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2013年11月

2013年11月 6日 (水)

「第三百八十六話」

俺は、高速道路を北へ走らせていた。
「で?何で俺の出番なんだ?」
「すいません局長!明け方に、おっきな地震あったでしょ!」
「ああ、そうみたいだな。」
「みんな、あっちの方に行っちゃって、その後に電話が来たんです!」
「で、久し振りの休日に家族サービスしてた俺に連絡して来た訳か。」
「調べたら、現場の自動車スクラップ工場まで、一番近かったのが局長だったもんで!」
「だが、時限爆弾だろ?何でわざわざ危機管理局が出て行かなきゃならないんだ。警察の仕事だろ。」
「勿論その通りなんですが、爆弾が仕掛けられたスクラップ工場の回りにはいくつもの巨大なガスタンクや化学繊維工場などがあるんです!」
「また厄介な場所に仕掛けてくれたもんだ。」
「それに!」
「それに?」
「サイクロンが接近中なんです!」
「俺はなんてラッキーボーイなんだ。」
「とにかく上からは、現場に行って被害規模を把握してこいと言う事です!」
「はいはい。」
「宜しくお願いします!」
通信を切り、朝日が海をキラキラと照す光景を見ながら、今朝の悪夢を思い出していた。ビーチの見えるホテルで寝ていると部下からの緊急連絡で叩き起こされ、急いで支度をしながら今日のレジャーを全てキャンセルし、妻や二人の娘の冷たい視線を背中に浴びながらホテルを出た。
「・・・・・・最悪、離婚か?」
ジョークにもならないジョークを呟き、高速道路を降りると、問題の自動車スクラップ工場が見えてきた。確かに工場の回りには、時限爆弾が爆発したら、俺の離婚と同じぐらいの一大事がこの街を襲うだろう。おまけにサイクロン?これは今年最大のジョークだな。工場の周辺には、既に多くの警察や消防、マスコミの姿が見えた。爆発物処理班の姿も見えた。
「イタズラの類いじゃない訳か。」
仮にイタズラの類いだとしたら、今からホテルに戻れば家族のご機嫌を取り戻せたのに、と頭のどこかで考えていた。
「ん?」
工場に近付くにつれ、俺の車と工場に集まっていた車らが擦れ違って行く。
「どう言う事だ?」
工場に着き、俺は車から降りた。
「危機管理局の者だが、時限爆弾は?」
「行ってみれば分かるさ。」
近くにいた警官にそう言われると、彼が指差す工場の中へ俺は向かって行った。
「ん?」
工場の中には、スクラップ待ちの一台の黒いバンの前に、一人の完全装備の爆発物処理班の男が立っていた。俺は、状況を把握する為、男の元へ近付いて行った。
「で、状況は?」
「貴方は?」
「ああ、危機管理局の者だ。」
「見ての通りです。」
俺は、男が指差すスライドドアの中を見た。するとそこには、カウントダウンがデシタルに表示されてる時限爆弾が座席に置かれていた。
「これは!?」
「そうです。明らかに偽時限爆弾です。」
「はあ?偽時限爆弾?」
「チープな作りですよ。」
これが偽時限爆弾?しかもチープ?素人の俺には、さっぱり見分けがつかない。さすが、プロの目は違うな。などと感心してる場合じゃない!
「偽物なのか!」
