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2015年1月21日 (水)

「第四百四十九話」

「なななななな何なんだこれは!!」
俺は、驚愕した。もうこれでもかってぐらい驚愕した。こんなに自分が驚愕出来るんだってその驚愕具合にまた驚愕するほど、驚愕した。仕事が終わり、マンションに帰って来て、エントランスを通り抜けながら管理人室の管理人さんに軽く会釈して、エレベーターに乗り込み6を押して、エレベーターの中で少しだけ今日の仕事の反省をしながらその延長線上でエレベーターを降りて部屋のドアを開けて玄関の明かりを点けてリビングの明かりを点けるとそこに見知らぬ若い女が血まみれで死んでたら誰だって驚愕するだろ。気付いたらエレベーターじゃなく階段使って一心不乱にマンションの管理人室に向かうだろ。
「管理人さん!」
「どうしたんですか。そんな仕事から帰って来たらリビングで見知らぬ若い女が血まみれで死んでたみたいな顔して。」
「え?」
「大丈夫ですか?」
「俺、 仕事から帰って来たらリビングで見知らぬ若い女が血まみれで死んでたみたいな顔してました? 」
「してましたよ。そんな顔で友人の結婚式に出席したらドン引きですよ。」
「そんな時に友人の結婚式に出席してる場合じゃないでしょ。てか、何で分かるんですか?」
「キミね?私が管理人を何年やってると思ってんだね?」
「管理人って、何年かやってれば、 仕事から帰って来たらリビングで見知らぬ若い女が血まみれで死んでたみたいな顔とか分かるもんなんですか?」
「分かりますよ?管理人ですからね。キミが今、もしかして 仕事から帰って来たらリビングで血まみれで死んでた見知らぬ若い女を殺したのは、この管理人?って顔してるのも分かりますよ。」
「違うんですか?」
「何でわざわざ私がそんな自分の首を絞めるような殺人をしないといけないんですか。やるならもっと世間一般で言うとこの巧妙な手口でやりますよ。」
「俺じゃない!」
「ええ、それも分かってます。キミは殺してない。」
「信じてくれるんですか?」
「もちろん。だいたいキミには、完璧なアリバイがあるんだろ?」
「はい。今日は一日中デスクワークしてましたから、会社の人間がそれを証明してくれます。」
「だったら何も恐れる事はないじゃないか。」
「そ、そうですね。じゃあ、警察に連絡しましょう。」
「それは違うだろ。」
「何が違うんですか?」
「いいかい?キミは、管理人じゃないから分からないかもしれないが、マンションで人が死んだとか、それで警察が来るとか、手間なんだよ。」
「手間って、こう言う場合、そうするのが普通でしょ!」
「それはキミの中での普通だろ?私の普通じゃない。」
「はあ?だったらこの場合の管理人さんの普通って何なんですか!」
「出来るだけ事を荒立てない、です。」
「無理でしょ!人一人殺されてるんですよ!もしかしたらマンションの他の住人が犯人かもなんですよ!」
「それならそれで私が犯人を捜すさ。とにかく警察とかマスコミとかは、手間なんだよ。」
「じゃあ!あの血まみれの死体はどうするんですか!」
「キミと私、二人で処理すればいいじゃないですか。」
「はあ?」
「キミが一人でするよりも私と二人でやった方が事がスムーズだろ?一人よりも二人!それが世間一般のセオリーじゃないのか?」
「処理って!処理って、それはつまりあれですか?」
「キミがね。この管理人、普通じゃない。とんでもなく異常者だって顔してるのは、さっきっから分かってますよ。でもね?やらなかったらやられますよ?」
「やられるってなんですか!やられるって!」
「だから、そのまま死体を放置しといたら、腐乱で鼻をやられますよって事じゃないですか。」
「だから腐乱で鼻をやられる前に警察を呼ぼうって言ってるじゃないですか!」
「だから事を荒立てるのは手間だと言ってるじゃないですか。まさかこの管理人、警察を呼ばれると困る過去の持ち主か?って顔してますけど、私は至って善良な一般市民ですよ。」
「いちいち顔を読むのやめて下さい!」
「いいですか?これは何かの夢や幻の類と思えばいいんですよ。或いは、ゲームや映画のような非現実だと思えばいいんですよ。リビングの死体を処理して明日からも今まで通りの日常生活を送ればいいんですよ。簡単な話じゃないですか。」
「そんな事出来ませんよ!」
「なぜですか。」
「なぜって、 仕事から帰って来たらリビングで見知らぬ若い女が血まみれで死んでたんですよ!さらにその死体を処理して明日からも今まで通りの日常生活を送れる訳がない!」
「知り合いの女性じゃなくて、見知らぬ女性なんでしょ?だったら別にいいじゃないですか。」
「知らないからいいとかで片付けられる話じゃないでしょ!」
「見知らぬ女性なんか、毎日世界のどこかで死んでるじゃないですか。」
「世界のどこかで死んでる見知らぬ女性と俺の部屋で死んでる見知らぬ女性とを直結して淡々と処理して平然と明日からも今まで通りの日常生活を送れませんよ!それに、リビングで死んでる女性にだって帰りを待つ家族がいるはずです!なのに死んだ事実さえも闇に放り去るような真似出来ませんよ!」
「天涯孤独バージョンで行きましょう。」
「何ですかそのバージョン!そんなね!管理人さんみたいに俺は頭を切り替えられませんよ!」
「キミはあれだろ?結局のとこ、真相を知りたいだけなんじゃないですか?」
「はあ?」
「リビングで死んでる女性が何者で、女性を殺した犯人が誰で、なぜ自分の部屋なのか?これが犯人からの何かしらのメッセージだとしたら次に殺されるのは自分かもしれない。だとしたら、犯人を警察に捕まえてもらって、きっちりと法の裁きをしてもらいたい。でないと自分は安心して明日から生活出来ない顔、してますよ。」
「そうですよ!その通りですよ!この場合、誰だってそうでしょ!」
「なぜ、犯人からの何かしらのメッセージだとしたら、それを犯人がドン引きするぐらい無視してやろうと思わないんですか。」
「誰が思えるんですか!」
「考えてもみて下さい?ここで警察沙汰にしないで、何事も無かったかのように死体を処理してみなさい。むしろ驚愕するのは犯人です。いいや、驚愕どころか逆に恐怖心をも植え付ける事が出来る!」
「警察沙汰が手間だって精神で、よくそこまで考えが行き着きますね。分かりましたよ。管理人さんには、何を言っても無駄なんですね。だったらなぜか管理人の言う通りにしますよ。」
「ありがとうございます。」
「で?処理って具体的にどうするんです?」
「えーと、キミの部屋の近くでまだ帰宅してないのは・・・あ!丁度お隣の603号室がまだですね!」
「ちょっと待って下さい?それってつまりは?」
「早速運びましょう。」
「どこにあった死体なんですか!」

第四百四十九話
「管理人の禁断の暇潰し」

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