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2013年4月10日 (水)

「第三百五十六話」

「よう!伝説の人!」
「何だね?キミは?って!?入って来るなり突然何の真似だ!?」
「伝説の人なら避けられるだろ?弾丸。」
「ちょっと待て!例え伝説の人だからって、弾丸を避けられる訳がないだろ!」
「伝説の人ってのも大した事、ないんだな。」
「弾丸を避けるとか避けないとかの話になるのかこれは?後頭部に完全に銃口がついてる状態は、弾丸を避けるとか避けないとかの話になるのか?」
「これでも避けるのが伝説の人だろ?」
「どんな伝説の概念だ!こんなもんは伝説の人だろうが非伝説の人だろうが、みな死ぬだろ!」
「試す価値はある。」
「価値はない!」
「いいや、ある。伝説の人とは、試される価値のある人だ。」
「お、おい。本気じゃないだろうな?」
「このバーに入って来る前から、いやそれよりもっと前から俺は、本気だ。」
「やめ」

第三百五十六話
「伝説の人」

「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「えっ?」
「えっ?じゃないですよ。」
「いやでもマスター?」
「死ぬでしょ。」
「だってこの人は、伝説の人だろ?」
「伝説の人とか関係無く、あんな撃たれ方したら、死ぬでしょ。」
「そうなの?」
「そうですよ。この人だって、そう言ってたじゃないですか。私も何回も止めようと思いましたよ。」
「なら止めてくれよ。」
「ああ、これはあれだな。そろそろ止めないとマジでヤバいな。でも私が止めたとこで、本当にこの人は止まるんだろうか?いやでもそれでもここは人として、こんな状況をグラスを拭きながら見過ごす訳にはいかない。何よりも私の店で人が殺されるのを黙って容認する訳にはいかない。さあ、止めよう。例えこの人がそれで止まらないとしても、止めよう。それが、マスターだ!と思ってたら、貴方が発砲してしまったんですよ。」
「そんなゴチャゴチャ考えてる時間があったなら、もっと早く止めてくれよな。」
「実際早くあれですよ?そろそろ止めないとマジでヤバいな。の2回目の、ろ、の時に発砲ですよ?」
「ならそのあとの事は、どんな感情で考察してたんだよ!」
「とにかくです。どうするんですか?」
「どうするって、何がだ?伝説の人は死んだ。いや、今となってはもはや、この男は伝説の人ではなかったのかもしれない。」
「そうじゃありません。」
「ああ、死体か?だったら心配する事はない。俺が跡形もなく片付ける。もちろん、この店で殺人が行われた跡形もだ。」
「そうじゃありません。」
「ん?俺が殺人の目撃者のマスターを殺すかもしれないって心配か?だったらそんな心配は無用だ。俺は、伝説の人以外に銃は向けない。伝説の人以外には興味が無いからな。ましてや無益な殺人なんて愚かな行為を俺はしない。」
「いや、そうじゃありません。」
「なら一体何を心配してるんだ?」
「この人のお代、ですよ。」
「そんな心配か。」
「いやいやいや、そりゃあもしかしたら、お客さんからしたら、そんな心配?って思うかもしれないですよ?でもねぇ?いいですか?私は、それで生活してるんです!それがマスターなんですよ!いいですか?例えばこのお客さんのバーボン1杯をサービスすると言う事はですよ!それは私の寿命が1週間短くなる事を意味するんですよ!死んだ5日後に私の人生の中でもっとも素晴らしい出来事が起こるとしたら、このバーボン1杯をサービスした事で!私はそれを体験する事なく!本来の素晴らしい出来事を体験する事なく!偽りの素晴らしい体験を思い出しながら!笑顔で死んでいくって事なんですよ!」
「仮にの話で熱過ぎるよマスター。」
「仮にの話かどうだか!それを何でお客さんが分かるんですか!」
「いや払うよ。死んだこの男の分の代金も払う。」
「殺した、でしょ?」
「それで問題ないだろ?」
「だったら、ノープロブレム!」
「情緒が恐いよ。」
「ところで?」
「何だ?」
「このお客さん。」
「伝説の人か?」
「何がどう、伝説の人なんですか?私にはどうも普通の50代半ばの人にしか見えないのですが?」
「伝説かそうでないかを決めるのは、誰だ?」
「えっ?」
「この国から勲章を貰ったら伝説か?それは英雄かもしれないが、伝説じゃない。ましてや伝説の人かどうかを決めるのは、本人じゃない。」
「誰が決めるんですか?」
「他人だよ。赤の他人だ。この男が伝説の人かどうかを決めるのは、俺だ。男が何をしたのかは問題じゃない。問題なのは、男がどう伝説なのかだ。」
「この人は、どう伝説だったんですか?」
「さあな?さっきも言ったが、今となっては伝説じゃなかったのかもしれない。もしかしたら俺の伝説違いだったのかもしれない。」
「いや、完全に伝説違いだったんじゃないでしょうか?」
「そうだな。だとしたら俺は、この男にとても悪い事をしたのかもしれないな。」
「したと思いますよ?物凄く悪い事を。」
「さてと、そろそろ次の伝説の人でも探しに、旅に出るとしようかな。マスター、お代はここに置いとく、釣りはいらないよ。」
「あ、ありがとうございます。」
そう言うと男は、死体を担いで店を出て行こうとドアの方に向かった。私は、伝説の人を追い求める男が店に入って来てからの出来事を思い出しながら、とりあえずその男を目で追っていた。
「ああそうだ、マスター?」
男は、ドアの方を向いたまま話し掛けて来た。
「アンタ、よく見たら伝説の人っぽいな。」
「えっ?」
「ジョークだよ!ジョーク!伝説ジョークだ!」
そう言って男は、豪快に笑いながら、店を出て行った。
「・・・・・・・・・伝説か」
私が伝説の人とも気付かず。

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