「ええ。」
「だから、みんな現場から帰って行ったのか。」
「そうです。」
「アンタは帰らないのか?」
「これを処理したら帰ります。」
「そうか。偽物だったのか。」
よし、これで家族のご機嫌を取り戻せる。今から戻れば、少し遅めのランチには、間に合う。
「偽物だったんなら、危機管理局の出番もないよな。」
「ですね。」
「なら、俺も帰っていいんだよな。」
「お気を付けて。」
「じゃあな。」
俺は、車に向かって歩き出そうとした。サイクロンの事は、家族のご機嫌を取り戻してからでも、どうとでもなる。だが、微かに何か妙な雰囲気が漂っていた。
「で、アンタは一体何をしてるんだ?」
「ですから、爆発物の処理ですよ。」
「爆発物の処理って、ただ突っ立って偽時限爆弾を眺めてるだけじゃないか。」
「ええ、そうです。」
「偽物なんだろ?」
「ええ、偽物です。」
「だったら、こんなもん取り出して叩き壊しちまえばいいじゃないか。」
「なぜです?」
「なぜって、偽物なんだろ?偽時限爆弾なんだろ?」
「はい。」
「何かこう、偽物だって分かってても、カウントダウンされてるのを見てるってのは気持ちいいもんじゃないだろ。」
「そうですか。」
「万が一、って事があるかもだろ?」
「万が一、はありませんよ。偽物なんですから。」
「だったら取り出して壊さないか?」
「なぜです?万が一なら、それこそ、それこそですよ?」
「偽物なんだろ?」
「はい。」
「万が一、はないんだろ?」
「ええ、例え取り出して叩き壊したとしても爆発などしません。」
「だったら、取り出して叩き壊しちまおうぜ。」
「なぜですか?」
「その方が早いだろ?」
「早いって何ですか?」
「処理だよ。取り出して叩き壊した方が手っ取り早いだろ?」
「貴方は、危機管理局の方ですよね?」
「そうだ。」
「私は、爆発物処理班です。」
「そうだな。」
「この現場に、危機を管理するような事はありません。接近中のサイクロンの被害でも心配していたらいいのでは?」
「知らなかったのは俺だけか?旅行前から少し家族が不機嫌だった謎が解けたよ。」
「どうぞお帰りになって下さい。」
「いやまあ、そうなんだけどな。」
「何が、おっしゃりたいのですか?」
「一応、偽時限爆弾でも、処理されるまで見届けないと、と思ってな。」
「そうですか。大変仕事熱心な方なのですね。」
「いやいや、そんなんじゃないさ。」
「カウントダウンがゼロになるのを見ているのが、私の処理のやり方です。それに、あと五分です。待てませんか?」
「いや、分かってるんだよ。分かってるんだけどな。その道のプロが言うんだし、やり方はプロに任せた方がいいってのは、分かってるんだよ。」
「なら、私に任せて下さい。」
「絶対に爆発しないんだよな?」
「しません。」
「でもほら、100%じゃないかもしれないだろ?」
「100%ですよ。」
「だけど、プロも見誤るって事もあるかもしれないじゃないか。」
「見誤りません。これは、偽時限爆弾です。」
「でも、でもだぞ?爆発はしないかもしれないけど、違う何かが起こるかもしれないだろ?」
「例えば?」
「例えばそうだな?これはカウントダウンがゼロになったら」

