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2015年1月

2015年1月 7日 (水)

「第四百四十七話」

 皆、自分がやっている仕事に誇りを持って働いている。当たり前だ。仕事と言うものは、そう言うものだ。しかし、こんな朝はなかっただろうか?「仕事、辞めてぇ」と言う朝がなかっただろうか?私は、この店を始めてから40年、そんな朝は1度もなかった。だが、今朝目を覚まして初めて心底思った。「仕事、辞めてぇ」と。
「店長。そろそろ支度しないと約束の時間に間に合いませんよ。」
「わ、分かってるよ。バイト君。」
「病院の廊下で出産を待つ父親ですか。」
「店の中をグルグルと歩き回る私の気持ち分がからないのか。」
「そりゃあ、まあ、ジッとしてられない気持ちは分かりますよ。」
「だったら少し黙っててくれるか?」
「いやでもね?店長。この段階でそんな感じだったら、遺族の前に行った時、どうなっちゃうんですか?泡吹いて倒れちゃうんじゃないですか?」
「この店を始めて40年。今日ほど泡吹いて倒れたいと思った日はない。」
「ダメでしょ思っちゃ!店長が倒れたら誰が遺族に伝えるんですか!」
「バイト君!キミがいるじゃないか!」
「何でボクなんですか!」
「何の為のバイト君だ!」
「何の為の店長なんですか!」
「ぐう!」
「ぐうの音が出た人、初めて見ましたよ。」
「そりゃあ!出るだろ!この店を始めて初めて!頭部が切断された死体を遺族に伝えなきゃならないんだぞ!」
「いや、全く意味が分からない発言ですよ。だったら店長、練習しましょう。」
「練習?」
「ボクが遺族やりますから、店長は伝えて下さい。」
「私が遺族をやろう。」
「何でですか!」
「いいか?バイト君。この特殊な状況下に置いて、オーソドックスな練習方法では何の意味もないんだよ!」
「あるでしょ!練習とはオーソドックスの繰り返しでしょ!」
「キミは、行方不明の母親が頭部を切断された状態で発見されたと言う特殊状況下に置かれた事がないだろ?」
「店長だってないでしょ!」
「私はな。いつか来るこの日の為に、伝えるサイドのシミュレーションは何万回として来たんだ!」
「全く役に立ってないじゃないですか!」
「そうだ!」
「そうだって。」
「何万回とシミュレーションを繰り返して来てもこの様だ!それはなぜか!そう!それは伝えるサイドのシミュレーションしかしていなかったからだ!伝えられるサイドのシミュレーションをしていなかったからだ!特殊状況下での遺族から、どんな奇想天外で予測不能な回答が返って来るのか!だから私が伝えられるサイドを演じ!同時に対処法を編み出す!」
「それ、今気付く事ですか?」
「今だから気付けたんだ!」
「どんだけポジティブなんですか。」
「さあ来い!バイト君!」
「何でファイティングポーズなんですか。んじゃあ、行きますよ。」
「スタートッ!!」
「行方不明になられていた奥様が頭部を切断された状態で発見されました。」
「ストップだバイト君。」
「いきなり何ですか?」
「息子なんだから、奥様はおかしいだろ?お母様だよ。」
「何で店長の年齢で息子を演じるんですか!」
「臨場感だよ!」
「旦那さんの方が臨場感でしょ!」
「30代の息子の方が突拍子もない事を言い出すんだよ。」
「どう言う偏見ですか。」
