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2014年12月

2014年12月 3日 (水)

「第四百四十二話」

「世の中、不公平だよな。」
「何で?」
「だってそうだろ?雑誌で話題のイチゴのショートケーキが美味しいカフェに夫婦で来て、2人でその話題のケーキを頼んだのに、テーブルに運ばれて来た話題のケーキは、お前の方が大きくて、俺の方が小さい。こんな不公平があるか?」
「何を言い出すのかと思ったら、小っちゃい男ね。確かにケーキはアタシの方が大きいかもしれないけど、よく見て!ねぇ!よく見て!」
「見てるよ何だよ!」
「上に乗っかってるイチゴは、アナタの方が大きいじゃない!イチゴ好きのアタシからしてみたら、この事態の方が不公平極まりないわよ!」
「凄く小っちゃい女だな。」
「アナタにだけには言われたくないわよ!」
「この場合、イチゴはどうでもいいだろ?」
「イチゴのショートケーキでしょ!ここは、イチゴのショートケーキが美味しい話題のカフェでしょ!」
「おい、オレは今からぶっちゃけるぞ?」
「わざわざ宣言しなくたっていいわよ。」
「イチゴのショートケーキが美味しいイチゴのショートケーキが美味しいって言うけど、ケーキだろ?」
「どう言うぶっちゃけ?」
「だから、ケーキが美味しけりゃあ、それに合わせるフルーツなんて、何だっていい訳だろ?キウイだろうが、パイナップルだろうが、ブドウだろうがさ。」
「ぶっちゃけたわね。よくぞ現場で堂々と追い返されるレベルのぶっちゃけしたわね。」
「だから事前に宣言したろ?いいか?所詮は、ケーキなんだよ。何々ケーキって言うけど、大事なのはケーキなんだよ。だってオマエ、何々ご飯とか言って、ご飯がクソ不味かったら台無しだろ?」
「まあ、言いたい事は分かるわよ。ベースが大事だって事でしょ?」
「だってオマエ、何々スパゲッティって言って、パスタがクソ不味かったら台無しだろ?」
「いやだから、言いたい事は分かったってば!」
「だってオマエ、何々ラーメンって言って麺が入ってなかった台無しだろ?」
「最後のは単なる店主のおっちょこちょいじゃない!分かったわよ!言いたい事は分かったって!」
「じゃあ、この不公平を公平にしようじゃないか!」
「ええ、いいわよ?そうしましょ!」
「オマエのケーキの上に乗っかってるイチゴをくれ!」
「何でよ!よりにも寄ってどうしてそのチョイスなのよ!明らかにおかしいでしょ!」
「いいか?今このテーブルには、不公平が渦巻いてるんだよ。」
「大袈裟でしょ。」
「オレは、ケーキが小さいと言う不公平、オマエは、イチゴが小さいと言う不公平。不公平の渦を打ち消すには、不公平同士をぶつけ合うしかないんだよ。」
「どうしてよ!アタシがケーキ部分を同じ大きさになるように上げて、アナタがイチゴ部分を同じ大きさになるようにくれればいいじゃない!」
「事態はそんな単純な事じゃないんだよ。」
「単純でしょ!至極単純でしょ!」
「この国の政治と一緒だよ。」
「絶対違う!」
「じゃあ!」
「じゃあ!じゃないわよ!アタシのイチゴを奪おうとしないでよ!」
「オマエのケーキの上に乗ってるかもしれないけど、それはもう事実上オレのイチゴなんだよ。」
「んな訳ないでしょ!これはまだ!アタシのイチゴよ!」
「いや、オレのイチゴだ。」
「アタシのよ!だから!ケーキの部分とイチゴの部分を均等にすればいいだけの話でしょ!」
「その考えは嫌いだ!」
「意味が分からない!嫌いとか好きとかの問題じゃなくて、この方法が一番でしょ!」
「その方法じゃ何も解決しない!」
「するでしょ!物凄く解決しまくるてしょ!どう考えてもこれしかないでしょ!」
「だから!何度も言わせるなよ!不公平同士をぶつけ合うしか不公平を打ち消せないんだよ!」
「不公平を打ち消せたとしてもアタシには嫌悪感が残るわよ!」
「オレだってそうだよ!」
「だったら!部分交換したらいいじゃない!」
「オレだって出来ればそうしたいよ!」
「じゃあ!したらいいじゃない!」
「でも出来ないだろ!」
「何で出来ないの!」
「オマエは、これから先の夫婦生活をこのままこの不公平感を残留物として死ぬまで心に置いて過ごしていくつもりか!」
「何を言ってるの?」
「そう言う事なんだよ不公平ってのは!」
「じゃあ!」
「じゃあ!じゃあないだろ!何過ち犯そうとしてんだよ!死ぬぞ!」
「何で不公平を公平にしようとケーキ部分をフォークで分けようとして死ぬのよ!」
「オレは不公平で死ぬ人間を沢山見て来た!」
「それはそう言う国のそう言う争いの中での話でしょ!ここはカフェよ!雑誌で話題のイチゴのショートケーキがあるカフェよ!」
「いや違う!」
「違わない!」
「今やこのテーブル上は戦場だ!」
「そこまて言うなら分かった!なら取って置きの解決方法がもう一つあるわ!」
「何だって!?いや、オレは騙されないぞ?ある訳がない!」
「あるわ!」
「どんな解決方法なんだよ!」
「いい?もう1つずつイチゴのショートケーキを注文するの。」
「オマエそれはなかなかの危険なギャンブルだぞ?」
「でももう、それしか解決方法はないじゃない!」
「いいか?もしも次に来たイチゴのショートが公平だったらどうするんだ?それじゃあ、今の不公平の溝は埋まらないぞ?それに、次に来たイチゴのショートまでもが不公平って可能性だってあるんだぞ?そしたら不公平の溝は深まるばかりだぞ?」
「公平になるまで注文し続ければいいのよ!」
「な、何だって!?」
「こうなったら!それしかないじゃない!そうするしかないじゃない!」
「・・・確かにそうかもしれないが、あまりにも危険過ぎやしないか?もしも店にあるイチゴのショートケーキを全て注文しても不公平を打ち消せなかったらどうするんだ?」
「その時はその時よ!」
「なっ!?」
「不公平を打ち消したいんでしょ!」
「ああ。」
「だったら覚悟を決めて!」
「本気なのか?」
「本気よ!だから覚悟を決めて!」
「・・・分かった。」
「じゃあ、やるわよ!」
「ああ。」
「すいませーん!」