第三百八十六話
「あと五分です。からの書き手の五分」

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2013年11月13日 (水)

「第三百八十七話」

「ありがとうございました!」
開店から30分。今のお客さんで、今日仕入れて来た白は、売り切れた。そして1つ、いつもの白が残った。
「すいません!」
間も無くして、物凄い勢いで、青年が店に飛び込んで来た。
「はい。」
「し、白下さい!」
「はい。」
「赤い白下さい!」
「赤い白は、売り切れました。」
「青い白は!」
「青い白も売り切れました。」
「黒い白も売り切れですか!」
「すいません。」
「そうですか。」
「でも、1つだけ残ってますよ。」
「本当ですか!それ下さい!その白下さい!」
「これです。」
「こ、これは?」
「純白の白です。」
物凄い勢いで店に飛び込んで来た青年は、肩を落として、また来ます、と言葉を残して、店を出て行った。開店から30分。ここから白屋の長い1日が始まる。店を始めて10年。私はいまだに、この純白の白を売った事がない。

第三百八十七話
「白屋」

「すいません。」
「はい。」
「その純白の白下さい!」
「えっ!?」
売れた。

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2013年11月20日 (水)

「第三百八十八話」

「先生ーっ!」
「おおっ!遂に俺の短編小説が大ベストセラーか!あの新作短編小説が大賞獲ったか!よっしゃあ!今日は飲むぞ!飲んで歌って!飲んで歌って!飲んで歌って鼻血出して!鼻血出して!鼻血出しまくるぞーっ!」
「飲んで歌うのは構いませんが、鼻血は出さないで下さい。大体、まだ発売されてない新作短編小説が大ベストセラーになったり、大賞を獲る訳がないじゃないですか。それと、飲んで歌うのは、その後にして下さい。」
「発売されてない?それはおかしいぞ?だって俺は昨日、完成させた新作短編小説を顔はカワイイけど、取り柄は足が速いだけの出版社の使い走りである編集者のお前に渡したはずだ。」
「悪かったですね!顔はカワイイのに取り柄が足が速いだけで!先生?ご自分でおっしゃってて、おかしいと感じませんでした?」
「・・・・・・・・・・・・・・・特に?」
「何で昨日、渡された作品が、今日になって大ベストセラーとか大賞を獲れたりするんですか!って、こんな当たり前の事、2度も言わせる事じゃないですよね?」
「違うのか?顔はカワイイけど、取り柄は足が速いだけの出版社の使い走りが、勢いよくドアを開けて、先生ーっ!と入って来る!新作短編小説が大ベストセラーになったり、大賞獲ったり以外、他に何かあるのか?」
「全然違いますよ!私は、使い走りではありません!」
「なら、顔はカワイイけど、取り柄は足が速いだけ、のお前は、一体何をしに来たんだ?」
「もちろん!先生へ作品の書き直しをお願いしに来たんですよ!この新作短編小説の!」

「・・・・・・・・・えっ?」
「お願いします!」
「断る!」
「お願いします!!」
「断る!!」
「先生!書き直さないなら、この作品は世に出ないんですよ!大ベストセラーや大賞を獲る以前の話ですよ!」
「お前はあれだな。顔はカワイイけど、心はウンコだな。いや、ウンコ以下だ!」
「ウンコに心があるんですか!」
「ウンコに心はないんですか!」
「何で聞いてる私に聞き直すんですか!ウンコに心なんてある訳ないでしょ!」
「そう言うところがウンコなんだよ。」
「だぁぁぁぁぁぁ!もう先生と話してると頭がおかしくなりそうです!いいですか!とにかく作品を書き直して下さい!」
「おい、ウンコ。」
「女子に付けるアダ名じゃないでしょ!てか、人に付けるアダ名ではない!」
「その書き直しってのは、上層部の見解か?」
「いいえ!一晩、作品を預かり!その内容を吟味した上での私の独断です!」
「死ね!」
「はあ?」
「すぐ死ね!今死ね!死んで生き返って、生き返ってるか生き返ってないかの丁度中間のまさにその瞬間に、もう一度死ね!」
「何で私が死なないといけないんですか!」
「顔がカワイイだけで!たったそれだけの事で!そんなありふれた長所で!チヤホヤされて今まで世の中を生きて来たお前が!俺の作品を一晩吟味して?独断で書き直しを要求してきた?死だろ!そこには死しかないだろ!」
「あるでしょ!それ以外のたくさんの選択肢があるでしょ!」
「ほお?なら、カワイイだけで、チヤホヤされて今まで世の中を生きて来た、事は否定しないお前の意見を聞いてやるよ。」
「そのたくさんある選択肢の中のもっとも有力なのは、作品を書き直す事です!」
「その選択肢はない!」
「ある!」
「ない!」
「この選択肢しか有り得ません!」
「何でだ!何で俺は魂込めて書き上げた作品を書き直さなきゃならないんだ!顔がカワイイだけで、取り柄は足が速いだけのお前が独断で決めた書き直しに従わなきゃならないんだ!簡潔に述べよ!」
「意味不明。」
「何だと?」
「意味不明なんですよ。この新作短編小説。」

