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2013年10月

2013年10月 2日 (水)

「第三百八十一話」

「犯人は左利きです!」
「急に何ですか!?」
「奥さん。犯人は、左利きなんですよ!」
「犯人って何の事ですか?」
「左利きなんです!」
「と言うか貴方、誰ですか?真っ昼間に他人の家に何なんですか?犯罪者ですか?何らかの犯罪者ですか?犯罪を犯そうとしている者ですか?」
「私は!犯罪を犯そうとしている者ではない!!」
「・・・・・・・・・顔が近い。」
「私は!犯人は左利きです!と言う者だ!」
「はあ?」
「はあ!」
「いや何でブチギレてんですか?」
「犯人が左利きだからですよ!犯人が左利きだから私はこうもブチギレてるんですよ!分かるでしょ!」
「分からないわよ!何なの?この異次元空間!アタシは何に巻き込まれたの!」
「ビスケットありますか?」
「ビスケット?あるけど、ビスケットが何なの?」
「ビスケット食べながら、ゆっくり話をしましょう!」
「出てけ!」
「出て行かない!」
「何でだ!」
「犯人が左利きだからです!」
「いやそれマジで何なの?何かを打ち消すだけの特別な効力を持った言葉じゃないから!その言葉で振り出しに戻る的な空気やめてくれない?」
「やめない!」
「はあ?」
「はあ!」
「だから何でブチギレなのよ!おかしいでしょ!」
「犯人が左利きなのにですか!?」
「何なの?何でそんな驚愕なの?犯人って何!マズ犯人って何!犯人は何なの!左利きだから何だってのよ!」
「はじめまして。」
「このタイミングで深々と挨拶っておかしいでしょ!」
「あまりにも犯人が左利きだったもんで、ついつい挨拶を忘れてました。私とした事が大変申し訳ない!」
「はあ?」
「はあ!」
「だから何で顔近付けてブチギレなのよ!それが今、謝った人が取る態度なの!」
「ビスケットまだですか?」
「出さないわよ!何でビスケット食べながら貴方と会話しなきゃならないのよ!」
「犯人が左利きだからですよ!」
「あのさ!犯人、犯人って、何の犯人だかさっぱり言わないし、自分が何者なのか言わないし、とにかく不法侵入だし!」
「だから、私は犯人は左利きです!と言う者だと説明したじゃありませんか!」
「そんな曖昧な説明が説明になるんだったら!世の中の取扱い説明書はこんなにも分厚くなってないわよ!」
「同感です!」
「いや、これは何の握手?」
「犯人が左利きの握手です!」
「取説分厚い同感握手じゃないのかよ!」
「はあ!」
「病気か!異常な程にブチギレる病気か!」
「ビスケットがまだ出て来ないからでしょ!」
「いやもうビスケットは永遠に出て来ないもんだと悟れよ!」
「奥さん?」
「はい?」
「小じわが!?」
「見た事ないのか!指差しての驚愕とかレディに対して失礼だからな!そして、直ちにこの家から出て行け!」
「犯人が左利きだって事は分かるんですが、肝心の出口が分からないんですよ。」
「大豪邸か!巨大迷路か!こっから玄関が見えるだろ!」
「こうは考えられないでしょうか?」
「考えられない。」
「例えば、このリビングから見えるあの玄関。」
「考えられないって言ってんのに、何で進めるの?会話をさ!」
「壁に描かれたトリックアートかもしれない。」
「あのさ?二人で閉じ込められたんなら可能性はゼロじゃないけど、この家の住人が玄関だって言ってんだから玄関に決まってるでしょ!」
「なるほど。ところで奥さん?」
「いや、出て行かないのかよ!何のなるほどだよ!何を納得したんだよ!・・・・・・何っ!」
「マフィンはまだ、焼き上がりませんか?」
「作った事ないよ!いいから玄関の存在を認識したんなら、出て行ってよ!」
「私は夫婦喧嘩の末の夫か!」
「はあ?」
「はあ!」
「いやいやいや、何で陽気につっこんだりしてんの?何で次の瞬間ブチギレてんの?」
「犯人が左利きだからですよ!」
「いや、左利きだからって理由がオールマイティーに効力を発揮するなら!犯人が左利きだから出て行けよ!」
「それは無理!」
「何でだ!」
「犯人が左利きだからですよ!」
「あのさ?」
「犯人は、貴女だーっ!!」
「・・・・・・・・・何?急に大声で、何なの?」
「人は私を犯罪予報士と呼ぶ。」
「犯罪予報士?」
「犯罪が起こりそうな場所を独自の計算式に基づき割り出し、未然に犯行を阻止する!それが偉大なる犯罪予報士!」
「いや別に服にサインしてくれとかお願いしてないし!と言うか、そんな事が可能なの?」
「可能なんです!つまりですよ?ここに私が居ると言う事はですよ?奥さん!貴女が旦那さんを殺害するのを未然に防ぎに来たって事ですよ!それは、貴女を殺人犯にしたくないからですよ!それを何ですか!ビスケットもマフィンも出さずに追い返そう追い返そうとばかりして!」
「アタシが夫を?」
「そうです!犯人は左利きです!」
「はあ?」
「はあ!」
「はあ!」
「はあ!ここまで言ってもまだ理解出来ないとか、有り得ないでしょ!奥さん!」
「アタシ、右利きですけど?」
「はあ!」
「いや、理不尽にブチギレ過ぎでしょ!右利きよ!アタシは右利き!左利きじゃない!」
「バカな!?青い屋根の家の奥さんなのに右利き!?そんなはずはない!私の犯罪予報は100%のはず!」
「青い屋根?赤よ!家の屋根の色は、赤!青い屋根の家は、隣よ!」
「はあ!」
「逆ギレかよ!」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「とりあえずビスケットでも食べながら話でもしましょうか。」
「何でそうなる!」