「そう言う臨場感でやっております。」
「分かりましたよ。どう言う臨場感だよ。」
「はいスタートッ!!」
「行方不明になられていたお母様が、頭部を切断された死体で発見されました。」
「本当に母なんですか!?」
「はい。残念ですが、DNAがお母様と一致しています。間違いなく発見された死体は、貴方のお母様です。」
「しかし!母が双子って説も捨てきれませんよね!」
「おかしいでしょ!そんな説!息子なんだから母親が双子って知ってるでしょ!」
「複雑な生い立ちだったかもしれないじゃないか!」
「オーソドックスでお願いしますよ。オーソドックスで!」
「嘘ですよね!」
「残念ですが、本当です。」
「そ、そんな!?母さんが頭部を切断された死体で発見されるなんて!」
「これから警察の方へお連れしますので、御用意をお願いします。」
「これじゃあ!父さんや姉さんの時と同じじゃないか!」
「オーソドックスでお願いしますって言いましたよね!そう言う人里離れた山深い村のミステリアスめいた演出とかいらないんですよ!」
「突拍子もないと言っただろ?」
「突拍子もない過ぎなんですよ!だいたいそれじゃあ、突拍子もない角度がおかしいでしょ!時間がないって言ってるじゃないですか!」
「母さんが!?」
「御愁傷様です。」
「本当に死んでるんでしょうか?」
「はい。警察の方で検死も済んでいますし、そもそも頭部が切断されていますので。」
「でも!母さんは過去にも何度か頭部が切断された事があるんです!」
「有り得ないでしょ!過去にも何度か頭部が切断された事があるんですって何なんですか!」
「いいか?バイト君。世の中には、我々がまだまだ知らない未知の領域が存在しているんだよ。科学では解明出来ない不可思議な事の方が多いんだよ。」
「いらないんですよ!そう言う世にも奇妙な感じ!!」
「母さんの!母さんの頭部は!切断された母さんの頭部は発見されたんですか!」
「いえ、まだ警察が捜索中です。」
「頭部を切断されたって事は、つまり母さんは誰かに殺されたって事ですよね!」
「申し訳ごさいません。ボクは、お母様が頭部を切断された死体で発見された事を伝えにお伺いしただけで、詳しい話は警察の方で警察に聞いていただけますか?」
「犯人は捕まったんですか!」
「分かりません。」
「誰なんですか!犯人は!」
「お母様がなぜ、頭部が切断された死体で発見されたのかと言う経緯についての情報は持ち合わせてないんです。」
「誰が母さんにそんな酷い事を!」
「これから警察の方へお連れしますので、詳しい話はそちらで。」
「ボクを疑ってるんですか!」
「疑ってませんよ。」
「いいや!貴方はボクを疑っている!」
「疑ってません。さあ、とりあえず警察に行きましょう。」
「ボクは!ボクは絶対に貴方に冷蔵庫の中を見せない!貴方がどんなに冷蔵庫の中を見たいと言っても!ボクはそれを全力で阻止するだ!」
「どんな衝撃の告白ですか!何でそんな流れになるんですか!もうそれ絶対に冷蔵庫の中に母親の頭部あるじゃないですか!恐怖の演出もいりませんよ!スッと警察に連れて行かせて下さいよ!」
「ありがとう。いい練習になった。」
「何がどう練習になったのか分かりませんけど、店長がそう言うなら、ボクはそれでいいですけどね。それより店長?いい時間ですよ?」
「行くか、バイト君。」
「はい。」

