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2014年1月

2014年1月 1日 (水)

「第三百九十四話」

 小さな男の子が眠るその家には今、サンタクロースが二人いる。
「こりゃ驚いた!?先客がいたとはな。」
年老いたサンタクロースと
「おいおいおい、先客がいたかじゃねぇだろ?」
中年のサンタクロース。

第三百九十四話
「サンタクロースルール」

「で?もうプレゼントは、靴下の中に入れてあげたのかな?」
「リビングにあるデカいツリーに付けられてる靴下の中にプレゼントを入れようとしたまさに今、アンタが後ろから話し掛けて来たんじゃねぇか。」
「ほうほうほう。そうか。さあ、ワシに遠慮する事はない。プレゼントを靴下に入れてあげなさい。」
「おいおいおい?ジイさん。アンタ、笑い事じゃないだろ?その歳で知らない訳ないよな?」
「サンタクロースは、子供が眠る家に同時に二人以上存在してはならない。」
「そうだ。サンタクロースルールの基本中の基本だぞ?オレのソリと目印の存在に気付かなかったじゃ済まされないぞ?」
「今日は、随分と冷え込むと思ったら、ほら窓の外を見てご覧なさい。いつの間にか、ホワイトクリスマスになっているじゃないか。」
「人の話、聞いてんのか?」
「この家の小さな男の子は、ちゃんと暖かくして寝ているかね?プレゼントはやはり、車のオモチャか?それとも、ロボットのオモチャかな?」
「いい加減にしろよ?ジイさん、アンタ一体何が目的なんだ?」
「サンタクロースの目的と言ったら、サンタクロースルールの最初にある、サンタクロースは子供達を笑顔にするプレゼントを贈る、だろ?」
「ああ、そうだな。だけど、オレが言いたいのは、そう言うサンタクロースルールじゃない。」
そう言うと中年のサンタクロースは、大きな袋の中から、銃を取り出し、年老いたサンタクロースに向けた。
「ワシを撃つのか?」
「撃つか撃たないかじゃないだろ?撃つんだよ。この場合、それ以外の選択肢なんか存在しねぇじゃねぇか。」
「小さな男の子が眠っているこの家で、ワシを撃つのか?サンタクロースがサンタクロースを殺すのか?」
「小さな男の子がいるからこそだろ?」
「なるほど、まあそれもそうだな。」
「何のつもりだ?」
年老いたサンタクロースもまた、大きな袋の中から銃を取り出し、それを中年のサンタクロースに向けた。
「ワシが殺されないようにするには、これしか方法がないだろ?」
「権利はオレにある!先に家に入ったのはオレじゃねぇか!」
「権利?そんな権利は存在しない。聖なる夜の極稀な奇跡的状況下に置いて、権利なんてものは存在しない。サンタクロースルール、もしサンタクロースが子供が眠る家で会話を交わしてしまった場合、サンタクロースが一人になるまで殺し合う、それがお前さんの大好きなルールだろ?先にいた者の権利などない。」
「ふざけるな!」
「ワシは、ふざけてなどいない。サンタクロースに与えられた平等な権利を言ったまでだ。それより、そんな大声を出したら、小さな男の子が起きてここへやって来てしまうぞ?」
「起きる?ジイさん、アンタがこの家に入って来た時点で、子供の眠気は覚め続けてんだよ!非常事態なんだよ!呑気に後ろからオレに話し掛けてる暇があったら!お互いにお互いを認識する前に、とっととこの家から出て行くんだったな!」
「昔から不思議に思っていた。なぜ、サンタクロースがこうして二人以上存在してしまうと、眠りに誘う力が失われてしまうのか?それも寄りにも寄って子供達だけにそれは働いてしまう。」
「昔話に華を咲かせてる場合じゃねぇんだよ!こんな事をしてる間に!もう既にそのドアの向こうに男の子が突っ立ってるかもしれねぇだろ!」
「皮肉なもんだ。ある種のリスクのようなモノなのかもしれないな。或いは、矛盾のような力が働いてるのかもしれないな。」
「この世の真理についての不条理で理不尽な苦情なら!あの世に行って神様にたっぷりと聞かせてやってくれ!」
「サンタクロースが殺し合わなければならないこの状況、1つだけ回避する方法があるとしたら、お前さんどうする?試してみたいと思わないか?」
「何だと!?」
「それはまだ、誰も試みた事のない方法。いや、どんなサンタクロースも考えに及ばない考え。」
「あるのか?そんな方法が!?」
「おそらく、もうすぐあのドアの前に立つであろう小さな男の子が、ドアを開けて我々の姿を目にする前に、撃つ!」
「ジイさん、アンタ一体何を言ってんだ!」
「サンタクロースは、子供に姿を見られたら灰になる。それがサンタクロースルールだ。しかし、その元凶を排除したらどうなると思う?」
「バカな!?オレ達は、サンタクロースだぞ!サンタクロースが子供を殺すなんてあっちゃならない!」
「知りたくないか?この真理の真実を?サンタクロースは、子供を殺す事が出来るのか?」
「ジイさん、アンタまさかそれが狙いで、わざとこの家に入って来たのか!?わざとオレに話し掛けたのか!?」
「そうだ。」
「ふざけるな!」
「躊躇ったな?ワシを撃つその一瞬の躊躇いもまた狙いだった!」
年老いたサンタクロースがドアの方へ銃を向けると、ゆっくりとドアノブが動いた。
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「さあ、真理の真実を!ん?」
「・・・・・・ジイさん、アンタ、バカヤロウだよ。」
「なぜだ!子供に姿を見られていないのに、なぜワシの体が灰に!?」
「出来る訳がねぇだろ?オレ達はサンタクロースなんだぞ?」
「うおおおおおおおおおお!!」
「ジイさん、まったく最高のプレゼントじゃねぇか。お互いにとってのな。」
「き、きさまあああああああああ!!」
「オレも知りたかったんだよ。サンタクロースが子供を殺そうと本気で実行しようとした瞬間、一体何が起こるのかをな。メリークリスマスだ。ジイさん。」
年老いたサンタクロースは、灰になり煙突から吸い出されて行った。
「・・・・・・ギリギリだったな。」
サンタクロースは、子供を殺す事は出来ない。それはサンタクロースルールに記載すらされる事のない基本中の基本。