第三百八十一話
「赤い屋根の家にて」

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2013年10月 9日 (水)

「第三百八十二話」

「ふわぁ~あ!おはよ~。」
「おはえっ!?」
「えっ!?」
「えっ!?」
「な、何だよ。今日は会社休みだからいつもより遅めに起きて来たんだけど何か問題でも?」
「いや、起床時間に問題はないわよ。」
「なら一体どこに問題があるんだよ。」
「頭よ!頭!何なのその寝癖!」
「寝癖?」
「有り得ないでしょ!お金持ちの病院の個室に置いてあるお見舞いの超豪華フルーツバスケットみたくなってるじゃない!」
「何かよく分からないけど、まあ奇跡的にそんな日もあるだろ。」
「普段の毛量的に考えても有り得ないでしょ!てか、中に超豪華フルーツバスケットを入れない限り有り得ないでしょ!アートみたいになってるじゃない!」
「世の中で、頂点を極めるってあるだろ?」
「何の話?寝癖と関係ある話?」
「いや全く関係無い話。」
「だったら、今しないでよ!今されても内容が絶対に頭の中に入って来ないから!」
「果たして、頂点ってのは、極められるもんなのか?そもそも定義の存在しない頂点に人は到達する事が出来るのか?」
「いやだからしないでってお願いしたじゃん!」
「昨日、寝る前に頂点の事を考えてたからさ。起きたら、意見を聞こうと思ってさ。」
「はあ?だから、そんな寝癖になったの?頂点の事を考えながら寝たから、そんな超豪華フルーツバスケットみたいな寝癖になったの?みたいなと言うか、それもう黒い超豪華フルーツバスケットよ!」
「そんな事を言って、実際は天辺の毛が、ちょっとだけ跳ね上がってるだけなんじゃないか?」
「もしそうならアタシは今から眼医者さんに行くわよ!」
「大袈裟だなぁ。」
「そんなに疑うなら自分の目で確かめてみればいいじゃん!」
「いや遠慮しとく。」
「何ですんのよ遠慮!」
「有り得ないから。そんな有り得ない事を確認してる時間が勿体無い。」
「いや休日じゃん!特に何もする事の無い休日じゃん!しかも寝癖を確認するなんて数秒だし、これから洗面所に行くなら絶対じゃん!」
「いや、今日は洗面所には行かない。」
「何でよ!てか、それは行って!普通に汚いから行って!」
「いや、今日の俺は物凄く綺麗だから行かない。」
「その寝汗でよく言えたもんね。」
「逆にな。」
「何の?何の逆?デトックス的なあれ?」
「デトックス的なあれだ。」
「意味もよく分かってないくせに適当に言わないでくんない?じゃあ、アタシが鏡で見せて上げる。」
「いや、今日は鏡に映りたくない日だから遠慮しとく。」
「どんな日よ!むしろそれは超豪華フルーツバスケットを認めての発言としか考えられないわよ!」
「馬鹿馬鹿しいだろ?」
「何が?」
「有り得ない事をわざわざ確認して、やっぱり有り得なかったなんてそんな時間の無駄、それこそ有り得ないだろ?」
「博士か!研究一筋の博士か!寝る時間すら惜しい博士か!」
「んまあ、そう言う意味で言うなら、博士かな。」
「博士じゃないじゃん!どう言う意味よ!休日暇暇会社員じゃん!ほら、見てみてよ!」