第四百四十七話
「頭部切断死体伝達屋」

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2015年1月14日 (水)

「第四百四十八話」

 63歳ぐらいの男と28歳ぐらいの女。一人は神父で一人は迷える子羊。
「神父様。」
「どうしました?迷える子羊。」
「私は、ゲップで人を殺せるんです。」
「だから、そう言うのって、あれだよね?子羊がゲップをするから人が死ぬんじゃなくて、人の死が先行してのゲップだよね?」
「つまり神父様は、こうおっしゃりたいのですか?私のゲップと人の死には、何の因果関係もない。いつもどこかで誰かが死ぬこの世界。私は、自分のゲップが人を殺していると思い込んでいる。」
「分かり易い解説をありがとう。では、さようなら。」
「でも神父様?」
「何ですか?」
「そう思い込んでいる人間が、こんな解説をわざわざするでしょうか?」
「するんじゃないですか?さようなら。」
「ゲフッ!」
「何でゲップする?」
「神父様が、私の言っている事を信じて下さらないからです。」
「生きてますよ?」
「神父様をゲップで殺すなんて愚かな事は致しません。」
「では、誰を殺したんですか?」
「この地球上のどこかの誰かです。」
「だから、それを思い込みだと言ってるじゃないか。」
「その人は、私のゲップと同時に銃弾に倒れました。」
「それをどう証明するつもりだ?」
「私がゲップをしなければ、その人は銃弾に倒れたとしても絶命する事はなかったのです。」
「その死神的な役割のゲップは何なんだ?」
「つまりそれが私のゲップが人を殺していると言う事です。」
「え?何が?どの辺が?」
「ビルから飛び降りる。ハイウェイで衝突事故が起こる。飛行機が墜落する。ナイフで刺される。船が沈没する。銃弾が発射される。ショッピングモールで火災が起こる。など、そう言う事はそう言う事で、私のゲップとは無関係。でも、そう言う事で助かるはずの命が、私のゲップで死ぬ運命に変わる。神父様が言われるように、死神の正体は私のゲップなのかもしれません。」
「そこまでの言い方はしてませんよ。」
「ゲフッ!」
「何でまたゲップ?」
「今、この地球上のどこかで誰かが医療ミスにより死にました。」
「だからその言った者勝ちの理論をやめなさいと言っている。」
「ゲフッ!」
「いやだから何でゲップ?」
「今、この地球上のどこかで誰かが気付かれずに虐待死しました。」
「子羊は、あれか?この社会に何かを投げ掛けたいのか?だったら教会に来るんじゃなく、路上で演説でもしてればいいじゃないか。」
「別にこの社会に何かを投げ掛けたい訳ではありません。ただ。」
「ただ?」
「罪を懺悔したいだけなのです。」
「罪って?」
「ゲフッ!」
「いやだから何でゲップ?ゲップで人を殺す以前に人と会話の途中で思いっ切りゲップってどうなんだろうか?」
「今、この地球上のどこかで誰かが警察の怠慢により見殺しにされました。」
「その言い回しがアンチテーゼだと言っている。」
「私はこれから死ぬまで一体どれほどの十字架を背負えばいいのでしょうか?」
「知らないよ。」
「今にも罪に押し潰されてしまいそうです。」
「だったら、ゲップをしなければいいのでは?」
「それは不可能です!」
「確かに、ゲップは生理現象だから、これから先の人生をノーゲップで生きてくのは不可能でしょう。だけどね?罪に押し潰されそうだの何だと言う割にだよ?なのにだよ?ゲップし過ぎだろさっきっから!」
「それは私が無類の炭酸飲料好きだからです!」
「本末転倒もいいとこだ!十字架を背負いたくて背負ってるんじゃないか!」
「つまり今の神父様の発言は、私のゲップが人を殺しているとお認めになられたと言う事でしょうか?」
「お認めになられてないですよ!お認めになる訳がないだろ!子羊がゲップで人を殺してるなら、私はオナラで人を殺してるよ!」
「やっと同じ能力を持った人に出会えました。」
「例えばな!例えばの話な!」
「そうですよ神父様!」
「何を閃いた?」
「私は今まで、あまりにも自分本位でした。」
「はい?」
「今の神父様のオナラで気付かされました!」
「したみたいに言わないでくれるか?」
「ゲップをするのは、この地球上に私だけではない!」
「むしろ逆に今までゲップするのは自分だけだと思ってた事に驚きだよ。」
「つまり、私のゲップで人が死んでいたとは限らない。もしかしたら他の人のゲップで死んでいたのかもしれない!」
「いやまず根本的にゲップで人は殺せないんだよ。」
「ゲフッ!」
「よく出るな!」
「だから今のゲップで、この地球上のどこかで誰も死んでいないかもしれない!」
「かもしれないじゃなくて、絶対にだよ。」
「ゲフッ!」
「にしてもな回数だろ!」
「今のゲップでも!」
「ああ、そうだな。」
「ゲフッ!」
「いやもう、そう言う特技を売りにした方がいいんじゃないのか?」
「何かゲップで人が死なないと思うと、苦痛でしょうがなかったゲップが、何だか爽快で仕方ないわ!」
「冷静に考えたら下品な子羊だな!まあでも、そうやって前向きになってもらえたのなら、それもまた神のお導きなのかもし」
「ブッ!!」
「神のお導きの下りで屁をこくとは大罪にもほどがあるだろ!」
「ごめんなさあっ!」
「閃かなくていいよ。」
「し、神父様?これは?」
「いやもう勘弁してくれよ。」
「もしかして?」
「聞きたくない。もう子羊の話は聞きたくないから出て行きなさい。さようなら!」
「今の私のオナラで、この地球上のどこかで誰かがロードローラーに巻き込まれて死んだのでは?」
「去れー!!」

