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2013年9月

2013年9月 4日 (水)

「第三百七十七話」

 昨日が今日に代わる頃、私は小さな机と椅子を二脚用意して、メガネだらけのメガネ屋の前に小さな小さな店を開く。迷い人を正しい道へと誘う為に、と言ったらおこがましいかもしれないが、限り無くソレに近いと自負している。開店の準備が整い、私が椅子に座ると同時に、年老いた男性が向かいに座った。

第三百七十七話
「相談屋」

「聞いてくれるか?」
「どんな相談でしょう?」
「無いんだ。」
「無い?何かを無くされて心が困っているんですか?」
「いや、無くした訳じゃなく、そもそもが無いんだ。」
「何が無いのですか?」
「相談。」
「ええ、ですから貴方の相談をお伺いします。」
「そうじゃない。」
「相談ではないのですか?あいにく私は相談屋ですから、ソレ以外の何かをお伺いする事は不可能です。」
「する相談が無いのが、オレの相談だ。」
「えっ。」
「どうすればいい。」
「する相談が無い事が貴方の相談。」
「ああ、そうだ。」
「それはつまり、例えるならば、悩みが無いのが悩み、ストレスが無いのがストレス、みたいな。」
「違う!!」
「すいませんっ!」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・しかし、相談する事が無いのは、悪い事ではないのでは?」
「アンタ、何にも分かっちゃいないみたいだな。いいか?回りの人間は、大なり小なり相談を誰かにしてる。そんな日常風景にさらされてみろ。相談する事が無い自分の方がおかしいんじゃないかって思えてくるんだ。」
「なるほど。現代病みたいなモノですね。」
「違う!!」
「すいませんっ!」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・では、相談する事を生み出せば良いのでは?」
「考えてくれるか!」
「勿論です。」
「ありがとう!」
「相談屋ですから、当然です。」
「あのな?婆さんが死にそうなんだ。」
「急に何ですか!?」
「あ、今のは悩みか。すまんすまん。」
「えっ。何か、そこら辺を掘り下げれば悩みが相談に広がりそうな気はしますが。」
「プライベートだ!!」
「どんな癇癪持ちですか!?そもそもプライベートな境界線を持ち出したら、相談を生み出すなど不可能でしょ。」
「仕事の相談とかがあるだろ。仕事の!」
「では、仕事は何をなさってるのですか?」
「無職です!!」
「なら聞かさせないで下さいよ!」
「年齢的にどう考えたって無職感と死臭が漂ってるだろ!」
「そのブラック感漂うジョークは何なんでしょうか?」
「ジョークなんだから笑わそうとしてるに決まってるだろ!」
「笑っていいのか悪いのかギリギリのラインで言われてもですよ。」
「飼ってないけど我が家の犬の相談していいか?」
「ダメですよ!嘘じゃないですか!」
「飼ってないんだぞ?」
「いやそこが嘘の総本部ですから!相談する事を生み出すと言っても、まるっきり嘘はダメですよ。」
「嘘ってのはな。バレなきゃ嘘じゃないんだよ。」
「バレバレなんですってば!飼ってないって言っちゃってるんですってば!」
「高齢者を馬鹿にするなっ!!」
「どこにそんな要素があったのですか!」
「昼間な。絶対に神に誓って、アレはアンタじゃなかったが!アンタによく似た女にバスの中で馬鹿にされたんだ!!」
「性別の違う時点で私に怒りをぶつけるのはお門違いですよ。」
「お爺さん?どうぞ。ってな!!」
「親切じゃないですか!!席を譲ってくれたんではないですか!」
「いや、バナナの皮を投げ付けられたんだ!」
「それはもう!高齢者とか関係無いっ!」
「だから俺も持ってたバナナの皮を投げ付けてやったよ!」
「なら、いいではないですか!行って来いでもういいではないですか!」
「そしたら横に座ってた女の彼氏が、お爺さん?どうぞ。」
「そのバナナの皮ブーム何なんでしょう!」
「席を譲ってくれたんだよ。」
「急にほっこり!?まだまだ若い者も捨てたもんじゃないなぁ的な!?」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「婆さんが死にそうなんだ。」
「いや、だったらだったで!こんな所でこんな事をしているべきではないっ!」
「爺さんも死にそうなんだ。」
「祖父母な話!?貴方の年齢からして、だったらそれはいつ死んでもおかしくない話!」
「葬儀とか面倒臭ぇ!」
「愚痴ですか。」
「ほったらかしとこ!」
「許されないでしょそんな事!赤の他人に何を爆弾発言してるのですか!」
「プライベートだ!!」
「だったらソレを口にしないでいただきたい!」
「相談屋。」
「何でしょうか!」
「チョップしていい?」
「やりたい放題か!自由奔放にも程があるでしょうが!」
「いい?」
「ダメに決まってるでしょ!常識ないんですか!」
「相談屋。」
「何ですか!!」
「見付けたぞ。」
「何をですか!」
「相談する事をだ。」
「本当ですか!」
「ああ。」
「ゴホン、では、改めましてその相談、お伺いします。」
「この話、どう終わらせればいい?」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」

