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2012年12月12日 (水)

「第三百三十九話」

 むかしむかしある村にお爺さんがいました。お婆さんを亡くしてからと言うもの、お爺さんは独りぼっちで、とても淋しく日々暮らしていました。
「可哀想に・・・・・・。」
そんなある日のとても寒い雪の朝の事です。お爺さんが毎朝している散歩の途中で、罠にかかった仔ギツネに遭遇しました。罠は、その獰猛な鋼鉄のギザギザで仔ギツネの右の前足を痛々しく挟んでいました。
「コーン!コーン!」
仔ギツネは、必死で罠から抜け出そうとしていましたが、その行為は逆に罠のギザギザを足に食い込ませる事になってしまっていました。
「コーン!コーン!」
「待ってなさい。すぐに助けてやるからな。」
そう言うとお爺さんは、力をいっぱいに、罠から仔ギツネの足を外しました。
「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
「コーン!コーン!」
そして、額の汗を拭うとお爺さんは、持っていた薬草を噛み潰し、傷付いた仔ギツネの足に貼りました。
「よし!これでもう大丈夫だ!」
「コーン!コーン!」
仔ギツネは、足を引き摺りながら、何度も何度も立ち止まり、お爺さんの方を振り返りながら、森の中へと帰って行きました。
「もう引っ掛かるんじゃないぞーっ!」
お爺さんは、仔ギツネの姿が見えなくなるまで、その場に立っていました。そして、また動物達が引っ掛からないようにと、罠を太い木の枝に掛け、家に帰りました。
「ホーホーホー!」
その日の晩の事です。お爺さんが、蒲団に入って眠ろうとした時。
「コンコン。」
戸を叩く音が聞こえました。
「こんな時間に一体誰だ?」
お爺さんが戸を開けると、そこには小さな男の子が立っていました。
「・・・・・・・・・。」
小さな男の子は、下を向いたまま、一言も喋りませんでした。そんな小さな男の子の姿を見てお爺さんは、ピンと来ました。ああ、きっとこれは朝のアレの、所謂、恩返しってヤツなんだな。と。
「ここじゃあ、寒いだろう。中に入りなさい。」
「・・・・・・・・・。」
お爺さんは、小さな男の子を家に招き入れ、小さな男の子は、黙って頷くとお爺さんの家に入りました。その日から、不思議な二人の生活が始まりました。しかし、そんな不思議でどこか楽しい生活も長くは続きませんでした。
「泣くんじゃない。」
「グスン。」
数日前からお爺さんは、体調を崩し床に伏せていました。そして遂に今日は、二人にとってのお別れの夜になりました。
「婆さんが死んでからと言うもの、いつの間にかわしは、笑わなくなっていた。だが、お前が恩返しに来てくれて、人生の最期にまた笑えて良かった。本当に楽しい毎日だった。本当に、ありがとうな。」
「・・・・・・・・・。」
小さな男の子は、お爺さんの言葉に驚いていました。
「はっはっはっ。初めからお前がわしの所に恩返しをしに来たってのは、分かっていたよ。」
「・・・・・・・・・。」
「だけどまさか、罠の方が来てくれるとはな。もう、誤って引っ掛けてしまうんじゃないぞ。」
そう言うとお爺さんは、笑顔で罠の頭を数回撫でました。
「・・・・・・・・・。」
そしてお爺さんは、死にました。それを看取った罠は、大きな声で泣きました。罠は、朝まで泣きました。仔ギツネを挟んでしまっていた自分を助けてくれた優しい大好きなお爺さんの為に・・・・・・・・・。

第三百三十九話
「罠の恩返し」

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