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2013年4月

2013年4月 3日 (水)

「第三百五十五話」

「おい!エビ!」
「何だ!カニ!」
「ジャンケン、しようぜ!」
「ジャンケン?カ~ニ~?お前、オレに勝てると思ってんのか?」
「エビ?オレがお前に勝てない理由があるのか?」
「ある!」
「何だと!?」
「それは、お前がオレに負けるからだ!」
「オレが?お前に負ける?カニカニカニカニカニ!」
「エビエビエビエビエビ!って何がおかしい!」
「お前がジョークを言うからに決まってるだろ?お前がオレに勝つのは無理だ!」
「なぜだ!」
「分からないのか?それは、勝つのはオレだからだ!」
「エビエビエビエビエビ!」
「カニカニカニカニカニ!ってお前こそ何がそんなにおかしい!」
「これが笑わずにいられるか?カニ、お前は何も分かてない。」
「ああ?オレが何を分かっちゃいないって言うんだ!エビ!」
「ジャンケンってのは、単純な三竦みの勝負じゃないって事をだ。大事なのは己の精神力だ。」
「精神力?」
「そうだ!相手が何を出すのか?そんな妙な駆け引きや小細工なんて必要ない。精神力が相手を上回っていれば必然的に勝つ!それがジャンケンだっ!」
「だとしてもだ、エビ?それじゃあ何か?オレの精神力がお前の精神力より劣ってると、そう言いたいのか?」
「他に何を考えられるんだ?」
「カニカニカニカニカニ!」
「エビエビエビエビエビ!」
「カニカニカニカニカニ!」
「エビエビエビエビエビ!」
「カニカニカニカニカニ!」
「エビエビエビエビエビ!」
「カニカニカニカニカニ!」
「エビエビエビエビエビ!」
「カーニカニカニカニカニ!!」
「エービエビエビエビエビ!!」
「ふざけるなっ!俺の精神力がお前より劣ってるだと!それはこっちのセリフだ!エビ!!」
「それはやってみれば分かる事だ。しかしカニ?」
「何だ!エビ!」
「ただ、ジャンケンで勝敗だけを決めるのも面白くないとは思わないか?」
「ああ、そうだな、エビ。確かにそれだけじゃあ面白くない。そして何よりも勝利したオレの気がおさまらない。」
「ここはそうだなぁ?どうだ?負けた方が命を支払うってのは?」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・どうした?命と聞いて、急に怖じ気付いたか?」
「いいや、違う。オレに負けて命乞いをするお前の姿が浮かんで、哀れで笑うに笑えなかっただけだ。」
「それは良かった。怖じ気付いて逃げ出されたら、楽しい時間が台無しになるとこだった。」
「エビ、オレは今までジャンケンで負けた事が無いんだぜ?」
「カニ、それは脅しか何かか?それともオレの動揺を誘う虚しいハッタリか?」
「ハッタリ?そんな小細工を使う必要がどこにある?これは事実だ!」
「事実だとしてもカニ、それはあくまでカニ同士の馴れ合いのジャンケンの話だろ?」
「テメェ!馴れ合いだと!」
「そうだ馴れ合いだ。命を支払わない馴れ合いのジャンケンの世界の話だ!」
「なら、エビ?お前の無敗神話もその馴れ合いジャンケンと言う訳だな。」
「何を!?」
「だってそうだろ?命を支払わないエビ同士の馴れ合いのジャンケン。お前の言うオレの馴れ合いの無敗と何が違う?」
「貴様ぁぁぁ!オレの無敗を侮辱するつもりかぁぁぁ!」
「まあ、そう熱くなるなよ、エビ。お前が勝ったら、そん時は土下座でも何でもしてやるよ。」
「その言葉!忘れるなよ!カニ!」
「ああ、忘れるもんか。ただし、お前が負けたらお前は、土下座したまま命を支払う事になる。」
「エビエビエビエビエビ!」
「カニカニカニカニカニ!」
「エビエビエビエビエビ!」
「カニカニカニカニカニ!」
「エッビッビッビッビッビ!!」
「カッニッニッニッニッニ!!」
「面白いっ!勝利だ!カニ!」
「後悔するなよ!エビ!」
「ジャンケンは、精神力で決まると言う意味も分からないお前に勝ち目はない!」
「分かってるさ!」
「いいや、お前はジャンケンの本質を理解してない!」
「本質だと!?」
「7秒の無意識をお前は知らない!」
「7秒の無意識だと!?」
「何かを決断した時!既に無意識レベルで脳はその決断を7秒前にしている!つまりは!ジャンケンの決着とは既に!ジャンケンの掛け声以前に決定している!それが即ち!精神力の領域だ!」
「だとしてもだ!エビ!オレの勝利に変わりはないっ!」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「行くぞっ!カニ!」
「来いっ!エビ!」
「ジャァァァァァァァァァァァァァァァン!」
「ケェェェェェェェェェェェェェェェェン!」
「「ポイ!」」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・やるな。」
「お前もやるな、エビ。」

