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2013年4月24日 (水)

「第三百五十八話」

 いかにもな夜の公園をアタシは歩いてる。でもアタシは動じない。なぜって?それはこう言う時の為に痴漢撃退護身術を身に付けたから!さあ、痴漢よ!
「どこからでもかかって来い!」
「よう?」
「出たな!痴漢!」
「いやいやいや、俺は痴漢じゃない。だからその変な構えとかしなくて大丈夫だ。」
「ち、痴漢じゃなかったら!アンタ一体何者よ!こんな夜の公園で一体何してんのよ!」
「それは随分な偏見だな。何も夜の公園で出会う男が全て痴漢って訳でもないだろ?」
「だったらアンタは、何!」
「俺は、幽霊だ。」
「何だ。幽霊か。」
「ああ、幽霊だ。」
「ふ~ん。そう言えばよく見ると、風景が透け透けね。」
よし、よしよしよし!とりあえず落ち着け!落ち着けこのアタシ!何?何なの?この複雑!このとても複雑な心境!痴漢じゃなかった事への安堵感と幽霊だった事への恐怖感!言い表せないわ。とてもじゃないけどアタシが培って来た人生経験の中からこの心境を的確に言い表すボキャブラリーが皆無よ!こんな事なら、痴漢撃退護身術じゃなくて幽霊撃退護身術を身に付けとくんだったわよ!
「まあ、そんなに怖がるな。」
「こ、怖がってないし!」
「震えてるぞ?」
「震えてる?アタシが?まさか!アンタの目玉の方が震えてるんじゃない?」
「まあいい。」
まあいい。じゃねぇよ!バカかコイツ?そりゃあ震えるっしょ!震えたくなくても震えちゃうっしょ!震えどころか、だいたいこっちは腰を抜かす寸前だっつぅの!
「で、幽霊が何よ!アタシに何よ!」
「俺は、幽霊だ。」
「それは景色が透け透けだから分かってるわよ。」
「そして、タイムトラベラーだ。」
「はあ?」
「俺は、未来から来た。」
「ん?未来の幽霊?」
「未来から来た時は人間だった。この時代に辿り着いた時にタイムマシーンが爆発して、俺は死んだ。」
「そ、そう。」
何なの!何なのよ!この、複雑過ぎる複雑!幽霊で未来人って、どんな複雑な状況よ!いいの?アタシはすんなりこの話を受け入れちゃっていいの?
「まさか、この時代で死ぬとはな。」
「そ、そうね。それは何と言うか、とても残念ね。」
「それに、まさかサイボーグでも死んだら幽霊になるとはな。」
「そ、そうね。」
「まあ、部分的なサイボーグだからかもな。」
「そ、そうね。」
やめて!もう、アタシを複雑で引っ掻き回すのはやめて!幽霊で未来人でサイボーグ!?複雑のオンパレードじゃない!こんな複雑で苦しめられるんだったら、痴漢に遭遇した方が良かったわ!ダメダメ!ダメよアタシ!どんな事情があったとしても!痴漢を肯定しちゃダメ!痴漢は痴漢!複雑は複雑!まるで別物!
「どうした?」
「どうしたって?」
「心、ここにあらず、みたいな顔して。」
「はあ?あるし!」
「何をムキになってんだ?」
「サイボーグで幽霊なアンタには理解出来ないわよ!」
「完璧な機械人間って訳じゃない。部分的と言ったろ?」
「だから!その技術が浸透してないこの時代で完璧なとか部分的なとか!そんな複雑な事を言われても理解しようがないっての!何、部分的って!」
「それもそうだな。」
「そうに決まってる!」
「まあ、簡単に言えば体の一部を武器化してるって事だ。」
「武器化?例えば?」
「俺の場合は、右手からビーム、左手から火が出る。」
「へぇ~。」
「あと、腹からは小型ミサイルを発射する事が出来る。」
「ふ~ん。」
「腕を付け替えれば、別の武器が使える。パワーアーム、アームガン、ガトリングガン、電撃、冷気、ガス、音波、レーザーブレード、科学薬品、チェーンソー、バリエーションは無限大だ。」
「分かった分かった!もういい!もういいわよ!未来の知識でお腹一杯よ。」
帰りたい。帰って、お風呂に入りたい。ワインでも飲んで、お気に入りの映画でも観て、お気に入りの香りと音楽に包まれて、眠りたい。
「だが、驚いた。」
「はい?」
驚いた?何に?死んで幽霊になった事が?ははっ!ウケる!そんな事で驚いてるんだとしたら、抱腹絶倒過ぎる!この世界に、未来のサイボーグの幽霊に遭遇したアタシ以上に驚ける人間が今、存在する?しないでしょっ!
「お前、昔から変わらないんだな。」
「変わらない?昔からって、未来から来たアンタにアタシの昔の何が分かるっての!」
えっ?待って!もしかして!もしかする?コイツ、アタシの昔にも遡って見て来たの!て事は、コイツは未来型のストーカー!これはヤバい!これはヤバ過ぎる!こんなストーカー、あり!?タイムマシーンを使用してストーカーなんて!卑劣過ぎる!こんな事が許されていいわけ?アタシは一体どこに訴えればいいの!どうなってんのよ未来の法律は!何してんのよ未来警察は!
「ふっ。」
「な、何が可笑しいのよ!」
「どうせ今も俺の事を未来のストーカーだとでも考えてるんだろ?」
「なっ!?もしかして人の考えを読めるの!」
「まさか!そんな装置は俺のいた時代にも開発されてない。」
「いや何が開発されてて何が開発されてないとか分かんないし!いい?アタシが何を言いたいのか!」
「何が言いたいんだ?」
「つまりそれは!現在は未来の嘘を見破れないって事よ!」
「博士、そりゃあないだろ?」
「博士?何?まだ仲間の幽霊がいるっての!どこよ!隠れてないで出て来なさいよ!」
「お前だよ。」
「アタシ!?」
「他に誰がいる。」
はあ?まるで意味が分からないんだけど!?何?博士って、何!?
「・・・・・・・・・ちょっと落ち着こうか。」
「深呼吸して目を瞑り、両手を握り締める。それは子供の頃からやってる心を落ち着かせる方法。なんだろ?」
「な、なぜそれを知ってるの!誰にも話した事ないのに!」
「俺には話した。」
「アタシ、なの?アタシがアンタを改造したの?」
「そうだ。改造してこの時代のこの時間のこの場所に送り込んだ。」
「何の為に!」
「決まってるだろ?痴漢撃退の為にだ。」
「アタシが辿り着いたこれが、完璧な護身術って事?」
「そうだ。」
やるわね、アタシ!なかなかの護身術じゃない!さすがアタシだわ!ブラボー!もうブラボーよ!ブラボー過ぎよ!
「って、死んじゃってんじゃん!!」

第三百五十八話
「未来からの護身」

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