「・・・・・・・・・。」
「何で目を瞑るの?」
「そんな急に鏡を目の前に持って来られたら目を瞑るに決まってるだろ。」
「メデューサか!見たら石になっちゃうのか!」
「んまあ、そう言う意味で言うなら、メデューサかな。」
「何でよ!どう言う意味よ!女じゃん!メデューサ、女じゃん!」
「知らないだけで、男のそう言う奴もいるかもしれないだろ?」
「寝癖がヘビだったらアタシも一瞬そうかなって思ったかもしれないけど、超豪華フルーツバスケットじゃん!と言うか、そもそも仮にそうだとしたら、アタシ結構前に石になってますから!」
「そんな事より、今日の昼御飯は何だ?」
「いやいやいや、昼御飯の前にしなきゃならない事があるのよ!それを片付けないとアタシ、昼御飯に思考が向かないから!」
「しなきゃならない事?窯の温度か?」
「アタシは陶芸家か!個展に向けて作品を作ってんのか!」
「んまあ、そう言う意味で言うなら、陶芸家かな。」
「いや何でもかんでもそれで突き通せる程の魔法の文法じゃないからね!寝癖よ!超豪華フルーツバスケットな寝癖よ!」
「まだそんな戯言と戯れてんのか。」
「ジャレてないわよ!目の前の現実よ!と言うか、いい加減、目を開けたら?」
「目を開けて、目の前に鏡があったらどうすんだ。」
「もう無いわよ。何と無く感覚で目の前に鏡が有るか無いかくらい分かるでしょ?」
「その微妙に有るか無いか分からない距離に鏡を持ってたら、どうするんだ!」
「とんだ天の邪鬼ね!そんな面倒臭い事しないわよ!てか、やっぱりむしろ逆にそれって超豪華フルーツバスケットな寝癖を認めてる発言よね?」
「よし!誤魔化そう!」
「いや、誤魔化そうの意識があまりにも強過ぎて意気込みが口に出ちゃってるから!初めて見たわよ!これから誤魔化す事を堂々と宣言しちゃう人!」
「正直者だな。」
「とんだおっちょこちょいよ!」
「エッヘン!」
「その鼻の下を人差し指で擦る仕草が既におっちょこちょいよ!」
「あ、本当に鏡無い。」
「そんな目の前を、人混みを掻き分ける仕草をしてから確かめなきゃ開けられない訳?」
「これは、癖だ!」
「初めて見たわよ!どんな迷惑な癖よ!あそうだ!見るのがダメなら触ってみてよ!」
「何を?」
「流れ的にそこは絶対!超豪華フルーツバスケットな寝癖でしょ!メロン触ってみてよ!メロン!」
「メロン?」
「そう!メロン!」
「メロンなんて、どこにあるんだ?」
「頭!その超豪華フルーツバスケットな寝癖の真ん中!」
「メロンアレルギーだから無理!」
「いやその頑な感は、何っ!!メロンアレルギーならメロンアレルギーで、既に触れてるから!危うし!と言うか、危うい真っ只中だから!」
「寝癖なんだろ?」
「そうよ!」
「なら大丈夫!」
「寝癖って認めてんじゃん!」
「その戯言に付き合ってやってるだけだよ。」
「はあ?何なのこのイライラ感!アタシが間違ってるみたいになってる空気感!ムカついてしょうがないんですけど!」
「更年期か?」
「まだ30代半ばよ!」
「若年性か?」
「いやマジでメロン触れよ!メロンじゃなくてもブドウでもリンゴでもマンゴーでもバナナでも!とにかく何でもいいから触れよ!」
「違う。」
「違う?何が?」

