじゃ。だから、菷を買うなら塵取りも一緒に買っとくれよ。」
「ユニットっておかしいでしょ!ユニットって!」
「何がおかしいんじゃ!菷を使ってたら塵取りを使いたくなるし、塵取りを使ってたら菷を使いたくなるじゃろ!」
「それを無理矢理にユニットって言っちゃうのがおかしいんですよ!菷も塵取りも買いませんよ!だいたい、まずは塵取りだけを使ってる状況が不可思議でしょ!」
「うききととりりじゃぞ?」
「だから?」
「石鹸推しはどうじゃ?今日から石鹸推しじゃ!」
「推さないんですよボクは石鹸を!」
「石鹸はのぅ?ええぞ?石鹸を使ってると、何だか心の底から、石鹸!って感じがしてええぞ!」
「当たり前でしょ!石鹸使ってて、スポンジって感じがしたら手のひらの感覚を疑いますよ!」
「けんんじゃぞ?」
「言いにくい!だいたい何なんですか!一番最後から二番目の文字を頭に一番最後の文字を続けて二文字ってそのニックネームの付け方の方程式は!」
「けんんは、もうすぐ卒業しちまうんじゃぞ?買うなら今しかないんじゃぞ?」
「いや卒業って、何からの卒業なんですか!単に使用期限が迫って来てるだけでしょ?」
「お兄ちゃんは、夢が無いのぅ?留学とかかもしれないじゃろ?」
「お婆さんに夢があり過ぎなんだと思いますけど?」
「人間なぁ。死ぬまで夢を追い掛けんといかん!人間は、夢を追い掛けるのをやめた時、終わるんじゃ!夢を追い掛けるのをやめた時、人間の皮を被った化け物になっちまうんだよ!」
「何の話をしてるんですか?なら因みに、お婆さんは今でも夢を追い掛けてるんですか?」
「もちろんじゃ!世界征服をな!」
「ギャップが!夢を実現させようとしている現実とのギャップが酷い!」
「夢は夢じゃ。持ち続ける事に意味があり、抱き続ける事に意味があるんじゃ!」
「世界征服の夢を持ってる雑貨屋なんて、何かの機関に目を付けられますよ?」
「スリッパ推しじゃ!今日からスリッパ推しじゃ!」
「そんな気迫で推しを迫って来ても、威圧に負けて買いませんよ?」
「スリッパはのぅ?ええぞ?スリッパを使ってると、何だか心の底から、スリッパ!って感じがしてええぞ!」
「当たり前でしょ!スリッパ使ってて、スポンジって感じがしたら足の裏の感覚を疑いますよ!って、その売り文句の変な統一感は何なんですか?いや統一感以前に売り文句自体がおかしな感じなんですけどね!」
「じゃあ、お兄ちゃんが考えとくれよ!」
「嫌ですよ!」
「ッパパの為に考えとくれよ!てか買っとくれよ!」
「考えないし買わないし、ニックネーム付けない方がいんじゃないですか?言いにくいったりゃありゃしませんよ?」
「ッパパはのぅ。今月、新曲をリリースするんじゃよ。」
「ここに来て物凄い嘘を放り込んで来た!スリッパが歌なんか出す訳がないでしょ!」
「お兄ちゃんがプロデュースしてやればええじゃろ。」
「完全にボク、どうにかなっちゃってますよね!そんな事をしたら!」
「なあ、お兄ちゃん?」
「何ですか?」
「もし、オレがアイドルだったらどうする?」
「んな訳がないでしょ!急に何なんですか!」
「ベリベリベリって、顔面の皮膚を剥がしたら、お兄ちゃんが推しとるアイドルだったらどうする?」
「何を突然、言い出すんですか。そんなスパイ映画みたいな事がある訳ないでしょ!」
「そして、お兄ちゃんに愛の告白したらどうする?」
「有り得ない!いや、そんな事が現実に有り得る訳がない!」
「それはどうかのぅ?」
「なら、顔面の皮膚を剥がしたらいいじゃないですか!ベリベリベリって!で、愛の告白をしたらいいじゃないですか!」
「・・・・・・・・・。」
「何で黙るんです?それは顔面の皮膚を剥がしてもアイドルじゃないからでしょ!肉丸出しだからでしょ!」
「いやフラれたら傷付くなぁと思ってな。」
「どこを心配してるんですか!」
「乙女心じゃろ。」
「乙女心って。」
「分かった!そこまで、お兄ちゃんが疑うなら!顔面ベリベリしてやろう!」
「技みたくなってますけど?」
「じゃが!それが見たいならまず!店にある商品を全て買うんじゃ!」
「とんだ詐欺じゃないですか!まったく!とんでもない店に足を踏み入れちゃったよ!」
「店を出る前に、お兄ちゃん!聞いとくれ!」
「何ですか?」
「オレは、何時でもこのステージにおるからな。」
「投げキッスきもっ!二度と来るか!」
「ガラガラガラッ!ピシャッ!!」
その古びれた木造の店は、商店街に建つ一際目をひく30階建てのオフィスビルの横に、ひっそりと佇んでいた。
「ベ・・・ベリベリベリベリベリ・・・・・・。」

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