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2014年4月23日 (水)

「第四百十話」

「ちょ!ちょっと待ってくれ!ストップ!ストップ!!」
僕は、黒スーツの女に追い掛けられてた。追い掛けられて追い掛けられて、気付くと夜中になってた。更に気付くと線路の上を走ってた。もう一つおまけに気付くと結構な雨が降ってた。昼御飯を買いに行こうと玄関のドアを開けると、僕好みの黒スーツの女が立ってたから、隙あらばこのまま結婚まで漕ぎ着けるんじゃなかろうかと思ってた13時間前が懐かしいし愛しい。そんな黒スーツの女を見てまず人としての礼儀として、お昼に打って付けの挨拶をしようと言葉を発すると同時に黒スーツの女がハンマーを振り上げた時から、これは何か少し事態が妙だぞ、と。そう思った途端、考えるより先に体が走り出した。少しだけ余談だけど、考えるより先に体が動き出すなんて、四半世紀と少ししかまだ生きてないのに、結構耳にしてたけど、そんな事ある訳がないと思ってた。だって、おかしくない?脳が命令を出してから体は動くんだ。考えるより先に体が動くって、自分の体であって自分の体じゃない。命令違反だし反乱分子だ。戯言の戯れ言にも甚だしい。でも、あるんだね。あったんだね。考えるより先に体が動き出すってさ。んで、考えるより先に体が走り出した僕を見て、黒スーツの女は女で、きっと考えるより先に体が走り出したんだと思う。足に少しだけ自信があった僕は、黒スーツの女に追い付かれる事はなかった。しばらく走っていたら気付いたんだ。追い掛けられてる時、待てー!とか、待ちやがれー!とか、待ちなさーい!とかって、言葉を掛けられた方がいいね。無言で追い掛けられてると、なぜか次第に精神面が不安定になってくるし、訳が分からないって恐怖感が増すね。黒スーツの女のそう言う作戦だとしたら、それは事実上大成功だ。とにかくハンマーを振り上げた時、黒スーツの女とあわよくば流れで結婚ってのは破談になって、逆に命を狙われてるんだって分かった以上、黒スーツの女に捕まる訳にはいかないって必死。もう必死で逃げた。こっちの問い掛けにも無言だし、好みの女性に対してこんなにも気持ち悪いって思うとは思わなかった。汗だくで超高層ビルに逃げ込んで、殺されなきゃならない理由をこれでもかってぐらい考えてみたけど、思い当たらない。本当は、思い当たってたのかもしれないけど、人ってそんな事で人を殺すのか?って感じで無意識に削除してたっぽい。そうなるともう、無意識の領域からの脱出は困難を極める。ついでに、いくら上手に身を隠しても黒スーツの女は、僕を見付け出す。何回目かの見付け出され時に、ああこれはきっと僕に何か僕の居場所が分かるような物が取り付けられてるんだなって思って、身に付けてる物を逃げてる途中で全て買い換えた。線路上を走る僕と回想上を走ってる僕の服装が違うのは、それだ。でも、未だに線路上をこうして僕がずぶ濡れで走ってるって事は、つまりそう、あの努力は無駄だったって事さ。体内に埋め込まれてるとしたら、とてもじゃないが命を狙われながら、オペって訳にはいかない。ましてや、黒スーツの女に逃げる相手を捜索出来ちゃう超能力があるんだとしたら、オペ損だ。無駄死にだ。もう、オペが失敗したのか黒スーツの女に殺されたのか術後の僕には分からない。だとしたら僕は、どの道死ぬ運命なのか?訳の分からないまま、死ぬ運命なのか?って、死ぬ運命を考えてたら、気付くと夜中になってて、更に気付くと線路の上を走ってて、もう一つおまけに気付くと結構な雨が降ってた。
「いい加減に待ちなさい!」
喋った!?今まで喋る事のなかった黒スーツの女が理不尽で身勝手でアンバランスな言葉を発した。ドアを開けた時、何かを語ってくれたのなら、きっとここまでの事態に発展してはなかったはずだろうに。そう思うと怒りが沸き上がって来た僕は、走ってて急に立ち止まるのは、体によくない事だと知りつつ、立ち止まった。すると、黒スーツの女も一定の距離感で立ち止まった。立ち止まった途端、凶器で襲われかもしれないって思ったけど、案外そうでもなかった。って危ない危ない。妙な安堵感が沸き上がる怒りを上回るとこだった。
「一体何で僕を執拗に追い掛けるんだ!一体何で僕を殺そうとするんだ!」
いっぱい言いたい事があったけど、出て来た言葉は、こんなもんだった。まあ、人間っていざって時は、こんなもんさ。
「この国の為よ!」
「はあ!」
雨音で聞きにくくなってたけど、確かに今、黒スーツの女は、この国の為よ!って言った。僕は、この国の為に執拗に追い掛けられて、この国の為に殺されるってのか?とりあえずの訳を聞いてみたけど、どうやら僕は深みにはまったようだ。
「詳しい事は話せない!けど貴方には、ここで死んでもらう!」
「どうして!何で僕なんだ!僕が何をした!」
「国同士のスポーツの祭典が年間何回もある!しかし、我が国は、この二十数年もの間全く勝てていない!」
「スポーツ?スポーツと僕がどう関係するんだ!僕はこの国の代表選手でも何でもないぞ!」
「我々の機関が導き出した一つの答えがある!」
「機関?」
「貴方が観戦してるから負ける!」
「そんなバカな!?」
「ならば、貴方がテレビや会場で観戦して我が国が勝った事があるの!」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・ない!!」
「さようなら!」
「えっ?」
振り向くと僕の目の前には、貨物列車が。

第四百十話
「スポーツ観戦する男」

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