第三百五十五話
「やるな。とかじゃねぇし!」

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2013年4月10日 (水)

「第三百五十六話」

「よう!伝説の人!」
「何だね?キミは?って!?入って来るなり突然何の真似だ!?」
「伝説の人なら避けられるだろ?弾丸。」
「ちょっと待て!例え伝説の人だからって、弾丸を避けられる訳がないだろ!」
「伝説の人ってのも大した事、ないんだな。」
「弾丸を避けるとか避けないとかの話になるのかこれは?後頭部に完全に銃口がついてる状態は、弾丸を避けるとか避けないとかの話になるのか?」
「これでも避けるのが伝説の人だろ?」
「どんな伝説の概念だ!こんなもんは伝説の人だろうが非伝説の人だろうが、みな死ぬだろ!」
「試す価値はある。」
「価値はない!」
「いいや、ある。伝説の人とは、試される価値のある人だ。」
「お、おい。本気じゃないだろうな?」
「このバーに入って来る前から、いやそれよりもっと前から俺は、本気だ。」
「やめ」

第三百五十六話
「伝説の人」

「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「えっ?」
「えっ?じゃないですよ。」
「いやでもマスター?」
「死ぬでしょ。」
「だってこの人は、伝説の人だろ?」
「伝説の人とか関係無く、あんな撃たれ方したら、死ぬでしょ。」
「そうなの?」
「そうですよ。この人だって、そう言ってたじゃないですか。私も何回も止めようと思いましたよ。」
「なら止めてくれよ。」
「ああ、これはあれだな。そろそろ止めないとマジでヤバいな。でも私が止めたとこで、本当にこの人は止まるんだろうか?いやでもそれでもここは人として、こんな状況をグラスを拭きながら見過ごす訳にはいかない。何よりも私の店で人が殺されるのを黙って容認する訳にはいかない。さあ、止めよう。例えこの人がそれで止まらないとしても、止めよう。それが、マスターだ!と思ってたら、貴方が発砲してしまったんですよ。」
「そんなゴチャゴチャ考えてる時間があったなら、もっと早く止めてくれよな。」
「実際早くあれですよ?そろそろ止めないとマジでヤバいな。の2回目の、ろ、の時に発砲ですよ?」
「ならそのあとの事は、どんな感情で考察してたんだよ!」
「とにかくです。どうするんですか?」
「どうするって、何がだ?伝説の人は死んだ。いや、今となってはもはや、この男は伝説の人ではなかったのかもしれない。」
「そうじゃありません。」
「ああ、死体か?だったら心配する事はない。俺が跡形もなく片付ける。もちろん、この店で殺人が行われた跡形もだ。」
「そうじゃありません。」
「ん?俺が殺人の目撃者のマスターを殺すかもしれないって心配か?だったらそんな心配は無用だ。俺は、伝説の人以外に銃は向けない。伝説の人以外には興味が無いからな。ましてや無益な殺人なんて愚かな行為を俺はしない。」
「いや、そうじゃありません。」
「なら一体何を心配してるんだ?」
「この人のお代、ですよ。」
「そんな心配か。」
「いやいやいや、そりゃあもしかしたら、お客さんからしたら、そんな心配?って思うかもしれないですよ?でもねぇ?いいですか?私は、それで生活してるんです!それがマスターなんですよ!いいですか?例えばこのお客さんのバーボン1杯をサービスすると言う事はですよ!それは私の寿命が1週間短くなる事を意味するんですよ!死んだ5日後に私の人生の中でもっとも素晴らしい出来事が起こるとしたら、このバーボン1杯をサービスした事で!私はそれを体験する事なく!本来の素晴らしい出来事を体験する事なく!偽りの素晴らしい体験を思い出しながら!笑顔で死んでいくって事なんですよ!」
「仮にの話で熱過ぎるよマスター。」
「仮にの話かどうだか!それを何でお客さんが分かるんですか!」
「いや払うよ。死んだこの男の分の代金も払う。」
「殺した、でしょ?」
「それで問題ないだろ?」
「だったら、ノープロブレム!」
「情緒が恐いよ。」
「ところで?」
「何だ?」
「このお客さん。」
「伝説の人か?」
「何がどう、伝説の人なんですか?私にはどうも普通の50代半ばの人にしか見えないのですが?」
「伝説かそうでないかを決めるのは、誰だ?」
「えっ?」
「この国から勲章を貰ったら伝説か?それは英雄かもしれないが、伝説じゃない。ましてや伝説の人かどうかを決めるのは、本人じゃない。」
「誰が決めるんですか?」
「他人だよ。赤の他人だ。この男が伝説の人かどうかを決めるのは、俺だ。男が何をしたのかは問題じゃない。問題なのは、男がどう伝説なのかだ。」
「この人は、どう伝説だったんですか?」
「さあな?さっきも言ったが、今となっては伝説じゃなかったのかもしれない。もしかしたら俺の伝説違いだったのかもしれない。」
「いや、完全に伝説違いだったんじゃないでしょうか?」
「そうだな。だとしたら俺は、この男にとても悪い事をしたのかもしれないな。」
「したと思いますよ?物凄く悪い事を。」
「さてと、そろそろ次の伝説の人でも探しに、旅に出るとしようかな。マスター、お代はここに置いとく、釣りはいらないよ。」
「あ、ありがとうございます。」
そう言うと男は、死体を担いで店を出て行こうとドアの方に向かった。私は、伝説の人を追い求める男が店に入って来てからの出来事を思い出しながら、とりあえずその男を目で追っていた。
「ああそうだ、マスター?」
男は、ドアの方を向いたまま話し掛けて来た。
「アンタ、よく見たら伝説の人っぽいな。」
「えっ?」
「ジョークだよ!ジョーク!伝説ジョークだ!」
そう言って男は、豪快に笑いながら、店を出て行った。
「・・・・・・・・・伝説か」
私が伝説の人とも気付かず。