第三百八十八話
「日月火水木木金土」

「これのどこが意味不明なんだ!」
「何で木曜日が2日あるんですか?」
「おいおいおいおい?正気か?そこか?お前、そこから否定したら、恋愛小説を読んで、何でコイツはコイツに恋をするの?推理小説を読んで、何でこの探偵は犯人を突き止めたの?スポ根小説を読んで、コイツら何で野球してんの?って疑問を持つのと一緒だぞ!」
「違うでしょ!」
「違わない!木曜日が2日ある!それはこの短編小説の世界観だー!」
「ある日突然、世界の曜日が増えた。木曜日が連続した。」
「引き込まれる出だしじゃないか!」
「確かに引き込まれる人は引き込まれるかもですけど、引き込まれない人は引き込まれませんよ?」
「当たり前の事を長々とバカ丁寧に説明すんな!美味いもんは美味い!不味いもんは不味い!好きな人は好きな味、なんて言っちゃう大バカ野郎か!」
「木曜日が2日って、木曜日が2日じゃない方がいいんじゃないですか?」
「やれやれ、これだから顔がカワイイだけで、取り柄は足が速いだけのヤツは参るよ。」
「いやいやいや、曜日が増えたってとこは、確かに興味をそそるんですよ。」
「だろ!」
「ただ、日月火水木木金土、じゃなくて、例えば、日月火水木時金土、とか?」
「ああ、何か違うヤツを入れる的なアレか。でもここはシンプルに、日月火水木木金土、の方がいんだよ。あえてな。」
「だから、シンプルだったら、日月火水木時金土、の方がいいじゃないですか!」
「何がシンプルなんだよ。」
「だって、結局これって木曜日と金曜日の間の日は、存在していたけど、その日は、実は時間が止まっていて、誰も気付いていなかった。でも、主人公だけが、謎の曜日を動く事が出来る。って話ですよね。」
「お前、やっぱバカだろ。顔はカワイイけど、心がウンコなお前より!俺は、ウンコだけど、臭くないウンコと仕事がしたかったよ!」
「とどのつまりウンコですよ?ウンコは、何もしてくれませんよ?」
「何もしてくれないで結構!ウンコは俺の作品に対して余計な口出しして来ないからな!いいか?日月火水木時金土、なんてタイトル付けてみろ!ネタバレも甚だしいだろ!」
「そのオチも意味不明なんですけど。」
「おい無視か!実は、主人公だけが、時が止まった謎の曜日を動けたんじゃなくて、その曜日にしか動けなかったんだ。」
「はあ?ですよ。」
「そう言う!はあ?を宿すのが短編小説の醍醐味だろうが!」
「ウンコですね。」
「お前がな!何でウンコに俺の作品をウンコ扱いされなきゃならないんだ!」
「誰かに恋をしたり、誰かが犯人を突き止めたり、分かりやすい盛り上がりが欠けるんですよね。」
「おい、マジで短編小説を理解してんのか?」
「してます!」
「誰かに恋をしたり、誰かが犯人を突き止めたり、いきなり誰かに突き付けられた余命だったりな話が読みたければ!誰かに恋をしたり、誰かが犯人を突き止めたり、いきなり誰かに突き付けられた余命な作品を読めばいいだけの話だろうが!ただ淡々と、盛り上がりもなくただただ淡々と、誰かの頭に、はあ?を宿すのが短編小説なんだよ!」
「ゲリですね。」
「ウンコが違った表現で俺の作品をウンコ扱いしてんじゃねぇよ!」
「で、この主人公って、この事実を知った後って、どうなったんですか?」
「そう言うのはな?読み手が各々、考えるんだよ。」
「なるほど。」
「そこからが読み手の想像力の腕の見せ所だよ。」
「なるほど。」
「お前みたいに、顔がカワイイだけで、取り柄は足が速いだけのヤツなら、どう想像する?」
「私なら・・・・・・・・・?」
「・・・・・・・・・お前なら?」
「とりあえず、お風呂に入ったと想像しますね!」
「はあ?」
「だってこの主人公、作品中に1度もお風呂に入ってないんですよ?だから先生!お風呂に入れてあげて下さい!」
「まさか!?お前?」
「書き直して下さい!」
「まさかだよな?」
「これが1番、意味不明だったんですよね。」
「そこかーっ!」
「はいっ!」

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2013年11月27日 (水)

