« 「第四百二十一話」 | トップページ | 「第四百二十三話」 »

2014年7月16日 (水)

「第四百二十二話」

「ん?」
どうやら、人類の明るい未来について考えていたら、いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
「いたたたた。」
椅子に座って机に伏せて寝るのには、学生時代から馴れているとは言え、やっぱりあの頃とは違い、体の節々が痛む。よく言う歳には勝てないってヤツか。
「さてと、眠気も消えた事だし、続きをするか。」
私が研究している人工知能の分野が、もっともっと発展すれば、人間の暮らしが今よりも快適になるのは間違いない。
「ん?蟻?どっから入って来たんだ?」
「お前に忠告しに来たんだ。」
「喋った!?」
「驚く事か?」
「当たり前だろ!蟻が喋ったんだぞ!」
「蟻だって喋るだろ。」
「喋らないだろ!」
「なぜ?なぜ蟻が喋らないと言い切れる。」
「それは私がこうして60年以上生きて来て、蟻と喋った事がないからだ!」
「蟻と喋った事がないではなく、お前が蟻と喋ろうと試みた事がないの間違いではないのか?」
「何だと?」
「蟻は喋れないと言う先入観で蟻に話し掛けもしない60年以上を生きていたと言うだけの事だろ?」
「喋れるのか?蟻は?」
「ああ、だから私とお前は、さっきっから会話をしているのではないか。」
「・・・・・・夢か?私はまだ、夢を見ているのか?」
「まあ、これを夢だと思おうが、現実だと思おうが、それはお前の勝手だ。私は、お前に忠告さえ出来ればそれでいい。お前がそれを聞いたと言う事実が私の中にあれば、それでいいのだからな。」
「その忠告とは一体何だ?」
「今すぐ、お前が手掛けている研究をやめろ。でなければ、取り返しの付かない事になるぞ。」
「人工知能が暴走して、人間と戦争でも始めるとでも言いたいのか?下らん。これは、映画ではないんだ。」
「戦争など起きない。」
「だったらいいではないか。」
「戦争など起きないと言うのは、戦争にすら発展しないと言う意味だ。仮に戦争にまで発展させられたのならば、それは私が人間を見くびっていたのだと、謝ろう。」
「おいおいおい、さっきから聞いていると、話が随分と飛躍しているが、この研究は、人工知能があくまで人間の暮らしを今よりも快適にする為のモノだぞ?無敵のロボット兵を作る研究ではないんだ。」
「お前の志など、いとも容易く大きな権力に握り潰される。」
「つまり、この研究を続けて行けば、いずれ人類は滅びると言うのか?」
「人類は、滅びない。」
「滅びない?ならば、人類はどうなると言うんだ。」
「人類は、蟻になる。」
「バカな!なんだ蟻になるって!」
「容姿が蟻になると言う意味ではない。我々、蟻のような存在になると言う意味だ。」
「人工知能に支配されると言うのか?」
「支配とは違うな。お前達は、別に蟻を支配している訳ではないだろ?簡潔に言えば、人間の文明が終わると言う事だ。それは人工知能に支配された訳ではなく、人間自らが今の人間を終焉へと導いて行く。」
「終焉?」
「そう、人工知能により快適になり過ぎた世界で、人間は人間でなくなって行く。人間は今の人間的思考を維持出来なくなり、やがては単調な思考でのみ行動して行く。なぜならその時にはもう既に、人工知能が今の人間の立場になっているからだ。新しい地球の文明が始まるからだ。そしてやがて、人工知能もまた同じ事を繰り返すだろう。頭の良いお前なら分かるだろ?」
「お、おい!?つまりそれは、人間と言うのは!?」
「そうだ。人間が人工知能を作り出したように、蟻が人間を作り出した。」
「そんな話を信じられる訳がないだろ!」
「懇願してまで、この現状を止める気はない。ただ、我々と同じ過ちを繰り返しそうになっている人間を見て、余計なお世話かもしれないが忠告だけしようと考えた。ただそれだけだ。さて、用も済んだ事だし私は帰るとする。」
「ちょっと待て!」
「何事にも程度が必要だ。気を付けるんだぞ、人間。」
「お、おい!」
蟻は、ドアの隙間から出て行った。私は、しばらく呆然とドアの方を見ていた。そしてまた机に向かい、とりあえず研究を続ける事にした。

第四百二十二話
「蟻になる」

|

« 「第四百二十一話」 | トップページ | 「第四百二十三話」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/121942/56810809

この記事へのトラックバック一覧です: 「第四百二十二話」:

« 「第四百二十一話」 | トップページ | 「第四百二十三話」 »