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2013年4月17日 (水)

「第三百五十七話」

「あれ?こんなとこに、こんなのあったんだ。」
アタシが気付かなかっただけで、それは昔からここにあったのか?それとも最近になってここに出来たそれを今、アタシが運命的に気付いたのか?どちらにせよそれは、いつも通る商店街のメガネだらけのメガネ屋さんの2階にあった。

第三百五十七話
「痴漢撃退護身術教室」

メガネだらけのメガネ屋さんの横にある階段を上って教室の扉を開けるとそこには、いかにも達人な老人が、いかにも達人な姿で、いかにも達人に座ってた。
「あのう?表にある看板を見て来たんですけど?」
「教室破りか!」
「えっ?違います違います!痴漢を撃退する護身術を教えて欲しいんです!」
そう、アタシは痴漢に恐怖してた。別に過去に痴漢に遭遇した訳じゃないけど、仕事帰りに商店街へと抜ける公園をいつも通る度に、その恐怖に怯えてた。何もないかもしれないし、護身術を学んだとこで、実際に痴漢と遭遇したらパニックで意味が無いかもしれない。でも人って、心の安心感が必要じゃない?その安心感とゆとりで人って、生きてるもんじゃない?だからアタシは、この教室の扉を開けたの。そう、これは未来の自分の為よ。
「なんじゃ。それならそうとお嬢ちゃん、早く言ってくれたら良かったものを、危うく殺しかけたぞ?」
「殺されるとこだったんですか!?アタシ!?」
「カカカカカッ!冗談じゃよ!冗談!よろしくな。」
「は、はい。」
何だか達人な老人が言うと、その冗談が冗談に聞こえない。そんな冗談が冗談に聞こえない的な事を言うと、達人な老人は達人な立ち上がりを見せ、アタシの前まで達人な歩き方で歩いて来ると、笑顔で右手を差し出した。もちろん、アタシも笑顔で右手を差し出した。
「よろしくお願」
「隙あり!」
「えっ!?」
気付くとアタシは、天井を見上げてた。と同時に全身を畳に打ち付けられた痛みが走った。
「カカカカカッ!冗談じゃよ!お嬢ちゃん、冗談じゃ!」
達人な老人がアタシの腕を掴んで回転させた右手を元の位置に戻すと、アタシも元の位置に戻った。アタシは、達人な老人のその右手を振り払った。
「冗談でマジでやらないでしょ!だいたい隙ありって!そりゃあ!あるでしょ!隙ありまくりだっつぅの!」
「まあまあ、そう怒らんでくれ。じゃがどうじゃ?これでワシが本物だって証明が出来たじゃろ?言葉で言うより体で知った方が早い。」
達人な老人の言う事は、一理あった。確かにアタシは一気に信じた。でもアタシは
「別に疑ってなんかいませんし!」
「で?痴漢撃退護身術を習いたいと?」
「マイペース!?」
達人はマイペースだって聞いた事があるけど、ここまでマイペースだとは思ってもみなかった。
「ん?」
「は、はい。そうです。痴漢撃退護身術を習いたいんです。」
「うむ。ではまず、お嬢ちゃんに簡単な質問をするぞ?」
「質問?」
「護身術に関わる重要な質問じゃ。いいか?」
「は、はい。」
「お嬢ちゃんは、指からビームが出せるか?」
「はい?」
「じゃから、お嬢ちゃんは、指からビームを出せるか?」
「ビーム?ビームってあのビームですか?」
「そうに決まっとるじゃろ?ビームと言ったらそれしかないじゃろ。」
「いや、ビームなんか出る訳ないじゃないですか!だいたい、ビームが出たら痴漢撃退護身術教室の扉なんか開けないっしょ!」
「口から炎を出したりは、どうじゃ?」
「アタシの事が、怪獣に見えてるんですか?」
「大事な質問なんじゃ。口から炎を出したりは、出来るのか?」
「どこがどう?大事な質問なんですか?出る訳ないでしょ!」
「体のどこかからミサイルが発射されられたりすのか?」
「サイボーグじゃないんだから!出る訳ないでしょ!いやだから!そんなんだったら、ここに来ませんって!」