第四百四十八話
「昨日は時間を止められる青年」

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2015年1月21日 (水)

「第四百四十九話」

「なななななな何なんだこれは!!」
俺は、驚愕した。もうこれでもかってぐらい驚愕した。こんなに自分が驚愕出来るんだってその驚愕具合にまた驚愕するほど、驚愕した。仕事が終わり、マンションに帰って来て、エントランスを通り抜けながら管理人室の管理人さんに軽く会釈して、エレベーターに乗り込み6を押して、エレベーターの中で少しだけ今日の仕事の反省をしながらその延長線上でエレベーターを降りて部屋のドアを開けて玄関の明かりを点けてリビングの明かりを点けるとそこに見知らぬ若い女が血まみれで死んでたら誰だって驚愕するだろ。気付いたらエレベーターじゃなく階段使って一心不乱にマンションの管理人室に向かうだろ。
「管理人さん!」
「どうしたんですか。そんな仕事から帰って来たらリビングで見知らぬ若い女が血まみれで死んでたみたいな顔して。」
「え?」
「大丈夫ですか?」
「俺、 仕事から帰って来たらリビングで見知らぬ若い女が血まみれで死んでたみたいな顔してました? 」
「してましたよ。そんな顔で友人の結婚式に出席したらドン引きですよ。」
「そんな時に友人の結婚式に出席してる場合じゃないでしょ。てか、何で分かるんですか?」
「キミね?私が管理人を何年やってると思ってんだね?」
「管理人って、何年かやってれば、 仕事から帰って来たらリビングで見知らぬ若い女が血まみれで死んでたみたいな顔とか分かるもんなんですか?」
「分かりますよ?管理人ですからね。キミが今、もしかして 仕事から帰って来たらリビングで血まみれで死んでた見知らぬ若い女を殺したのは、この管理人?って顔してるのも分かりますよ。」
「違うんですか?」
「何でわざわざ私がそんな自分の首を絞めるような殺人をしないといけないんですか。やるならもっと世間一般で言うとこの巧妙な手口でやりますよ。」
「俺じゃない!」
「ええ、それも分かってます。キミは殺してない。」
「信じてくれるんですか?」
「もちろん。だいたいキミには、完璧なアリバイがあるんだろ?」
「はい。今日は一日中デスクワークしてましたから、会社の人間がそれを証明してくれます。」
「だったら何も恐れる事はないじゃないか。」
「そ、そうですね。じゃあ、警察に連絡しましょう。」
「それは違うだろ。」
「何が違うんですか?」
「いいかい?キミは、管理人じゃないから分からないかもしれないが、マンションで人が死んだとか、それで警察が来るとか、手間なんだよ。」
「手間って、こう言う場合、そうするのが普通でしょ!」
「それはキミの中での普通だろ?私の普通じゃない。」
「はあ?だったらこの場合の管理人さんの普通って何なんですか!」
「出来るだけ事を荒立てない、です。」
「無理でしょ!人一人殺されてるんですよ!もしかしたらマンションの他の住人が犯人かもなんですよ!」
「それならそれで私が犯人を捜すさ。とにかく警察とかマスコミとかは、手間なんだよ。」
「じゃあ!あの血まみれの死体はどうするんですか!」
「キミと私、二人で処理すればいいじゃないですか。」
「はあ?」
「キミが一人でするよりも私と二人でやった方が事がスムーズだろ?一人よりも二人!それが世間一般のセオリーじゃないのか?」