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2013年9月11日 (水)

「第三百七十八話」

「時間切れだ。」
「待ていっ!!」
「バン!」
そして男は、少女の頭を銃で撃った。これは、そう言うルールのゲームであり、絶対的な敗北感を男が俺に与える為だ。男が仕掛けて来る数々の無理難題を解くゲーム。だがしかし、それは男の一方的なルールであり、俺は少女を救いたいだけだった。映画やTVゲームの世界では、よくある不条理な話で、実際に現実世界で自分が巻き込まれるだなんて考えてもみなかった。確か何度も命を失いそうになり、確か何度も無関係な人間の命を奪いそうになった。


ステージ1~
『炎の中から大脱出』

ゲームの始まりは、突然であり、前触れがない。もしかしたら仕掛ける側があまりにも巧妙だったら、自分がゲームをさせられている事にすら気付かない人間も存在するかもしれない。
「リンリンリン!」
しかしこのゲームは、巧妙ではなく、正々堂々としていた。電話のベルで起こされた母さんに起こされた俺は、母さんの口からゲームの開始を告げられた。炎上する自宅から外へ出る。それが全ての始まりだった。俺にとってのソレは、あまりにも朝飯前だった。炎上する自宅と言っても実際には炎の形に切られた赤いダンボールがポツポツ置いてあるだけだった。
「誰かのイタズラかしら?」
電話の主の言う通りに自宅の外へ出た俺の家族は、母さんの一言によって、明らかに全員が俺に疑いの眼差しを浴びせてきた。


~ステージ2~
『炎天下の迷走』

蝉の脱け殻を5000殻集めて、それで巨大な蝉の脱け殻を作れ、と言う無理難題を男は次に突き付けてきた。しかも夏に集めた蝉の脱け殻での蝉の脱け殻製作は、冬に行えと言う指示だった。早いか遅いか分からないが、俺は15年の月日を費やし、巨大な蝉の脱け殻を完成させた。蝉の脱け殻を集め始めて12年が過ぎようとした27歳の春、俺は最愛の女性と結婚した。


~ステージ3~
『極寒の屈辱』

冬の間、真っ裸で過ごせ、と言う無理難題だった。この時、俺は5度に渡り風邪を引いた。更に、5度に渡り風邪がぶり返した。そして、この年の冬は、ほぼ毎日のように警察に職務質問された。だから俺は、ほぼ毎日のようにそれまでの経緯を時には巨大な蝉の脱け殻の写真を見せながら語ったが、信じる警察官は誰一人としていなかった。それどころか俺は、いろいろな病院へ行く羽目になった。もちろん真っ裸でだ。35歳にもなってこんな屈辱を風呂場以外で浴びせられとは考えてもみなかった。


~ステージ4~
『炎天下の迷走2』

これは、以前に突き付けられた無理難題の蝉の脱け殻を集めて、巨大な蝉の脱け殻を完成させろと言うものだった。しかも今回は、前回を大きく上回る殻数の5001殻でだった。だが、コツを掴んでいた俺は、前回を大きく上回る14年と言う記録的なスピードで、ソレを完成させた。