「第三百八十九話」

「ん?」
風呂から上がると、秘書兼助手がビール片手にテレビを観ていた。
「ああ、所長。」
「ああ、所長じゃねぇよ。朝っぱらからビール片手にテレビ観てる女子がこの街でなんて呼ばれてるか知ってるか?」
「美女?」
「クズだ!」
「残念。でも所長だってビール飲んでるじゃないですか。」
「風呂上がりには、ビールだろ!」
「と言うか、何で所長、朝からお風呂に入ってるんですか?確か、夜派でしたよね?」
「それがな。何かよく分からねぇけど、とにかく風呂に入らなきゃ!って思ったんだよ。」
「へぇ~。相変わらず不思議な方ですね。」
「プハーッ!」
「そうそう。不思議と言えば観て下さいよ、テレビ!この方も所長に負けず劣らず不思議な方ですよ!」
「ん?」
「どうです?」
「行くぞ!」
「はあ?行くってどこにですか!」
「そこだよ!」
「テレビ・・・・・・の中ですか?」
「アホか!さっさと用意しろ!」
最果ての街、欲望の街、逆転の街、人の数だけ、この街の呼び名があるって言うが、本当にあるんだろうか?まあでも、あるって言うんだから、あるんだろうな。そんな街で俺は、探偵をしている。職員は、秘書兼助手しかいないちっぽけな探偵事務所だ。こんな腐った街だから、警察なんてもんが機能してる訳がねぇ。噂では、この街にも真っ当に悪人を裁く警察もいるって聞いた事があるが、俺はいまだにそんな聖人にお目に掛かった事がねぇ。まああれだ。だからって訳じゃねぇけど、探偵の俺は、この街で勝手に事件を掘り起こしては、勝手に解決してるって訳だ。
「ツイてるぞ!」
「ツイてる?何もツイませんよ?」
「頭にじゃねぇよ!これはあれだな!朝から風呂に入ったご利益だな!」
「雨も降ってないのにラッキー?ああでも、雨が降ってたらアンラッキー?不思議な方ですね。」
「おめぇの方がよっぽど不思議ちゃんだ!」
車の中で、秘書兼助手と下らない会話をしてると、お目当ての場所に着いた。
「ビュ~ティフォ~!」
「感動してねぇで行くぞ!」
「所長!アタシ、ちょっとあちらに用が!」
「お、おい!勝手に行くんじゃねぇよ!あちらに用はねぇんだよ!こちらだ!こちら!」
その老人を収容する施設は、めちゃくちゃ立派に聳え建っていた。秘書兼助手が感動するのも頷ける。一体いくら稼げば、老後をこんな場所で優雅に過ごせるんだ?1つだけ言える事は、この中にいる全員、真っ当な人間じゃないって事だな。
「お邪魔します。」
俺は、施設の中でも1階の1番奥にある1番立派な部屋、1104号室を訪れた。
「・・・・・・・・・。」
「ああ、そのままで構いませんよ。そのままでね。でもあれですね?部屋の外は、あんなに警備が厳重なのに、部屋の中は、貴方だけなんですね。申し遅れました。俺は、このイカれた街で探偵をやってる者です。」
「・・・・・・・・・。」
「で、あの庭で珍しい蝶を追い掛けてるのが、って蝶に追い掛けられてんじゃねぇか!」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・あれは、俺の秘書兼助手です。んまあ、特に気にしなくて結構です。気にしだしたらキリがないんでね。気になっても気にしないで下さい。」
「・・・・・・・・・。」
「ところで、こんな超豪華なとこに入れるって、一体どんな悪事を働いたんですか?」
「・・・・・・・・・。」
「こりゃあ失敬!いやあ、先入観ってのは厄介ですな!探偵なんかしてると先入観ばっかりですいません。」
「・・・・・・・・・。」
「この街に生きてると、擦れ違う人間、擦れ違う人間、殺人者に見えて仕方ないですよ。でも、殺人者とクソ野郎とを見分ける方法を知ってるんでね。大丈夫です。擦れ違う度に撃ち殺したりなんかしません。」
「・・・・・・・・・。」
「笑顔。」
「・・・・・・・・・。」
「笑顔で分かるんですよ。まあ、事前に資料なんかを見て、殺人者の笑顔を見てないとですけどね。ほら、こんな話、知りません?人間だけが地球上で唯一、笑う動物だ。とか話。」
「・・・・・・・・・。」
「だからね?どんなに整形しようが、体型や性別を変化させようが、根本にある笑顔っては変化させようがないんですよ。」
「・・・・・・・・・。」
「勿論、科学的や医学的、生物学的な根拠なんかありませんよ。これは俺が長年、この街で暮らして来て編み出した業です。まあ、きっと腐りきったこの街でしか通用しない限定業でしょうけどね。」
「・・・・・・・・・。」
「単刀直入に伺います!」
「・・・・・・・・・。」
「ジイさん?この180年前の連続殺人事件の犯人なんだろ?」
「・・・あ・・・・・・ああ。」
「笑っちゃったんだよなぁ?つい?嬉しくて?笑っちゃったんですよね?それを俺がたまたまテレビで見ちゃったんですよ。」
「あああああ!」
「その外で居眠りしてる警備を呼ぶそれは、つまりあれですよね?お認めになられたって事でいいんですよね?」
「あああああああああ!!」
「もっと早く死んでれば、伝説になれたかもしれなかったのにねぇ?長生きはするもんじゃねぇなぁ?」
「!?」
「バン!」