第四百四十二話
「取り替えればいいじゃん」

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2014年12月10日 (水)

「第四百四十三話」

「先生!これは、何ですか?私の右手にあるモノは何なんですか?」
「脳みそですね。」
「そうですよね!脳みそですよね!何で私の右手に脳みそが!」
「知りませんよ。逆に僕が聞きたい事の1つですよ。」
「やっぱり、病気でしょうか?」
「病気?」
「だって!右手に脳みそを持ってるなんて、病気としか考えられないじゃないですか!」
「もっと、色々と考えられるんじゃないでしょうか?例えば病院に来る前に、警察に行った方がいいんじゃないでしょうか?」
「なぜそんなお母さんみたいな事を言うんですか!」
「別に、お母さん限定じゃないでしょ。この状況を見たら誰だって言いますよ。いいですか?普通に考えたらですよ?貴方が誰かを殺して、脳みそを取って、それを持ってるって考えるでしょ?」
「私が人を殺す訳がないじゃないですか!どうして右手から脳みそが生えて来たんじゃないかって発想にならないんですか!」
「なる訳ないでしょ!逆立ちしたってその考えに至りませんよ!仮に右手から脳みそが生えて来たのならば、それは病気ですよ。まだ病名が存在しないだけで、確実に病気ですよ。」
「いつですか?」
「何がですか?」
「手術です。」
「しないですよ!」
「え?じゃあ、薬で治るんですか!」
「何の話をしているのでしょうか?」
「右手から脳みそが生えて来るまだ名もなき奇病の治療法の話じゃないですか!」
「生えてないだろ!」
「先生!?そんな素手で私の右手の脳みそを持ち上げたりして触ったら感染しちゃうかもですよ!?」
「右手から脳みそが生えて来る奇病ではないので大丈夫です。」
「でも先生?確かにこれで私は右手から脳みそが生えて来る奇病じゃないって事が証明されましたね。」
「警察に連絡しますね。」
「何でですか!ここは病院じゃないんですか!」
「だから警察に連絡するんですよ!病院に殺人犯が来たから!」
「この病院に殺人犯が!?」
「貴方だ!それは紛れもなく貴方だ!」
「私が!?」
「なぜ、自分ではないと言うリアクションが出来るのか不思議でならないです。」
「だって、右手に脳みそを持ってたからって私が殺人犯ってのは、先生?あまりにも安易じゃないですか!」
「どストライクだろ!」
「どうして先生は、もしかしたら私の脳みそが、突然右手にテレポーテーションしたのかもって、柔軟な発想が出来ないんですか!」
「出来るか!そんなグニャグニャな発想!」
「先生?少しは真面目に考えて下さい。」
「貴方がな!」
「ある日突然、脳みそが右手にテレポーテーションした私の身にもなって下さい。」
「どうしろと?僕に一体どうしろと言うのです?」
「元に戻して下さい。」
「はあ?」
「テレポーテーションした脳みそを頭の中に戻して下さい!」
「では、今貴方の頭の中には脳みそがないと?」
「そりゃあ、ないでしょ!だって私の脳みそは今!右手にあるのだもの!それに先生!早くしないとまた、脳みそがどここにテレポーテーションしちゃうかもじゃないですか!」
「死ぬだろ!」
「そうですよ!早くしないと私は死んじゃいますよ!」
「いやそうではなく!人体の構造上、頭の中から脳みそが消えたら即死だって話ですよ!」
「先生!今は人体の構造上、頭の中から脳みそが消えたら即死だって話なんかどうでもいいんですよ!早くこの脳みそを私の頭の中へ!」
