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2014年6月25日 (水)

「第四百十九話」

「何だよ。」
「先生!呑気に脇を掻きながら、何だよ、じゃないですよ!」
短編小説家の男の仕事場兼住居のこの国で一番高い山が望める一室で、その担当の女は、激怒していた。
「どんな仕草で俺が何だよって言おうが勝手だろ。何をそんなにカリッカリッしてんだよ。原稿は昨日着で届いたはずだぞ。」
「アタシ、確かに言いました。先生も変な短編小説ばかり書いてないで、そろそろ恋愛小説でも書いたらどうですか?と。」
「いやだから昨日着」
「まあ、普通の恋愛小説じゃ面白くないので、出来るだけドロドロな。三角関係、いや四角関係!そこに先生オリジナルの要素を加えたならば、それはもう!無敵の恋愛小説の出来上がり!と。」
「昨日着でその無敵の恋愛小説が届いたろ?」
「何だこれは!これのどこが無敵の恋愛小説だ!」

第四百十九話
「百角関係」

「凄いだろ。」
「いやね。アタシもタイトルを見て、破り捨ててやろうと思いました。でもね?やっぱり読まずに評価するのは、一人の人間としてクズだと思って、読みましたよ。はい、読ませていただきました。」
「凄いだろ。」
「百角関係って、どうなんだろう?少しだけ好奇心がくすぐられました。」
「凄いだろ。」
「凄かねぇよ!どこが凄いんだよ!何が凄いんだよ!お前これ、小石ばっかじゃねぇか!!」
「オリジナリティだよ。」
「便利な言葉としてオリジナリティ使ってんじゃねぇぞ!」
「あれ?俺、怒られてんの?」
「怒られてるとかの次元じゃないんだな!そんな次元じゃないんだな!」
「ちょっと落ち着けよ。俺は、アンタが恋愛小説の話を持ち掛けて来たから書いた。」
「書いた?何を?」
「ドロドロした中に俺のオリジナリティを投じた無敵の恋愛小説だよ。」
「おいちょっとマジでバカなのかよ!」
「マジで、って事は少しそう思ってたってのかよ。」
「思ってました!」
「思われてた!?」
「主人公と思われる野球部のキャプテンが水泳部のマネージャーに恋をする。ああ、なるほど、高校と言う学園をテーマに百角関係にするつもりなんだって思いました。水泳部のマネージャーは、国語の先生に恋をする。国語の先生は、数学の先生に恋をする。」
「凄いだろ。」
「数学の先生は、担任するクラスのサッカー部のキャプテンに恋をする。」
「凄いだろ。」
「ちょっと先生黙っててもらえます?で、次!次からおかしくなるんですよ!サッカー部のキャプテンは、空き地の猫に恋をする。空き地の猫は、博士のロボに恋をする。博士のロボは、博士のロボ2号に恋をする。博士のロボ2号は、博士のロボ3号にって、以降17号までそれが続いて、博士のロボ17号は、川原の小石に恋をする。で、以降ずーっと小石が小石に恋をしてって、最後に小石が野球部のキャプテンに恋をする。で、百角関係!」
「泣けただろ?」
「泣けるか!誰が小石に感情移入出来るんだ!オリジナリティ出したいなら、最後の最後に小石でいいじゃないですか!つか、博士のロボと小石の重複何なんですか!万策尽きるの早過ぎだっつぅの!」
「別に尽きた訳じゃないさ。」
「博士のロボと小石に誰が等身大の自分を重ねられるってんですか!博士のロボと小石に誰が、誰もが一度は経験した事がある恋心を共感させられるってんですか!博士のロボって、何っ!!」
「地球を悪から守る為に日夜研究し続けてる博士だよ。書いてあるだろ。」
「サッカー部のキャプテンが猫に恋をってとこで既に読み手の気持ちが離れてるってのに、そこにトドメの一撃しないで下さい!」
「人間が猫に恋しちゃいけないのか!ロボが恋しちゃいけないのか!恋愛ってのはな!自由なもんだろうが!」
「自由過ぎなんだっての!自由に書き過ぎなんだっての!アタシは、人と人のドロドロの恋愛に先生オリジナルの要素を加えた無敵の恋愛小説を持ち掛けたんです!」
「ええー!恋愛小説のルール分かんないよ。」
「百角なら百角で、全て人間に統一すればいいじゃないですか!簡単な話でしょ!スルーしましたけど、日夜研究し続けてる博士ってのもアウトですからね!」
「何でだ!」
「分かるだろ!」
「分からん!」
「博士が百角に関わるならまだしも!全く恋愛に興味ないヤツの事細かな人物設定なんか誰が求めるってんですか!」
「そんな博士が作ったロボだからこそ!その反動で恋愛感情が芽生えたんだろ!」
「こんな意味不明な議論なんかしたくないっ!とにかくこれで先生には、恋愛小説が書けないって事が、これで分かりました。」
「書けなくはないだろ。」
「まともな!恋愛小説が書けないって事が分かりました!」
「書けなくはないだろ。」
「じゃあ!書いてみろよ!ドロドロした三角関係とか四角関係じゃなくて!純愛的な野球部のキャプテンと水泳部のマネージャーとの感情移入出来る恋愛小説を書いてみろよ!」
「ああ!ああ!書いてやるよ!野球部のキャプテンと水泳部のマネージャー女海賊との感情移入出来る純愛的な恋愛小説をな!」
「そうゆうとこ!!」
「どうゆうとこ!?」
「女海賊に誰が感情移入出来るんだ!」
「水泳部のマネージャーだから海賊。山岳部のマネージャーだったら山賊。そうだろ!」
「違うだろ!何で、そうゆう特殊な設定を付けたがるんですか!」
「じゃあ、野球部のキャプテンと水泳部のマネージャーが最初から最後まで、ずーっとチューしてればいんだろ。」
「どんな恋愛小説だ!物語として成立しないだろ!どう展開してくんだ!」
「水泳部のマネージャーは、不治の病でな。いつ死んだっておかしくないんだよ。野球部のキャプテンは、それでも水泳部のマネージャーが好きで好きで堪らない。水泳部のマネージャーも野球部のキャプテンが好きで好きで堪らない。でも、自分らの無力さが甚だしい。ありふれた日常が明日には思い出になってしまうかもしれない。それでも二人は今日を一生懸命生きる。だけどそんな奇跡は、長く続かない。」
「いや、二人はずーっとチューしてんのに、それをどうやって展開して行くつもりなんですか?回想させてくんですか?」
「いや単純に現在進行形で、ずーっとチューしたまま展開してけばいいじゃん。」
「喜劇か!」
「喜劇じゃない!!」
「な、何ですか急にその迫力!?」
「野球部のキャプテンはな!水泳部のマネージャーが死なないように一生懸命チューし続けてんだ!」
「いやちょっと本当に意味が分かりません。何で野球部のキャプテンは、水泳部のマネージャーが死なないように一生懸命チューし続けてるんですか?」
「水泳部のマネージャーが、チューし続けてないと死んじゃう病、だからに決まってんだろ!」
「そうゆうとこ!!」
「どうゆうとこ!?」

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