« 「第四百五十九話」 | トップページ | 「第四百六十一話」 »

2015年4月 8日 (水)

「第四百六十話」

「探偵さん!」
「何ですか?警部さん。」
「何ですか?警部さん。だなんて、のほほんと言ってる場合ですか!」
「別に僕は、のほほんと言ってませんよ。」
「コーヒーを飲みながらオーシャンビューでオーシャンビューをオーシャンビューしてるじゃないですか!そう言うのを世間一般では、のほほんと言うんです!」
「部屋を直角にウロチョロしてないでどうです?警部さんも一緒にコーヒーでも。」
「探偵さん!」
「少し落ち着きましょうよ。」
「この宿泊施設で人が殺されたんですよ!」
「だから、落ち着いて話を整理整頓しましょうよ。」
「整理整頓は嫌いじゃないです。」
「どうぞ。」
「いただきます。」
「で、見たんですよね?」
「見たんですよ。」
「殺害の現場を目撃したんですよね?」
「結構この世界に長く身を置いてますが、殺害の現場を目撃したのは初めてです。」
「僕がずっと昨晩から気になってたのはそこなんですよ。」
「まさか犯人が分かったんですか!だったら今すぐ犯人のとこに行って、犯人はお前だ!ってやりに行きましょう!馳せ参じましょ!」
「そんな直角に立ち上がらないで、もう一回直角に座って話の続きをしましょう。」
「探偵さん!こうして2人でのほほんとオーシャンビューをオーシャンビューしながらコーヒーを飲んでる間にも!また殺人が行われるかもしれないんですよ!」
「なぜ逮捕しないんですか?」
「はい!?」
「警部さんが殺人の目撃者なら、わざわざ僕が探偵しなくても1発で逮捕出来ますよね?と言うかなぜその場で犯人を逮捕しなかったんです?」
「探偵さん?アンタ何も分かっちゃいねぇ。」
「急なキャラ変は何なんですか?」
「私は警部だが、今は警部ではない。」
「はい?」
「私は目撃者なんですよ!」
「目撃者の警部ですよね?」
「いやですからね?人は1つの職業にしか就けないんですよ。」
「そんな事ないでしょ!いやましてや目撃者は職業ではない!」
「この地球上に目撃者と言う職業があってもいいじゃありませんか。」
「僕の知る限り、地球上を持ち出す人間にロクな人間いません。」
「私はね?探偵さん。あの時から警部を退職して目撃者に就職したんですよ!これからは目撃者で家族を養って行こうって本気で誓ったんですよ!真横にあった奇妙なオブジェに!」
「すいません。何か恐いです。」
「探偵さん!私は探偵さんより何億倍も恐いですよ!だって目撃者なんですから!次に殺されるのは私かもしれないじゃないですか!」
「・・・・・・・・・。」
「なぜ沈黙なんですか?もっと貴方は殺されない!とか、次の殺人が起こる前に犯人の正体を突き止めます!とかないんですか?それとも!?犯人が分かったんですか!」
「探偵が沈黙したからって、必ずしも犯人が分かった訳じゃないですよ。言葉もないってヤツの沈黙ですよ。」
「役に立たない探偵さんですね!」
「警部さんにだけは言われたくない!」
「ずっと気になってたんですが、その警部さんって呼ぶのやめてもらえませんか?私もう警部じゃなくて目撃者なんで。」
「なら!さっさとこんな殺人事件を解決してしまいましょう!」
「そう来なくっちゃ!」
「誰ですか!」
「凄い威圧ですね。誰って、私は」
「そうじゃなくて!目撃者さんが目撃した犯人ですよ!」
「ちょっと落ち着いて下さいよ。探偵さん。」
「この状況で自分でも驚くほど落ち着いてますけどね!本当だったらこの拳で貴方の事をぶん殴ってやりたいですよ!」
「そうなんです!さすが探偵さんだ!」
「意味不明に褒めないで下さい。」
「犯人は、殴り殺したんです。」
「それは僕も死体を見てるので知ってますよ。」
「無邪気でした。」
「何がですか?」
「無邪気なパンチでした。」
「いやパンチが無邪気とかどうでもいいんで。」
「あんな無邪気なパンチ見た事ありません。いやまあ、パンチ自体そんな数を見た事ないんですけどね。」
「パンチいいですよ!別にどんなパンチだったかとか気になってないですから!そんな事よりも誰なんですか?」
「いやだから私は」
「そうじゃなくて!貴方の事は分かってますから!ちょくちょく記憶喪失ですか僕は!」
「大変ですね。」
「ちょくちょく記憶喪失ではない!犯人ですよ!犯人の顔!その無邪気なパンチを繰り出したのは誰なんですか!」
「左手でしたね。」
「何なんですか!そのちょいちょい小出しにヒントを与える姿勢!犯人は、左利きか!とかならないですよ?この場合!」
「醍醐味なのに?」
「顔見たんですよね?」
「見たんですよ!」
「ならそんな醍醐味は必要ない!」
「勿体ない。」
「この時間の方がよっぽど勿体ないですよ!」
「料理長でした。」
「それは殺された方でしょ!」
「だから、殺されたのも殺したのも料理長だったんですよ!」
「料理の長がなんで2人もいるんだ!」
「知りませんよ!殺されたのは料理長で、殺したのはTシャツに料理長って書いてあったんです。」
「ややこしいな!」
「話すとややこしいですけど、現場はそれほどややこしくなかったですよ。むしろシンプルでした。」
「でしょうね!それで一体誰なんですか!」
「何言ってるんですか探偵さん。」
「だから目撃者さんの事じゃなくて!」
「貴方ですよ。」
「はい?」
「下に着てるTシャツを見てみなさい。」
「何を言ってるんで!?どう言う事だ!?」
「震えて掴んでいるコーヒーカップを持つ手を見てみなさい。」
「左手!?そんなバカな!?確かに僕はさっきまで右手で持っていたはずだ!?」
「自分でも言ってたじゃありませんか。探偵さん。」
「何を言ってました?」
「ちょくちょく記憶喪失か、と。」
「・・・・・・・・・。」
「午前10時38分。殺人容疑で逮捕します。」

第四百六十話
「602号室の奇譚」

|

« 「第四百五十九話」 | トップページ | 「第四百六十一話」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/121942/59574124

この記事へのトラックバック一覧です: 「第四百六十話」:

« 「第四百五十九話」 | トップページ | 「第四百六十一話」 »