「はっは~ん。今やっと分かりましたよ?」
「何がですか?」
「貴方、頭おかしい人だな?」
「おかしいですよ!」
「やっぱり。」
「だって今!私の頭の中には脳みそが無いんですもの!」
「いやそうじゃなくて!」
「先生!パカッと開けてササッと手術して下さいよ!嫌ですよ僕、これから一生、自分の脳みそを持ち歩いて生活しなきゃならない人生なんて!」
「脳みそ入れでも作って、腰からぶら下げておけばいいのでは?」
「ここが本来の脳みそ入れなのに!何で別に脳みそ入れを作らなきゃならないんですか!気持ち悪い人じゃないですか!」
「今でも十分、とても気持ちの悪い人ですけどね。」
「見捨てるんですか?」
「はい?」
「先生は!先生なのに!目の前でこんなに苦しんでる人を気持ち悪いの一言で見捨てるって言うんですか!」
「僕が聞きたかった事の1つに、その右手に持ってる脳みそ、本物ですか?と言うのがあるのですが?」
「え?ええ?先生なのに、疑うんですか?」
「先生だからですよ。」
「ちょっと待って下さい!え?私は、作り物の脳みそを右手に持って、病院に来て脳みそが右手から生えてるとか、脳みそが頭の中からテレポーテーションして来たとか言ってるって事ですか?」
「違うのですか?」
「だったら私は!単なる気持ち悪い人じゃないですか!」
「違うのですか?」
「先生は、人でなしですか?同じ血が通った人間ですか?」
「だったら今すぐ貴方の頭を検査して脳みそがあるかないかはっきりさせてやろうか!もしくは右手に持ってる脳みそが本物なのか偽物なのかはっきりさせてやろうか!」
「シーッ!先生、ここは病院ですよ?」
「貴方が原因でこっちは出したくもない大声を出してるんだろうが!」
「検査をして、私の頭の中に脳みそがあるとしましょう。」
「絶対あるよ。」
「だったらこの右手に持ってる脳みそは、一体誰の脳みそなんですか!?いきなり恐い話になるじゃないですか!」
「十分、導入部分から違う意味で恐い話ですけどね。いいですか?右手に持ってる脳みそが、検査の結果本物だったとしたら、やっぱり貴方は殺人犯でしたって事になりますよ?」
「誰かの脳みそが私の右手にテレポーテーションして来たって可能性も捨てきれませんよ?」
「元々がゴミみたいな可能性だろ!」
「先生?全ての固定概念を捨てて考えてみて下さい。街を歩いてたら、気付くと右手に脳みそを持ってた。私の話が全て事実だとしたら?」
「その話が全て事実だとしたら、やはり病院ではなく、警察に行くべきでしょう。」
「2つあります。私がこの病院に来た理由は。」
「何ですか?」
「1つは、やっぱり病気なんじゃないかって事です。」
「確かに精神を病んでいるのかもしれませんね。でしたら、脳外科ではなく、精神科に行くべきです。」
「念じたんです。」
「念じた?」
「はい。街を歩いてたら、その人は急いでたんですかね?走ってぶつかって来た人がいて、私は反動で倒れてしまった。でもその相手は、私の事なんかお構いなしに、急いでたんですかね?走り去って行った。だから、念じたんです。」
「何をです?」
「その相手の脳みそをこの手で握り潰したいって。」
「そしたら突然、その相手の脳みそが右手に出現したと?超常現象の類いならやはり、病院ではなくてそう言った機関に行かれた方がいいですよ?仮にその話が科学者によって実証されたのなら、貴方は大スターだ。」
「先生?」
「もうここには、用はないでしょう。と言うか、私に出来る事はありませんよ。」
「忘れ物です。」
「・・・・・・あの時の!?」

