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2014年10月22日 (水)

「第四百三十六話」

「おはよ。」
「おはよう。」
「いただきます。」
「ねぇ?朝御飯を食べる前に、ちょっと言って欲しい事があるんだけど?」
「食べながらでもいいだろ?」
「食べながらじゃダメなの。」
「いや、食べながらじゃダメって事ないだろ。」
「ダメって事があるのよ。」
「一般家庭だぞ?俺達は、普通の在り来たりな夫婦だぞ?やっぱり食べながらじゃダメって事ないだろ。大統領でもあるまいし。」
「極々一般家庭の在り来たりな普通の結婚生活五年目の季節が移り変わる晴天の朝の食卓だからこそダメなの!」
「テーブルに右肘グリグリやりって怒る事でもないだろ。いただきます。」
「おいこら待てーい! テーブルに右肘グリグリやって妻が怒ってる目の前で夫がいただきますって! テーブルに右肘グリグリやりって妻が怒ってる目の前で夫がいただきますって! テーブルに右肘グリグリやりって妻が怒ってる目の前で夫がいただきますって!」
「早口過ぎて音じゃ捉えられないよ。」
「だから!言って欲しい事があるの!その言葉を言ったら朝御飯食べていいし、屋上でも公園が見渡せる建設途中のビルでも小高い丘の上でも好きなとこ行っていいわよ。」
「スナイパーか俺は!何だよ。その言って欲しい言葉ってのは?」
「あのね?」
「うん。」
「あのね?」
「何だよ。」
「あのね?」
「あのね?いただきます。」
「あのね?じゃねぇし!言って欲しい言葉、あのね?な訳ねぇし!」
「連呼してたろ。」
「恥じらいの連呼よ!」
「おいお前まさか!?」
「察した?さすがに察した?」
「俺に朝から下ネタ言わせる気じゃないだろうな!」
「どんな変態的思考回路よアタシは!」
「いただきます。」
「だから食おうとしないで!」
「ならさっさと俺に言って欲しい言葉を言えよ。」
「あのね?」
「うん。」
「だからね?」
「うん。」
「アナタに言って欲しい事って言うのはね?」
「言って欲しい事って言うのは?」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・?」
「・・・キャッ!恥ずかしい!」
「バカなのか?」
「バカじゃねぇし!」
「じゃあ、何で朝から乙女が恥ずかしがる時みたいな感じで恥ずかしがってんだよ。」
「アタシ乙女だし!朝から晩まで乙女だし!生まれてから死ぬまで乙女だし!そう女は未来永劫!乙女だし!」
「ミュージカル?」
「どんなミュージカルだ!何でアタシは朝から夫相手に一人ミュージカルしなきゃならないのよ!」
「歌って踊り出しそうな勢いだったからさ。」
「ちょっと待ちなさいよ!アナタのせいで話が全然前へ進まないじゃない!」
「お前のせいだろ!お前がさっさと俺に言って欲しい言葉を言えば前へ進む話だろ!」
「乙女心察せよ!」
「いきなり朝から言って欲しい言葉がある。それを言うまで朝御飯は食べちゃダメで察せるか!右肘グリグリやめろ!テーブルに穴でも開いたらどうすんだよ!もしくは火事んなったらどうすんだ!ローンもまだ払い終えてないんだぞ!」
「超人かアタシは!超高速右肘グリグリで宇宙からの侵略者をやっつけるのか!地球のピンチ何度も救うか!大体、テーブルや家の心配する以前にアタシの右肘の心配したらどうなの!」
「酔っ払ってんのか?」
「酔っ払ってねぇよ!」
「いただきます。」
「いただきますでもねぇよ!」
「いい加減に食わしてくれよ。休日にゴロゴロしながら溜め録り観るのが楽しみなんだからさ。」
「何だそれ!しょーもない!もっとバーベキューとかロッキングチェアで読書とか湖で釣りとか大人の休日の過ごし方があるだろ!」
「山男か俺は!ハム、ナイフに刺したままフライパンで焼くか!ちょっと町まで食料と銃弾を買いに行って来るって言って四駆に乗り込むか!」
「ならアタシはその間に野イチゴでジャムでも作るか!」
「ノリをノリで返すなよ!全く話が進まないだろ?乙女の壁を乗り越えて、さっさと俺に言って欲しい言葉を言えよ!」
「愛してる!」
「はあ?」