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2014年1月 8日 (水)

「第三百九十五話」

「えっ!?」
「ん?」
「はい?」
「うん!」
「いや、うんじゃなくて!納得出来ない納得出来ない!何か、漫画みたいな展開になってるけど、えっ?夢?」
「うん!」
「いや、夢じゃないだろ、これ!だってさっきから、鎖骨グリグリしてるけど!スゲェ激痛だもん!」
「じゃ!」
「じゃ!じゃないよ!パタパタしてどこへ行くつもりだよ!」
「天国!」
「えっ?死神?もはや死神?ある意味、死神なの?」
「こんなエンジェルちっくな死神がいると思うかい?仮にもし、こんなエンジェルちっくな死神がいたとしたら、それはもうエンジェルと死神の境界線が無くなっちゃって、いろんな事がいろんな風に、いろいろパニックだよ。朝が夜で、朝が朝、みたいな!」
「それは単なる白夜だろ?いやもう、死神だの天使だのって、どうでもいんだよ!」
「じゃ!」
「いやだから!パタパタしてどこへ行くつもりだよ!」
「足首掴まないで!」
「いやいやいや、掴むだろ!この状況下でパタパタしてどっか行くタイミングなんか見当たらないだろ!絶対に放すもんかだろ!」
「その台詞は、彼女に言って上げたらどうだい?」
「どうだい?じゃない!ニヤニヤしながら、どうだい?じゃない!死んでるよな?」
「う~ん?」
「これ、どう見ても、どう考えても、死んじゃってるよな?」
「う~ん?」
「動かないもんな!」
「大丈夫!」
「いや、どんな自信!?胸に矢が突き刺さった瞬間、有り得ないぐらい力無く地面に倒れたよな!」
「そう?」
「血が有り得ないぐらい出ちゃってるよな!」
「そう?」
「そもそも彼女、呼吸してないよな!」
「そう?」
「そうだよ!全部そうなんだよ!鎖骨グリグリしながら確認したから夢じゃないんだよ!全部!」
「そう?」
「疑問病か!首傾げブーム到来か!何なんだよ!」
「じゃ!」
「いやだから何で、何一つ解決してないのに、パタパタして帰ろうとすんだよ!いろよ!ここにいろ!」
「翼を掴まないで!」
「掴むよ!掴むに決まってるだろ!これじゃあ、俺は単に彼女の暗殺をお前に依頼した男みたいくなっちゃってんじゃんねぇか!」
「そう?」
「そうだろ!お前が目の前に突然現れて、僕は恋のキューピッド!愛しのあの子と結婚させちゃうぞ!とか言うから、愛しのあの子が毎朝通る、この愛しのロードの愛しの電信柱で隠れて待ってたら、愛しのあの子が前から来て、で、お前が矢で愛しのあの子の愛しの胸を貫いたんじゃないか!したら、これだよ!こんな事になっちゃってるよ!もう半べそだよ!」
「違う!」
「何がだ!」
「僕は恋のキューピッド!愛しのあの子と結婚させちゃうぞ!きゃぴ!って、言った。」
「そこかよ!確かに言ったよ!確かにそう言ったよ!でも、この状況下で説明する時に、きゃぴ!とか、声の高さとかビブラートとか完コピで言えるか?何かよく分からないけど!不謹慎だろ!」
「じゃ!」
「ここでお前が帰ったら、暗殺を依頼した男じゃなくて!単に彼女を殺した男になっちゃうだろが!」
「輪を掴まないで!」