「どうだ?目の前で少女の頭を撃たれた気分は?」
「これが、敗北感ってヤツか。」
「今までは電話越しだけの付き合いだったが、どうだ?」
「どうだ?どうだって、何だ?」
「私の顔に見覚えはないか?」
「えっ?」
「だから!私の顔に見覚えはないか!」
「ああ、92歳にもなると、だいぶ耳も遠くなったし、目も見えにくくなったし、記憶も定かでなくなってきたし、分からん!」


~ステージ5~
『太陽旅行』

俺は、この無理難題により、全財産を失った。そして、その時の後遺症かどうか分からないが、鼻の頭に小さなホクロが出来た。


~ステージ6~
「炎天下の迷走3」

これは、以前に2度突き付けられた無理難題の蝉の脱け殻を集めて、巨大な蝉の脱け殻を完成させろと言うもので、しかも今回は、前回と前々回を大きく上回る殻数の5034殻でだった。だが、前回よりも更にコツを掴んでいた俺は、殻数が大きく上回っているにも関わらず、前回同様14年と言う記録的なスピードで、ソレを完成させた。

「私は!お前に6年2組でイジメられてた!」
「それはつまり、どう言う事だ!」
「私は、お前に6年2組でイジメられてたと言う事だ!」
「そうか!」
「これは!私が私の人生全てを賭けたお前への復習だ!」
「自分の人生全てを賭けた俺への復習だとでも言いたいのか!」
「言った!」
「言ったか!」
「敗北感と共に死ね!」
「敗北感と共に死ねとでも言いたいのか!」
「言った!」
「言ったか!」
「バン!」


~ステージ7~

『ゲームオーバー』

俺は確かに、電話の主の告げる日時と場所へ正確にやって来た。正確どころか少し早く辿り着いた。だがしかし男は、不条理に言い放った。
「時間切れだ。」
と、だから続けて俺は言った。
「待ていっ!!」
と、そして男は間髪入れずに少女の頭を持っていた銃で撃った。
「バン!」

第三百七十八話
「トイガン」

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2013年9月18日 (水)

「第三百七十九話」

「なあ?」
「はい。」
「普通、こう言う後ろに付く人、一緒になる人ってのは、その道のプロ、つまりは先生って事だよな?」
「ですね。」
「おかしいよな?」
「僕は初めての経験だったもので、前にその道のプロ、つまりは先生が付くのかと思ってました。」
「つまりは、俺とアンタは、初心者同士で互いに勘違いをしている間に何だかんだドタバタとスタンバイが進行して行って、こんな上空で事の真相を知る事となった訳だ。」
「おっしゃる通りだと思います。」
「死ぬだろ!」