「処理って!処理って、それはつまりあれですか?」
「キミがね。この管理人、普通じゃない。とんでもなく異常者だって顔してるのは、さっきっから分かってますよ。でもね?やらなかったらやられますよ?」
「やられるってなんですか!やられるって!」
「だから、そのまま死体を放置しといたら、腐乱で鼻をやられますよって事じゃないですか。」
「だから腐乱で鼻をやられる前に警察を呼ぼうって言ってるじゃないですか!」
「だから事を荒立てるのは手間だと言ってるじゃないですか。まさかこの管理人、警察を呼ばれると困る過去の持ち主か?って顔してますけど、私は至って善良な一般市民ですよ。」
「いちいち顔を読むのやめて下さい!」
「いいですか?これは何かの夢や幻の類と思えばいいんですよ。或いは、ゲームや映画のような非現実だと思えばいいんですよ。リビングの死体を処理して明日からも今まで通りの日常生活を送ればいいんですよ。簡単な話じゃないですか。」
「そんな事出来ませんよ!」
「なぜですか。」
「なぜって、 仕事から帰って来たらリビングで見知らぬ若い女が血まみれで死んでたんですよ!さらにその死体を処理して明日からも今まで通りの日常生活を送れる訳がない!」
「知り合いの女性じゃなくて、見知らぬ女性なんでしょ?だったら別にいいじゃないですか。」
「知らないからいいとかで片付けられる話じゃないでしょ!」
「見知らぬ女性なんか、毎日世界のどこかで死んでるじゃないですか。」
「世界のどこかで死んでる見知らぬ女性と俺の部屋で死んでる見知らぬ女性とを直結して淡々と処理して平然と明日からも今まで通りの日常生活を送れませんよ!それに、リビングで死んでる女性にだって帰りを待つ家族がいるはずです!なのに死んだ事実さえも闇に放り去るような真似出来ませんよ!」
「天涯孤独バージョンで行きましょう。」
「何ですかそのバージョン!そんなね!管理人さんみたいに俺は頭を切り替えられませんよ!」
「キミはあれだろ?結局のとこ、真相を知りたいだけなんじゃないですか?」
「はあ?」
「リビングで死んでる女性が何者で、女性を殺した犯人が誰で、なぜ自分の部屋なのか?これが犯人からの何かしらのメッセージだとしたら次に殺されるのは自分かもしれない。だとしたら、犯人を警察に捕まえてもらって、きっちりと法の裁きをしてもらいたい。でないと自分は安心して明日から生活出来ない顔、してますよ。」
「そうですよ!その通りですよ!この場合、誰だってそうでしょ!」
「なぜ、犯人からの何かしらのメッセージだとしたら、それを犯人がドン引きするぐらい無視してやろうと思わないんですか。」
「誰が思えるんですか!」
「考えてもみて下さい?ここで警察沙汰にしないで、何事も無かったかのように死体を処理してみなさい。むしろ驚愕するのは犯人です。いいや、驚愕どころか逆に恐怖心をも植え付ける事が出来る!」
「警察沙汰が手間だって精神で、よくそこまで考えが行き着きますね。分かりましたよ。管理人さんには、何を言っても無駄なんですね。だったらなぜか管理人の言う通りにしますよ。」
「ありがとうございます。」
「で?処理って具体的にどうするんです?」
「えーと、キミの部屋の近くでまだ帰宅してないのは・・・あ!丁度お隣の603号室がまだですね!」
「ちょっと待って下さい?それってつまりは?」
「早速運びましょう。」
「どこにあった死体なんですか!」

