« 「第四百二十七話」 | トップページ | 「第四百二十九話」 »

2014年8月27日 (水)

「第四百二十八話」

「先生?電気イスって知ってる?」
「ん?」
「座ると、ビリビリビリビリって!」
「ビリビリどころじゃないだろ。死刑執行の道具なんだからさ。」
放課後、二人きりの教室、無邪気に話し掛けて来る彼女は、僕の教え子だ。僕は、この女子高で世界史を教えている。彼女とは、彼女が一年生の時に出会った。そして僕等は、自然とお互いに惹かれ合った。あれから二年、まさか自分が15も離れた子供だと思っていた存在と付き合うだなんて考えもしなかった。
「ねぇ?」
「ん?」
「電気イスに座った人は、どんな気分なんだろうね?」
「どんな気分って、こらから死刑執行されるんだから・・・・・・。」
彼女は、無邪気過ぎて僕には持て余す存在だった。無邪気とは時に残虐で、時に狂気で、なによりも純粋だ。そして、それら全てが無意識の中に混在し、本人は全く気付いていない。彼女の無邪気がいつか暴走したらと考えると、一日でも早く付き合いを終わらせた方がいいのだろう。
「先生?どうしたの?」
「ん?ああ、そんなありもしない気分なんか、やっぱり分かんないよ。」
「もう!相変わらず先生は、大真面目なんだから!」
「かもな。さあ、帰ろう。」
「うん!」
「お、おい!?学校の中じゃくっつかないのがルールだろ。」
「はいはい。」
僕にとって、この無邪気な笑顔を無防備に向ける彼女は、まさに電気イスだ。きっと電気イスに座らされた人間は、こんな気分なんじゃないだろうか?

第四百二十八話
「電気イス」

「看守さん。」
「何だ?」
「こ、これって本当に単なる掃除なんですよね?」
「当たり前だろ。」
「で、でも。」
「でも、何だ?」
「死刑囚が電気イスの掃除をするなんて聞いた事ないですよ!」
「あのな?お前は、ここで死刑囚になる前にも外で死刑囚やってたのか?ここではここの、他では他の、ルールってもんがあるんだ。だいたい掃除用具を手に、掃除以外の何が考えられる。」
「そうですけど、死刑囚が電気イスの掃除なんて、ブラックジョークにも程がありますよ。」
「なら笑えばいいだろ。」
「笑えないですよ!」
「どうしたんだよ。1104、何だかおかしいぞ。体調でも悪いのか?」
「こ、これは単なる確認なんですが、いや確認と言うか。」
「何を怯えてるんだよ。」
「まさか、刑が執行される訳じゃないですよね!」
「はあ?おいおいおい、一体どっちがブラックジョークなんだよ!刑が執行って、つまりは死刑執行って事だよな?」
「そうです。」
「ないないない!ある訳がないだろ!だいたい、神父もいなけりゃ、ここには俺とお前の2人しかいないし、死刑執行なんて膨大な書類に判を押さなきゃならないんだぞ?俺の気分で死刑執行してたら、ここはゴーストジェイルだ!」
「そ、そうですよね。」
「気持ちは分かるが、考えがまるで飛躍し過ぎだ。それに、良い事を教えてやるよ。今の死刑執行は、薬物投与で、こんな骨董品なんか使わない。」
「そうですか。」
「分かったら、床ばっか掃除してないでさっさと骨董品の方も掃除しろ。俺だって、こんな部屋に長居したくないんだ。」
「は、はい。」
「そうだ!良い事を思い付いたぞ!」
「何ですか?」
「1104、お前ちょっとイスに座ってみろよ!」
「絶対に嫌ですよ!」
「何で!記念写真撮ってやるよ!」
「何の記念ですか!」
「ジョークだよ!ジョーク!」
「笑えませんよ!私は、看守さん以上に!1秒でも早くこの場を去りたいんです!掃除の邪魔をするような話題は、やめて下さ・・・・・・ん?あ、あれ?」
「どうした!1104!?」
「な、何か体の調子が。」
「立ち眩みか?」
「かもしれません。」
「とにかく治まるまで、気分は乗らないだろうが、そこに座れ、転んで怪我でもされたら俺が所長に説教喰らうんだからな。」
「は、はい。」
「おい、本当に体調が悪いんじゃないんだろうな?」
「ありがとうございます。本当に単なる立ち眩みです。」
「それとも?昼食に入れた睡眠薬が効いてきた?」
「えっ!?」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「これはやっぱり!?」
「ジョークだよ!ジョーク!」

