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2015年1月14日 (水)

「第四百四十八話」

 63歳ぐらいの男と28歳ぐらいの女。一人は神父で一人は迷える子羊。
「神父様。」
「どうしました?迷える子羊。」
「私は、ゲップで人を殺せるんです。」
「だから、そう言うのって、あれだよね?子羊がゲップをするから人が死ぬんじゃなくて、人の死が先行してのゲップだよね?」
「つまり神父様は、こうおっしゃりたいのですか?私のゲップと人の死には、何の因果関係もない。いつもどこかで誰かが死ぬこの世界。私は、自分のゲップが人を殺していると思い込んでいる。」
「分かり易い解説をありがとう。では、さようなら。」
「でも神父様?」
「何ですか?」
「そう思い込んでいる人間が、こんな解説をわざわざするでしょうか?」
「するんじゃないですか?さようなら。」
「ゲフッ!」
「何でゲップする?」
「神父様が、私の言っている事を信じて下さらないからです。」
「生きてますよ?」
「神父様をゲップで殺すなんて愚かな事は致しません。」
「では、誰を殺したんですか?」
「この地球上のどこかの誰かです。」
「だから、それを思い込みだと言ってるじゃないか。」
「その人は、私のゲップと同時に銃弾に倒れました。」
「それをどう証明するつもりだ?」
「私がゲップをしなければ、その人は銃弾に倒れたとしても絶命する事はなかったのです。」
「その死神的な役割のゲップは何なんだ?」
「つまりそれが私のゲップが人を殺していると言う事です。」
「え?何が?どの辺が?」
「ビルから飛び降りる。ハイウェイで衝突事故が起こる。飛行機が墜落する。ナイフで刺される。船が沈没する。銃弾が発射される。ショッピングモールで火災が起こる。など、そう言う事はそう言う事で、私のゲップとは無関係。でも、そう言う事で助かるはずの命が、私のゲップで死ぬ運命に変わる。神父様が言われるように、死神の正体は私のゲップなのかもしれません。」
「そこまでの言い方はしてませんよ。」
「ゲフッ!」
「何でまたゲップ?」
「今、この地球上のどこかで誰かが医療ミスにより死にました。」
「だからその言った者勝ちの理論をやめなさいと言っている。」
「ゲフッ!」
「いやだから何でゲップ?」
「今、この地球上のどこかで誰かが気付かれずに虐待死しました。」
「子羊は、あれか?この社会に何かを投げ掛けたいのか?だったら教会に来るんじゃなく、路上で演説でもしてればいいじゃないか。」
「別にこの社会に何かを投げ掛けたい訳ではありません。ただ。」
「ただ?」
「罪を懺悔したいだけなのです。」
「罪って?」
「ゲフッ!」
「いやだから何でゲップ?ゲップで人を殺す以前に人と会話の途中で思いっ切りゲップってどうなんだろうか?」
「今、この地球上のどこかで誰かが警察の怠慢により見殺しにされました。」
「その言い回しがアンチテーゼだと言っている。」
「私はこれから死ぬまで一体どれほどの十字架を背負えばいいのでしょうか?」
「知らないよ。」
「今にも罪に押し潰されてしまいそうです。」
「だったら、ゲップをしなければいいのでは?」
「それは不可能です!」
「確かに、ゲップは生理現象だから、これから先の人生をノーゲップで生きてくのは不可能でしょう。だけどね?罪に押し潰されそうだの何だと言う割にだよ?なのにだよ?ゲップし過ぎだろさっきっから!」
「それは私が無類の炭酸飲料好きだからです!」
「本末転倒もいいとこだ!十字架を背負いたくて背負ってるんじゃないか!」
「つまり今の神父様の発言は、私のゲップが人を殺しているとお認めになられたと言う事でしょうか?」
「お認めになられてないですよ!お認めになる訳がないだろ!子羊がゲップで人を殺してるなら、私はオナラで人を殺してるよ!」
「やっと同じ能力を持った人に出会えました。」
「例えばな!例えばの話な!」
「そうですよ神父様!」
「何を閃いた?」
「私は今まで、あまりにも自分本位でした。」
「はい?」
「今の神父様のオナラで気付かされました!」
「したみたいに言わないでくれるか?」
「ゲップをするのは、この地球上に私だけではない!」
「むしろ逆に今までゲップするのは自分だけだと思ってた事に驚きだよ。」
「つまり、私のゲップで人が死んでいたとは限らない。もしかしたら他の人のゲップで死んでいたのかもしれない!」
「いやまず根本的にゲップで人は殺せないんだよ。」
「ゲフッ!」
「よく出るな!」
「だから今のゲップで、この地球上のどこかで誰も死んでいないかもしれない!」
「かもしれないじゃなくて、絶対にだよ。」
「ゲフッ!」
「にしてもな回数だろ!」
「今のゲップでも!」
「ああ、そうだな。」
「ゲフッ!」
「いやもう、そう言う特技を売りにした方がいいんじゃないのか?」
「何かゲップで人が死なないと思うと、苦痛でしょうがなかったゲップが、何だか爽快で仕方ないわ!」
「冷静に考えたら下品な子羊だな!まあでも、そうやって前向きになってもらえたのなら、それもまた神のお導きなのかもし」
「ブッ!!」
「神のお導きの下りで屁をこくとは大罪にもほどがあるだろ!」
「ごめんなさあっ!」
「閃かなくていいよ。」
「し、神父様?これは?」
「いやもう勘弁してくれよ。」
「もしかして?」
「聞きたくない。もう子羊の話は聞きたくないから出て行きなさい。さようなら!」
「今の私のオナラで、この地球上のどこかで誰かがロードローラーに巻き込まれて死んだのでは?」
「去れー!!」

第四百四十八話
「昨日は時間を止められる青年」

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