第三百八十二話
「ナシ」

「これはナシだ。」
「分かってんじゃん!これ、って言っちゃってんじゃん!一通り確認済みなんじゃん!」
「いや、勘だ!」
「テメェ!!」

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2013年10月16日 (水)

「第三百八十三話」

ー人間なんて、みんな死んじゃえばいいー

第三百八十三話
「地球談」

「何だこれは!」
「スクープですよ!編集長!明日のトップはこれです!」
「ふざけるな!お前がとっておきのネタがあるって言うから任せたら!何だこれは!何なんだこれは!いい大人が何を考えてるんだ!」
「まさか編集長!?このネタをボツにするつもりじゃないですよね!編集長!編集長!!」
「うっさい!!いやもう考える余地すらなく間違いなくボツに決まってるだろ!」
「見損ないましたよ!」
「何!?」
「俺、編集長はもっと尊敬出来るジャーナリストだと思ってましたよ!理不尽な正義に、ペンで戦う!立派なジャーナリズムを心に持つ人だと思ってましたよ!」
「おい。マジか?その迫力マジか?私は、こんな記事をボツにして、そんなに詰め寄られなきゃならないのか?」
「だってそうでしょ!」
「何がだ!」
「地球が!この地球が!我々が暮らす地球と言う天体が!太陽系の惑星の一つの地球が!こんなことを言ってるんですよ!」
「もう、これはジャーナリストとしてとかじゃないだろ。人として何かおかしいだろ。何かが!」
「おかしいのは編集長!アナタだっ!!」
「・・・・・・・・・そんな詰め寄られる事を言っているのか?私は?そんなに鬼気迫られる事をしでかしてるのか?私は?」
「しでかしてますよ。見たくなかったです。編集長のそんな姿。」
「もう意味が不明だ。」
「圧力に屈する編集長の姿を見たくなかったと言う意味ですよ!」
「え何の?何の圧力に?いつ私が屈した?」
「こんな記事を載せたら、上からの圧力は相当なものでしょう。俺だけではなく、編集長の首も飛ぶでしょう。最悪ここも潰されるかもしれません。」
「飛ぶな。」
「しかし!俺は!そんな事で圧力に屈する編集長じゃないと思ってました!自分の地位を守りたいが為に真実から目を背ける編集長なんか見たくなかった!ジャーナリストが圧力に屈して!何がジャーナリストだ!」
「・・・・・・・・・えっ?働き過ぎで病気になった訳じゃないよな?」
「むしろ病気はアナタだっ!編集長っ!アナタはジャーナリズムを失うと言う病に侵されているんだっ!」
「いい加減にしろ!」
「それは編集長の方だ!」
「ジャーナリズム、ジャーナリズムってな!ジャーナリズムを侮辱してんのは!お前の方だろ!」
「俺は俺なりのジャーナリズムを胸に!真実を追い求めてる!確かに俺が追い求めてるのは真実だけで、裁くのは民衆かもしれない!暴いてはならない真実もあるのかもしれない!知らないままの真実の方が幸福なのかもしれない!だけどその真実すら知らずに死んでしまってもいいのだろうか!真実を知り!現実と向き合い!そして立ち向かって行く!それが人だろうが!」
「・・・・・・・・・ウソだろ?何でそんな風に熱くなれるんだ?」
「編集長が真実を覆い隠そうとするからですよ!ええ!結構ですよ!真実を覆い隠したいなら隠せばいい!だけどな!必ず真実は暴かれる!必ず真実は白日の下に晒される!それは今ここで俺が殺されようとも!」
「殺されないよ。」
「絶対に他の誰かが真実に辿り着く!真実は隠せない。隠そうとするから真実が生まれる。そう俺に教えてくれたのは編集長!アナタだ!」
「この・・・・・・・・・何かさっきっからスゲェネタを掴んで来た感で進行してる会話は、何だろうか?」
「スゲェネタでしょうが!我々人類の根底を覆すスゲェネタでしょうが!これ以上のスゲェネタがこの地球上に存在するんですかっ!」
「・・・・・・明日は雨。」
「はい?」
「天気予報によれば、明日は雨らしい。」
「明日が雨?それが何なんですか!ふざけてんのは編集長だろ!」
「明日は雨。これが、お前のネタ以上のネタだ。」
「明日は雨。俺のネタは、そんなネタ以下だってのか!明日は雨以下のネタって、そんなのデマじゃないですか!編集長!」
「デマだろ!いや、デマ以下だ!」
「デマ以下だって!?そんな事を言ってまで俺のスクープを潰したいんですか!そんな事を言ってまで真実を覆い隠したいんですか!」
「地球喋らないだろ?」
「・・・・・・・・・地球喋ります。」
「幼児か!ちょっと間があったじゃん!ちょっと何かを考えてる間があったじゃん!急に小声になってるじゃん!私がジャーナリストを何年やってると思ってるんだ?何年、真実と向き合って来てると思ってるんだ?ウソを見破れない訳がないだろ!そもそもジャーナリストがウソを真実として記事にしてどうする!」
「そんな事を言ったって、地球喋りましたもん。」
「泣きそうじゃん!今にも泣きそうじゃん!急にどした。あのな?ネタが無いなら無いで、それはそれでいいんだよ。むしろその方がいいんだよ。」
「しかし編集長!」
「ウソを真実として記事にしてまで明日を乗り切るつもりはないっ!それが私のジャーナリストとしての信念だ!」
「でもそれじゃあ!」
「ああ、日刊地球は、明日も休刊だ!」
「・・・・・・・・・編集長。」
「これでいい。何だかんだでまだまだ地球は、平和だ。平和を絵に描いた様なもんだ。さあ!恐竜絶滅以来の大スクープを掴みに行くぞ!」
はいっ!!」