「掴むよ!掴めた事にビックリだけど!掴むんだよ!」
「痛い痛い痛い!」
「痛いのかよ!輪って、そんな感じかよ!そう言う連動なのかよ!」
「分かったよ!キミが言いたい事は分かった!」
「頼むよ。」
「ご飯だよね?どこ行く?」
「何で、こんな状況下で俺は天使とメシ食いに行きたがってると思ってんだよ!」
「中華?」
「中華じゃない!何で話がメシ食いに行く方向にねじ曲がってんだよ!そうじゃねぇの!そうじゃないんだよ!彼女を生き返らせてくれって話だよ!」
「そう来ますか。」
「この場合、どう考えたって、そうしか来ないだろ!」
「そう?」
「そうだよ!」
「キスしてみたら?」
「はあ?」
「口付けだよ。チューしてみなよ!」
「えっ?そう言う感じ?そう言うシステムなの?キスして、彼女が目を覚ましたら、俺の事が好きになってる的な?」
「うんうん!」
「そして二人は、めでたく結ばれました的な?」
「そうそう!」
「幸せに暮らしましたとさ的な?」
「イエスイエス!」
「キス?」
「イエス!」
「ここで?」
「キス!」
「いいのか?」
「オーケーオーケー!」
「何かよく分からないけど、これっていいのか?」
「どーぞどーぞ!」
「キス?」
「ああああ!じれったい!男らしくないなぁ!」
「イライラするなって。」
「キミがしないなら、僕がしちゃうぞ!」
「何でだよ!ただただ、何でだよ!」
「だったらほら、キース!キース!キース!」
「同僚かよ!結婚式で浮かれた同僚気分かよ!わ、分かったよ。するよ。」
「ドスケベ!」
「何でシステムに従おうとしてるだけなのに、罵声を浴びせられなきゃならないんだよ!」
「さあさあ!」
「分かってるよ!・・・・・・ごめんね。こんな感じでいきなりキスして・・・・・・。」
「ジーッ!」
「いや何で有り得ないぐらい至近距離でキスを見てんだよ!お前の方がドスケベだろ!」
「仕方無いでしょうが!」
「ああ、そう言うシステムなのか。あれな。儀式的な?」
「個人的な興味!」
「興味かよ!やっぱドスケベじゃねぇか!」
「しないの?僕、しちゃうよ?」
「いや、それ絶対に意味不明だからやめてくれ!今までの葛藤とか台無しになるから!」
「だったら早く!」
「わ、分かってるよ!」
「ワクワク!」
「本当にこんなカタチで、ごめん。」
「ワクワク!」
「・・・・・・・・・。」
「ワクワク!」
「・・・・・・・・・。」
「ワクワク!」
「うっせ!ワクワク過ぎてワクワクが口に出ちゃってんだよ!」
「ごめん。」
「・・・・・・じゃあ、改めまして。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「あっ!」
「な、何だよ!?」
「キスした後、しばらく有り得ないくらいのゲボ出ちゃうから。」
「彼女からゲロ吐いちゃうって、このシステムの考案者おかしいだろ!」
「違うよ。」
「俺から?」
「僕から!」
「お前からかよ!だったらだって、マジでこの距離感おかしいだろ!二人ともゲロまみれじゃねぇか!」
「代償?」
「何の!何の代償だよ!彼女、意味分からないだろ!目覚めてゲロまみれって!とんだ連帯責任だよ!」
「やめる?」
「するよ!」

