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2015年1月28日 (水)

「第四百五十話」

「あの建物か?」
俺達は改札を抜け、友人の結婚式が行われる式場へ向かっていた。
「ああ、あれだ。」
友人の話や新婦の話、他愛ない昔話をしながら式場に向かって俺達は歩いていた。
「ここの公園を抜けた方が近道なんじゃないか?」
「そうだな。」
そう言うと俺達は公園の中へ入った。入ってすぐに俺の視界に否応なく入って来る物があった。
「なあ?」
「どうした?」
俺は立ち止まり、友人を呼び止めた。
「あれ、何だと思う?」
そして、俺の視界に否応なく入って来る物を指差して尋ねた。
犬のフンだろ。」
「犬のフンに見えるか。」
「ああ、見える。早く行こうぜ。」
「俺には、木の枝に見える。」
「木の枝?んまあ、木の枝に見えなくもないな。でもあれは、犬のフンだ。」
「なあ?」
「何だよ。早く行かないと式に遅れるぞ?」
「踏んでみろよ。」
「はあ?何言い出すんだよ。」
「俺は、木の枝だと思う。でもお前は、犬のフンだと言う。可能性は2つだけど、答えは1つだ。ならその答えを知るにはどうすればいいのか?お前があれを踏めばいい。簡単な解決法だろ?」
「何でそうなる!俺は、犬のフンだって言ってんだぞ?踏んで答えをはっきりさせたいなら木の枝だって言ってるお前が踏めばいいだろ?」
「なぜ?」
「木の枝だと思ってるからだろ!」
「お前は、犬のフンだと思ってるんだろ?だったら、お前だろ。普通踏むのはさ。」
「何でだよ!何で犬のフンだと思ってる奴が犬のフンを踏まなきゃいけないんだよ!」
「それは、俺が木の枝だって言ってるからだ。」
「おい、結婚式に出る前に俺を軽くパニックにさせるなよ!何不思議な事言ってんだよ!」
「この場に、お前1人だったらあれを踏まなくてもいいよ。だけどな?隣にあれを木の枝だって言ってる友人がいたら、踏むのはお前だ。」
「お前だろ!」
「お前、何も分かってない。話の芯を理解してない。」
「どう言う事だよ。」
「いいか?俺は、木の枝だって言ってて、お前は犬のフンだって言ってる。言ってる2人は友人同士だ。」
「そうだよ。」
「この場合、お前が俺にあれを踏ませるって事は、友人に犬のフンを踏ませるって事になるんだぞ?だから、木の枝だって言ってる俺がお前に踏めって言うのが正解だろ。」
「どう言う状況なんだよ今!そもそもあれが犬のフンだろうが木の枝だろうがどうだっていいだろ!俺達は今、友人の結婚式場に向かってるんだぞ?こんなとこでそんな理由で立ち止まってる場合じゃないだろ!」
「それは違う!!!」
「鳩が飛び立つほどのデカイ声を出す必要ないだろ。」
「お前が何も分かってないからだろ!いいか?こんな気持ちで結婚式に出席して、アイツが喜ぶと思ってんのか?」
「どんな気持ちだよ!」
「誓いのキスをしてる時も!ケーキ入刀してる時も!親に感謝の手紙を読んでる時も!俺達はずっとずっとずーっと!公園のあれは木の枝だったのか?犬のフンだったのか?そんな下らない事で頭がいっぱいなんだぞ?そんな事で頭がいっぱいな俺達が出す祝儀を貰って喜ぶと思うか?そんな俺達がする友人代表のスピーチを喜ぶと思うか?そんな俺達がする友人代表のスピーチからの歌のプレゼントを喜ぶと思ってんのか!アイツの結婚式を!俺は木の枝だと思い!お前は犬のフンだと思ってるんだぞ!」
「思ってねーよ!何で結婚式までもが木の枝と犬のフンなんだよ!話が飛躍し過ぎだろ!」
「なんか昔のよく知らない偉人の言葉にこんなのがある。」
「何で言葉だけ覚えてるんだよ。」
「全ての争い事の発端は木の枝か犬のフンかの議論である!」
「んな訳あるか!木の枝か犬のフンかで戦争になるか!」
「おい。」
「何だよ。」
「なるんだよ。」
「大真面目な顔で言う事か?」
「街が1つ地図上から消える前に早くあれを踏んでくれ!」
「街って何だ!街って!結婚式はどうなったんだよ!」
「結婚式が始まる前に街が吹っ飛ぶって話だろ!爆撃機でこの街が地図上から消えるんだよ!物凄く大袈裟に言うとな!」
「物凄く大袈裟に言う必要ないんだよ!今は、あれが犬のフンかとか木の枝だとかじゃなくて!最優先はとにかく時間までに式場に行く事だろ!いい大人が遅刻はみっともないだろ!」
「いい大人があれを木の枝なのか犬のフンなのか分からないままの方がよっぽどみっともない!」
「どんないい大人だ!」
「つまりは、こうか?お前は時間が無いからあれが木の枝か犬のフンか確認出来ないって言うのか?」
「そうだよ。違うけどそうだよ。」
「だったらさっさと踏めばいいだろ!」
「何でだよ!何でそうなるんだよ!何で俺は犬のフンを踏んだ靴で結婚式に出席しなきゃならないんだよ!何で俺は犬のフンを踏んだ靴で誓いのキスやケーキ入刀や親に感謝の手紙を読んでる場に立ち会わなきゃならないんだよ!何で俺は犬のフンを踏んだ靴で祝儀を上げたり友人代表のスピーチしたり友人代表のスピーチからの歌のプレゼントをしなきゃならないんだよ!」
「だったらここで結婚式を挙げればいいだろ!」
「何でこんな事に全員を巻き込まなきゃならないんだよ!あれが犬のフンなのか木の枝なのかはっきりさせたいなら、お前が踏めばいいだろって何度も言ってんだろ!」
「だから!お前が犬のフンだって言ってんだから踏める訳がないだろ!」
「それはつまり、踏めないのはお前も犬のフンだと思ってるからだろ!」
「違う!!!」
「だから声がデカイっての。」
「俺は誓ってあれは木の枝だと思ってる!俺があれを踏まないのは、お前を信じてるからだ!お前の意見を尊重してるからだ!お前が唯一無二の親友だからだ!」
「こんな状況で使う言葉じゃないだろ!」
「だからお前も俺の言葉を信じろ!大丈夫!あれは絶対に木の枝だ!」
「まさかこんな絶体絶命的な状況になるとは改札出た時には思わなかったよ!」
「絶体絶命?絶対安心だろ?」
「分かったよ。お前の言葉を信じるよ。だけどな?仮に万が一、あれが犬のフンだったとしてだ。その時は靴屋に付き合ってもらうぞ?俺だけ結婚式に遅刻は嫌だからな。」
「当たり前だろ!あれが木の枝じゃなくて犬のフンだった時は、俺が靴代を全額支払う!」
「分かった。」
「じゃあ、お願いします。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・待った!」
「何だよ!何で覚悟を決めた状況で止めるんだよ!」
「やっぱり、踏むの止めよう。」
「え?ここまで来て?」
「踏んでも何の意味も無い。」
「え?全ての争い事だの街が地図上から消えるだの何だのって散々言ってたのに?」
「踏んだって何の解決にもならない。」
「まあ、お前がそう言うなら俺は別に構わないよ。じゃあ、早いとこ式場に行こうぜ。」
「摘まもう!」
「はあ???」

第四百五十話
「似た物」

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