「ビームも出ない。炎も出ない。ましてやミサイルも発射されない。」
「そうですよ!」
「帰ってくれ!」
「何で!?」
「そんなヤツに痴漢撃退護身術を教えられん!」
「どんなヤツ対象に教室やってんの?まずそいつらは絶対にここへ来ないよ?だって来る必要性がないからね!」
「カカカカカッ!冗談じゃよ!お嬢ちゃん、冗談じゃと言っとるだろ?」
「言ってませんよ?」
「いいか?夜、公園をお嬢ちゃんは、歩いとる。」
「何?何か急に始まった感じ?」
「すると後ろから痴漢が、お嬢ちゃんを痴漢しようと近付いて来る。まずはその撃退護身術を教える!」
「お願いします。」
「いいか?後ろから痴漢をしようと近付いて来る痴漢に対しての護身術は、実に簡単じゃ。」
「初心者のアタシでもですか?」
「経験未経験老若男女問わん!」
「どうすればいいんですか?」
「落とし穴じゃ!」
「落とし穴!?それは一体どんな技なんですか?」
「落とし穴は落とし穴じゃ!」
「えっ?」
「いいか?お嬢ちゃんが歩く度に、落とし穴を掘るんじゃ!するとどうだ?後ろから痴漢をしようと近付いて来る痴漢は、穴に落ちる!じゃが、前から痴漢しようと近付いて来る痴漢の護身術としてやっちゃダメじゃぞ!なぜならそれは!お嬢ちゃんが落とし穴に落っこちてしまうからじゃ!」
ドヤ顔!?何でドヤ顔?どのタイミングでそれが出来る要素があったの?
「公園から出た時にはもう朝だよ!」
「そうじゃ。朝になっとるじゃろう。じゃがどうじゃ?人がたくさんいる朝の公園で後ろから痴漢をしようと近付いて来る痴漢は、おらん!」
ドヤ顔!?しかもさっきのドヤ顔よりも濃いドヤ顔!?何でこんな顔が出来るの?これも護身術?
「夜な夜な落とし穴掘ってるアタシの方が捕まっちゃうっつぅの!」
「痴漢は撃退したぞ?」
「痴漢を撃退したからってアタシが留置場じゃ意味無いでしょ!」
「次に夜の公園で前から痴漢しようと近付いて来る痴漢の撃退護身術!」
「次って!その前が片付いてないのに次って!」
「前から痴漢しようと近付いて来る痴漢は、後ろから痴漢をしようと近付いて来る痴漢とは比べモノならない程に厄介じゃ。なぜなら、痴漢しよう!と言う意気込みからして違うからな。相手は最初からMAXの痴漢パワーで来る!」
「痴漢にMAXもパワーも無いでしょ!」
「ここで本来なら、ビームや炎やミサイルが役に立つんじゃが?」
「いや、それもう殺人になるから!撃退じゃないから!」
「んまあ、前から痴漢しようと近付いて来る痴漢には、スタンガンじゃな!」
「はい?」
「知らんか?電流が流れるあれじゃ!」
「いや知ってますよ。」
「それか催涙スプレー!」
「えっ?」
「知らんか?プシューってするあれじゃ!」
「いや知ってますよ。」
「それか予めコートの中に忍ばせといたダイナマイトを見せてやれ!」
「はあ?」
「知らんか?ダイナマイトってのはな?」
「ダイナマイトの説明いいから!」
「それかスコップ!」
「それは落とし穴前提の武器だ!って、何で武器ばっか?護身術なんだから前から来る痴漢になら、さっきの教えればいいじゃん!隙ありってアタシにやったあれ教えればいいじゃんか!」
「隙あり!」
「痛いっ!って何でやった!何で今それを実践する必要性がある!」
「ほれ!」
「いや戻し方っ!」
「次は上から痴漢しようと近付いて来る痴漢の撃退護身術!」
「上って何だ!上って!」
「上から飛び掛かって来たらその右手を掴んで、こう!」
「どう!?」
「こう!」
「この隙ありのやり方を知らないのにどうやんの!って、何でアタシがいちいちやられなきゃならないの!」
「次は八方を痴漢しようと近付いて来る痴漢達の撃退護身術!」
「どんな状況よ!」
「こう!!」
「出来るかーーーーーーーーーーーっ!!」
畳を踏み込んだ達人な老人の衝撃波で吹っ飛ばされながらアタシは、叫んだ。

