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2014年7月 9日 (水)

「第四百二十一話」

 私が湖の畔を散歩していると、鳰の番が仲睦まじく子育てをしている光景が見えたので、少し離れた場所に座り、休憩も兼ねて観察してみる事にした。

第四百二十一話
「鳰」

「ねぇ?そろそろ交代してくれない?」
「ちょっと今、翼の調子が悪くて無理。」
「いやいやいや、無理じゃなくて、さっきからずーっとアタシが卵温めてるんですけど?」
「ごくろうさまです。」
「ごくろうさまです。じゃなくて!ごくろうさまですって言うなら早く交代してよ!」
「だから、翼の調子が悪いんだってば。」
「卵の上に座ってるだけなんだから翼関係ないじゃん!」
「その態勢がキツいんだよ。今の俺の翼にはさ。」
「いやいやいや、水の上にいる時と変わんないじゃない!」
「変わる。」
「変わらないでしょ!」
「いいか?水の上にいる時は、こうして足を動かせるだろ?」
「さっきっから言おう言おうと思ってたんだけど、話をする時は、止まってくんない?スイスイ、スイスイ、グルグル、グルグル回るのやめてくんない?」
「こうしてるのがいいんじゃないか。今の俺の翼にはさ。」
「いや、こっちはイライラして、しょうがないんだけど!」
「こうしてるとな、翼の調子がいくらか良いんだよ。でもな、卵の上でジッとしてるのは、ダメなんだよ。」
「何が?」
「何がって?」
「だから、翼の調子が悪いって、何が?何がどう調子が悪いの?」
「ハッキリとは分からない。」
「何を言ってくれてんの!?」
「だから、朝起きて何だかよく分からないけど、とにかく翼の調子が悪いって日があるだろ?鳥あるあるだろ?」
「ない!」
「ラッキーバード!」
「いや、ないでしょ!鳥ないないでしょ!別にアタシが今まで幸運で生きて来たみたいに言わないでよ!そんな話聞いた事ないわよ!てか、サボりたいだけなんでしょ?」
「サボりたい?」
「そう。」
「俺が?」
「そう。」
「この俺が?」
「そう。」
「卵を温めるのに命を懸けてる俺が?」
「じゃあ、懸けなさいよ命!翼の調子が悪いぐらい何なのよ!」
「待て待て、いいか?温めないとは言ってないだろ?」
「言ってるも同じでしょ!」
「それは、お前の捉え方だろ?」
「何?アタシが間違ってんの?」
「そうだよ。」
「はあ!」
「ちょっと落ち着けよ。卵が割れたらどうすんだよ。」
「卵を盾にするなんて、アナタ、卑怯ね。」
「卑怯って、お前が今にも興奮して暴れ出しそうになったから、俺は産まれて来る子供達の心配をしてるだけだろ。」
「ごめん、ちょっと1回目クチバシで目を突っつかせてくんない?」
「その後の一生を冷静に考えたら、いいよって言う訳がないだろ!」
「なら早く交代しなさいよ!」
「翼の調子が悪いって言ってるだろ!」
「あのさ?サボりたいならサボりたいって、素直にそう言えば?何で意味の分からない嘘を付くの?素直に言えば、アタシだって今日1日ぐらいは、いいよって言うかもしれないじゃない。」
「言うかもしれないって事は、言わないかもしれないって事だろ!そんな危ない賭け出来る訳がないだろ!って、そもそも俺はサボりたいなんて考えてない!翼の調子が悪いこんな状態で卵を温めたりして、産まれて来る子供達に悪影響を与えてしまったらって、考えての事だ!」
「どんな?」
「どんなって?」
「だから、翼の調子が悪い状態で、卵を温めたら、産まれて来る子供達に、どんな悪影響があるの?」
「分からない、分からないけど、例えばそうだな?毒とか?」
「毒?翼の調子が悪い鳥が卵を温める事が毒って事?」
「いや、産まれて来た子供達が毒鳥になっちゃうって事だよ。」
「どう言う仕組みよ!」
「だから、例えばだよ!翼の調子が悪い鳥が卵を温めたら、そんな前代未聞な事が起こってしまうかもしれないって事だよ!もしかしたら、象が産まれて来るかもしれないって事だよ!」
「突飛も突飛で、例えになってないじゃない!」
「落ち着けって!卵が割れちゃうだろ!」
「ねぇ?」
「何だよ。」
「アナタが卵を温めるの交代してくれないなら、アタシにも考えがあるわ。」
「考え?考えって何だよ。」
「割るわ。」
「はあ?」
「交代しないなら、この卵を1つずつ突っついて割るわ!」
「お前、卵を盾にするなんて、それでも親鳥か!」
「その言葉!そっくりそのまま返すわよ!」
「俺は、翼の調子が悪いって言ってるだろ!」
「いやもう取れちゃえば!そんな下らない理由で卵が温められないならいらないじゃん!ちょっと来なさいよ。むしり取って上げるから。」
「俺の翼が無くなったら、誰が子供達に飛び方を教えてやるんだ!」
「アタシが教えるわよ!」
「俺はな!子供達と大空を一緒に飛ぶのが夢なんだよ!」
「ならサボらないで温めなさいよ!」
「翼の調子が良くなったら、温めるよ。」
「えバカなの?」
「バカってなんだ!バカって!」
「バカにバカって言ってるだけでしょ!」
「誰がバカだ!」
「お前だ!」
「コンニャロウ!」
「何よ!やんの?かかってきなさいよ!」
「翼の調子が悪くなかったら今すぐにでも行ってやったのにな!」
「とんだチキンね!」
「何だと!!」
まったく、何と仲睦まじい鳰の番なのだろうか。私も見習わなくてはな。そうだ。妻に日頃の感謝を込めて、花屋に寄ってから家に帰る事にしよう。

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