第三百九十五話
「恋は、甘酸っぱい」

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2014年1月15日 (水)

「第三百九十六話」

 女が辿り着いた場所は、ビルの屋上。柵に手を置き、下を覗き込み辺りを見渡していた。
「何ででしょう?なぜか、こう言う追跡劇の果てに辿り着く場所がビルの屋上になってしまうのは?」
女が辿り着いてすぐ、男が屋上へやって来た。
「さあ?貴方、刑事?」
「まあ、一応。そう言う貴女は、オーガンプラスですよね?」
男は、ゆっくりと女の方へと歩き出した。

第三百九十六話
「オーガン・プラス」

「はあ?オーガンプラス?意味が分からないわ。てか、何でアタシが刑事に追われなきゃならないの?」
「なるほど。惚ける方向ですか。じゃあ、刑事らしく聞き直しますが、貴女、殺人犯ですよね?」
困惑する女と呆れる刑事。その距離は、一定に保たれていた。
「ちょっと何よいきなり!?どうしてアタシが殺人犯な訳!」
「そっちも惚ける方向ですか。」
激怒する女と呆れる刑事。
「いや、そっちとかこっちとかあっちとかじゃないわよ!別に惚けてないわよ!ちょっと待って?貴方、本当に刑事なの?まさか、貴方が殺人鬼なんじゃないの!アタシを殺そうと、こんな場所に追い込んだんじゃないの?」
「まあ、別の角度から見たら或いは、僕も大量殺人犯かもしれないですね。」
「アタシを殺すって言うの!?」
「今のところ、オーガンプラスに対しての対処法が即処刑って方法しかないので、そうなります。」
「そのさっきから言ってるオーガンプラスって何なのよ!アタシはただの雑貨屋よ!」
「知ってます。北欧の雑貨を取り扱っている雑貨屋さんのオーナーさん。」
「そうよ!」
「いつからですか?」
「5年前からよ。」
「ではなくて、オーガンプラスになったのは、いつからですかと聞いたんですよ?」
「ねぇ?帰っていい?明後日から現地に仕入れに行かなきゃならないの。その準備とかで忙しいの。刑事さんの訳の分からない話に付き合ってる暇なんてないのよ。」
「だから、今日なんですよ。海外に逃げられたら、手出し出来なくなってしまいますからね。」
「帰るわ!貴方の妄想話に付き合ってる暇なんかないの!」
女は屋上の出入口の方に、少し早足で向かった。
「やれやれ。」
そう言う刑事の横を通り過ぎ、屋上の出入口へと向かった。そして、辿り着いた出入口の前に立ち、最後に一言言ってやろうと刑事の方を振り向いた。
「な、何してんの!?」
刑事は、銃を女に向けていた。
「だから、言いましたよね?今のところ、オーガンプラスに対しての対処法が即処刑って方法しかない、と。」
「何なのよ!いい加減にしてよ!オーガンプラスって何よ!アタシ、そんなんじゃないわよ!」
「貴女、右手からマグマが出せますね?」
刑事は、拳を握って左手を女の方へ突き出した。
「はあ?」
「それが、オーガンプラスです。まあ、どこかの偉い研究者達が勝手に名付けただけですけどね。聞いた事ないですか?超超能力って?」
「スプーンを曲げるとか念写とか?」
「それは、超能力です。超超能力と言うのは、時間を止めれたり、無機物に生命を与えたり、あらゆるモノを爆発物に変化させられたり、右手からマグマが出せたり、などなど。」
「意味が分からない。とても意味が分からない。」
「そう言う、超超能力を使える者の事をオーガンプラスと言うんです。オーガンプラス、つまりは、普通の人より体内に臓器がプラスされているんです。まあ?臓器と言っても、正確には臓器のようなモノであって、臓器ではないんですけどね。ただ、その臓器のようなモノによって、超超能力が引き出されているのは事実です。そして、貴女の場合、超超能力で右手からマグマを作り出せると言う訳です。」