第四百四十三話
「窓の外にはハイウェイ」

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2014年12月17日 (水)

「第四百四十四話」

「もうすぐだ。もうすぐで、泉に着く。」
短編小説家である私は、昨日から全くアイディアが浮かばなくなった。でも  、一晩眠れば何とかなるだろうと甘く考えていたが、目が覚めても ボツアイディアすら浮かばない。こんな日が自分にやって来るとは考えもしなかった。アイディア不足とは無縁だと過信していた。私は、無敵だと。しかしこれは紛れもなく夢の世界ではない現実。その現実を受け止め受け入れ、次のステップを踏むしかない。そう、たから私は、あのアイディアの泉に旅立つ事にした。もはや、プライドがどうのこうのと言ってる場合ではない。このアイディア枯渇の現状を打破するには、伝説に頼らざるを得なかった。アイディアの泉に湧き出るアイディアの水を飲めば、巨万のアイディアが得られる。もうアイディア不足に悩まされる日々は2度と来ない。

第四百四十四話
「アイディアの泉」

枯渇していた。

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2014年12月24日 (水)

「第四百四十五話」

 最果ての街、欲望の街、選択の街、人の数だけ街の呼び名が存在する。そんな街で数秒前、同時刻に五カ所で爆発が起こった。しかし、死傷者はゼロ。これは、奇跡などではなく計算し尽くされた計算であった。
「貴様ー!」
「残りのボタンは二つです。赤と橙。」
清潔感とは真逆の小部屋、取調室には男と女。正確には、老いぼれと美女。ここで一体何があったのか?少しだけ時間を戻してみる事にしよう。