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2013年4月24日 (水)

「第三百五十八話」

 いかにもな夜の公園をアタシは歩いてる。でもアタシは動じない。なぜって?それはこう言う時の為に痴漢撃退護身術を身に付けたから!さあ、痴漢よ!
「どこからでもかかって来い!」
「よう?」
「出たな!痴漢!」
「いやいやいや、俺は痴漢じゃない。だからその変な構えとかしなくて大丈夫だ。」
「ち、痴漢じゃなかったら!アンタ一体何者よ!こんな夜の公園で一体何してんのよ!」
「それは随分な偏見だな。何も夜の公園で出会う男が全て痴漢って訳でもないだろ?」
「だったらアンタは、何!」
「俺は、幽霊だ。」
「何だ。幽霊か。」
「ああ、幽霊だ。」
「ふ~ん。そう言えばよく見ると、風景が透け透けね。」
よし、よしよしよし!とりあえず落ち着け!落ち着けこのアタシ!何?何なの?この複雑!このとても複雑な心境!痴漢じゃなかった事への安堵感と幽霊だった事への恐怖感!言い表せないわ。とてもじゃないけどアタシが培って来た人生経験の中からこの心境を的確に言い表すボキャブラリーが皆無よ!こんな事なら、痴漢撃退護身術じゃなくて幽霊撃退護身術を身に付けとくんだったわよ!
「まあ、そんなに怖がるな。」
「こ、怖がってないし!」
「震えてるぞ?」
「震えてる?アタシが?まさか!アンタの目玉の方が震えてるんじゃない?」
「まあいい。」
まあいい。じゃねぇよ!バカかコイツ?そりゃあ震えるっしょ!震えたくなくても震えちゃうっしょ!震えどころか、だいたいこっちは腰を抜かす寸前だっつぅの!
「で、幽霊が何よ!アタシに何よ!」
「俺は、幽霊だ。」
「それは景色が透け透けだから分かってるわよ。」
「そして、タイムトラベラーだ。」
「はあ?」
「俺は、未来から来た。」
「ん?未来の幽霊?」
「未来から来た時は人間だった。この時代に辿り着いた時にタイムマシーンが爆発して、俺は死んだ。」
「そ、そう。」
何なの!何なのよ!この、複雑過ぎる複雑!幽霊で未来人って、どんな複雑な状況よ!いいの?アタシはすんなりこの話を受け入れちゃっていいの?
「まさか、この時代で死ぬとはな。」
「そ、そうね。それは何と言うか、とても残念ね。」
「それに、まさかサイボーグでも死んだら幽霊になるとはな。」
「そ、そうね。」
「まあ、部分的なサイボーグだからかもな。」
「そ、そうね。」
やめて!もう、アタシを複雑で引っ掻き回すのはやめて!幽霊で未来人でサイボーグ!?複雑のオンパレードじゃない!こんな複雑で苦しめられるんだったら、痴漢に遭遇した方が良かったわ!ダメダメ!ダメよアタシ!どんな事情があったとしても!痴漢を肯定しちゃダメ!痴漢は痴漢!複雑は複雑!まるで別物!
「どうした?」
「どうしたって?」
「心、ここにあらず、みたいな顔して。」
「はあ?あるし!」
「何をムキになってんだ?」
「サイボーグで幽霊なアンタには理解出来ないわよ!」
「完璧な機械人間って訳じゃない。部分的と言ったろ?」
「だから!その技術が浸透してないこの時代で完璧なとか部分的なとか!そんな複雑な事を言われても理解しようがないっての!何、部分的って!」
