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2014年12月24日 (水)

「第四百四十五話」

 最果ての街、欲望の街、選択の街、人の数だけ街の呼び名が存在する。そんな街で数秒前、同時刻に五カ所で爆発が起こった。しかし、死傷者はゼロ。これは、奇跡などではなく計算し尽くされた計算であった。
「貴様ー!」
「残りのボタンは二つです。赤と橙。」
清潔感とは真逆の小部屋、取調室には男と女。正確には、老いぼれと美女。ここで一体何があったのか?少しだけ時間を戻してみる事にしよう。

第四百四十五話
「スリーティーズ・シティ・レインボー」

男が取調室で小さな小窓から雨上がりの虹を眺めて微笑んでいると、女が入って来た。
「ん
?定年の退職のサプライズパーティーだって聞いてたんだが?」
「ええ、そうです。」
「ええ、そうですって、お前さん何者だ?まさか、あいつらが用意したプレゼントって訳じゃないよな?それとも案内人に雇われたのか?」
「立ち話もなんですので、座りませんか?」
「取調室で取調でもないのにこの椅子に座るなんて初めてだ。」
「何事も初めては素敵です。」
「で?他の奴らは?あのマジックミラーの裏で、美女相手にドキドキしてる俺を見て笑ってるのか?」
「この警察署には、わたくしと貴方の二人きりです。」
「面白いジョークだ。」
「ジョーク?ジョークは、生まれてから一度も言った事がありません。」
「署内に誰も居ない取調室に美女と老いぼれが二人きり?これの一体どこがジョークじゃないって言うんだ?」
「 赤、橙、黄、緑、青、藍、紫。ここに七つのボタンがあります。」
「マジックショーでも始まるのか?」
「マジックショー?やった事ありませんが、これから起こる事は、或いはマジックショーよりも奇術かもしれません。」
「そのボタンを押すと何か驚くような仕掛けがあるのか?」
「素晴らしい!やはり貴方は、素敵です。」
「大体がそうだろ。ボタンなんだから。」
「このボタンは、それぞれが爆弾の起爆ボタンになってます。」
「はっ!そりゃあまた、面白いジョークだ。」
「ジョークではありません。」
「これがジョークじゃなくて、お嬢さん?一体何がジョークだって言うんだ?」
「では、これがジョークではない事を証明しましょう。」
「どうぞ。」
「 黄、緑、青、藍、紫。」
女が色を言いながら机の上に置いたボタンを順番に押すと、ボタンを押す度に爆音が鳴り響いた。男の表情は変わり、席を立ち小窓から街を眺めると、五カ所で煙が上がっていた。
「貴様ー!」
「残りのボタンは二つです。赤と橙。」
「何が目的だ!」
「本題はこれからです。さあ、席に座って下さい。」
「このサイコ女が!自分が何をしてるのか分かってんのか!」
「安心して下さい。死人はいません。死人どころか、怪我人すらいません。ですから、わたくしに銃を向けるをやめてくれませんか?さあ、座って下さい。話の続きをしましょう。」
「ふざけんな!なぜ、死人や怪我人がいないって分かる!」
「死人や怪我人を出さないように計算して爆弾を仕掛けたからです。それに今頃は、各処の警察や消防が迅速に処理の対応をしているはずです。」
「予告してたのか?」
「ええ。」
「全員、出払ってるから署には俺とお前の二人きりなのか?」
「飲み込みが早い。わたくしは、無意味な殺人はしません。だからまだ、死人や怪我人を出す訳にはいきません。」
「まだ?」
「ボタンは残り二つ。赤と橙。どちらかのボタンは、ここ。」
女は自分の頭を指差した。
「狂ってんのか!?」
「安心して下さい。貴方を巻き込まないように、ちゃんとわたくしの頭だけが吹き飛ぶように調整しています。」
「信じろってのか?頭のイカれた女の言う事を?」
「信じるも信じないも間もなくすれば事実だけが残ります。」
「もう一つのボタンは!」
「見えますか?あの建造物が。」
女は、男の目を見ながら、腕だけを伸ばし、小窓の外のニンジン色の巨大な建造物を指差した。
「ま、まさか!?あそこに仕掛けたのか!?貴様!あの建物が何なのか分かってんだよな!」
「ええ、もちろん。あの建造物には、この街一番の権力者がいる。」
「そうだ!あそこには、クズがいる!」
「市長をクズ呼ばわりするなんて、やはり貴方は素敵です。」
「おい、いいか?例えクズだろうがな?殺されるとマズいんだよ!あいつの死が何を意味するか分かってんだろ?」
「街の死。」
「そうだ!この街は壊滅だ!お前は無意味な殺人はしないと言いながら、街を人質に下らないゲームを仕掛けて来た!」
「そうです。赤、橙、これから貴方に、選択してもらいます。」
「その前に貴様を撃ち殺す!」
「それは叶いません!」