「頭、大丈夫?」
「行方不明の彼氏、貴女が右手から作り出したマグマで、溶かしちゃったんですよね?違いますか?彼氏だけじゃない。友人や親戚、隣人や赤の他人、貴女の回りの行方不明の人間全てを!遡ればそれは、小学生時代、同級生から。貴女、一体いつからオーガンプラスなんですか?」
「証拠は、あるの?行方不明の人を全員アタシが殺したって証拠は、あるの?」
「無いです。」
「はあ?証拠も無いのに、アタシを殺人犯だって言ってるの!」
「正確には、実際の証拠はありません。データ的な証拠だけです。」
「データ的?」
「昔は、分からなかったんですが、今は時代が進んだんです。その人間がオーガンプラスかそうではないかが確率的に分析出来るんです。そのオーガンプラスが、どんな超超能力を使えるのかまでもです。勿論、全てのオーガンプラスが、超超能力を犯罪に使っている訳ではありませんがね。」
「その分析が間違ってる可能性だってあるじゃない!」
「なるほど。そう疑ってきますか。しかしね?分析力は、100%なんですよ。間違いはないんですよ。有り得ないんですよ。そう言う時代なんですよ。科学力、なめてもらったら困るんですよ。つまり、貴女は完全にチェックメイトなんです。」
「そうかしら?」
女は、右手を刑事に向けた。
「ああ、僕をマグマで溶かしちゃうって訳ですか?」
「さあ?」
「いやいや、やる気まんまんですよね?」
「一人でアタシを追跡して来たのが、間違いだったわね。さようなら。」
女の右手から出たマグマは、刑事を包み込んだ。
「バカね。」
「バカは、貴女です。」
「えっ!?」
女は、声のする後ろを向いた。そこには、さっき目の前でマグマに包み込まれた刑事が立っていた。
「僕の超超能力は、ドッペルゲンガー、もう1人の自分を作り出せるんです。そうやって、貴女がオーガンプラスである決定的な証拠を掴むんです。」
「何ですって!?」
「僕は、沢山の嘘を付きました。申し訳ありません。いくら時代が進んだって、分析力100%は有り得ません。確かにウチの分析官は、とても優秀なオーガンプラスです。しかし、最終的には、やはりこうした足での捜査が基本です。」
「バン!」
そう言い終わると、刑事は女の左肩を撃った。
「や、やっぱりバカは貴方よ。この距離で外すなんて、致命的過ぎるでしょ。しかも、銃が撃てるって事は、貴方は本物。アタシは、この距離で外すなんてバカな事はしないわよ?」
「・・・・・・・・・。」
「死ね!!」
「・・・・・・・・・。」
「ど、どうして!?何でマグマが出ないの!?」
「原理は、実に原始的な話です。超超能力を発動させている臓器のようなモノを破壊したんです。」
「えっ!?」
「心臓を外した訳ではなく、左肩のそれを撃って破壊しただけです。これで、貴女はもう、オーガンプラスではありません。」
「・・・・・・・・・。」
「中には、死んで罪を償わなければならない場所に臓器のようなモノが存在するオーガンプラスもいます。こうして、生きて罪を償えるだけ、貴女は幸運なんですよ?」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・逮捕します。」
刑事は、女に手錠を掛け、そして2人は屋上から立ち去った。

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2014年1月22日 (水)

