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2015年5月

2015年5月 6日 (水)

「第四百六十四話」

朝、目が覚めて僕は、すぐに体の異変に気付いた。これはきっと母さんの為業だとすぐに気付いた僕は、全力疾走で母さんが居る母さんの部屋へ向かった。
「母さん!」
「朝から全力疾走でなんですか!家が壊れたらどうするんです!朝から家の中を全力疾走していいのは、朝から家の中を全力疾走していい免許の持ち主だと決まっているんです!それはもう古からです!」
「母さん、僕の腕を返して下さい。」
「何の話ですか?朝から母さんの部屋で下ネタはやめなさい。」
「どこが下ネタなんですか!惚けたって無駄ですよ?父さんは仕事で海外に出張中なんです。だからこの家には今、母さんと僕の2人だけなんです!僕の腕をもぎ取れるのは母さんしかいないではないですか!」
「2人だけじゃないかもしれないわよ?」
「そんな恐い事を言っても誤魔化せませんよ!学校が始まる前に早くもぎ取った腕を返して下さい!」
「腕をもぎ取られたぐらいで動揺するんじゃありません!母さんはアナタを腕をもぎ取られたぐらいで動揺するように育てた覚えはありません!」
「動揺はしてません。至って冷静です。」
「ならよし!行ってよーし!」
「だから腕を返してもらわないと行けないんですよ!」
「なぜ?」
「母さん?考えてもみて下さい。僕は中学生です。」
「いつの間に!?」
「今日、体育の授業で飛び箱を飛ばなければなりません。」
「だから何です?」
「腕を1本もぎ取れた状態で飛び箱が飛べると思いますか?」
「だから、だから何です?飛び箱が飛べたからと言って、将来大金持ちになれるのかしら?飛び箱が飛べたからと言って、将来国を動かす政治家になれるのかしら?飛び箱が飛べたからと言って、将来謎の病原体を退治するワクチンが作れるのかしら!!」
「いやそれらは全て飛び箱に限った事ではないではありませんか。中学生と言う世界の中での話ですよ。」
「小さな世界の話ね。」
「僕には全てです。」
「今日も小さな世界へいってらっしゃい。」
「ですから、もぎ取った腕を返してもらわないと行けないんですよ!」
「足があるじゃない!立派な2本の足があるじゃない!」
「足は2本あるけど腕が1本しかないんですよ!」
「幻の話?」
「ここまで話してて今更幻の話な訳がないじゃありませんか。」
「ここまで話してて今更幻なのが幻でしょ!」
「母さん!ふざけていないで僕の腕を返して下さい!」
「ふざけてるですって?母さんはね!生まれてから1度もふざけた事なんてございません!」
「そう言う事を白眼で言ってる時点でふざけてると言うのです!いいですか?僕がまだ中学生だから話は飛び箱で済まされますが、これがパイロットだったらどうですか?墜落ですよ!」
「離陸に比べたら墜落なんて簡単な話よ!」
「これが医者だったら今日の手術は失敗ですよ!」
「成功に比べたら失敗なんて簡単な話よ!」
「山岳救助隊なら誰も助けられませんよ!」
「生かすに比べたら見殺すなんて簡単な話よ!」
「例え話を意味不明な残忍な例え話で返さないで下さい!」
「アナタが残忍な例え話するからでしょ!」
「どこが残忍な例え話なんですか!」
「だって飛び箱に比べたらあまりにも人の命が犠牲になり過ぎじゃない!」
「母さんがした事は場合によったら多くの人の命を犠牲にすると言う事ですよ!」
「地球にとったら人口が減っていい事かもしれないわね!」
「どんなポジティブ思考の持ち主なんですか!」
「話は変わるけど、今日の晩御飯はカレーライスでいい?」
「変わり過ぎでしょ!ここでそんな急激に話をねじ曲げていい訳がないじゃありませんか!」
「だから断りを入れたでしょ?アナタの腕をもぎ取る時もちゃんと断りをささやいたのよ。」
「断りを入れたら何をしたっていいもんじゃないんです!とにかく返して下さい!腕!」
「返すのは簡単よ?でもね?またもぎ取るのは凄く大変な事なのよ?」
「どうしてまたもぎ取ろうとするんです!」
「そこに腕があるから。」
「何でもかんでもそんな感じで言えば誰かがいい感じに解釈すると思わないで下さい!」
「10億人いたら1人ぐらいは共感してくれるかもしれないじゃない!10億人いたら1人ぐらいは共感してくれるかもしれないって思想で育ってもらいたい。」
「そんな思想!ほぼ独りぼっちではないですか!」
「いいじゃない!結局人は死ぬ時は独りぼっちなのだから!」
「それでも僕は!腕を返して欲しいんです!」
「腕なんかなんだい!そんな風には考えられないの?」
「悲しいかな人は、そんな風には考えられない生き物なんです。」
「つまらない生き物ね。」
「母さんもそんなつまらない生き物の1人ですけどね。」
「なんか冷めたわ。」
「何に熱してたんですか。」
「好きなだけ持って行けばいいわ。そして好きなだけ飛び箱でも飛べばいいわ。」
「好きなだけって腕狩りですか?」
「伝説のね。」
「訳の分からない伝説を1つ増やさないで下さい。じゃあ、腕は返してもらいます。」
「いってらっしゃい。母さんは電気も点けずにウイスキーをガブ飲みしながら帰りを待ってるわ。」
「どうしてそんな典型的に落ち込めるんですか!」
「完成形だと思い込んでいる人って生き物によ。」
「はあ、深いですね。」
「晩御飯はカレーパンに降格よ!」
「母さん?僕の中ではカレーパンの方が上です。」