女が叫ぶと同時に右手を赤ボタンの上に、左手を橙ボタンの上に乗せた。
「貴様!」
「わたくしを撃ち殺しても構いません。でも、その瞬間、わたくしは二つのボタンを押します。それと刑事さん?貴方は何か勘違いをしているようです。」
「勘違いだと?」
「確かに、わたくしはあの建造物を指差しました。確かに、わたくしはゲームを仕掛けました。でも、わたくしが指差したのは、あの建造物ではありません。」
「何!?」
「デメリットを考えてみて下さい。」
「デメリット?」
「ええ、何かを選択する上で、二つの起爆ボタンのデメリット。」
「意味が分からん!」
「わたくしの頭が吹き飛ぼうが、ニンジン色の巨大な建造物が吹き飛ぼうが、貴方にデメリットはない。」
「何言ってんだ!さっきも言っただろ!」
「街が壊滅したとて、それがどうしたと言うのですか?」
「この街に住む全ての人間が困るだろ!」
「なら、街を捨てればいいだけの話です。」
「何だと!?」
「例えあの建造物が吹き飛んだとしても、貴方は家族と共に街を捨て、新たな街を見つければいい。」
「そんな簡単な話じゃないだろうが!」
「そんな簡単な話なのです!」
「・・・・・・。」
「生きているとは、そんな簡単な話なのですよ。」
「何を言ってる。」
「本当はもう、わたくしの言いたい事が分かっているのではありませんか?」
「お前みたいなイカれた女の考えなんか分かる訳ないだろ!」
「選択にならないではありませんか。一つは、わたくしの頭、一つは、巨大な建造物。 それはあまりにも貴方にとって何のデメリットもない、そんな選択。 可能性を考えるなら、貴方は二つのボタンを同時に押すかもしれない。では、この現状を公平に保つにはどうすればいいのか?わたくしが、指差した巨大な建造物の先には一体何が存在するのか?貴方には、とっくにそれが分かっていたのでは?ただ、その確実な可能性を信じたくなかった。」
「俺の家に仕掛けたのか?」
「これでやっと、ゲームが始まりますね。」
「このサイコ女が!」
「額に突き付けた銃の引き金を引きますか?いいえ?貴方はそんな愚かな選択はしない。」
「なぜ、俺なんだ?なぜ、俺みたいな退職間近の老いぼれなんだ?」
「ご謙遜。貴方は、この街で一番の選択者です。特別な能力と言うべきですか?」
「何の話だ!」
「この街で、警官が定年退職を迎えられる確率の話です。」
「何!?」
「限りなくゼロ。それは、この街特有な事です。ある刑事は、犯罪者に殺され、ある刑事はまた、犯罪者を道連れに命を絶つ。」
「そうだ!この街は、特殊だ!だが、俺は定年退職した刑事を何人も知ってる!数え切れないほどな!お前の考えは間違ってる!」
「いいえ、間違っていません。訂正しましょう。確かに数え切れないほどの方が定年退職を迎えています。でも、無傷ではない。ある刑事は、片腕を失い家族を失った。またある刑事は、病院のベッドの上で自分が定年退職を迎えた事も知らずに定年を迎えた。」
「何が言いたいんだ!」
「わたくしの知る限り、貴方だけなのです。無傷で定年を迎えようとする刑事さんは。」
「だから俺から最後に家族を奪うって言うのか!」
「いいえ、言ったでしょ?貴方は選択者。決して間違った選択はしない。だから、無傷で定年を迎えられた。わたくしの計算は正しい。貴方は、確実にわたくしの頭のボタンを選択する。」
「そして、お前は満足して死ぬって訳か?」
「名誉な事です。貴方のような素敵な刑事さんの最後の事件の犯人になれるのですから。」
「狂ってる。」
「ありがとう。さあ、銃を仕舞って正しいボタンの選択を!」
「ふっ!」
「可笑しいですか?」
「ああ、笑っちまうね。正しい選択か。」
「お願いします。」
「俺は刑事だ。」
「そうです。さあ、早くイカれた爆弾魔を始末して下さい。」
「お前は、何も分かっちゃいない。」
「理解しています。」
「いいや、なーんも分かってねぇよ。」
「何をです?教えて下さい。」
「刑事ってのはな?犯罪者の言いなりには絶対ならないんだよ。」
「では一体、どうなさるのです?赤か橙、どちらかのボタンを押すしか貴方には選択肢がないこの現状なのですよ?」
「いいや、選択肢は始めから無いんだよ。」
「選択肢がない?」
「じゃあな、愚かな爆弾魔。俺は刑事だ。本物を相手にするとしっぺ返し食らうんだよ。」
「しっぺ返」
「バン!」
「ま、まさか!?自らの頭を撃ち抜いて自殺するなんて!?」
最果ての街、欲望の街、選択の街、人の数だけ街の呼び名が存在する。女は、小窓の外の虹を見ると微笑み、そして赤ボタンを押した。
「ボン。」
清潔感とは真逆の小部屋には、頭を銃で撃ち抜いた死体と頭を爆弾で吹き飛ばした死体。

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