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2013年10月23日 (水)

「第三百八十四話」

これは、始まりの石。この石は、実に不可思議な石。毎回毎回、目にする度に形や色や大きさを変化させる石。それは、前に目にした時の石と今回目にした時の石とが違う石だからではない。始まりの石は、この世界に1つしか存在しない石。それは、始まりの石に触れてみれば、それが、始まりの石なのか、ただの石なのかが分かる。始まりの石に触れたら最後、不可思議な世界へと誘われ、不可思議な体験をする。その物語がハッピーエンドになるのか、バットエンドになるのかは、誰にも想像出来ない。生きて元の世界へ帰って来られるのか、死んで元の世界へ帰って来るのか、不可思議な世界を永遠とさ迷い続けてしまうのか、それは誰にも想像出来ない。これは、始まりの石。今日もどこかで誰かが唐突に出くわす石。そしてその石は今日もまた、今まさに不可思議な世界へと誘おうと、河川敷で川へ石を投げ込んでいる少年の足元に無造作に普通の石に紛れて潜んでいた。少年が石に触れた瞬間、石を拾ったその瞬間、少年の不可思議な物語が始まる。やはりそれがどんな不可思議な結果になるのか、誰にも想像出来ない。
「チャポン!」
普通の石を投げ込まれた川には、普通の波紋が広がった。そして、少年は足元の石を見下ろした。無数の普通の石の中に1つの始まりの石が紛れた足元を見下ろした。
「・・・・・・・・・
。」
なぜ、少年は河川敷に居たのか?なぜ、少年は川へ石を投げていたのか?なぜ、少年の足元に始まりの石があるのか?偶然に少年は、この場所へと来たのか?必然と始まりの石に導かれてやって来たのか?想像は膨らむが、真実は始まりの石と同じように、たった1つしか存在しない。
「・・・・・・・・・。」
見るからに普通の石にしか見えない始まりの石の一点を少年は、なぜか見つめていた。グーにしていた右手がゆっくりとパーになると、少年はゆっくりと膝を曲げ、ゆっくりと右手を始まりの石へと伸ばしていく。
「・・・・・・・・・。」
もはや少年には、始まりの石を拾わないと言う選択肢は残されていない。