第四百六十四話
「まだ手が重要視されていた時代のお話」

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2015年5月13日 (水)

「第四百六十五話」

「ヤバいヤバいヤバいよ!遅刻だよ!」
私は大学生。ママが朝からパパとケンカしてて起こしてくれなかったおかげで、こうして朝からバス停まで走らなきゃならなくなったってだけの話。
「ヤバいってば!これマジでヤバいから!」
ママのせいにするのは簡単な話だけど、実際には私が昨日提出期限のレポートを家に忘れたのがいけないの。寛大な先生が明日の朝一番までなら受け付けるって言ってくれたそれが今日。こんな事なら昨日の夜にでも届けとけばよかった。こんな事で単位を落として3年になれないなんて有り得ないから!
「おい!」
「今急いでるの!」
私の目の前に突然現れて私の未来を邪魔するこの老人は、近所で変わり者と煙たがられてる発明家の老人。でも私はわりと昔から嫌いじゃないけどね。
「さては、急いでるな?」
「たから急いでるって言ってるよ!」
「急いでるとこ悪いんだけどな。新しい発明品が完成したんだ。」
「はあ?今じゃなくてよくない?大学から帰って来てからでよくない?」
「お前さんの未来に関わる事なんだ。」
「既にこの段階でエラく関わってますけど?」
「車を発明品したんだ。」
「車?もしかしてその車で大学まで送ってくれるって事?なんだ!それを早く言ってよ!どれ?どれその車?ねぇ?どれどれ?」
「そんな慌てなくても発明品は逃げはせんよ。」
「いや慌てるでしょ。この状況慌てない大学生いないでしょ。」
私は、慌てる気持ちを抑えて発明家の家のガレージまで着いて行った。ガレージの中にはドアが翼みたいに開くモスグリーンの車が止めてあった。
「どうだ!」
「どうだって、どうだっていいから早く大学まで送って!ヤバいの!」
「おいおいおい、簡単にこの車で大学に送ってくれなんて言うもんじゃない。」
「はあ?簡単にでしょ?車って簡単に大学に送るもんでしょ?博士は簡単に大学に送れない、そんなポンコツを発明したの?」
「いいか?迂闊にこの車を運転したら、お前さんは大学に辿り着く前に驚いて心臓停止させるぞ。」
「どんな車よ!いやもうややこしい!急いでる時のややこしいは殺意覚えるよ?安易に大学に送れないならこれは何?タイムマシーン?タイムマシーンで私を遅刻する前の朝まで戻してくれるの?それで私が私の代わりにレポートを提出してハッピーエンド?だったら行こうよ!今すぐ朝に出発しようよ!」
「何を言ってるんだ。タイムマシーン?タイムトラベルの仕組みも知らないで簡単に都合良く言ってくれる。いいか?確かに朝に戻ってレポートを提出すればレポートを提出した事になる。」
「いいじゃん!タイムトラベルいい事尽くしじゃん!」
「お前さん、タイムパラドックスと言う言葉を聞いた事ないのか?」
「ないわよ。」
「何の為の大学だ。」
「別にタイムパラドックスって言葉を聞く為に行ってないから!タイムパラドックスの講習受けに行ってないから!やってないし!」
「タイムトラベルには常にタイムパラドックスがつきまとう。つまりだ。過去に戻ってお前さんが若き日の自分の父親に恋をしたら?過去に戻ってお前さんが若き日の自分の父親を殺したら?お前さんの存在は?」
「パパがママに出会わなければ私は生まれないから、えーと?私の存在は消える?」