「第三百九十七話」

どうなっている?どうなっているのだ?これは国家の陰謀か?宇宙人の嫌がらせか?もう、とっくに用を足し終えたと言うのに、なぜだ?尻も拭き終えてズボンも履き終えているのになぜ、私はトイレから出られないのだ?トイレは普通、用を足し終えたら出られるモノではないのか?
「おーい!誰かいないのかー!」
真ん中に入ったからか?27ある個室の真ん中に入ったからなのか?意気揚々と調子に乗って真ん中に入ってしまったからなのか?いや違う。私は、鼻歌混じりのスキップがてらで真ん中の個室に入った訳ではない。ないのだよ。顔面蒼白で卸したばかりのパンツを失う覚悟で真ん中の個室に入ったのだ。閉じ込められる筋合いはない。微塵もないのだよ!そもそも、真ん中だからって何なのだ?
「んんんんん!出られない!」
カギがバカになってるのか?いいや、カギはバカになってなどいない。カギは、正常に作動している。開閉開閉開閉開閉開閉、と。そしてドアも正常に作動している。開閉開閉開閉開閉開閉、と。正常に作動しているのだ。ならば、もう一度カギを開け、ドアを内側へ。
「んんんんんんんんんん!」
ここっ!この個室と個室でないとこの空間!ここに何か見えない壁みたいなモノがある!あるのだよ!!信じられないかもしれないが、確かに壁みたいなモノは存在する!するのだよ!!ここに!空間と空間の間の空間に!
「一体全体どうなっているのだ!」
こうしてドアを開けっ放しでは、まるで私は見せ物になってしまうからと仕方無しにドアを閉めるが、どうしたものか。一体この一連の作業を何度繰り返せば、見えない壁は私の前からなくなるのだ?
「なぜだ?」
便座に座って考えてみても考えてみても考えてみても考えてみても、なぜだ?しか頭の中に浮かんで来ない。来ないのだよ。私がトイレに閉じ込められなければならない理由が思い浮かばない。浮かばないのだよ。そもそも私をトイレに閉じ込めたからと言ってどうなのだ?誰かが何か得をするのか?
「おーい!」
だいたい、なぜこんなにも大型の公衆トイレだと言うのに、ずーっと誰も来ないのだよ!ずーっと誰も来ないのだよ状態なのに、どうしてこんなにも大型の公衆トイレなのだよ!それなりの需要があるからの供給なのではないのか?たまたま、そう言う時間帯なのか?たまたま、そう言う時間帯で、そう言う曜日なのか?だったら仕方無い!だとしたら仕方が無い!
「うああああああああああ!!」
仕方が無いからと言って納得出来るモノと納得出来ないモノとがあり、この現状は確実に仕方無いからと言って納得出来ないモノのであるのは、事実過ぎるのだよ!
「カギを開け、ドアを内側へ。」
行ける!今度こそは、こっち側からあっち側へと行ける!私は、行ける!絶対に行ける!誰が何と言おうが行ける!地球が滅亡しても行ける!まあ、実際には地球が滅亡したら行けないが、それぐらいの気持ちな感じで行ける!一歩踏み出し、目を開けた時には、私はこっち側ではなく、あっち側に立っていて、あっち側がこっち側となり、こっち側はあっち側となっている!いるのだ!いるに決まっているのだ!
「んんんんんんんんんん!って、何なのだよ!何なのだよーっ!!」
落ち着こう。少し落ち着こうではないか。まず、こんな事は、有り得ないのだよ。見えない壁?馬鹿馬鹿しい。見えない壁って何なのだよ。そんなモノが現実に存在する訳がないではないか。全く私も、おっちょこちょいだな。少し、ほんの少し冷静になれば分かる事ではないか。普通に、いつも通りに、落ち着いて、すっきりな表情をして、出て行けばいいのだよ。簡単な話ではないか。冷静に、実に冷静に、ベテランな感じで、紳士的な感じで、こんなモノはこんなモノだと当たり前の事過ぎて余裕すら見せずに、いつも通り。それでいいのだよ。それがいいのだよ。変に何かを意識せず。スッと、それはもう、スッとあっち側へ行けばいいのだよ。行ってしまえばいいのだよ。
「んんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんん!!もーーーーーっ!!!」

第三百九十七話
「記憶喪失のパントマイミスト」

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2014年1月29日 (水)