第三百八十四話
「 拾う
 →拾わない 」

少年は、鼻歌混じりの軽快なスキップで、家へと帰って行った。

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2013年10月30日 (水)

「第三百八十五話」

「ヒーロー?」
「はい。」
「・・・・・・ヒーロー?」
「はい。」
わしは、ジジイだ。ついさっき、わしは助けられた。道端で不良達にジジイだと言う理不尽な理由で絡まれていたこのジジイを今、目の前にいる普通の青年が救ってくれた。しかし、ジジイは驚いた。なぜなら、ジジイが普通の青年にお礼を言うと、普通の青年は自分はヒーローだと名乗ったからだ。この地球の平和を守るヒーローだと名乗ったからだ。どこにでもいる様な普通の青年がヒーロー?ジジイのピンチを救ってもらいながらも、わしは疑っていた。
「らしくない!何だかジジイには、難しくてそこんとこよくは分からんが、とにかくキミはヒーローらしくない!」
「ですよね。でも、始めたばかりなもので。」
「始めたばかり?」
「はい!」
「いつから?」
「さっきです!ジジイが、不良達に理不尽に絡まれているのを見てです!」
「わし!?キミがヒーローになろうと思ったきっかけは、わし!?」
「博士!」
「いやいやいや、おかしいだろ!絵空事としてのプロローグなら有りかもしれんが、これは現実だ。わしは、そこら辺にいる単なるジジイに過ぎん。博士でも科学者でも何でもない。」
「じゃあ、アダ名って事にしましょう!」
「まあ、アダ名って事ならいいだろう。」
「ありがとうございます!博士!」
「こちらこそ、理不尽に絡まれていたジジイを助けてくれて、本当にありがとう。そうだ!何か物理的なお礼をしなければならないな。」
「いえいえ、お礼だなんて結構です。理不尽に絡まれていたジジイを救う事はヒーローとして当たり前です!」
「そう言われてもそれではジジイ側の気が済まんのだよ。」
「だったら、お願いがあります!」
「ジジイで出来る事なら何でもするぞ。」
「僕は、これからヒーローとして一体どうして行けばいいのでしょうか!」
「ヒーローとして?」
「はい!」
「それをなぜにジジイに?」
「博士なので!」
「アダ名だろ?それは単なるアダ名なはずの契約だろ?」
「アダ名です!でも、博士から意見を聞きたいんです!」
「意見って、こんなジジイの意見を聞くよりも若者やちびっこの意見を聞いた方がいいんじゃないのか?」
「恥ずかしがり屋さんなんで無理です!」
「ヒーローなのにか!?だったら同じ年の友人とかに聞いたらどうだ?」
「友達いないんで無理です!」
「先行き不安なヒーローだな。」
「だから博士!お願いします!僕はヒーローとして、これからどうして行けばいいのでしょうか!」
「そう言われてもな。困ったな。」
「お願いします!」
「分かった分かった!分かったから土下座はやめなさい!ヒーローが土下座とかそこんとこよく分からんが、とにかく何かおかしいから!」
「ありがとうございます!」
「そうだな?ちょっと、さっきジジイに理不尽に絡んで来た不良を退治した時の決め技をやってみてくれるか?」
「パパパパーンチ!」
「何かそこんとこよく分からんけどな。そう言うヒーローの必殺技ってのはもっとこう、何々パーンチ!とか何々の部分に自分の名前なりを入れた方がいんじゃないか?そう、ジジイは思うな。」
「なるほど!でも博士!僕まだヒーローになったばっかりなので、名前がありません!募集中です!」