第三百八十九話
「スリーティーズ・シティ・TV」

「てか、何で所長、朝からお風呂に入ってるんですか?確か、夜派でしたよね?」
「それがな。何かよく分からねぇけど、とにかく風呂に入らなきゃ!って思ったんだよ。」
「へぇ~。相変わらず不思議な方ですね。」
「プハーッ!」
「そうそう。不思議と言えば観て下さいよ、テレビ!この方も所長に負けず劣らず不思議な方ですよ!」
「ん?」
「どうです?」
「何が?ジイさんが、この街1番の殺人者からメダルやら盾やら賞状を貰ってるだけじゃねぇか!」
「この街1番の殺人者って!市長さんでしょ!」
「だから、何なんだよ。何でこんなジイさんとこに、わざわざこの街1番のグズが?」
「市長さんですってば!何でって!昨日がこのお爺様の200歳のお誕生日だったからですよ!」
「ブーッ!200歳!?」
「汚っ!ビール吹き出さないで下さいよ!」
「吹き出すだろ!200歳ってマジか!」
「マジです!ほら、市長さんと並んで写真撮影して、とっても嬉しそうですよ!あ、所長も300歳まで生きれば市長さんの側に近付けるんじゃないですか?」
「行くぞ!」
「はあ?行くってどこにですか!」
「そこだよ!」
「テレビ・・・・・・の中ですか?」
「アホか!さっさと用意しろ!」
最果ての街、欲望の街、逆転の街、人の数だけ、この街の呼び名があるって言うが、本当にあるんだろうか?まあでも、あるって言うんだから、あるんだろうな。そのノリで言わしてもらうんなら、有名になっちゃいけない街、だ。
「お邪魔しま~す。って、所長!遂に殺してしまったんですか!?」
「アホか。空砲だ。こんだけチューブまみれのジイさんだ。強い光を見ただけでも心臓麻痺だろう。」
「ならやっぱり空砲殺人では!?」
「アホ。そもそもジイさんは、俺が空砲を撃つ前に罪の意識の重圧が引き金になって心臓麻痺で自ら絶命の道を選んだ。」
「ならばなぜ、撃ったのですか?」
「ノリ?」
「所長?いい加減に、あらゆる策を練って殺人者を自殺的な方向に追い込むと言う面倒臭い方法をやめて、頭に銃弾を撃ち込まれたらいかがでしょう?」
「やっぱりアホだなぁ?それじゃあ、俺も殺人者じゃねぇか。しかし、盲点だったと言うかなんと言うか、180年前の殺人事件が掘り当てられるとはな。こりゃあ、事務所に帰ったら根本から資料の読み直しだな。って、その前にだ。俺達の防犯カメラの映像の削除を頼む。」
「もう、完了しました。」
「はっはっ!やるな。」
「あと、外で眠ってる警備の方々の一部記憶の削除も完了してます。」

「さすがだ。よし、帰るぞ!」
「はい。」
「ああ、それとな。」
「はい?」
「俺が300歳の時には、街1番のクズはさすがに死んでるだろ。」
「ああ、ですね。」
「大体、お前の技術でそろそろどうにかならねぇのかよ。」
「市長さんのセキュリティは完璧です。もう少し時間を下さい。」
「俺が生きてる間に何とかしてくれよ?」
「はいっ!」
「さあ、帰ってまずは風呂にでも入るかな!」
「またですか~!」

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