「第三百九十八話」

「限定フィギュアですか!」
「手に入れるのに、倍以上の金額掛かっちゃいましたよ。」
「でしょうね。100体限定ですもんね。」
私は今、怪物が来るマンションの602号室に住む住人の部屋で、価値の分からないフィギュアを眺めて価値の分からない会話をしている。
「ん?この2体は、さっきのの色違いですか?」
「そうです。」
「もしかしてこれも?」
「限定品です。」
一見すると最寄り駅から徒歩10分以内に建つ普通の10階建てのマンションだ。しかし、エントランスを抜けると、何か異様な雰囲気を漂わせていた。そう、まるで生活感の感じられない、何か不気味な冷えた感覚。築年数がそれほど経っていないと言うのに、辺りに漂う廃マンション感。急に誰もいない森に迷い込んでしまったかの様な孤独感。得体の知れない何かが、急に目の前に現れて、私を襲って来るのでは?そんな恐怖感に苛まれながらも、それ以上に掻き立てられる押さえ切れない好奇心でエレベーターに乗り、この602号室を訪ねた。全てが真実なら、こんな美味しいネタ、逃す訳にはいかない。デマと危険を恐れていては、フリーライターは勤まらない。真実に辿り着けるなら、全く興味がない価値の分からないフィギュアを興味津々に眺めたりもする。
「コーヒー、淹れました。」
40代前半の602号室の住人は、ソファーに座る私の前のテーブルに淹れたてのコーヒーを置くと、向かいに座った。
「砂糖とミルクは、置いときますんで、好きに使って下さい。」
「ありがとうございます。」
「あれですよね?怪物の話でしたよね?」
「ええ、ついついフィギュアに目を奪われてしまって、いただきます。」
「昨日は、702号室の4人家族が食べられました。」
「それは、5時55分にですか?」
「はい。きっかり5時55分にです。悲鳴で目が覚めて、時間を確認したので確かです。」

第三百九十八話
「5時55分に来る怪物」

「・・・・・・・・・。」
「疑ってるなら、見て来たらどうです?まあ僕は、あんな凄惨な部屋、見たくはないですけどね。」
「・・・・・・一体、どんな怪物なんです?」
「さあ?見た人は、みんな食べられちゃってる訳ですし、どんな容姿なのかは、きっと誰も知りませんよ。」
「でも、怪物なんですよね?」
「怪物です。」
「警察には?」
「警察?」
「ええ、だって誰も怪物の姿を見ていないなら、もしかしたら怪物ではなく、人間の仕業かもしれないじゃないですか。」
「人間の仕業、ですか。」
「そうです。マンションの住人を次々と殺す連続殺人!」
「勿論、何年か前に誰かが警察に通報しましたよ。けど、この有り様です。結局、人間相手の警察には、何も出来なかったって事です。だって、相手は怪物ですからね。」
「怪物ですか。」
「怪物です。」
「恐くないんですか?」
「そりゃあ、恐いですよ。だっていつ自分が怪物に食べられてしまうか分からないですからね。」
そう言うと602号室の住人は、コーヒーを一口飲み、天井を見上げた。
「その怪物は、毎日来る訳ではないんですか?」
「はい。908号室の老夫婦が食べられたのが確か3年前ぐらいだから、3年振りですね。」
「貴方は、いつからこのマンションに?」
「このマンションが建った時なんで7年です。勿論、連続で怪物が来る時もありますよ。2階の住人はそれで全滅です。」
「全滅。」
「はい。もしかしたら次に怪物が来るのは、1000年後かもしれないですしね。きっとそれは誰にも分からないんですよ。」
何だ?話を聞けば聞くほど、頭が混乱してくる話だ。警察も捜査を諦めるマンション住人連続殺人。しかもそれは、長年に渡って行われている。本当に警察が諦めるだなんて事が有り得るのだろうか?警察が諦めていないとしたらどうだ?つまり、そこには何かの力が働いているんだとしたら?諦めざるを得ないほどの力。いや、そもそも始めから諦めるだなんて選択肢が存在していないんだとしたら?このマンションが、警察をも黙認させてしまう、何かの施設そのモノだとしたら?そう、怪物を生み出す実験施設!
「・・・・・・・・・。」
「コーヒーのお代わりどうですか?」
「いえ、結構です。ありがとうございます。」
仮に、国家権力による怪物の実験施設だとしてだ。そんな有り得ない事が有り得たとしてだ。大きな疑問が1つ残る。そう、それはあまりにも大きな疑問だ。
「最後に、1つだけ質問させて下さい。」
「どーぞ。」
「なぜ、いつ自分が怪物に食べられるかもしれないと言うのに、このマンションから引っ越しされないんですか?」
「それは、このマンションが、分譲マンションだからですよ。」
602号室の住人は、笑って答えた。

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