「そうだな。それがタイムパラドックスだ。タイムトラベルが不可能だと言われる要因だな。だがどうだ?お前さんがタイムトラベルした時点で別の時間軸の世界が存在したとしたら?」
「はあ?」
「つまりだ。この現実とは別に新たに現実が生まれる。そこで若き日の父親と恋に落ちようが若き日の父親を殺そうが、その世界ではお前さんが生まれない時間軸が流れるだけだ。」
「海外旅行的な?」
「んまあ、物凄く頭悪く言うとそんな感じだ。だから、お前さんがタイムトラベルしてレポートを提出しようがだ。それはタイムトラベルした先の時間軸の話で、タイムトラベルから戻って来たお前さんの本来の時間軸では、レポートを提出しないって時間が流れてるだけだ。根本的な現実は何ら変わらないって話だ。」
「いやもうややこしいって!ややこしくてややこしくて、ややこしいって!何なの?何が言いたいの?」
「つまりこの車は、今の超弦理論と言うヤツを利用した車、人を轢き殺さない車だ!」
「はい?いやいやいや、だったら簡単に大学に私を送れるじゃん!」
「話を最後まで聞くんだ。人を轢き殺さないと言っても、実際には轢き殺す。」
「何を言ってんの?大丈夫?」
「つまりだ。この車は、人を轢き殺しそうになった時に、自動的にタイムトラベルをする。そして、タイムトラベル先でその人を轢き殺す。轢き殺した時点で再び自動的にタイムトラベルをして本来の時間軸に戻って来る。だからここでは人を轢き殺したと言う現実は存在しない。死ぬまで人を轢き殺さない優良ドライバーであり続けられる!」
「訳の分からない事を熱弁中に悪いけど、倫理的にどうなのかしら!いくら別の時間軸の話でも実際に人を轢き殺しちゃってるんだし!いくら別の時間軸の話でも悲しむ人間がいるんだし!その理論だともしかしたらこの世界が基本世界だと限らないし!」
「だから化学は面白いな。」
「いやいやいや!そんな改めて化学の奥深さに浸ってないでさ!そもそも、車で大学に私を送る気がないなら、それは単なる発明品自慢の発明家って事ですよ?」
「発明家が発明品が完成した時に誰かに自慢するのは極々当たり前の現象だろ?」
「そんな身勝手で私の未来を台無しにしないでよっ!!」
「女の子が声を荒げたりしたらダメだ。」
「今荒げないで私は一体いつ声を荒げればいいのよ!」
「簡単に大学に送れなんて言うなとは言ったが、大学に送らないとは言ってないだろ?」
「えっ?」
「さあ、乗りなさい。」
「あのさ?博士さ?そう言う事は、もっと早く言ってよね!で、別にこの車がどんな車なのかは大学に送りながらでもよかったよね?」
「急げばまだ間に合うだろ?それに、この車がどんな車なのかを知った上で乗って欲しかったんだよ。仮に説明なしでわしがいきなり人を轢き殺してもニヤニヤ笑ってたらヤバいだろ?」
「んまあ、そうだけどさ。でも、人を轢き殺しても人を轢き殺してないけど、やっぱり結局人は轢き殺してるって、倫理的にどう?こんな車が発明出来るなら、もっと別の発想なかったの?」
「もっといい発想は、平行宇宙の別のわしがしてるかもしれないな。ほら、家族団らんのお前さんがいるようにな。」
「いやいやいや、この宇宙でも私は家族団らんですけど?」
「朝早くから、父親の浮気が原因でケンカしてるのにか?」
「はあ?」
「たまたま朝の散歩でお前さんの家の前を通ったら聞こえて来たんだ。離婚だとかそえじゃないとか?でもまあ、わしの長年の経験からすると離婚は決定的だな。」
「どう言う事?」
「言ったろ?お前さんの未来に関わる事だって。ほら、お前さんの父親がちょうど家から出て来たぞ。」
「轢き殺して!」

