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2013年1月30日 (水)

「第三百四十六話」

「おじさん!死なないで!」
「大丈夫だ・・・・・・こんなんじゃ・・・死なないさ。」
「でも・・・こんなに血が・・・。」
「はは・・・ホントだ・・・お前は・・・・・・怪我してないか?」
「僕は大丈夫!」
「そうか・・・そりゃあ・・・良か・・・・・・った・・・・・・。」
「おじさん?ねぇ?おじさん?」
「・・・・・・・・・。」
「おじさんってば!」
「・・・・・・・・・。」
「おじさーーーーーーーーんっ!!!」
青空を舞う札束と風船を目に、サイレンの音の中、死刑囚の男は死に、少年は泣きながらその体を揺すった。

第三百四十六話
「死刑囚と少年」

 時を同じくして、死刑囚が収容されていた刑務所の所長室に、副所長が訪れていた。
「所長。1104の死亡を確認しました。」
「そうか。」
「・・・・・・・・・。」
「ん?どうした?報告は済んだのだろ?」
「・・・・・・・・・はい。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「他に何か報告があるのか?」
「所長。私には間違っているとしか思えません。」
「何の事を言っているのかな?」
「死刑囚に対する死刑執行の方法の事です。」
「さて?それの一体どこの部分が間違っていると言いたいのだ?」
「全部です。」
「全部?」
「3ヶ月間、子供と一緒に行動させる事も、その子供を守り抜いたら刑期が帳消しにされる事もです。」
「・・・・・・副所長。」
「はい。」
「キミは、人間として人生の最期を迎えたいとは思わないか?」
「人間ですよ!死刑囚も!」
「見た目はそうだが、心はそうではない。」
「所長、私は綺麗な作り事の詭弁を聞きたい訳ではないんです。」
「と、言うと?」
「結局のとこ、これは死刑執行なんですよね?」
「そうだ。だが、普通の死刑執行とは違う。彼もまた、人間として死ぬ事が出来た。」
「ですから!私が言いたい事は、そんな事ではありません!3ヶ月間、子供を守り抜いて生き延びた死刑囚が居ない事実の方です!」
「人間とは不思議で、ある状況下に置かれると、情が育まれる。普通の凶悪犯なら、その日に子供を殺して逃亡しようとするだろう。だが、死刑囚ともなれば、話は別だ。事実どうだ?1104は、銀行強盗から身を呈して子供を守った。過去にも色々なカタチで死刑囚は、子供を守った。そして、人間の心を取り戻して死んで逝った。」
「話だけを聞いていれば、実に美談ですよ。」
「世の中は、美談が好きだからな。」
「話を逸らさないで下さい!問題なのは、生き延びた死刑囚が居ないって事なんですよ!所長!」
「・・・・・・・・・。」
「このプログラムには全て筋書きが存在している事が問題なんですよ!」
「・・・・・・今さら何を言い出すのかと思えば、副所長。当然ではないか。」
「えっ?」
「死刑囚なのだから死ぬのは当然ではないか、と言っているのだ。」
「だったら、普通に刑を執行すればいいじゃないですか!」
「普通・・・・・・か。それで、被害者遺族が負った心の傷が癒されるのか?」
「そ、それは・・・・・・・・・。」
「この特別プログラムは、被害者遺族の為に存在している事を忘れない事だ!全てが丸く収まる死刑執行など存在しない!既に壊れてしまった世界に正確な方程式など有り得ないのだ!だが、命の尊厳を守りつつ、止まった時間の針を動かさなければならない!それを最大限にまで考えられたのが、この特別プログラムだ!」
「しかし!子供は!見ず知らずの人間の死を目の当たりにした子供の将来は一体どうなるんですか!」
「立派に育つだろう。」
「そんなの!分からないじゃないですか!」
「そうだな。だが、立派に育って欲しい。自らの命を犠牲に自分の命を守ってくれた死刑囚の為にも、その体験を糧にして、真っ直ぐな人間に育って欲しい。」
「欲しい・・・欲しいって・・・・・・目の前で死んだのは、自分の親なんですよ!!」
「その事実は、お互い知らない。ましてや、死刑囚の方は、自分に子供がいるだなど思ってもいない。いいか?これは特別な条件が揃った上で執行可能な特別プログラムだと言う事を忘れない事だ。さあ、そろそろ仕事に戻ったらどうだ?」
「被害者遺族の為、死刑囚の為、子供の為・・・所長!一体これは、何のプログラムなんですか!誰が得をするんですか!」
「これは、世界平和へと繋がるプログラム。」
「ふざけないで下さい!」
「悪は許さない。だが、悪に対する理不尽で行き過ぎた処罰も許さない。そんなキミの様な正義のジャッジが出来る大人に、あの少年も育ってくれると、我々は信じているのだよ。」
「まさか!?」
「誰が得をするのかではない。誰もが得をする。このプログラムは、そうプログラミングされているのだよ。」
「あの時・・・私を救ってくれた男は・・・死刑囚・・・・・・私の父親・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」

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