「それもそうだな。」
「そうに決まってる!」
「まあ、簡単に言えば体の一部を武器化してるって事だ。」
「武器化?例えば?」
「俺の場合は、右手からビーム、左手から火が出る。」
「へぇ~。」
「あと、腹からは小型ミサイルを発射する事が出来る。」
「ふ~ん。」
「腕を付け替えれば、別の武器が使える。パワーアーム、アームガン、ガトリングガン、電撃、冷気、ガス、音波、レーザーブレード、科学薬品、チェーンソー、バリエーションは無限大だ。」
「分かった分かった!もういい!もういいわよ!未来の知識でお腹一杯よ。」
帰りたい。帰って、お風呂に入りたい。ワインでも飲んで、お気に入りの映画でも観て、お気に入りの香りと音楽に包まれて、眠りたい。
「だが、驚いた。」
「はい?」
驚いた?何に?死んで幽霊になった事が?ははっ!ウケる!そんな事で驚いてるんだとしたら、抱腹絶倒過ぎる!この世界に、未来のサイボーグの幽霊に遭遇したアタシ以上に驚ける人間が今、存在する?しないでしょっ!
「お前、昔から変わらないんだな。」
「変わらない?昔からって、未来から来たアンタにアタシの昔の何が分かるっての!」
えっ?待って!もしかして!もしかする?コイツ、アタシの昔にも遡って見て来たの!て事は、コイツは未来型のストーカー!これはヤバい!これはヤバ過ぎる!こんなストーカー、あり!?タイムマシーンを使用してストーカーなんて!卑劣過ぎる!こんな事が許されていいわけ?アタシは一体どこに訴えればいいの!どうなってんのよ未来の法律は!何してんのよ未来警察は!
「ふっ。」
「な、何が可笑しいのよ!」
「どうせ今も俺の事を未来のストーカーだとでも考えてるんだろ?」
「なっ!?もしかして人の考えを読めるの!」
「まさか!そんな装置は俺のいた時代にも開発されてない。」
「いや何が開発されてて何が開発されてないとか分かんないし!いい?アタシが何を言いたいのか!」
「何が言いたいんだ?」
「つまりそれは!現在は未来の嘘を見破れないって事よ!」
「博士、そりゃあないだろ?」
「博士?何?まだ仲間の幽霊がいるっての!どこよ!隠れてないで出て来なさいよ!」
「お前だよ。」
「アタシ!?」
「他に誰がいる。」
はあ?まるで意味が分からないんだけど!?何?博士って、何!?
「・・・・・・・・・ちょっと落ち着こうか。」
「深呼吸して目を瞑り、両手を握り締める。それは子供の頃からやってる心を落ち着かせる方法。なんだろ?」
「な、なぜそれを知ってるの!誰にも話した事ないのに!」
「俺には話した。」
「アタシ、なの?アタシがアンタを改造したの?」
「そうだ。改造してこの時代のこの時間のこの場所に送り込んだ。」
「何の為に!」
「決まってるだろ?痴漢撃退の為にだ。」
「アタシが辿り着いたこれが、完璧な護身術って事?」
「そうだ。」
やるわね、アタシ!なかなかの護身術じゃない!さすがアタシだわ!ブラボー!もうブラボーよ!ブラボー過ぎよ!
「って、死んじゃってんじゃん!!」

第三百五十八話
「未来からの護身」

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