「愛してる!」
「急に何だよ?潜伏期間を経て発病したのか?」
「冒険者かアタシは!ジャングルで見知らぬ植物触ったか!違うわよ!アナタに言って欲しいのよ!愛してるって!」
「何で今?」
「極々一般家庭の在り来たりな普通の結婚生活五年目の季節が移り変わる晴天の朝だからよ!」
「はあ?」
「ふと気付いたのよ!ふと気付いちゃったのよ!言われてないってね!愛してるって言われてないってね!」
「そうか。」
「そうよ!結婚する前は、あんなに愛してるって言ってくれたのに!結婚してからはどう?どうなの?そう!全く言ってくれない!」
「悪かったよ。」
「だから今!朝御飯を食べる前に言って欲しいの!アナタの口からアナタの言葉で、愛してるって!」
「そうだったのか。」
「どーぞ。」
「いただきます。」
「いただきますじゃねぇし!要望の全貌明らかになったのに、いただきますじゃねぇし!アタシがコメディアンだったら今頃、椅子と共によ!視線の先には天井よ!」
「ひっくり返ってないとこを見ると、お前はコメディアンじゃないんだな。」
「当たり前じゃい!今度劇場に来てねって、チケット渡した事ないだろ!」
「分かったから右肘グリグリやめろよ。カニみたいになったらどうすんだよ。」
「シオマネキかアタシは!どんな運動量よ!いやいやいやいやいやいやいや、こんなどーでもいい会話してる場合じゃなくて!早く愛してるって言ってよ!」
「嫌だよ。」
「はい?え?何々?それってつまりは、アタシの事をもはや愛してないって事?」
「そんな訳ないだろ?」
「じゃあ!言おうよ!愛してるって言おうよ!言ってしまおうよ!」
「だから、嫌だって。」
「アタシの事をもはや愛してない訳じゃないのに嫌なの?」
「まあ、あれだよ。嫌って言うのはつまりは恥ずかしいって事だよ。」
「恥ずかしいって何?愛してるなら愛してるって恥ずかしがらずに言えるでしょ?言えちゃうでしょ?」
「恥ずかしいもんは恥ずかしいんだよ。それに言葉にしなくても分かるだろ?」
「言葉にしなくても分かるかもしれないけど、言葉にして欲しいのよ!それが乙女心なのよ!」
「それに言うんだったらもっとロマンチックなシチュエーションの方がいいだろ?」
「分かってない!アナタ、全っ然分かってないわ!ロマンチックなシチュエーションの時になんて男の勝手な思い込みで、 極々一般家庭の在り来たりな普通の結婚生活を過ごしてる女は何気ない有り触れた日常生活の中で愛してるって言われたいのよ!」
「そう言うもんなのか?」
「だってそうでしょ!恋人じゃなくて夫婦なんですもん!ロマンチックなシチュエーションがいつ来る事やら!」
「そうか。」
「そう!」
「なるほどな。」
「だから、お願い!」
「そうだよな。」
「ほら!」
「その気持ちに気付いてやれなくて悪かった。」
「うん、謝罪はいいから!」
「本当に、ごめん。」
「うん、だからほら!」
「考えてみれば最後に言ったのはいつだったかなぁ?確か遊園地の観覧車の中だったかなぁ?いや待てよ?結婚式の」
「言う気ないだろ!何となくこの場をはぐらかしてゴロゴロする気だろ!」
「第五話が気になるんだよ。早く観たいんだよ。」
「妻に愛してるって言うよりもドラマの続きが気になるって何なんだよ!」
「続きが気になるように作ってるんだろ?ドラマってのはさ。」
「はあ、何か、もういいや。アナタに期待したアタシが愚か者だった。」
「いや、今日じゃなかったら言ってたよ。確実に恥ずかしさを乗り越えて言ってたよ。」
「今日言えない男がいつ言えるってのよ。」
「あのドラマの続きさえ気にならなかったらと思うと痛恨の極みだ!」
「もういいって、さっさと食べて、とっととゴロゴロすれば?」
「いただきます。」
「早っ!で?ドラマって何?」
「ああ、ほらシリーズもの。今シーズン3のだよ。」
「ん?何てタイトル?」
「愛してる。」
「あ?」

第四百三十六話
「ボヤ」

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