第四百四十五話
「スリーティーズ・シティ・レインボー」

男が取調室で小さな小窓から雨上がりの虹を眺めて微笑んでいると、女が入って来た。
「ん
?定年の退職のサプライズパーティーだって聞いてたんだが?」
「ええ、そうです。」
「ええ、そうですって、お前さん何者だ?まさか、あいつらが用意したプレゼントって訳じゃないよな?それとも案内人に雇われたのか?」
「立ち話もなんですので、座りませんか?」
「取調室で取調でもないのにこの椅子に座るなんて初めてだ。」
「何事も初めては素敵です。」
「で?他の奴らは?あのマジックミラーの裏で、美女相手にドキドキしてる俺を見て笑ってるのか?」
「この警察署には、わたくしと貴方の二人きりです。」
「面白いジョークだ。」
「ジョーク?ジョークは、生まれてから一度も言った事がありません。」
「署内に誰も居ない取調室に美女と老いぼれが二人きり?これの一体どこがジョークじゃないって言うんだ?」
「 赤、橙、黄、緑、青、藍、紫。ここに七つのボタンがあります。」
「マジックショーでも始まるのか?」
「マジックショー?やった事ありませんが、これから起こる事は、或いはマジックショーよりも奇術かもしれません。」
「そのボタンを押すと何か驚くような仕掛けがあるのか?」
「素晴らしい!やはり貴方は、素敵です。」
「大体がそうだろ。ボタンなんだから。」
「このボタンは、それぞれが爆弾の起爆ボタンになってます。」
「はっ!そりゃあまた、面白いジョークだ。」
「ジョークではありません。」
「これがジョークじゃなくて、お嬢さん?一体何がジョークだって言うんだ?」
「では、これがジョークではない事を証明しましょう。」
「どうぞ。」
「 黄、緑、青、藍、紫。」
女が色を言いながら机の上に置いたボタンを順番に押すと、ボタンを押す度に爆音が鳴り響いた。男の表情は変わり、席を立ち小窓から街を眺めると、五カ所で煙が上がっていた。
「貴様ー!」
「残りのボタンは二つです。赤と橙。」
「何が目的だ!」
「本題はこれからです。さあ、席に座って下さい。」
「このサイコ女が!自分が何をしてるのか分かってんのか!」
「安心して下さい。死人はいません。死人どころか、怪我人すらいません。ですから、わたくしに銃を向けるをやめてくれませんか?さあ、座って下さい。話の続きをしましょう。」
「ふざけんな!なぜ、死人や怪我人がいないって分かる!」
「死人や怪我人を出さないように計算して爆弾を仕掛けたからです。それに今頃は、各処の警察や消防が迅速に処理の対応をしているはずです。」
「予告してたのか?」
「ええ。」
「全員、出払ってるから署には俺とお前の二人きりなのか?」
「飲み込みが早い。わたくしは、無意味な殺人はしません。だからまだ、死人や怪我人を出す訳にはいきません。」
「まだ?」
「ボタンは残り二つ。赤と橙。どちらかのボタンは、ここ。」
女は自分の頭を指差した。
「狂ってんのか!?」
「安心して下さい。貴方を巻き込まないように、ちゃんとわたくしの頭だけが吹き飛ぶように調整しています。」
「信じろってのか?頭のイカれた女の言う事を?」
「信じるも信じないも間もなくすれば事実だけが残ります。」
「もう一つのボタンは!」
「見えますか?あの建造物が。」
女は、男の目を見ながら、腕だけを伸ばし、小窓の外のニンジン色の巨大な建造物を指差した。
「ま、まさか!?あそこに仕掛けたのか!?貴様!あの建物が何なのか分かってんだよな!」
「ええ、もちろん。あの建造物には、この街一番の権力者がいる。」
「そうだ!あそこには、クズがいる!」
「市長をクズ呼ばわりするなんて、やはり貴方は素敵です。」
「おい、いいか?例えクズだろうがな?殺されるとマズいんだよ!あいつの死が何を意味するか分かってんだろ?」
「街の死。」
「そうだ!この街は壊滅だ!お前は無意味な殺人はしないと言いながら、街を人質に下らないゲームを仕掛けて来た!」
「そうです。赤、橙、これから貴方に、選択してもらいます。」
「その前に貴様を撃ち殺す!」
「それは叶いません!」
女が叫ぶと同時に右手を赤ボタンの上に、左手を橙ボタンの上に乗せた。
「貴様!」
「わたくしを撃ち殺しても構いません。でも、その瞬間、わたくしは二つのボタンを押します。それと刑事さん?貴方は何か勘違いをしているようです。」
「勘違いだと?」