第三百七十九話
「パラグライダー」

「何と無く助かるかもしれませんよ?」
「いや何そのフワッとした感じ!パラグライダーだけに?パラグライダージョーク?」
「きっと既に心配したスタッフの方たちが救助を呼んでますよ。ここはジッとしてその救助を待ちましょう!」
「その雪山的な発想がよくぞ上空で浮かんだな!しかもその場合の救助はもはや救助ではなく!もう既に動かなくなった俺たちの」
「僕、こう言う者です。」
「どのタイミングで名刺を差し出してんだ!」
「このタイミングを逃すと万が一って事もあるかと思って、すいません。」
「万が一の方の圧が強いんだよ!・・・・・・・・・和菓子屋の五代目?」
「はい!」
「その若さで五代目。あ、もしかして先代を早くに亡くされたとか?いろいろと大変だな。」
「いえ、先代はピンピンしてます!先代の父に、才能と手腕を見込まれて、お店を任されました!」
「何で軽く自慢を含ます自己紹介がこの状況で出来ちゃうのかが俺には不思議でならないよ!」
「これも何かの縁です。近くに寄った際には、是非ともお立ち寄り下さい。特別なおもてなしでお待ちしてますので!」
「手腕!?その見せどころがおかしいだろ!」
「で?」
「で、って?」
「そちらは何をなさってるのですか?」
「いや何かバーで意気投合しちゃって的な流れになってっけど、ここ上空だから!結構な上空ですから!」
「でもこの機会を逃したら万が一って事もあるかと思って、それに何か自分だけ自己紹介して、このままあの世に行って、貴方が何をしてる人だったのか知らないままだと何だか気持ち悪いですし。」
「勝手にお前が自己紹介して来たんだろ!んでだから万が一の方の圧が強いんだって!万が一圧を強めるなら自己紹介してる場所じゃなくて!二人で無事に生きて母なる大地に降り立つアイデアでも出し合おうぜ!」
「それで?」
「そうだなぁ?何とか海や川や森に向かえば助かるんじゃないか?」
「母なる大地じゃないし!」
「何で俺がパラグライダージョーク言ってるみたいになってんだよ!」
「ですから、アイデアよりまずはほら、自己紹介の方をお願いします。」
「夏休みの宿題じゃねんだぞ?アイデア後回しにして乗り切れる状況じゃないだろ!」
「でも、あの世でずっと気持ち悪いって言うのも随分と後味が悪い話ですよ?」
「恐ろしい結末の未来の話の方だけ先に進めるのやめてくんない?」
「それで?」
「俺か!俺は、中古車販売してるよ!」
「凄い!」
「えっ!?いや、そんな凄いもんじゃないよ。因みに小さいけど一応、社長です。」
「僕!丁度今!車欲しいと思ってたんですよ!」
「は?」
「最近、免許を取ったんですよ!で、免許取りたてで新車ってのも万が一じゃないですか!車庫入れとかで絶対に傷つけたりしちゃうじゃないですか!だからしばらくは中古車にしようかと思ってたんですよ!」
「ちょい待てーっ!凄いって言葉に対しての俺の勘違いの恥ずかしさたるや!」
「ん?」
「いやそれはどうでもいい!どうでもよくないのはだ!」
「何かおすすめの中古車あります?」
