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2015年3月11日 (水)

「第四百五十六話」

 短い話が書きたくて、気付くと僕は地球で一番、短い場所に辿り着いていた。ここは、何もかもが短くて、それをわざわざ文章で事細かに説明するほど僕は野暮じゃない。そんな愚かな行為は読み手の想像力への冒涜に過ぎないからだ。その想像通りの想像は確実に間違ってない。
「おい!」
僕がしばらく想像通りの地球で一番短い場所を想像と寸分の狂いもない事に驚愕しながらもその驚愕を表に出さずに歩いていると、短い公園の短い滑り台を短く滑って来た地球で一番短い場所に住む地球で一番短い50代の男に話し掛けられた。
「どうも。」
「ごめんごめん!珍しいなと思って、ついつい声掛けちまったよ!だってあれだぞ?ここに長い奴が来るなんて、300年ぶりぐらいか!」
「普通ですけどね。」
「まあ、そっちからしたらそれが普通なのかもしれないが、こっちからしたらそれは普通じゃないんだよ!ケタケタケタケタケタケタケタ!」
短い男が言う事は、そりゃあそうだって思ったけど、そりゃあそうだって簡単に片付けられないぐらいのここは、非現実だった。でもやっぱり、地球で一番短い場所の地球で一番短い50代の男も想像通りだったし、地球で一番短い50代の男の笑い方も想像通りだった。ここまで想像通りだと、むしろ想像しなくてもいいんじゃないかって思えてくるから不思議だ。因みにこれは書くまでもないとは思うけど、短いとは小さいを意味している訳ではない。小さい話が書きたかったら僕は地球で一番小さい場所に気付いたら辿り着いているだろうし、短い話が書きたいからこそ僕は今、気付いたら地球で一番短い場所に辿り着いているんだ。
「それで?」
「はい?」
「だから、わざわざこんな場所に長い奴が何しに来たんだ?まさか!?自殺か!?」
「違いますよ!その滅多によそ者が来ない場所で、よそ者を見掛けたイコール自殺志願者って発想、古いですよ。」
「古いか!」
「古いし陰湿ですよ。」
「陰湿か!」
「古いし陰湿だけど、とても正義感だと思います!」
「ありがとう!」
僕は、短い男と短い握手を交わした。
「で、何しに来たんだ?」
「僕は、短い話が書きたくて、気付いたらここに辿り着いていたんです。」
「なんだおい!支離滅裂だな!」
「はっきりでしょ!しっかりとした目的で今!この大地を踏みしめてるでしょ!」
「動物園には行ったか?」
「何ですか?急に?」
「いやだから、動物園には行ったかっての!」
「いえ、行ってません。」
「だったら行った方がいい!」
「その短い動物園に行けば短い話の創作意欲がモリモリ湧いてきますか!」
「それはアンタ次第だろ?」
「んまあ、そりゃあそうですけどね。何か特別珍しい短い動物でもいるんですか?」
「そりゃあ!アンタから見たらどの動物だって珍しいだろ!」
「そりゃあそうなんですけどね。でもやっぱり知ってる動物見たって、結局は短いゾウだ短いライオンだ短いキリンだって、気持ちが下がるじゃないですか。ああ、単に短い動物園だったってなるじゃないですか。」
「チンパンジーがいるぞ!」
「いや、僕が今口にした動物が僕の知る動物の全てじゃありませんから、もちろんチンパンジーも知ってます。」
「カバもか!」
「はい。」
「クマもか!」
「はい。」
「ラクダもか!」
「はい。」
「トラもか!」
「はい。」
「動物博士か!」
「こんな知識で動物博士になれるなら、動物博士になればよかった。」
「でなけりゃ園長か!」
「違いますよ!いつから飼育した事ある動物の話になってるんですか!じゃなくて、この場所特有のこの場所にしか生息してない短い動物がいたりするんですか?って事ですよ。」
「さあ?いるかもしれないしいないかもしれない。探すなら森に行くといい。」
「探してないんですよ動物!探さないんですよ珍獣!短い話が書きたくてここにいるんですから!」
「だったら図書館に行くといい。」
「なるほど!まずはこの場所の短い知識を得ると言う事ですね!」
「何かよく分からんけど、そう言う事だ!」
「何かよく分かってないのに図書館とか言わないで下さい。」
「ただし気を付けるんだぞ!」
「何かその短い図書館にあるんですか?」
「騒ぐとメチャクチャ叱られるからな!」
「全世界共通ルールだ!」
「じゃあ、俺はブランコしてから帰るから、機会があったらまた一緒にブランコでもしよう!」
「またって一度もご一緒してませんが、気持ちが短いブランコに行き過ぎでしょ。で、その短い図書館はどこにあるんですか?」
「この公園を抜けたとこにある。」
「分かりました。ありがとうございました。」
「おう!」
僕は、短いブランコで満面の短い笑みを浮かべる短い男が言うように短い公園を抜け、短い図書館へと辿り着いた。そして短い時間を忘れて短い図書館で短い本を短く読み続け、この地球で一番短い場所の短い知識を短く貪った。ふと気付くと僕は、地球で一番短い場所に、随分と長居していた。

第四百五十六話
「古典的オチの安定感」

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