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2014年11月12日 (水)

「第四百三十九話」

 中途半端な時間で客は私1人だったが、雰囲気のある私好みのレストランだった。私はまず、シェフの気まぐれサラダを注文した。そして、シェフの気まぐれサラダがテーブルに運ばれて来てからしばらくして私は、シェフを自分のテーブルへ呼んだ。
「お待たせしました。シェフです。」
「このシェフの気まぐれサラダを作ったシェフですか?」
「そのシェフの気まぐれサラダを作ったシェフです。」
「石!」
「はい?」
「だから、石!」
「はい?」
「いや分かるだろ!」
「分かりません。」
「バカか!」
「シェフです。」
「知ってるよ!シェフで尚且つバカかって話しだよ!」
「シェフですが、バカではありません。」
「バカだろ!」
「なぜですか?」
「石!」
「はい?」
「だから!私が石って言って、はい?って答えてる事がバカかって言ってんだ!シェフで尚且つバカかって言ってんだ!」
「心の病ですか?」
「お前がだ!」
「確かにみんな、心に病を抱えてるのかもしれません。そう考えると、僕も心の病なのかもしれません。」
「そんな哲学的な心の病じゃなくてだ!シェフの気まぐれサラダで石を出す思考回路の問題だ!」
「石?」
「そうだよ!石だよ!私はね。度肝を抜かれたよ!あ、度肝って本当に抜かれるんだなって実感したよ!最初はさ。まさかなって、まさかこれがなって思ったよ。これから出て来るシェフの気まぐれサラダに使用するのかなって、この石を使うのかなって思ったよ。でも、全然出て来ない。シェフの気まぐれサラダ全然出て来ない。だから聞いたよ。ウェイターを呼んで、石を手に持って聞いたよ。もしかしてこれが、シェフの気まぐれサラダですか?ってね。」
「そしたら、ウェイターはこう答えた。いいえ、お客様、それは鏡です、と。」
「何で人の話に勝手に割り込んで来て勝手にジョークみたいにまとめるんだ!ウェイターは、シェフの気まぐれサラダだと答えたんだ!だから私は、シェフをここへ呼んでくれと頼んだ!」
「ごゆっくりシェフの気まぐれサラダを堪能して下さい。」
「なぜ厨房へ帰ろうとする!」
「シェフですから。」
「いや違う!この状況でなぜ厨房へ帰る事が出来るんだ!」
「シェフですから。」
「何なんだよ!」
「シェフです。」
「シェフの気まぐれサラダで石出すシェフがどこにいるんだ!」
「お客様?それは石ではございません。」
「石だろ!石以外の何物でもないだろ!」
「私をテーブルへ呼ぶ前に、こうは考えていただけなかったのでしょうか?もしかしたらこれは、石に見えるかもしれないけど、凄く斬新な、物凄く斬新なシェフの気まぐれサラダなのかもしれない。シェフをテーブルへ呼ぶ前に一度、口へ運んでみよう、と。」
「テーブルの上の歯が貴様には見えないのか!」
「失礼致しました!すぐに片付けさせます!」
「誰かの歯じゃなくて!私の歯だ!」
「お客様の中に歯医者様がいるか聞きましょうか?」
「いたとして歯医者がレストランで何が出来る?」
「励ますぐらいは出来るんじゃないでしょうか?」
「なら別に歯医者じゃなくてもいいだろ!」
「歯医者様しか出来ない励まし方の角度があるかもしれないじゃないですか!」
「励まし方の角度って何だ!そもそも客がいないだろ!いいか!今は歯の事はどうだっていいんだ!私はシェフの気まぐれサラダについてだけ話がしたいんだ!」
「ありがとうございます。」
「誉めるか!何で誉められると思ったんだよ!何で歯が取れてるのに私が誉めると思ったんだよ!」
「お客様?」
「何だよ!」
「ごゆっくりどうぞ。」
「だから何で厨房へ帰ろうとする!」
「僕もシェフとして忙しいんです。」
「他にもシェフがいるだろ!いやむしろ他のシェフに任せるべきだ!」
「他のシェフには任せる訳にはいきません!」
「え何で?」
「シェフの気まぐれマジックショーは僕にしか出来ないからです!」
「え何の話?」
「シェフの気まぐれマジックショーの話です!」
「シェフの気まぐれマジックショーって何!」
「シェフが気まぐれでやるマジックショーの事です。」
「シェフが気まぐれでやるマジックショーの話どうだっていいだろ!」
「何て事を言うんですか!僕はこのシェフの気まぐれマジックショーに命かけてるんですよ!」
「ならシェフ辞めろ!」
「お客様?現実とは厳しいものです。」
「何を語り出したんだ?」
「マジシャンは、あくまで小さい頃からの夢です。憧れの職業です。」
「シェフは?」
「天職です。」
「石!」
「はい?」
「シェフの気まぐれサラダで石出すヤツの天職がシェフな訳がないだろ!」
「今日の気まぐれマジックショーでは、僕が瞬間移動します!」
「あっそ!」
「空中に浮きます!」
「あっそ!」
「箱の中のトランプの数字を見事言い当てます!」
「そっちが天職だろ!気まぐれでマジックショーやってないでデビューすればいいだろ!」
「ありがとうございます。」
「深々とお辞儀してないで、石の問題を解決しろ!」
「お客様?」
「何だよ!」
「石ではありません。」
「石だろ!誰がどう見たって石だろ!」
「シェフの気まぐれサラダでございます。」
「じゃあ、このシェフの気まぐれサラダを貴様の額におもいっきり投げ付けてやろうか!」
「それはお客様の中にお医者様がいるか聞かなければならなくなるので、お止め下さい。」

「なぜそうなるのかそれは!これがシェフの気まぐれサラダじゃなくて!石だからだろ!」

「確かにそれは、石かもしれません。」
「石って言ってんじゃん!」
「ですが、お客様!このレストランでは、それは紛れもなくシェフの気まぐれサラダです。」
「気まぐれ過ぎだろ!気まぐれにも程があるだろ!せめて食べられるモノを出せ!」
「僕を石を食べてる人をテレビで見た事があります!」
「それは奇抜な人だろ!絶対に真似しないで下さいパターンのヤツだろ!なあ?何でもいいじゃん。何だっていいじゃん。シェフの気まぐれサラダなんだからさ。厨房にある食材でちゃちゃっと作ればいいじゃん。何で石?」
「お言葉を返すようですがお客様?」
「何だよ!」
「厨房には、石しかございません。」
「何なんだよこのレストランは!」

第四百三十九話
「シェフの気まぐれレストラン」

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