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2014年3月19日 (水)

「第四百五話」

 私は、人を殺した。完璧な密室で人を殺した。殺人事件として世間を賑わしているが、誰も私には辿り着けない。数ヶ月もすれば、誰も事件を口にする事はない。そして、忘れ去られ、事実は闇の中へと葬り去られる。誰もが謎を謎と考えるのを諦める。
「どーも。」
音楽スタジオの出入口で、待ち伏せしていたこの老刑事を除いては・・・・・・・・・。

第四百五話
「刑事の勘」

 オンボロの小さな車の屋根でタバコを揉み消し、吸い殻を携帯灰皿へと入れ、オンボロなコートを風になびかせ、ボサボサの髪を掻きながら、その小さな老刑事は近付いて来た。
「刑事さん。アナタもしつこい人ですね。」
「俺がしつこいのは、お前にしつこくされるヘドが出る理由があるからだろ?」
相変わらず態度も言葉使いも最低の刑事だ。
「何度も言ってますよね?私は、殺してなんていません。」
「何度でも言うよ。殺したのは、お前だ。」
「刑事の勘ってヤツですか?」
「さあな?いいか?俺には、お前がどんな下らない理由で殺人しようが、関係ねぇんだよ。ただ、殺人しといて世の中をウロチョロされんのが許せねぇだけだ。それに、お前に会うのはこれで最後だ。」
「証拠を持って来たんですか?」
「まあ、話は殺されたゴーストライターのマンションでしようじゃないか。」
「そんな時間、私にはありません。」
「安心しな。今日のスケジュールは全部キャンセルしといてやった。」
「なんて事を!?警察がそこまでやっていい訳がない!」
「殺人するようなクズを社会に野放しには出来ねぇんだよ!」
「もし、アナタが今日、私を逮捕出来なかったら、私はアナタを訴えます!」
「勝手にどーぞ。」
私は、老刑事のオンボロな車に乗り込んだ。
「相変わらず汚い車ですね。」
「殺人したクズのくせに、人の車にケチ付けてんじゃねぇよ。」
コイツ、確実に地獄に落としてやる。どんな天才だろうと、この完璧な密室の謎が解ける訳ないってのに、ましてやこんな老いぼれが解けるはずない。コイツから刑事の職を奪い、冤罪の制裁を受けさせてやる。
「お前、マジックってヤツを見た事あるか?」
「マジックですか?テレビでならあります。」
「凄いよな。」
「ええ。」
「だが、そこには必ずトリックはある。」
「そうですね。」
「鳥肌もんのマジックにも必ずトリックがある。」
「だから、マジックなんですよ。」
「だがな?そこにトリックが存在し無いとしたら、どうだ?」
「何を言ってるんです?マジックには、トリックが付き物でしょ。」
「俺達は、マジックに驚いてる訳じゃない。むしろそのトリックの方に驚いてるんだ。」
「何が言いたいんですか?」
「首が360度回ったり、トランプのカードを予め予言しといたり、体を切断したり、遠く離れた場所へ一瞬で移動したり、巨大な建造物を消したり、そんなマジックには必ずトリックがあるから凄いって思う。でもな?そんなマジックにトリックが無かったらどうだ?」
「どうだ?って聞かれても、そんな有りもしない事に答えられませんよ。」
「頭を柔らかくして考えてみてくれよ。どうだ?」
「マジックにトリックが無いとしたら、驚きもしないでしょうね。」
「何でだ?」
「それは、当たり前だからですよ。出来て当たり前の事をただ単にやっているだけだからですよ。」
「そうだ。元々、首が360度回るヤツが首を360度回しただけ、元々、予言出来るヤツがトランプのカードを予言しただけ、凄い事だが凄過ぎて凄くない。いや、それ以前にこんなのはマジックでもなんでもねぇ。」
「だとしても常識的にそんな事がある訳がない。こんな馬鹿馬鹿しい質問に意味があるんですか?」
「そう言うヤツを超能力ってのか?仮に超能力者の行き着く先がマジシャンだったとしたら、これこそが最大のトリックだな。」
「そんな下らない話なら、無言で目的地まで向かってもらえますか?」
「おいクズ!お前に善良な市民と同じ権利はねぇんだよ!お前みたいなクズは、これから一生申し訳ありませんでしたの人生で、頭下げ続けて地球の隅っこでひっそり生きてくしかねぇんだよ!」
「いい加減にしろ!私は殺人なんかしてない!証拠も無いのに人を殺人者扱いして卑下するのはやめろ!」
「お前は、ゴーストライターを殺した。」
「密室だったんだろ!殺したとして私はどうしたと言うんだ!防犯カメラにも映っていなければ、完璧なアリバイがあるんだぞ!だいたい、ゴーストライターと言うのはやめろ!私は、自ら作曲しているんだ!」
「おいおいおい、気付いてないのか?随分と前から既に謎解きは始まってんだぜ?」
「何だと!?」
「分からなかったみたいだから、クズにも分かりやすく謎解きしてやるよ。まず、あの完璧な密室だが、お前は壁抜けが出来る!」
「いきなり何ですか!本気で言っているんですか?」
「ああ、本気だ。お前は、そう言うヤツなんだよ。壁抜けが出来るヤツ。だからあの密室は、完璧でも何でもない。」
「私が壁抜け出来たとしましょう。だが、マンションの防犯カメラには、私の姿は映っていないんですよ?」
「それは、お前が透明になれるヤツだからだ。壁抜けして透明になった。それだけの事だ。」
「馬鹿馬鹿しい。刑事さんの言う通りだとして、私には完璧なアリバイがあるじゃないですか。」
「完璧なアリバイ?」
「殺害不可能な距離!マンションからバーまでの距離ですよ。どう考えても最速で2時間、往復で4時間。仲間とバーで飲んでいた私には殺害不可能だ。」
「瞬間移動。」
「は?」
「お前は、瞬間移動でマンションへ行き、透明になり堂々と正面から壁抜けでマンションに入り、壁抜けで部屋へ入り殺害し、壁抜けして透明になり、瞬間移動した。つまりお前は、この3つの超能力を使い分けて殺人を行っただけだ。」
「瞬間移動が使えるなら、壁抜けや透明にならなくていいだろ!」
「いきなり部屋に瞬間移動したんじゃ、様子が分からないだろ?」
「透明になって瞬間移動すればいいじゃないか!」
「なるほど。だが、お前はそうしなかった。いや、それが出来なかった。それはなぜか?おそらく同時に超能力を使う事が出来ないか、瞬間移動が正確な位置に到着出来ない。」
「茶番だ!」
「確かに茶番だ。一見完璧で見事な密室だが、そこにはトリックなんて高等なもんは存在し無い。複数の超能力が使えるヤツが、複数の超能力を使い分け、ただただ普通に人殺ししただけの下手な茶番劇だ。」
「証拠があるのか?私に壁抜けや透明になれたり瞬間移動出来る証拠が!あると言うのか!」
「無いね。」
「無い!?」
「ああ、無い。これは、刑事の勘ってヤツだ。さっきお前も言ってたろ?」
「馬鹿馬鹿しい。」
馬鹿馬鹿しいか。まあ、まだまだ時間はあるんだ。RECだらけのこの車ん中で、ゆっくり話そうじゃないか。ん?とりあえず汗でも拭いたらどうだ?」

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