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2014年5月 7日 (水)

「第四百十二話」

 落とし穴を掘っていて、気付くと自分が落とし穴から出られなくなっていたなんて話は、どっかの外国人が酒場で使うジョークとして作った話だと思っていた。

第四百十二話
「HOLE MAN」

 それはもう、見事にだった。友人を落とし穴に落として大爆笑でもしてやろうかと最初は気軽に掘っていてたら、いつの間にか時間を忘れ我を忘れ、気付くと見事に自分が落とし穴から出られなくなっていた。
「おーい!」
すっごく小さく見える白ゴマの様な出口に向かって叫んだとこで、外まで聞こえるはずもない。
「誰かー!」
でも叫ばずにはいられない。何かそうさせるモノが落とし穴にはある。きっとこれは、自分で掘った落とし穴から出られなくなってしまった者にしか分からない特別な心理なのかもしれない。
「おーい!出してくれー!」
ああ、ダメか。落とし穴を掘るとこを誰にも見られずにと人気の無い場所を選んだのが仇となった。完全に裏目に出た。きっとボクは、この自分で掘った落とし穴の中で死ぬんだ。誰にも気付かれずに、死んでいくんだ。そしてきっと、死んだ事にすら気付かれないんだ。ふと思ったんだけど、自分で掘った落とし穴から出られなくなって死んだ場合、それって事故なんだろうか?それとも自殺なんだろうか?故意ではないから、やっぱり事故扱いなんだろうか?でもまあ、きっとどんな扱いになろうが、葬式でボクは、とんだマヌケ野郎と弔問客に扱われるんだろうな。
「・・・・・・・・・。」
なぜだろう?なぜか涙が出て来るのは?なぜだろう?それでもお腹が減るのは?なぜだろう?何の根拠も無いこの自分は最終的には絶対に助かると言うポジティブな感覚は?
「カレーライス、お腹一杯食べたかったなぁ。」
「なに?カレーライスって。」
「化け物!?」
「いやいやいや、俺からしたら化け物は、人間のアンタの方だよ。」
「何!?」
「何って?」
「いやだから、生き物的な種類の話!?何!?」
「モグラ。」
「デカっ!身の丈がボクと同じぐらいじゃないか!モグラって、こんなもんじゃないの?」
「いやいやいや、モグラはこれが普通だろ。地上に顔出すモグラは、まだまだヒヨッコなんだよ。」
「そうだったんだ。ちょっと待って!」
「どうした?」
「とりあえず、こうなった場合のお馴染みの発言をこれからするけど、いい?」
「何?」
「幻じゃないよね?夢じゃないよね?」
「いやいやいや、それは俺の台詞だよ。」
「はあ?何で?」
「考えてもみろよ。この状況で人間に出会う方が普通じゃないだろ?」
「ボクがアウェイ?んまあ、それもそうか。」
「だろ?で?」
「で?」
「いやだから、アンタはこんなモグラしかいないような場所で何をしてんだ?」
「ああ、落とし穴を掘ってて気付いたら、出られなくなってた。」
「それはつまりあれか?ジョークか?」
「何でボクが酒場で使うジョークをわざわざ実践しなきゃならないんだよ!ジョークを使う前に死んでしまうじゃないか!」
「生きて使えばいいだろ?」
「モグラ感覚で簡単に人間に語るなよ!人間はな!人間はな!こんな時は叫んで助けを呼ぶ事しか出来ないんだい!おーい!出してくれー!」
「何だか面倒臭い奴が現れたもんだな。別にモグラ感覚で話してる訳じゃない。俺がアンタを背負って外まで連れてってやろうって話だ。」
「いいモグラだったんだな!」
「まあ、こっちもこっちで、ここに人間がいられちゃマズイ事情があるんだよ。」
「マズイ事情?」
「人間喰いが人間のニオイを嗅ぎ付けてやって来ちまうんだよ。まあ、人間喰いにモグラが喰われる事はないが、奴等は臭いしせっかく苦労して作った道を荒らすしで、迷惑なんだ。」
「恐るべし地下世界!」
「だから、さっさと俺の背中にしがみつきな。」
「分かりました。」
「行くぞ?」
「はい!ん?」
「どうした?」
「何、この異臭?」
「マズイな。奴等が近付いて来たみたいだ。少し急ぐから振り落とされるなよ。」
「早く!!」
「で?」
「で?」
「ジョークじゃないなら、何でアンタは、こんな落とし穴なんか掘ったんだ?」
「そりゃあ!友人を落とし穴に落として大爆笑でもしてやろうと思ったからに・・・・・・。」
「どうした?」
ボクに友人は、いない。
「穴友になってくれないか?」
「はあ?」

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