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2013年6月19日 (水)

「第三百六十六話」

「怒ってるよな?」

「別に怒ってないよ。」

大草原。男二人ね。一人は右の脇腹を右手で押さえて大草原にある大きな木にもたれ掛かって座ってる。右の脇腹からは、血がドクドク流れ出てる感じ。で、もう一人の男は、血のついたサバイバルナイフを左手に持って、脇腹を押さえてる男の横に座ってる。どうやら、サバイバルナイフの男が脇腹の男を刺しちゃったっぽい。

第三百六十六話

「疑惑」

「いや怒ってるでしょ。本当は、物凄い怒ってるでしょ。」

「お前もしつこいヤツだな。だから怒ってないよ。」

「刺しちゃったんだよ?僕。」

「間違ってなんだろ?」

「まあ、そうだけどさ。」

「間違いなら仕方無い。どんな人間だって間違いは起こすからな。」

「お前、心が広過ぎるだろ。普通なら激怒して、ブッ飛ばすでしょ。いや、同じ場所を刺すでしょ。」

「刺さないだろ?そんな事したってどうにもならないだろ?この傷が無かった事にはならないだろ?」

「お前、本当に人間か?」

「どんな疑い方してんだよ。」

「神だろ!この状況で怒らないって、もはや神なんだろ!お金持ちになれますように!」

「おかしいだろ。願うんだったらまずは友人の傷が治りますようにとかだろ?って、だいたい俺は神じゃないし、神なら自分で治してるよ。」

「だから僕は、その一歩先の願い事をしたんだよ!」

「一歩先の願い事って、なに!ところでだ。俺は、怒ってない。怒ってないけど、一つだけ確認しておかなきゃならない事がある。物凄く気になる事があるんだ。」

「分かってる。黄色のワンピースの子には誓って手を出さない!」

「黄色のワンピースの子って、なに!」

「この前の飲み会に来てた女の子だよ。お前、あの子の事が気になるんだろ?大丈夫!僕はタイプじゃないから!存分にアタックしてくれ!猛烈以上に猛烈に!」

「こんな状況で黄色のワンピースの子の事について、お前と取り合いになるんじゃないかって気にする訳がないだろ?」

「タイプじゃないのか?」

「タイプだよ。」

「どストライクじゃないのか?」

「どストライクだよ。」

「僕ね。きっと向こうもお前の事、好きだと思うんだよなぁ?ちょっと今からデートに誘ってみろよ!」

「どんなテンションなんだよ、お前は!随分と楽しそうだけど俺の脇腹の事を忘れた訳じゃないよな!」

「お前の脇腹の事は、忘れたくても忘れられないよ。」

「何か!何か過去の出来事的な言い方になってっけど!現在進行形だから!こうして大きな声を出す度に!手に、血がドクドク流れ出す感覚があるから!」

「久々に聞いた!」

「何が。」

「現在進行形!学生以来かなぁ?」

「おい!おいおい!ニヤニヤしながら学生時代の思い出に浸り始めるんじゃないよ。」

「あ、ごめん。今は、どうやって黄色のワンピースの子を誘うのかって話だったね。」

「違う!そんな話じゃない!だいたいデートの待ち合わせ場所に脇腹から血を流して青白い顔した男が居たら、その子ビックリして帰っちゃうだろ!二度と会ってくれねぇよ!」

「脇腹から血を流して青白い顔した男がタイプかもしれないじゃないか!」

「俺が嫌だよ!そんな男がタイプな女!」

「やっぱり、怒ってるでしょ。」

「今は怒ってるよ!俺の恋愛事情をメチャクチャにしようとしてるんだからな!だけど別に、脇腹の事に対しては、怒ってないよ。」

「本当にか?本当は、黄色のワンピースの子経由で脇腹の件について怒ってたんじゃないのか?」

「俺は、何でそんな遠回りな怒り方をしなきゃならないんだ?」

「僕が傷付かない様な配慮でしょ?」

「だったらだって、配慮下手くそか、俺は!」

「いや、ちゃんと伝わったよ。」

「いやちょっと待て!話をどんどん俺の意図しない方へと持ってくな!俺が気になってるのは、黄色のワンピースの子なんかじゃない!黄色のワンピースの子は、黄色のワンピースの子で、気にはなってるけど!今、俺が気になって気になって、どうしようもなく確認しときたい事は!」

「事は?」

「わざとじゃないよな?」

「わざと?何が?」

「脇腹だよ。わざと刺した訳じゃないよな!」

「・・・・・・・・・。」

「何で黙るんだ?黙るって事は、まさか!わざ」

「ふざけるな!!」

「ムチャクチャ怒り出した!?」

「そりゃあ!いつもは温厚な僕だって怒るさ!わざとで親友の脇腹をサバイバルナイフで刺すかよ!刺してたまるかよ!僕達!親友だぞ!刺さないだろ!」

「腕を振り回しながら怒るって、ガキかよ!って、サバイバルナイフ持ちながらはダメだろ!絶対に!まあでも何か、ごめん。」

「まったく、何を言い出すのかと思ったら、ビックリだよ。僕も思わず憤怒しちゃって、ごめん。」

「憤怒って、また刺されるんじゃないかってヒヤヒヤもんだよ。でも、サバイバルナイフで、間違って脇腹刺すって、あるのか?」

「まだ言うかーっ!」

「いや疑問だよ。疑問。単なるこれは、疑問だよ。だいたい何でサバイバルナイフ?」

「蚊!」

「蚊?」

「蚊を退治する為!」

「ああ。で、脇腹か!」

「居たからね!お前の脇腹に居たからね!おもいっきり血を吸おうとしてたからね!」

「むしろマイナスな結果なんで、次からは、手でお願いします。」

「次からは、手にします。」

大草原。とにかくここは大草原。誰が何と言っても大草原。大草原過ぎて大草原っぽくないかもしれないけど、やっぱり大草原。青空の下、サバイバルナイフの男は、脇腹の男に肩を貸し、二人の男は大草原を歩き出した。

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