「確かに、わたくしはあの建造物を指差しました。確かに、わたくしはゲームを仕掛けました。でも、わたくしが指差したのは、あの建造物ではありません。」
「何!?」
「デメリットを考えてみて下さい。」
「デメリット?」
「ええ、何かを選択する上で、二つの起爆ボタンのデメリット。」
「意味が分からん!」
「わたくしの頭が吹き飛ぼうが、ニンジン色の巨大な建造物が吹き飛ぼうが、貴方にデメリットはない。」
「何言ってんだ!さっきも言っただろ!」
「街が壊滅したとて、それがどうしたと言うのですか?」
「この街に住む全ての人間が困るだろ!」
「なら、街を捨てればいいだけの話です。」
「何だと!?」
「例えあの建造物が吹き飛んだとしても、貴方は家族と共に街を捨て、新たな街を見つければいい。」
「そんな簡単な話じゃないだろうが!」
「そんな簡単な話なのです!」
「・・・・・・。」
「生きているとは、そんな簡単な話なのですよ。」
「何を言ってる。」
「本当はもう、わたくしの言いたい事が分かっているのではありませんか?」
「お前みたいなイカれた女の考えなんか分かる訳ないだろ!」
「選択にならないではありませんか。一つは、わたくしの頭、一つは、巨大な建造物。 それはあまりにも貴方にとって何のデメリットもない、そんな選択。 可能性を考えるなら、貴方は二つのボタンを同時に押すかもしれない。では、この現状を公平に保つにはどうすればいいのか?わたくしが、指差した巨大な建造物の先には一体何が存在するのか?貴方には、とっくにそれが分かっていたのでは?ただ、その確実な可能性を信じたくなかった。」
「俺の家に仕掛けたのか?」
「これでやっと、ゲームが始まりますね。」
「このサイコ女が!」
「額に突き付けた銃の引き金を引きますか?いいえ?貴方はそんな愚かな選択はしない。」
「なぜ、俺なんだ?なぜ、俺みたいな退職間近の老いぼれなんだ?」
「ご謙遜。貴方は、この街で一番の選択者です。特別な能力と言うべきですか?」
「何の話だ!」
「この街で、警官が定年退職を迎えられる確率の話です。」
「何!?」
「限りなくゼロ。それは、この街特有な事です。ある刑事は、犯罪者に殺され、ある刑事はまた、犯罪者を道連れに命を絶つ。」
「そうだ!この街は、特殊だ!だが、俺は定年退職した刑事を何人も知ってる!数え切れないほどな!お前の考えは間違ってる!」
「いいえ、間違っていません。訂正しましょう。確かに数え切れないほどの方が定年退職を迎えています。でも、無傷ではない。ある刑事は、片腕を失い家族を失った。またある刑事は、病院のベッドの上で自分が定年退職を迎えた事も知らずに定年を迎えた。」
「何が言いたいんだ!」
「わたくしの知る限り、貴方だけなのです。無傷で定年を迎えようとする刑事さんは。」
「だから俺から最後に家族を奪うって言うのか!」
「いいえ、言ったでしょ?貴方は選択者。決して間違った選択はしない。だから、無傷で定年を迎えられた。わたくしの計算は正しい。貴方は、確実にわたくしの頭のボタンを選択する。」
「そして、お前は満足して死ぬって訳か?」
「名誉な事です。貴方のような素敵な刑事さんの最後の事件の犯人になれるのですから。」
「狂ってる。」
「ありがとう。さあ、銃を仕舞って正しいボタンの選択を!」
「ふっ!」
「可笑しいですか?」
「ああ、笑っちまうね。正しい選択か。」
「お願いします。」
「俺は刑事だ。」
「そうです。さあ、早くイカれた爆弾魔を始末して下さい。」
「お前は、何も分かっちゃいない。」
「理解しています。」
「いいや、なーんも分かってねぇよ。」
「何をです?教えて下さい。」
「刑事ってのはな?犯罪者の言いなりには絶対ならないんだよ。」
「では一体、どうなさるのです?赤か橙、どちらかのボタンを押すしか貴方には選択肢がないこの現状なのですよ?」
「いいや、選択肢は始めから無いんだよ。」
「選択肢がない?」
「じゃあな、愚かな爆弾魔。俺は刑事だ。本物を相手にするとしっぺ返し食らうんだよ。」
「しっぺ返」
「バン!」
「ま、まさか!?自らの頭を撃ち抜いて自殺するなんて!?」
最果ての街、欲望の街、選択の街、人の数だけ街の呼び名が存在する。女は、小窓の外の虹を見ると微笑み、そして赤ボタンを押した。
「ボン。」
清潔感とは真逆の小部屋には、頭を銃で撃ち抜いた死体と頭を爆弾で吹き飛ばした死体。

