« 「第四百二十三話」 | トップページ | 「第四百二十五話」 »

2014年7月30日 (水)

「第四百二十四話」

「あ・・・・・・。」
暇な休日、ボクは部屋で右目をいじってた。そしたら、右目が取れた。ボクは床に落ちた右目を拾って洗って水をヒタヒタに入れたコップに浮かべた。テーブルの上にコップを置いて椅子に座り、ボクは右目を左目で眺めてた。
「ビィィィィィィ!!」
こんな時間に訪問者?と思ったけど、そんな時間でもなかった。ドアを開けると宅配業者の男が小包を持っていた。ボクはその小包を受け取りキッチンに戻って椅子に座ってコップに浮かぶ右目を左目で眺めながら小包を開けた。
「ビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリ!!」
随分と過剰な梱包の中には、新しい左目が入ってた。
「!?」
しまった!って思った。今日は火曜日だから普通に仕事がある日だって事に気付いた。でも右目が無いと出来ない仕事だから、やっぱり今日は休日に等しいなぁって、右目が浮かんでるべきはずのコップを見ると、やっぱり右目が浮かんでた。
「ジャアアアア!」
届いた左目も水をヒタヒタに入れたコップに浮かべたいからって、蛇口から流れ出る水を見ながら、あの流れ出る水が水じゃなくてタコだったら、ボクは一生タコには困らない人生だなって思った。そしてこうも思った。あの水は、一体いつから流れ出てるんだ?って。さっき、右目が取れたトラブルに襲われて大パニックで気付かなかったけど、あの時既に蛇口から水は流れ出てた。これは来月、とんでもない水道代かもしれないって愕然としたし、仮に蛇口からタコだったら今頃タコだらけだったって、やっぱり蛇口からは水だなと歓喜した。
「パリーン!」
「あ・・・・・・。」
あまりの歓喜は、災いを呼ぶとはよく言ったもんで、尋常じゃなく歓喜してたら、テーブルにぶつかってテーブルの上の右目が浮かんでたコップが床に落ちて割れた。
「あ・・・・・・。」
おまけに、テーブルの上に置いといた左目も落ちて転がって、転がって転がって転がって転がった。左目を見失わないようボクは必死で左目で左目を追った。もしここで左目を見失ったら、もう2度と左目を目にする事はないだろうって思ったからだ。
「やった!」
そんなボクの気持ちとは裏腹に転がる左目は、いともたやすく拾う事が出来た。そのいともたやすくは、こんなにもいともたやすくってぐらいだった。いともたやすくを競う大会が仮に存在するとしたら、ボクはこの国に1番輝くメダルを持って帰って来る事が出来るだろう。
「よっしゃ!」
ボクは次の呼吸をする前に素早く右目も拾った。スローモーションで見たらきっとスローモーションだからボクの今の素早さは伝わらないだろうなって思ったけど、今のボクはボクがこの世に生まれてから1番素早かった。素早さを競う大会が仮に存在するとしたら、ボクはこの国にもう1つ1番輝くメダルを持って帰って来る事が出来るだろう。
「あ・・・・・・。」
そう、つまり今の『あ』は、どっちの手で、どっちの目を握ってるのか分からなくなったから思わず出た『あ』だ。でも瞬時に冷静を絵に描いた様な男子なボクは、どっちの手に、どっちの目が握られてるか見分ける方法を編み出した。そう、右目を握ってる手は、割れたコップのガラスの破片で怪我をしてるはずだ。例え物凄い身体能力をボクが発揮して散乱するガラスの破片をオートマチックに反射的に避けながら右目を拾って怪我1つしてないとて、割れたコップの回りは水浸し、つまり水で濡れた手の中に右目が入ってるって事は必然的。
「ああ。」
奇跡的に両手に傷が無い事を確認して安堵するか否かでボクは自分が異様な程に手汗をかく体質だって事に気付いて呆然とした。
「ジャアアアア!」
落胆しながら膝からスローモーションで崩れ落ちてくボクは、蛇口からスローモーションで流れ出る水を見ながら、あの流れ出る水が水じゃなくてタコだったら、やっぱりボクは一生タコには困らない人生だなって思った。
「ビィィィィィィ!!」
膝が床につくかつかないかのこんな時に限って訪問者だ。ボクは気を新たにドアに向かって行くと気を引き締めてドアを開けるた。けどそこには誰も居なかった。これが単なるイタズラだと気付くのに数分掛かった。
「あ・・・・・・。」
行き場のない怒りと憎しみと憎悪と怨恨と憤怒と小声の罵詈雑言の中、キッチンに戻ったボクは、怒りで強く握り締めた両手の隙間から両目の形容しがたい肉片的な物が出てるのに気付いた。やっちゃったって思ったけど、同時になんとかなるだろって思った。きっと後者は思っちゃダメなんだろうなって思ったけど、思った。あと、右目ってこんなにもいともたやすく取れちゃうんだなとも思ったし、左目って宅配便で届くんだなって思ったし、蛇口から流れ出る水を見ながら、あの流れ出る水が水じゃなくてタコだったら、ボクは一生タコには困らない人生だなって思った。

第四百二十四話
「豪放磊落」

|

« 「第四百二十三話」 | トップページ | 「第四百二十五話」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/121942/56944996

この記事へのトラックバック一覧です: 「第四百二十四話」:

« 「第四百二十三話」 | トップページ | 「第四百二十五話」 »