「それーっ!この感じ!俺を取り巻くまるで自分の店に居るのかとさえ思えるこの空気感!絶体絶命の危機的状況を!何で中古車販売経営社長に絶好のタイミングで出会えた喜びが上回っちゃうんだよ!あれか?むしろ恐怖過ぎて頭が現実を受け入れられなくて逃避しちゃってる感じか?」
「生きてたら絶対に貴方のお店に行きますから!」
「がっつり受け入れてた!?」
「もちろん!お土産にお店の一押し和菓子を持って行きます!」
「じゃあ、それはそれでいいですよ!和菓子楽しみに待ってますよ!でもさぁ?先ずはさぁ?先ずはこの絶体絶命な危機的状況をどうするか考えません?」
「あそこ見て下さい!」
「えっ?何か名案か?見たとこ、いい感じの森でもなければ、いい感じの湖って訳でもなく、国道?」
「最初に乗るなら!ああ言う色の赤い車って決めてるんですよ!」
「そんな気持ちじゃ確実に黒い車に乗るぞ!」
「え、今赤い車、売り切れですか?入荷したら絶対に連絡下さい!お店一押しの和菓子をお土産に馳せ参じますから!」
「誕生日間近の子供以上のワクワク感!?もうあれか、自分でも制御不能か!」
「人生の最期にこんな気分でいられると思いませんでした!ありがとうございました!」
「諦めてた感じ!?もう既に最初っから腹くくってた感じか!?」
「だって、貴方がさっき、死ぬだろ!って、おっしゃるから、ここはもうそうするしかないのかなと思って、すいません。」
「いや確かに仄めかしたけど、無事に生還する可能性だってゼロじゃない!」
「そうだったんですか!?」
「そっちはそっちでかなりの割合で仄めかしてましたけど!」
「気付かなかった!」
「営業で培ったプレゼンテーション力の自信失うわい!ん?おい!あれ見ろ!」
「ああ、ああ言う色の赤じゃないんですよ。僕が乗りたい赤い車は。」
「中古車販売経営者の鑑か俺は!国道じゃない!その横だ!」
「牧場ですか?」
「の真ん中だ!」
「羊の群れですか?」
「そうだ!」
「始めて見ました。」
「鈍感か!」
「えっ?」
「あそこに飛び込むって事だよ!」
「ええーっ!そんな古典的な!」
「この危機的状況下に古典的も何もないだろ!」
「でも羊に飛び込んだ瞬間にその衝撃で羊の内臓とか脳味噌とか目玉とか飛び散るんじゃないですか?」
「どんな想像力だ!奴らフワッフワだから大丈夫だ!」
「けど汚れません?近くに服屋さんありますかね?」
「どんな心配だ!迷ってる暇はない!群れに突っ込みぞ!」
「ああーっ!!」
「うおーっ!!」
「あああーっ!!」
「うおおーっ!!」
「ああああーっ!!」
「うおおおーっ!!」
「あ~ああ~っ!!」
「何でターザ」
「ぼふっ!!」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・生きてるか?」
「は、はい。何とか。」
「やったな!」
「はい。」
「ははっ!」
「あはっ!」
「はははははっ!」
「あははははっ!」
「はははははっ!」
「あははははっ!」
「はははははっ!」
「あははははっ!」
「よーし!飯でも食いに行くか!」
「いいですね!ジンギスカンとかどうです?」
「お前、この状況でよく言えたな。」

