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2014年6月18日 (水)

「第四百十八話」

「監督、俺野球辞めます!」
これは、9回裏ツーアウト満塁、ボールカウントはノーストライクスリーボール、バッターボックスには4番、マウンド上でかなり追い込まれてるピッチャーの話である。
「どのタイミングで引退するつもりなんだよ!いいか?大丈夫だ!お前ならここを切り抜けられる!なんてったってお前は!ウチのエースなんだからな!」
そんなピッチャーの気持ちを落ち着かせる為に監督は、マウンドに駆け付けていた。
「でも無理だよ、監督。俺、無理だよ。」
「無理じゃない!」
「無理だよ。」
「大丈夫だ!」
「無理だってば。」
「お前なら大丈夫だ!自信を持て!」
「もう限界だよ!」
「何の限界か!一体何の限界か!人はよく、もう限界もう限界って言うが!限界って何だ!何が限界か!そんな都合のいい言葉を軽々しく使うもんじゃない!なあ?いいか?お前は限界じゃない!俺が決める事じゃないのは分かってるが!この場は、俺に仕切らせてくれ!お前は、限界なんかじゃない!」
「限界なんだよ!右腕が取れ掛けてるんだよ!」
「え?」
「うん!」
「いや可愛らしく、うん!じゃなくて、何でそんなウソ付くんだよ。」
「ウソじゃない!」
「ウソだろ!取れ掛けてなんかないだろ!」
「見た目にはそうかもしれないけど!」
「見た目だ!取れ掛けてると言ったらそれはもう!全面的に見た目の事を言う!!」
「監督!」
「何だ!」
「気持ちの話だ!」
「何がだ!」
「右腕が取れ掛けてるって言うのは!見た目じゃなくて!そう言う気持ちだって話だ!」
「そうか。気持ちの話か。でもな?大丈夫だ!」
「大丈夫なもんか!プランプランなんだぞ!」
「気持ちの話だろ?」
「血が!ドバドバ出てるんだぞ!」
「だから気持ちの話だろ?」
「血だけじゃない!内臓や脳ミソだって出ちゃってんだぞ!」
「どんな気持ちなんだよ!その気持ちを伝えられて、どう共有すればいいんだよ!難しいよ!」
「監督!」
「何だ!」
「1塁ランナーいるだろ?」
「ああ。」
「1塁ランナーがな!俺にはさっきっから大型の鳥に見えてしょうがないんだよ!」
「大丈夫だ!」
「1塁ランナーが大型の鳥に見えてるヤツが大丈夫なもんかーっ!」
「大丈夫だ!1塁ランナーは初めから大型の鳥だ。1塁ランナーだけじゃない。2塁ランナーも3塁ランナーも大型の鳥だ。」
「何でだよ!じゃあ何か?俺達は、大型の鳥と野球の試合してんのか?」
「そうだ!」
「そんな訳がないだろ!」
「そんな訳がないって分かってるなら!なぜ、どうしようもないウソを付くんだ!」
「ウソじゃない!1塁ランナーが大型の鳥に見えるんだ!」
「うん、でもいいじゃん。別に1塁ランナーが大型の鳥に見えてたっていいじゃんか、そこは。」
「いい訳がないだろ!」
「1塁ランナーが大型の鳥に見えてようが、1塁ランナーが、カマキリに見えてようが、1塁ランナーが公証人役場に見えてようが、試合は続けられるだろ?」
「気になるだろ!」
「気にするな!」
「ムチャクチャだな!」
「お前がな!」
「気にするなって言われてもな!気になるもんは、どうしようもないんだよ!気にしないように気にしないようにすればするほど、気になって気になって、どうにもならないんだよ!」
「気にするな。」
「俺の熱弁!監督!今の俺の熱弁は、アンタの心に響かなかったのか!」
「そんなフワッとした熱弁が心に響くか!いいから、深呼吸して気持ちを落ち着かせて、それから投げろ。あとワンアウトだ。」
「嫌だ!」
「何でだよ!」
「考えてもみてくれよ、監督。このピッチャーマウンド。」
「ピッチャーマウンドがどうかしたのか?」
「数え切れないほどのピッチャーがマウンドに立ち、数え切れないぐらい踏まれたこのピッチャーマウンド。」
「それが何だ。」
「次、俺が投げてピッチャーマウンドを力いっぱい踏み込んだ時、その瞬間にピッチャーマウンドが抜けたらって考えたら!もう恐怖で恐怖で、とてもじゃないが無理だ!」
「まずピッチャーマウンドが抜ける訳がないし、今まで投げてただろ?」
「急に!急に、そう言う考えが浮かんだんだよ。虫の知らせって言うのか?きっと、何か危険を察知したんだよ。この球場は、きっと呪われてる!ここで昔いっぱい人が死んだんだ!」
「どんな場所だって、昔から辿ったら人がいっぱい死んでるよ。」
「おい監督!どうしてそんなにクールでいられるんだ!それほどまでに女子人気が欲しいのか!」
「一言、マウンド上でなぜか追い込まれてるピッチャーを落ち着かせようと駆け付けてみたら、そんな事を言われるとはな。」
「だってそうだろ!そのダンディーなヒゲは!そう言う事だろうが!」
「何の話をしてるんだ!」
「監督!」
「今度は何だ!」
「今度とか言うな。そう言うの傷付く。」
「悪かった。」
「監督!」
「何だ!」
「このスタジアムのどこかに仕掛けられた爆弾は、解除出来たのか!」
「今度って言いたくなる内容だろ!急に、どんな設定だよ!」
「野球の試合を続けてる限りは爆発させないって要求のあれだよ!」
「どれだよ!」
「だけどもう!限界だ!これ以上、試合を引き延ばせない!」
「じゃあ、終わらせてくれよ。なあ?さっさと帰ろうよ。」
「監督!」
「何だよ!」
「ノリが悪いぞ!」
「野球の試合をしてるんだぞ!何でマウンド上で、監督とピッチャーがコミカルな会話をしなきゃならないんだよ!」
「監督!」
「何だ!」
「監督!」
「何だ!」
「監督!」
「何だ!」
「監督!」
「何だ!」
「監督!」
「ここに来て繰り返しのしょうもない時間稼ぎすんなよ!」
「この状況分かってんのか!9回裏ツーアウト満塁、ボールカウントはノーストライクスリーボール、バッターボックスには4番なんだぞ!」
「うんでも、9回の表にウチは大量得点入れたから絶対に勝てるんだよ。」
「勝負に絶対はない!野球はツーアウトからだ!」
「スコアを見てみろ!」

第四百十八話
「71対5」

「監督!」
「何だ!」
「・・・・・・・・・・・・野球はツーアウトからだ!」
「うっせ!」

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