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2014年4月 9日 (水)

「第四百八話」

「カランカランカランカラン。」
俺は今、喫茶店でアイスコーヒーをストローでかき回しながら、友人が来るのをどうしても押さえきれない衝動を胸に待っていた。

第四百八話
「殺しの衝動」

「おう!早いな。」
「おう!」
数分して、友人がやって来た。
「あ、オレもアイスコーヒー。で?話って?」
「今日は、俺の一大決心を聞いてもらおうと思って呼んだんだ。」
「何だ何だ?もしかして、結婚か!あ、どうも。そうかそうか!36にして、いよいよお前も結婚か!」
「いや違う。」
「まさか、彼女と別れたのか!?」
「別れてない。」
「そうか。なら良かった。じゃあ、一大決心ってのは?」
「それを話す前に、まずは俺のどうしても押さえきれない衝動について話す必要がある。」
「どうぞ。」
「俺は、お前を殺したい。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・いやあれだな。普段からあんまり冗談を言わない奴から急に冗談が飛び出すと、驚きが上回って笑えないもんだな。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「冗談じゃない。」
「・・・・・・・・・ちょっと待て!」
「話を最後まで聞いてくれ、俺の一大決心って言うのは、殺したいお前を絶対に殺さないって事だ!」
「んん?いやまあ、何て言ったらいいのか分からないけど、とりあえずありがとう。」
「お礼を言われる事じゃない。」
「友達だもんな!親友だもんな!相手を殺したいって衝動も時にはあるさ!オレだって奥さんの事を本気で殺したいって思う時があるもんな。」
「違う。お前は、何も分かってない。」
「どういう意味だ?」
「俺は別に、今すぐこの場で、お前を殺してもいいと思ってる。」
「えっ?」
「警察に捕まらない為に小細工なんかいらないんだ。例え死刑になろうが、俺はお前が殺せればそれでいい。」
「笑えないぞ?そこまで言うと冗談が冗談になってないぞ?」
「冗談なんかじゃないって言ってるだろ?」
「銃!?」
俺は、上着の中に隠していた銃を友人に見せた。
「冗談じゃないって分かってくれたか?」
「玩具だよな?」
「今の俺が、そんな目をしてるか?」
「ならまさか本当に!?」
「だからさっきから言ってるだろ。」
「やめろ。俺には奥さんがいるんだ。」
「だからそれもさっきから言ってるだろ。俺は、お前を殺したい。だが、絶対に殺さない。」
「なぜ、そんなに殺したいのに、オレを殺さないんだ?」
「バカみたいだからだ。」
「バカみたい?」
「殺したいヤツを殺したヤツの愚かな結末。俺は、それを知ってる。そんな愚かな殺人者に俺はならない。だから、お前を絶対に殺さないんだ。」
「愚かな結末?憎しみで人を殺しても、その後に襲ってくる罪の意識に耐えきれず後悔するって事か?」
「いや、俺はお前を殺しても絶対に後悔しない。むしろ爽快感だ。例え一生を刑務所の中で過ごしたとしても、楽しく人生を終える事が出来る。」
「何なんだ!そんなに殺したい衝動を持つお前がオレを殺さない愚かな結末ってのは!何なんだ!」
「それは、殺人犯が逮捕された時に明かされる真実だ。」
「真実?」
「例えば、俺が警察に捕まらないように、小細工をしてお前を殺したとしよう。それもかなりの労力と時間と金を費やす小細工だ。切れ者の刑事がいなければ迷宮入り確実のな。だが、俺はあと一歩のところで切れ者の刑事に、まさかそんな所から辿り着くはずがないってわずかな綻びから、証拠を掴まれ逮捕される。その時に明かされる真実。」
「何が明かされるんだ?」
「俺が殺さなくても、お前は既に医者から余命を宣告されていて、数ヶ月後には死ぬと言う真実だ。全く愚かな結末だよ。」
「ちょっと待て。」
「こんなケースも考えられる。実は、お前は俺がずっと探してた俺の本当の父親だったって真実だ。」
「ちょっと待てよ!」
「こんなケースも考えられる。逆に、お前は俺の子供だったって真実だ。」
「ドラマや映画の観過ぎにも程があるだろ!最初のケースを考えるのは分かるけど!後の二つのケースは、オレとお前は同級生なんだから有り得ないだろ!」
「有り得ない衝撃の真実が明かされるのが殺人のあとなんだよ!」
「ドラマや映画の影響が現実を上回り過ぎだろ!」
「こんなケースもあったな。」
「もう、あったな。になっちゃってんじゃねぇか!」
「俺は、誰かに操られて、お前を殺そうと考えてる。だが、お前を殺そうとした瞬間、俺はその呪縛から逃れる。そして、またいつその黒幕に操られてしまうかもしれない俺は、廃ビルの屋上から飛び降り、自ら命を絶つ。」
「いやもう、質が!ジャンルが変わっちゃってんじゃん!」
「そう言えばこの前、こんな映画を観たな。」
「映画観たになっちゃってるぞ!」
「タイムスリップした主人公が、その時代で恋をしたが実る事なく、最後は死ぬ映画。」
「内容!?ただ、ざっくり映画の内容を言っただけ!?待てよ!待て待て!このままだと、数時間後には二人で映画館にいそうだから、まあそれでもいいけど、その前に話を整理しよう!結局、お前はオレを殺したいけど殺さないんだろ?」
「ああ、絶対に殺さない。」
「これからも、この関係は変わらず続いて行くんだろ?」
「ああ、何一つ変わらず続いて行く。」
「うん。なら、いい!それでいい!それが分かれば、他はどうでもいい!握手だ!これからもよろしく!」
「こちらこそ、これからもよろしく!」
「で?一つだけ最後に聞きたいんだけど、お前は何でそれほどまでにオレを殺したいんだ?」
「あの時、小四の時、透明人間になりたいって言う俺の将来の夢を笑ったから。」
「・・・・・・・・・ごめん。」

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