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2013年9月25日 (水)

「第三百八十話」

 俺は、都会の生活に疲れ果てた友人を連れ、日帰りの旅行に来ていた。
「たまには、こんなのもいいだろ!」
「いいだろって、お前なぁ。何もないじゃないか。山と果てしなく広がる田畑って。」
「いいじゃないか!これがいいんだよ!」
「暑いし疲れるしつまらないし、どこがいいんだよ。見てみろよ。この家、隣人って言ったら果てしなく小さく見えるあそこの家だぞ?仮にこの家が、火事になって、母親が足を負傷しながらもなんとか家から脱出出来たとして、中に取り残された幼子を一体誰が救出出来るんだって話!」
「そんなの俺達が救出しに行けばいいだけの話だろ?」
「今ならな!今まさにそう言った状況に遭遇したらな!普段から俺達が家の前に居る訳じゃないだろ!」
「そう言う事か。」
「そう言う事だよ。」
「近くに日帰りの温泉があったから、そこ行って、もう帰ろうぜ。」
「分かったよ。」
「・・・・・・・・・ありがとな。」
「えっ?」
「俺の事、心配してくれて、それでここまで連れて来てくれたんだろ?」
「・・・・・・・・・お前。」
「なのにダメだな俺。文句と愚痴ばっかでさ。」
「いやそんな事・・・・・・・・・。」
「ホント、ありが」
「ボガーン!」
と、その時、友人が口にしたその通りの現実が目の前で起こった。
「子供が!子供が!」
足を負傷した母親は、家を指差し同じ言葉を連呼していた。
「どうする?」
「どうするって、お前が変な事を言ったからじゃないのか?」
「あれは、例え話の域だろ!」
「人が想像する事は、全て実現する。って聞いた事があるぞ!」
「いやいやいや、だからって、これは俺のせいじゃないだろ!」
「本当に?俺を驚かせる為のドッキリとかなんじゃないの?そう言えば、何か急にこの家の前に立ち止まって話を始めたもんな。」
「何でだよ!冷静なのかパニック過ぎなのか、どっからそんな発想が来るんだよ!何でドッキリでマジの家を一軒燃やすんだよ!だいたい俺はどこへ行くかも聞かされてなかっただろ!」
「子供が!子供が!中に子供が!助けて下さい!」
「ほら、だってちょっと演技がクサイよ。」
「何でドッキリで仕掛人をマジの負傷させちゃうんだよ!」
「それは、俺を騙す為だろ?」
「そうだったら完全にドッキリは失敗だろ!バレバレだろ!いいか?これはドッキリじゃないんだよ!隣人に助けを求めてる時間も消防を待ってる時間も無いんだよ!」
「ちょっと待ってくれよ?長年の付き合いで、お前がマジの時の目は分かる。って事はだよ?」
「うん。」
「これは、マジ。」
「おう。」
「目の前で起きてる事は、ドッキリなんかじゃない。」
「そうだ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「うわあああああああああ!!」
「いきなりパニックになり過ぎだろ!」
「どうしよう!どうしよう!火事!中に子供!大変だ!大変だ!大変だああああああ!」
「大パニック過ぎだろ!ウロチョロし過ぎなんだよ!落ち着けって!」
「落ち着けってな!中に子供が居るんだぞ!」
「そうだ!だからこそ冷静になれ!」
「えっ?」
「火事の家の中には子供が居る。母親は自分が行きたいが足を負傷して行けない。行けないどころか今は失神状態。そしてこの現状に気付いてるのは今、ここに居る俺達だけだ。」
「お、おいまさか!?」
「そうだ。お前が中に居る子供を助けに行くんだ!」
「俺が火の中に飛び込んで子供を助けに行く?って、ちょっと待てーっ!待てこらーっ!」
「逃げてないし!早く行かないと子供が死んじゃうぞ?」
「何で俺?これまでの流れ的に、お前が我を顧みず飛び込んで行くんじゃないのか?」
「本来ならな。」
「本来ならってなんだよ!今回も本来で行けよ!」
「いいか?俺一人ならそうしてるよ。けど、今は二人居る。どっちかが救助を呼ばなきゃだろ!荷物は遠く離れた駐車場の中だ!だったら、あの果てしなく小さく見える隣人宅に俺が行くしかないだろ!」
「無茶苦茶な理由だな!おい!いや、そっち俺が行くから、お前は従来通り火の中へ。」
「あのな?俺だって火の中へ行きたいよ。行きたいけど、お腹が痛いから無理だ!」
「小学生かよ!だったら俺だってお腹が痛いよ!」
「いいか?俺は、お腹が痛いだけじゃなくて、頭も痛い。」
「俺もだ!」
「お腹が痛くて頭が痛くて熱がある。」
「俺も!」
「喉も痛い。」
「ああ、俺もだよ。」
「風邪、風邪だよ。急に来た。急に風邪来た。」
「俺もそうだよ。」
「黙ってたけど、さっき右足が折れた。」
「全く同じだよ。」
「あと、耳も聞こえなくなり始めたし、視界も暗くなり出した。」
「奇遇だよ。」
「寒い。こんなに家が間近で燃えてるのに、寒い。」
「右に同じ。」
「死ぬ寸前かお前は!」
「お前がだろ!」
「お前もだろ!」
「お前が先だろ!だいたい死にかけでどうやって果てしなく小さく見える隣人宅に救助を求めに行けるんだ!」
「行けるだろ!」
「メンタルか!メンタル的な立ち直り急速か!」
「行けよ!」
「いやいやいや、それおかしいだろ!」
「お前、火傷しない体質だろ!」
「どんな体質だ!だったらもっと有名人だ!」
「・・・・・・あのう?早く子供を・・・・・・。」
「「こいつが行きます!」」
「お腹の中に子供が・・・・・・・・・。」
「「えっ!」」
「早く病院へ・・・・・・・・・。」
「「病院!?」」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「なあ?」
「ん?」
「もしかしてこの人、家を指差してたんじゃなくて、病院の方角を指差してたんじゃないか?」
「やっぱりこれは、ドッキリか?」
「果てしなくドッキリに近い現実ってやつだな。」
「・・・・・・病院へ。」
「「紛らわしっ!!」」
それから俺は、遠く離れた駐車場までダッシュで車を取りに行き、友人と妊婦の待つ場所へと戻り、俺達は無事に妊婦を病院へ送った。そして妊婦はすぐに分娩室へと運ばれて行き、しばらくすると赤ちゃんの泣き声が病院に響き渡った。

第三百八十話
「女児出産」

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