第四百四十九話
「管理人の禁断の暇潰し」

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2015年1月28日 (水)

「第四百五十話」

「あの建物か?」
俺達は改札を抜け、友人の結婚式が行われる式場へ向かっていた。
「ああ、あれだ。」
友人の話や新婦の話、他愛ない昔話をしながら式場に向かって俺達は歩いていた。
「ここの公園を抜けた方が近道なんじゃないか?」
「そうだな。」
そう言うと俺達は公園の中へ入った。入ってすぐに俺の視界に否応なく入って来る物があった。
「なあ?」
「どうした?」
俺は立ち止まり、友人を呼び止めた。
「あれ、何だと思う?」
そして、俺の視界に否応なく入って来る物を指差して尋ねた。
犬のフンだろ。」
「犬のフンに見えるか。」
「ああ、見える。早く行こうぜ。」
「俺には、木の枝に見える。」
「木の枝?んまあ、木の枝に見えなくもないな。でもあれは、犬のフンだ。」
「なあ?」
「何だよ。早く行かないと式に遅れるぞ?」
「踏んでみろよ。」
「はあ?何言い出すんだよ。」
「俺は、木の枝だと思う。でもお前は、犬のフンだと言う。可能性は2つだけど、答えは1つだ。ならその答えを知るにはどうすればいいのか?お前があれを踏めばいい。簡単な解決法だろ?」
「何でそうなる!俺は、犬のフンだって言ってんだぞ?踏んで答えをはっきりさせたいなら木の枝だって言ってるお前が踏めばいいだろ?」
「なぜ?」
「木の枝だと思ってるからだろ!」
「お前は、犬のフンだと思ってるんだろ?だったら、お前だろ。普通踏むのはさ。」
「何でだよ!何で犬のフンだと思ってる奴が犬のフンを踏まなきゃいけないんだよ!」
「それは、俺が木の枝だって言ってるからだ。」
「おい、結婚式に出る前に俺を軽くパニックにさせるなよ!何不思議な事言ってんだよ!」
「この場に、お前1人だったらあれを踏まなくてもいいよ。だけどな?隣にあれを木の枝だって言ってる友人がいたら、踏むのはお前だ。」
「お前だろ!」
「お前、何も分かってない。話の芯を理解してない。」
「どう言う事だよ。」
「いいか?俺は、木の枝だって言ってて、お前は犬のフンだって言ってる。言ってる2人は友人同士だ。」
「そうだよ。」
「この場合、お前が俺にあれを踏ませるって事は、友人に犬のフンを踏ませるって事になるんだぞ?だから、木の枝だって言ってる俺がお前に踏めって言うのが正解だろ。」
「どう言う状況なんだよ今!そもそもあれが犬のフンだろうが木の枝だろうがどうだっていいだろ!俺達は今、友人の結婚式場に向かってるんだぞ?こんなとこでそんな理由で立ち止まってる場合じゃないだろ!」
「それは違う!!!」
「鳩が飛び立つほどのデカイ声を出す必要ないだろ。」
「お前が何も分かってないからだろ!いいか?こんな気持ちで結婚式に出席して、アイツが喜ぶと思ってんのか?」
「どんな気持ちだよ!」
「誓いのキスをしてる時も!ケーキ入刀してる時も!親に感謝の手紙を読んでる時も!俺達はずっとずっとずーっと!公園のあれは木の枝だったのか?犬のフンだったのか?そんな下らない事で頭がいっぱいなんだぞ?そんな事で頭がいっぱいな俺達が出す祝儀を貰って喜ぶと思うか?そんな俺達がする友人代表のスピーチを喜ぶと思うか?そんな俺達がする友人代表のスピーチからの歌のプレゼントを喜ぶと思ってんのか!アイツの結婚式を!俺は木の枝だと思い!お前は犬のフンだと思ってるんだぞ!」
