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2013年9月25日 (水)

「第三百八十話」

 俺は、都会の生活に疲れ果てた友人を連れ、日帰りの旅行に来ていた。
「たまには、こんなのもいいだろ!」
「いいだろって、お前なぁ。何もないじゃないか。山と果てしなく広がる田畑って。」
「いいじゃないか!これがいいんだよ!」
「暑いし疲れるしつまらないし、どこがいいんだよ。見てみろよ。この家、隣人って言ったら果てしなく小さく見えるあそこの家だぞ?仮にこの家が、火事になって、母親が足を負傷しながらもなんとか家から脱出出来たとして、中に取り残された幼子を一体誰が救出出来るんだって話!」
「そんなの俺達が救出しに行けばいいだけの話だろ?」
「今ならな!今まさにそう言った状況に遭遇したらな!普段から俺達が家の前に居る訳じゃないだろ!」
「そう言う事か。」
「そう言う事だよ。」
「近くに日帰りの温泉があったから、そこ行って、もう帰ろうぜ。」
「分かったよ。」
「・・・・・・・・・ありがとな。」
「えっ?」
「俺の事、心配してくれて、それでここまで連れて来てくれたんだろ?」
「・・・・・・・・・お前。」
「なのにダメだな俺。文句と愚痴ばっかでさ。」
「いやそんな事・・・・・・・・・。」
「ホント、ありが」
「ボガーン!」
と、その時、友人が口にしたその通りの現実が目の前で起こった。
「子供が!子供が!」
足を負傷した母親は、家を指差し同じ言葉を連呼していた。
「どうする?」
「どうするって、お前が変な事を言ったからじゃないのか?」
「あれは、例え話の域だろ!」
「人が想像する事は、全て実現する。って聞いた事があるぞ!」
「いやいやいや、だからって、これは俺のせいじゃないだろ!」
「本当に?俺を驚かせる為のドッキリとかなんじゃないの?そう言えば、何か急にこの家の前に立ち止まって話を始めたもんな。」
「何でだよ!冷静なのかパニック過ぎなのか、どっからそんな発想が来るんだよ!何でドッキリでマジの家を一軒燃やすんだよ!だいたい俺はどこへ行くかも聞かされてなかっただろ!」
「子供が!子供が!中に子供が!助けて下さい!」
「ほら、だってちょっと演技がクサイよ。」
「何でドッキリで仕掛人をマジの負傷させちゃうんだよ!」
「それは、俺を騙す為だろ?」
「そうだったら完全にドッキリは失敗だろ!バレバレだろ!いいか?これはドッキリじゃないんだよ!隣人に助けを求めてる時間も消防を待ってる時間も無いんだよ!」
「ちょっと待ってくれよ?長年の付き合いで、お前がマジの時の目は分かる。って事はだよ?」
「うん。」
「これは、マジ。」
「おう。」
「目の前で起きてる事は、ドッキリなんかじゃない。」
「そうだ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「うわあああああああああ!!」
「いきなりパニックになり過ぎだろ!」
「どうしよう!どうしよう!火事!中に子供!大変だ!大変だ!大変だああああああ!」
「大パニック過ぎだろ!ウロチョロし過ぎなんだよ!落ち着けって!」
「落ち着けってな!中に子供が居るんだぞ!」
「そうだ!だからこそ冷静になれ!」
「えっ?」
「火事の家の中には子供が居る。母親は自分が行きたいが足を負傷して行けない。行けないどころか今は失神状態。そしてこの現状に気付いてるのは今、ここに居る俺達だけだ。」
「お、おいまさか!?」
「そうだ。お前が中に居る子供を助けに行くんだ!」
「俺が火の中に飛び込んで子供を助けに行く?って、ちょっと待てーっ!待てこらーっ!」
「逃げてないし!早く行かないと子供が死んじゃうぞ?」
「何で俺?これまでの流れ的に、お前が我を顧みず飛び込んで行くんじゃないのか?」
「本来ならな。」
「本来ならってなんだよ!今回も本来で行けよ!」
「いいか?俺一人ならそうしてるよ。けど、今は二人居る。どっちかが救助を呼ばなきゃだろ!荷物は遠く離れた駐車場の中だ!だったら、あの果てしなく小さく見える隣人宅に俺が行くしかないだろ!」
「無茶苦茶な理由だな!おい!いや、そっち俺が行くから、お前は従来通り火の中へ。」
「あのな?俺だって火の中へ行きたいよ。行きたいけど、お腹が痛いから無理だ!」
「小学生かよ!だったら俺だってお腹が痛いよ!」
「いいか?俺は、お腹が痛いだけじゃなくて、頭も痛い。」
「俺もだ!」
「お腹が痛くて頭が痛くて熱がある。」
「俺も!」
「喉も痛い。」
「ああ、俺もだよ。」
「風邪、風邪だよ。急に来た。急に風邪来た。」
「俺もそうだよ。」
「黙ってたけど、さっき右足が折れた。」
「全く同じだよ。」
「あと、耳も聞こえなくなり始めたし、視界も暗くなり出した。」
「奇遇だよ。」
「寒い。こんなに家が間近で燃えてるのに、寒い。」
「右に同じ。」
「死ぬ寸前かお前は!」
「お前がだろ!」
「お前もだろ!」
「お前が先だろ!だいたい死にかけでどうやって果てしなく小さく見える隣人宅に救助を求めに行けるんだ!」
「行けるだろ!」
「メンタルか!メンタル的な立ち直り急速か!」
「行けよ!」
「いやいやいや、それおかしいだろ!」
「お前、火傷しない体質だろ!」
「どんな体質だ!だったらもっと有名人だ!」
「・・・・・・あのう?早く子供を・・・・・・。」
「「こいつが行きます!」」
「お腹の中に子供が・・・・・・・・・。」
「「えっ!」」
「早く病院へ・・・・・・・・・。」
「「病院!?」」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「なあ?」
「ん?」
「もしかしてこの人、家を指差してたんじゃなくて、病院の方角を指差してたんじゃないか?」
「やっぱりこれは、ドッキリか?」
「果てしなくドッキリに近い現実ってやつだな。」
「・・・・・・病院へ。」
「「紛らわしっ!!」」
それから俺は、遠く離れた駐車場までダッシュで車を取りに行き、友人と妊婦の待つ場所へと戻り、俺達は無事に妊婦を病院へ送った。そして妊婦はすぐに分娩室へと運ばれて行き、しばらくすると赤ちゃんの泣き声が病院に響き渡った。

第三百八十話
「女児出産」

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