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2014年12月31日 (水)

「第四百四十六話」

「ん?」
「どうしました?」
「ここで今日、何かイベントでもあるのか?」
「ああ、毎年恒例の 大きな鼻糞をとるイベントがあるんですよ。だからもう、今日は村の奴らはテンション上がりっぱなしなんです。」
「大きな鼻糞をとるイベント?」
「そうです。」
「鼻糞ってのは、所謂あの鼻糞か?」
「ええ、この鼻糞です。他に鼻糞があるんですか?」
「わざわざ実演しないでいい!大きな鼻糞をとるイベントか、まだまだ私の知らない風習があったのだな。」
「今日、民俗学の先生がいらっしゃるって言うから、てっきりこのイベントを見に来るもんだと思ってました。」
「たまたまだよ。しかし、大きな鼻糞と言っても、限度があるだろ。」
「先生、さっき村の入口に大きな家ぐらいの丸いのあったでしょ。」
「ああ。」
「あれが今までで1番の鼻糞です。」
「バカな!?」
「3年前のモノです。みんな、あの記録を破る為に頑張ってるんです。」
「頑張る?何でみんな頑張ってるのだ?」
「そりゃあ!大きな鼻糞をとりたいからですよ!」
「あれか?外から来た私をからかってるのか?」
「偉い民俗学の先生をからかう訳ないじゃありませんか。なぜ、そう思われるんです?」
「物理的に有り得ないだろ!鼻の穴から家が出て来るって事なんだぞ!」
「難しい解釈をすればそうかもしれません。しかし、先生?じゃあ、あれは一体何だと言うんです?」
「大きな石の塊だろ?」
「あれは鼻の糞です!」
「あれが鼻糞な訳がない!」
「先生?何なら詳しく成分って奴を調べてもらっても構いません。手っ取り早く舐めてもらっても構いません。」
「舐めるか!」
「鼻糞か鼻糞じゃないかの判断は、舐めると1番早いんですけどね。」
「だから舐めるか!自分の鼻糞だって舐めた事ないのに、何が悲しくて他人の鼻糞を舐めなきゃならないんだ!」
「いやそれは、先生があれを鼻糞じゃないって言い出すからですよ。」
「誰だって鼻糞じゃないって言い出すサイズだろ!」
「そうですか?都会では、みんな小さな鼻糞なんですか?」
「いや、そもそも鼻糞は小さいもんだろ。」
「先生、鼻糞は大きいもんです。」
「巨人か?なら、この村には山ぐらいの大きな巨人がいるのか?」
「こりゃあ、ぶったまげた!まさか偉い民俗学の先生がそんな冗談を言うとは思いもしませんでした!大爆笑です!もしや先生?昨晩、布団に入られた時に考えました?」
「考えるか!巨人でもいない限りあの鼻糞の説明がつかんだろ!」
「何でですか!」
「何でですか?」
「ええ、何でですか!」
「おかしいだろ!」
「何がですか!何にもおかしい事なんてありません!」
「私はさっき、鼻の穴から家がと例えたが、そもそもが人間の大きさを越えた物体が、どうして人間の体から出て来る事があるんだ!」
「先生!」
「何だ!」
「それは、知らん!」
「な!?」
「そう言った難しい屁理屈は、よく知らん!」
「屁理屈じゃないだろ!」
「知らんけど、先生?出て来てしまったもんは、仕方ないじゃありませんか。実際にあれが鼻の穴から出て来てしまったんだから、鼻糞だって認めざるを得ないじゃありませんか。舐めたらちゃんとしょっぱいんです!ああ、だから元はあの倍の大きさですね。みんなが舐めるもんだから小っさくなってしまいました。」
「私は一体何の話を聞かされてるんだ?」
「鼻の糞の話ですよ。先生?先生が、どんなに驚こうが、あれを鼻糞だって頑なに認めようとしなくても、そんな事は一向に構いません。俺達は、別に先生や誰かに認めてもらいたくて大きな鼻糞をとるイベントをやってる訳じゃない。俺達は俺達でただただ楽しんでるだけです。」
「確かに部外者の私が、とやかく言う事ではないな。」
「そうだ!先生!」
「ん?」
「先生も参加なさってみては?」
「参加?参加ってまさか大きな鼻糞をとるイベントにか?」
「はい!」
「まあ、確かに民俗学者として、その土地の風習に習うのも大切だ。」
「じゃあ、先生のエントリーもしておきます!」
「ああ、ちょっと待った!その前に聞きたい事がある。」
「何ですか?」
「この村では昔から村を災害から守る為に年に1度、生け贄の儀式をしてると言うのは本当か?」
「先生?」
「何だ?」
「いつの時代の話ですか?生け贄の儀式なんか、やってる訳ないじゃありませんか。」
「本当は、大きな鼻糞をとるイベントではなく。生け贄の儀式なんじゃないか?」
「何を言い出すんです!俺達は、純粋に大きな鼻糞をとりたいだけです!」
「大きな鼻糞をとりたいだけって、何だ!?」

第四百四十六話
「大きな鼻糞をとるイベント」

イベントは盛大に行われ、今年も記録を更新する者は現れなかった。舞台上ではひょうきんな衣装に身を包んだ司会進行役が表彰式等を進行していた。
「今年の大きな鼻糞をとるイベントの最下位は!民俗学の先生!」
妥当な大きさだろ。そもそもが私以外の村人達が異常なのだ。だがなぜ、あんな大きな鼻糞がとれるのだ?この村の風土に何か原因があるのか?明日は、村の周辺を調べてみか。
「では!最下位の民俗学の先生には!生け贄になっていただきます!」
「えっ!?」

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