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2015年3月18日 (水)

「第四百五十七話」

「どう?」
「どうって?」
ちょっとモダンで少しレトロで多少汚い観覧車、にカップル。
「だから、どう?」
毒を盛った女。
「だから、どうって別にとうもないよ。」
毒を盛られた男。
「こうなんか、死にそうって感じとかないの?」
「ないよ。別に。」
巻き起こる数分間のスペクタクル空想科学。

第四百五十七話
「毒を盛った盛られたなど」

「苦しみとかない?」
「ないよ。」
「今にも吐血しそうとかないの?」
「しないよ。さっきからなんだよ。なんで変な事ばっか聞くんだよ。」
「さっき、あそこで買い食いしたじゃん。」
「無邪気かよ!ランチな。」
「その時、サプリメントだよって言って上げたじゃん。」
「貰ったな。」
「飲んだじゃん。」
「飲んだな。」
「あれ毒。」
「毒ってなんだよ!なんで毒なんか飲ませるんだよ!」
「人ってさ。本当に死ぬのかなって思ってさ。」
「無邪気かよ!死ぬよ!」
「でもね。みんな人は、死ぬ死ぬ言うけど、私見た事ないんだよね。」
「なにが!」
「人が目の前で死ぬとこ。」
「はあ?」
「いやだからね。こんな事言ったら頭の少しおかしい女子って思われるかもしれないけどね。」
「この段階で少しおかしい女子って言えちゃう時点でだいぶおかしいだろ!」
「人って、本当は死なないんじゃないかって思うの。」
「病気だよ!即入院レベルの心の病だよ!」
「国がね。死ってイメージを植え付けてるんだと思うの。」
「なんのために?」
「人は死ぬんだぞ!って、死ぬから一生懸命生きろよ!って。」
「戦争とかで死んでるだろ!毎日毎日、病院で死んでるだろ!人!」
「だから、生まれてから一度も目の前で人が死ぬとこ見てないから、ピンと来ないんだってば!」
「おじいちゃんやおばあちゃん、死んでないのかよ。」
「おばあちゃんは生きてる。おじいちゃんは、死んだ。」
「はあ?」
「ん?」
「はあ?」
「ん?」
「死んでんじゃん!」
「でも、後日談だから目の前で死ぬとこ見た訳じゃないから。」
「後日談だろうが目の前で死ぬとこ見てなかろうが!死んでんじゃん!」
「嘘かもしれない。」
「嘘ってなんだよ!嘘って!」
「本当はどこかで生きてるのかもしれない。」
「死体を見たんだろ?」
「見た。」
「触ったりしなかったのか?」
「触った。」
「本当じゃん!紛れもなく真実じゃん!」
「ジャーナリズムってヤツ?目の前の真実は真実じゃない!真実を疑う事が真実への近道だ!」
「誰の受け売りだよ!」
「私のオリジナル。」
「受け売れよ!」
「とにかく、目の前で起こる事しか信用出来ないって事!目の前で起きる事だけが真実って事!」
「いやだから!おじいちゃん死んだんだろ!葬式したんだろ!」
「形式的には死んだのかもしれない。社会的には死んだのかもしれない。」
「それを人々は死と呼ぶんだよ。」
「でもあの時、頭の中まで確かめた訳じゃない。」
「なにを奇妙な事を言い出してんだよ!」
「つまりね。脳みそが頭の中にあったかなかったかは、分からないって事。」
「はあ!?」
「体の耐用年数が来た人間は、脳みそを抜き取ってそれを冷凍保存してロケットに乗せて宇宙空間を漂わせてるかもしれないって事!来るべき日に備えて!」
「ちょっと待て!」
「なに?」
「いくらでも奇奇怪怪な哲学を聞くから、とにかくまずは解毒剤をくれ!」
「なんで?」
「死ぬからだろ!このままじゃ死んじゃうからに決まってるだろ!」
「死んじゃえ!」
「無邪気かよ!とにかく無邪気なのかよ!」
「死ぬって証明してみせてよ!」
「だいたいなんで俺が死を証明しなきゃならないんだよ!死を体感したいなら自分で毒飲むなり高いとこから飛び降りるなりすればいいだろ!」
「言ったでしょ!目の前で起こる事が真実!って!」
「まさに目の前だろ!自らが体感してんたから!」
「戦争をジャーナリズムしてて、気付いたら自らが戦争してたなんてジャーナリズムがある?いい?そんなバカげたジャーナリズムなんかないの!それはジャーナリズムであってジャーナリズムじゃないの!」
「ジャーナリズム、ジャーナリズムって、お前ジャーナリズムじゃないだろ!おい!これって殺人なんだぞ?お前が俺を毒殺した事になるんだぞ?お前、殺人犯になるんだぞ!分かってんのか?」
「貴方は死なない。だから私は殺人犯なんかにはならない。と言うか、そもそもこの世に殺人犯なんていない。」
「診療室じゃないんだぞ!ここは観覧車だぞ!なんでこんな会話しなきゃならないんだよ!」
「いい?これは、人が死ぬ事の証明じゃないの!人は死なないって事の証明なのよ!」
「え?夢?俺は今、夢を見てるのか?ランチ食って観覧車乗って、本当の俺はお前の肩にもたれて寝てるのか?」
「夢に逃げるな!」
「真っ当な社会人みたいな事言ってんじゃねぇよ!いいからとっとと解毒剤出せ!」
「苦しい・・・。」
「苦しいか?首絞められて苦しいか?苦しいよな?さぞ苦しいよな?首絞められてるんだもんな!」
「苦しい・・・よ。」
「いいか?これが死ぬって事なんだよ!人は死ぬんだ!過去も現在も未来も!死にまくるんだ!だから早く解毒剤を渡せ!」
「・・・渡さない。」
「死にたいのか!」
「渡すもんか!」
「どこまでも無邪気かよ!」
「と言うか・・・解毒剤なんか・・・持ってないよ。」
「ふざけんな!このままじゃ二人とも死ぬぞ!」
「大丈夫だよ・・・人は・・・死なな」
「・・・死んでんじゃねぇか!おい!死んでんじゃねぇかよ!なんなんだよ!なんなんだよこれ!一体どんな意味があったって言」
そして間もなくこの観覧車に大きめの隕石が衝突して、地球がわりとヤバい。でもみんないろいろ頑張って大丈夫。毒を盛った盛られた、など。

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