「思ってねーよ!何で結婚式までもが木の枝と犬のフンなんだよ!話が飛躍し過ぎだろ!」
「なんか昔のよく知らない偉人の言葉にこんなのがある。」
「何で言葉だけ覚えてるんだよ。」
「全ての争い事の発端は木の枝か犬のフンかの議論である!」
「んな訳あるか!木の枝か犬のフンかで戦争になるか!」
「おい。」
「何だよ。」
「なるんだよ。」
「大真面目な顔で言う事か?」
「街が1つ地図上から消える前に早くあれを踏んでくれ!」
「街って何だ!街って!結婚式はどうなったんだよ!」
「結婚式が始まる前に街が吹っ飛ぶって話だろ!爆撃機でこの街が地図上から消えるんだよ!物凄く大袈裟に言うとな!」
「物凄く大袈裟に言う必要ないんだよ!今は、あれが犬のフンかとか木の枝だとかじゃなくて!最優先はとにかく時間までに式場に行く事だろ!いい大人が遅刻はみっともないだろ!」
「いい大人があれを木の枝なのか犬のフンなのか分からないままの方がよっぽどみっともない!」
「どんないい大人だ!」
「つまりは、こうか?お前は時間が無いからあれが木の枝か犬のフンか確認出来ないって言うのか?」
「そうだよ。違うけどそうだよ。」
「だったらさっさと踏めばいいだろ!」
「何でだよ!何でそうなるんだよ!何で俺は犬のフンを踏んだ靴で結婚式に出席しなきゃならないんだよ!何で俺は犬のフンを踏んだ靴で誓いのキスやケーキ入刀や親に感謝の手紙を読んでる場に立ち会わなきゃならないんだよ!何で俺は犬のフンを踏んだ靴で祝儀を上げたり友人代表のスピーチしたり友人代表のスピーチからの歌のプレゼントをしなきゃならないんだよ!」
「だったらここで結婚式を挙げればいいだろ!」
「何でこんな事に全員を巻き込まなきゃならないんだよ!あれが犬のフンなのか木の枝なのかはっきりさせたいなら、お前が踏めばいいだろって何度も言ってんだろ!」
「だから!お前が犬のフンだって言ってんだから踏める訳がないだろ!」
「それはつまり、踏めないのはお前も犬のフンだと思ってるからだろ!」
「違う!!!」
「だから声がデカイっての。」
「俺は誓ってあれは木の枝だと思ってる!俺があれを踏まないのは、お前を信じてるからだ!お前の意見を尊重してるからだ!お前が唯一無二の親友だからだ!」
「こんな状況で使う言葉じゃないだろ!」
「だからお前も俺の言葉を信じろ!大丈夫!あれは絶対に木の枝だ!」
「まさかこんな絶体絶命的な状況になるとは改札出た時には思わなかったよ!」
「絶体絶命?絶対安心だろ?」
「分かったよ。お前の言葉を信じるよ。だけどな?仮に万が一、あれが犬のフンだったとしてだ。その時は靴屋に付き合ってもらうぞ?俺だけ結婚式に遅刻は嫌だからな。」
「当たり前だろ!あれが木の枝じゃなくて犬のフンだった時は、俺が靴代を全額支払う!」
「分かった。」
「じゃあ、お願いします。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・待った!」
「何だよ!何で覚悟を決めた状況で止めるんだよ!」
「やっぱり、踏むの止めよう。」
「え?ここまで来て?」
「踏んでも何の意味も無い。」
「え?全ての争い事だの街が地図上から消えるだの何だのって散々言ってたのに?」
「踏んだって何の解決にもならない。」
「まあ、お前がそう言うなら俺は別に構わないよ。じゃあ、早いとこ式場に行こうぜ。」
「摘まもう!」
「はあ???」

第四百五十話
「似た物」

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