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2013年7月 3日 (水)

「第三百六十八話」

 ファンタジー系な話が書きたくて私は、喋る何かを探し歩いていた。喋る花ってのがベストなんだけどまあ、そこは喋る何かだったら、何でもよかった。とにかくファンタジー系な話の導入には、喋る何かが必要不可欠だ。突然現れて、消える何かよりも、喋る何かだ。

「キミは、小説家かい?」

街を離れて、しばらく歩き、だいぶ景色がファンタジー系になって来た頃、後ろからやっと何かが話し掛けて来た。

「ええ、そうです。」

私は、込み上げて来る歓喜の大爆笑を堪えながら、声のする方へ振り返った。

「ああ、やっぱりそうか。私も小説家だから、何と無くそうなんじゃないかと思ってね。」

老人だった。私に話し掛けて来たのは、喋る何かではなく。単なる小説家の老人だった。思わずブッ飛ばしてやろうかと思ったが、やめた。動機が不純だし、何よりも裁判になったら、確実に負けるからだ。単なる小説家の老人に話し掛けられるなら、喋るウンコに話し掛けられた方が、よっぽどファンタジー系だ。私は、普段以上によそよそしい態度で、この場を立ち去ろうと、小説家の老人に無表情この上無く会釈攻撃を食らわした。

「まあ、待ちなさい。ここで出会ったのも何かの縁だ。少し話でもしてかないか?」

マジで手にオノを持ってたら、間違いなく私は、この小説家の老人を真っ二つにしていたところだ。しかし、あいにく私は、マジでオノを手に持ち歩かない主義の人間だから、このやり場の無い怒りを笑顔に変えて頷くしかなかった。ここで出会った事が何かの縁なのは一方通行な話で、もう一方からしてみればそれは、不運でしかない。

「よっこいしょ。」

私と小説家の老人は、少し歩いた所の湖畔にある横たわった大木に腰掛けた。

「さっきも言ったが、ワシは小説家だ。実はな。作品の構想を練るために散歩していたら、いつの間にかこんな場所を歩いていたんだよ。」

「そうだったんですか。」

知るかよ!だったらだったで、私に話し掛けないで、歩き続けたらよかっただろ!ええ!人の創作活動を邪魔しやがってからに!どれだけ私が貴重な時間を失い続けているのか分かっているのか?同じ物書きなら!分かるだろ!それとももしかして?自分は既に創作活動を終了していて、私に話し掛けて来たのは、単なる息抜き的な事か?ああ、オノでマジ真っ二つにしてやりたいよホント!

「キミもなんだろ?キミも何か構想を練るために散歩してたんだろ?」

「ええ、まあ。」

一見、穏やかで優しい笑顔のその裏では、自分が既に創作活動を終えていると言う優越感に浸っているのだろ?何なら何かしら協力でもしてやろうか?なんて上から目線の先輩面なんだろ?魂胆がバレバレなんだよ!

「どんな作品を書こうと考えてるんだい?」

ちょっと待て!まさかこの小説家の老人!?まだ創作活動を終えていないのか?私からアイデアを聞き出して、それを自分のモノにしようと企んでいるのか?アイデア山賊か?そして、アイデアを聞き出した私を殺し、滅多に人が寄り付かないであろうこの湖に沈めようって魂胆か?それとも単に、私のアイデアと自分のアイデアを比較して、自分の方が物書きとして優れていると戒めたいだけの心の小さな人間なのか?いずれにせよ!なんてどうしようもない小説家の老人なんだ!だが、私を侮るなよ?侮るなかれよ?簡単に手の内を明かすかよ!

「構想もなにもまだ、それ以前の段階です。どんな風な作品にするかすらも決まっていませんよ。」

「そうか。」

「貴方は、どんな作品を書くつもりなんですか?」

「ワシか?ワシは、ミステリー系な話を書こうと思ってるんだよ。長年、メルヘン系な話一本だったんだが、何か急にミステリー系な話が書きたくなったんだ。だが、いざ書こうと思ったら、何にも浮かばん。何から書いていいかすら分からん始末だ。」

当たり前だろ!メルヘン系から急にミステリー系って、無謀だろ!なにか?そんな無謀な自分、凄いだろ?って、自慢か?雪山に裸で登るお調子者を誰が凄いと絶賛するかよ!

「ミステリー系って、つまり何か殺人事件が起きて、探偵が解決するみたいなですか?」

「ああ、なるほど!何か殺人事件を起こして、それを探偵に解決させれば良いのか!いやあ、どうも頭の中には、妖精や動物ばかりが浮かんで来てしまってな。」

ミステリー系な話を書こうと思って、妖精や動物ばかり浮かんで来た時点で、ミステリー系な話を書くのを諦めろよな!と言うか、何で私は、この小説家の老人の創作活動の手伝いをしなければならないんだ?ドラゴンや巨人と会話してるならまだしも、これでは私は貴重な時間を失い続けるばかりではないか!

「無理して、急にミステリー系な話を書かなくてもいいじゃありませんか?メルヘン系一本でいいじゃありませんか。」

「ははは。そうかもしれないが、長年メルヘン系ばかり書いてるとな。ふと、メルヘン系から離れたくなる時があるんだよ。」

いや、意味が分からない。そう言う意味不明な進路変更へと逃げる人間を世の中では、負け犬、と呼ばれている事を、この小説家の老人は、知っているのだろうか?まあ別に、この小説家の老人が負け犬だろうが、へっぽこ野郎だろうが、クソカスだろうが、私には関係の無い事だ。それよりもなによりも私が今一番しなければならないのは、一秒でも早くこの無駄から抜け出す事だ。

「私は、そろそろ失礼します。」

「ああ、創作の貴重な時間を邪魔して済まなかった。」

「いえ、勉強になりました。」

大人は面倒臭い。勉強になりました?私が一体この小説家の老人から何を学んだと言うんだ?無理矢理に何かを学んだとするならば、これからはマジでオノを持ち歩く主義になった方がいいって事だ。実際、勉強になったのは、この小説家の老人の方だろ?やれやれ。そう思いながら私は横たわった大木から立ち上がり、歩き出した。

「ああ、それと?」

「はい?」

「やはりミステリー系な話を書くのはやめにするよ。」

「それが良いと思います。」

出会った時と同じように、小説家の老人は後ろから話し掛けて来たが、今度は振り返るようなヘマはしない。早々に切り上げようと私は、淡々と答えた。

「だからキミもファンタジー系な話なんか書くのをやめて、いつも通りに書いたらどうだ?」

「えっ?」

振り返るとそこには、小説家の老人の姿は無かった。何が起きたのか分からない私は、何が起きたのか整理しようとした。でもそんな事なんて、今目の前で起きたファンタジー系な事なんて、どうでもよくなるぐらいの腹痛に襲われ、急いで人気の無い草むらへと私は駆け込んだ!

第三百六十八話
「ブリブリブリブリブリブリ!!」

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