「募集中って!?存在も知られていないのに募集中って!?別に募集中にせんでも自分で考えたらいんじゃないか?」
「恥ずかしがり屋さんなんで無理です!」
「そこ恥ずかしがり屋さん関係あるのか?そもそも恥ずかしがり屋さんでヒーローが勤まるのか?」
「悪は絶対許しません!」
「分かった分かった。分かったからヒーロー圧やめてくれ。まあ、募集中でも構わんよ。」
「そうだ!」
「何か思い付いたのか!」
「博士が決めて下さいよ!」
「何でそうなるんだ!何でジジイがそんな大事な役回り任せられなきゃならんのだ!」
「何でジジイがそんな大事な役回り任せられなきゃならんのだ画伯、ですか!うん!いい!」
「いやちょっと待っておくれよ。色々だよ。色々と気になるよ。」
「はい、博士。」
「まず、何でジジイがそんな大事な役回り任せられなきゃならんのだ、って名付ける訳がない!で、何でジジイがそんな大事な役回り任せられなきゃならんのだ、のどこがいんだ!何で快諾なんだ!どこにヒーローネームの要素があったんだ!あと、一番は、何でジジイがそんな大事な役回り任せられなきゃならんのだ画伯、って、画伯って、何だ!」
「画家になるのが夢なんです!」
「だったら、その道を突き進みなさい!。」
「でも博士?美大を出て画家になって、画家で食べて行ける人なんて、ほんの一握りの人間だけですよ?」
「かと言って現実世界でヒーローで食ってってるヤツをわしは見た事がない!」
「でもヒーローは人助けが出来ます!」
「あのな?どんな仕事だって、人助けは出来る。画家だって人助けは出来る。それは確かに、こうして理不尽に絡まれていたジジイを救うって事じゃないかもしれん。だが、キミが描く絵を見て、頑張ろう!明日も生きよう!そう思う人間がいるはずだ!その人にしてみれば、そんな絵を描いたキミは、間違いなくヒーローだ。」
「嫌だ!」
「えっ!?」
「僕は!あからさまに人助けがしたいんです!」
「いやちょっと待ってくれよ。その気持ちが芽生えたのは、今さっきジジイが理不尽に絡まれていた時だろ?それ以前は、画家を志していたんだろ?それでいいじゃないか。今まで通り、画家を志しながら、時折見掛けた理不尽を救って行けばいいじゃないか。」
「・・・・・・・・・博士。」
「なっ?それでいいんだよ。あからさまにヒーローなんかしないでいいんだよ。画家の夢を追い掛けた方がいい。大丈夫!わしにとってキミは、立派なヒーローだ!」
「チョチョチョチョープ!って、新必殺技を考えつきました!」
「考えつきました、ってキミね・・・・・・・・・。パパパパーンチ、の次が、チョチョチョチョープって、せめて次は、キキキキーック、だろ。」
「なるほど!さすが博士だ!キキキキーック!か!だったら流れ的に次は、ビビビビーム!ですね!」
「だ、出せるのか!?ビームを!?それを早く言って欲しかった!そうなると話は別だ!」
「出せないです。」
「じゃあ、流れ的に嘘じゃないか!ヒーローが嘘はいかんだろ!」
「だから、とりあえず出るまでは、こう!ビビビビーム!ってのはどうです?」
「頭頭頭頭突ーき!だろ!あと、出るまでって、そこんとこよく分からんが、ヒーローを志したら、どっかのタイミングで勝手にビームが出て来る訳じゃないと思うぞ?って、画家の夢は!?」
「捨てました!」
「拾え!」

第三百八十五話
「ヒーローはじめました」

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