第四百二十八話
「電気イス」

「者ども-!遂に地球を侵略する時が来た!宇宙大魔王の時代だー!」
「おー!!」
「間もなく地球だ!各自持ち場を離れるんじゃないぞ!吾輩は、地球侵略の前に腹ごしらえをする!おい!」
「はい!何でしょうか?宇宙帝王!」
「宇宙大魔王だ!」
「宇宙大魔王!」
「いやだから、腹ごしらえするって言ったよ?」
「いつものですね?」
「いつものだよ!侵略の前には、ホットケーキ!マストだろ!」
「マストです!ささ、あちらにご用意していますので、テーブルの方へと移動を!足元にお気を付け下さい。」
「してるんじゃないか!」
「宇宙大統領!」
「大魔王な。」
「宇宙大魔王!今日は、地球侵略と言う事で特別なモノをご用意致しました!」
「それは、楽しみだ!」
「こちらになります!」
「おい!」
「有り難き幸せ!」
「褒めてない褒めてない!」
「だとしたら、いかがされました?」
「どう見ても普通のホットケーキだが?」
「あはい。」
「あはい、やめろ!宇宙大魔王だぞ!貴様、さっき特別なモノを用意したとか言わなかったか?」
「言いました。」
「普通のホットケーキだが?」
「特別なのは、イスです!」
「何で?こう言う場合は、ホットケーキの方を特別にしないか?」
「いえ、こう言う場合だからこそ!特別なイスをご用意致しました!」
「何なんだ貴様のその価値観は!んまあいい。それで?特別って何が特別なんだ?このイスに座ってホットケーキを食べると、いつものホットケーキが数倍美味しく感じられるとかか?」
「電気が流れます!」
「死ぬだろ!この場合、いつものホットケーキが数倍美味しく感じられるイス以外あっちゃならないだろ!んまあいい。ビリビリしながらホットケーキ食べて地球到着を待つのも乙なもんなんだろう。」
「宇宙先生!」
「ただただ宇宙に詳しいだけのヤツか吾輩は!宇宙大魔王だ!」
「宇宙大魔王、こちらを頭に。」
「いやだから、それ頭にやっちゃったら完全に終わりだろ?何か?これを頭に装着したら、いつものホットケーキが数倍美味しく感じられるとかか?」
「電気が流れます!」
「ちょっと貴様が、吾輩と交代してそれを頭に装着してみろよ!」
「嫌です!」
「何で?」
「電気が流れるからです!」
「だよな!だったら吾輩に、それを頭に装着させたがるな!と言うか早くホットケーキを持って来い!」
「はい!宇宙さん!」
「隣人か!大魔王だー!ったく!」

第四百二十八話
「電気イス」

「ビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリ!!!」
ああ、気持ちい~い!
「ビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリ!!!」
めちゃくちゃ気持ちい~い!
「ビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリ!!!」
ん?
「ビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリ!!!」
あれ?
「ビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリ!!!」
死ぬ?
「ビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリ!!!」
死ぬか?
「ビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリ!!!」
死にそうか?
「ビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリ!!!」
うん!
「ビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリ!!!」
大丈夫!
「ビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリ!!!」
あっ!?死んだ。

第四百二十八話
「電気イス」

「ねぇ?先生?」
「ん?」
「今日、先生の家に泊まってもいい?」
「ん?うん、ああもちろん。」
「よし!じゃあ、何か食べたいモノがあったら言って!愛情たっぷりで作っちゃうから!」
「うん。じゃあ、カレーかな。」
「またカレー!んでもまあ、いいよ!じゃあ、いつものスーパー寄って帰ろ!」
「そうだね。」
僕の真横で無邪気な笑顔を無防備に向ける彼女が電気イスなら、今さっき廊下で擦れ違い様に会釈をした彼女は、僕にとってギロチンだ。

第四百二十八話
「電気イス」

|

« 「第四百二十七話」 | トップページ | 「第四百二十九話」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/121942/57203432

この記事へのトラックバック一覧です: 「第四百二十八話」:

« 「第四百二十七話」 | トップページ | 「第四百二十九話」 »