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2014年1月29日 (水)

「第三百九十八話」

「限定フィギュアですか!」
「手に入れるのに、倍以上の金額掛かっちゃいましたよ。」
「でしょうね。100体限定ですもんね。」
私は今、怪物が来るマンションの602号室に住む住人の部屋で、価値の分からないフィギュアを眺めて価値の分からない会話をしている。
「ん?この2体は、さっきのの色違いですか?」
「そうです。」
「もしかしてこれも?」
「限定品です。」
一見すると最寄り駅から徒歩10分以内に建つ普通の10階建てのマンションだ。しかし、エントランスを抜けると、何か異様な雰囲気を漂わせていた。そう、まるで生活感の感じられない、何か不気味な冷えた感覚。築年数がそれほど経っていないと言うのに、辺りに漂う廃マンション感。急に誰もいない森に迷い込んでしまったかの様な孤独感。得体の知れない何かが、急に目の前に現れて、私を襲って来るのでは?そんな恐怖感に苛まれながらも、それ以上に掻き立てられる押さえ切れない好奇心でエレベーターに乗り、この602号室を訪ねた。全てが真実なら、こんな美味しいネタ、逃す訳にはいかない。デマと危険を恐れていては、フリーライターは勤まらない。真実に辿り着けるなら、全く興味がない価値の分からないフィギュアを興味津々に眺めたりもする。
「コーヒー、淹れました。」
40代前半の602号室の住人は、ソファーに座る私の前のテーブルに淹れたてのコーヒーを置くと、向かいに座った。
「砂糖とミルクは、置いときますんで、好きに使って下さい。」
「ありがとうございます。」
「あれですよね?怪物の話でしたよね?」
「ええ、ついついフィギュアに目を奪われてしまって、いただきます。」
「昨日は、702号室の4人家族が食べられました。」
「それは、5時55分にですか?」
「はい。きっかり5時55分にです。悲鳴で目が覚めて、時間を確認したので確かです。」

第三百九十八話
「5時55分に来る怪物」

「・・・・・・・・・。」
「疑ってるなら、見て来たらどうです?まあ僕は、あんな凄惨な部屋、見たくはないですけどね。」
「・・・・・・一体、どんな怪物なんです?」
「さあ?見た人は、みんな食べられちゃってる訳ですし、どんな容姿なのかは、きっと誰も知りませんよ。」
「でも、怪物なんですよね?」
「怪物です。」
「警察には?」
「警察?」
「ええ、だって誰も怪物の姿を見ていないなら、もしかしたら怪物ではなく、人間の仕業かもしれないじゃないですか。」
「人間の仕業、ですか。」
「そうです。マンションの住人を次々と殺す連続殺人!」
「勿論、何年か前に誰かが警察に通報しましたよ。けど、この有り様です。結局、人間相手の警察には、何も出来なかったって事です。だって、相手は怪物ですからね。」
「怪物ですか。」
「怪物です。」
「恐くないんですか?」
「そりゃあ、恐いですよ。だっていつ自分が怪物に食べられてしまうか分からないですからね。」
そう言うと602号室の住人は、コーヒーを一口飲み、天井を見上げた。
「その怪物は、毎日来る訳ではないんですか?」
「はい。908号室の老夫婦が食べられたのが確か3年前ぐらいだから、3年振りですね。」
「貴方は、いつからこのマンションに?」
「このマンションが建った時なんで7年です。勿論、連続で怪物が来る時もありますよ。2階の住人はそれで全滅です。」
「全滅。」
「はい。もしかしたら次に怪物が来るのは、1000年後かもしれないですしね。きっとそれは誰にも分からないんですよ。」
何だ?話を聞けば聞くほど、頭が混乱してくる話だ。警察も捜査を諦めるマンション住人連続殺人。しかもそれは、長年に渡って行われている。本当に警察が諦めるだなんて事が有り得るのだろうか?警察が諦めていないとしたらどうだ?つまり、そこには何かの力が働いているんだとしたら?諦めざるを得ないほどの力。いや、そもそも始めから諦めるだなんて選択肢が存在していないんだとしたら?このマンションが、警察をも黙認させてしまう、何かの施設そのモノだとしたら?そう、怪物を生み出す実験施設!
「・・・・・・・・・。」
「コーヒーのお代わりどうですか?」
「いえ、結構です。ありがとうございます。」
仮に、国家権力による怪物の実験施設だとしてだ。そんな有り得ない事が有り得たとしてだ。大きな疑問が1つ残る。そう、それはあまりにも大きな疑問だ。
「最後に、1つだけ質問させて下さい。」
「どーぞ。」
「なぜ、いつ自分が怪物に食べられるかもしれないと言うのに、このマンションから引っ越しされないんですか?」
「それは、このマンションが、分譲マンションだからですよ。」
602号室の住人は、笑って答えた。

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