第四百六十五話
「向こうの私には申し訳ないと思ったけど」

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2015年5月20日 (水)

「第四百六十六話」

「これって青春ってヤツじゃない?」
夜の道、帰り道、自転車に2人乗りの高校生、後ろに乗る女子が言った。
「青春?青春って何だよ!」
前で自転車を運転する男子が笑いながら答えた。2人は恋人同士。
「だから、青春ってのを絵にしたら今のアタシ達じゃない?って事!」
「ただ夜道を自転車で2人乗りして走ってるだけの俺達が?」
「そう!」
「青春ってこう、部活とか学校のイベントとかで大勢ではしゃぐ事なんじゃないの?」
「違うってば!そんなの大人になってからでもやろうと思えば出来る事じゃん!」
「これだって大人になってからでもやろうと思えば出来ると思うけどな?」
「それは違う!」
「何が違うんだよ。」
「何となくだよ。何となく今のアタシが青春って言うのは、これだ!って感じてるの!今まさにアタシ達は青春の最中だ!って感じてるの!」
「オマエ、相変わらず変わってるな。」
「そうかなぁ?」
「自分で気付いてないだけだよ。」
「人はみんなどっか変わってんだよ。ただ、それを誰かに向けて発信するか自分の心の中に止めとくかの違いじゃない?」
「俺には難しくてよく分かんないよ。」
「見て!」
「ん?」
「満月!」
「ホントだ!」
「青春だね!」
「これも青春なのか?」
「今、この状況で感じる事全てが青春なんだよ?だから、体の細胞全てに刻まなきゃダメなんだよ?」
「また難しい事を言うな。」
「満月の夜には不思議な事が起こるって言うじゃん。」
「化け物に変身するとか?」
「変身しないでよ!」
「するかよ!」
「またまたー!そんな事言ってる人に限って変身するんだからー!」
「世の中、そんな事言ってる人だらけだろ!化け物だらけだぞ!」
「どうする?あの曲がり角曲がったら、そこにゾンビの大群!」
「もう、めちゃくちゃ全速力で自転車こいで逃げる!」
「無理だよ!ゾンビもむちゃくちゃ全速力で自転車こいで追い掛けて来るんだもん!」
「何でゾンビも自転車なんだよ!」
「だってたまたま自転車乗ってる時に満月見てゾンビになったんだもん!」
「その法則で行くと俺も自転車ゾンビだぞ?」
「じゃあ、アタシも自転車の後ろゾンビだ!」
「オマエもゾンビになってんのかよ!」
「だってアタシだって満月見て化け物に変身するなんて思ってないもん!」
「何だよそれ!」
「でも、満月とか関係なくて、あの曲がり角曲がったら、ゾンビだらけだったらどうする?」
「ゾンビだらけってどれくらいだよ。」
「17体ぐらい?」
「ぐらいいらないだろ。で、動きは鈍いタイプのゾンビ?それとも早いタイプ?」
「鈍いタイプ!」
「じゃあやっぱり全速力で走り抜ける!」
「分かった!運転に集中してね!アタシはゾンビの頭を撃ち抜くから!」
「撃ち抜くって何だよ!」
「だってゾンビを退治するには頭部を破壊するか燃やすかでしょ?」
「そうかも知れないけど撃ち抜くって何で?」
「リボルバーで!」
「持ってないだろ!」
「持ってない!どうしよう!ねぇ!どうしよう!」
「落ち着けって!あの曲がり角曲がったって、絶対ゾンビなんかいないから!」
「この世の中に絶対なんかないんだよ!」
「じゃあ、ゾンビがいるかもしれないけど、絶対にいるって訳でもないだろ?」
「絶対を逆手に取った説得とは、なかなかのネゴシエーターだね!」
「木の枝とかでいいかな?」
「いつの間にだよ!」
「さっき軽くパニックになってた時にあの家から拝借したの。」
「何してんだよ!」
「ちゃんと折るときに、ごめんなさいって謝っといたから大丈夫!」
「何が大丈夫なんだよ!」
「集中!」
「えっ?」
「間もなく例の曲がり角だよ!」
「もう完全に曲がり角曲がったらゾンビがいる体じゃん!」
「運転に集中して!」
「はいはい。」
「行くよ!」
「間違って人間の頭を殴るなよ?大問題だからな!」
「アタシがそんなヘマすると思う?」
「今の興奮状態だったらしないとは限らないだろ!」
「ちょっと!何でブレーキ?ゾンビはすぐそこなんだよ!」
「いや何か曲がる前に1回深呼吸した方がいいかなって思ったからさ。」
「深呼吸?それもそうかもね。」
「吸ってー!」
「スゥゥゥゥ!」
「吐いてー!」
「プハァー!」
「プハァー、って。」
「よし!行こう!」
「大丈夫か?」
「さあ来いゾンビ達!」
「誰もいませんように!」
「えっ!?」
「あっ!?」
「まさかの猛スピードの車!」
「うわあああああああ!」
「きゃあああああああ!」

第四百六十六話
「青春の1ページ」

「え?え?ど、どうなってんだ?車は?」
「い、いないね。」
「確かにいたよな!曲がり角曲がったらそこに猛スピードの車!」
「いた。」
「俺達、絶対轢き殺されたよな!」
「轢き殺された。でも、轢き殺されてない。」
「何がどうなってんだ?」
「青春?もしかしてこれも青春ってヤツ?」
「単なる摩訶不思議だろ!」

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2015年5月27日 (水)

「第四百六十七話」

「おじさん!」
「ん?」
「バイト仲間から聞きましたよ!」
「何をだ?」
「おじさん実は、拳法の達人だったんですね!」
「その事か。」
「いやぁ!何か俺!おじさんは只者じゃないって思ってたんですよ!」
「そうか。無駄話は事務所に戻ってからでいいだろ?さっさと仕事を片付けよう。」
「あの俺!お願いがあります!」
「バイトのシフトの事か?」
「俺に!今ここで!おじさんの拳法教えて下さい!」
「何?」
「お願いします!」
「自分で言ってる事が分かってるのか?」
「分かってます!拳法初心者ですけど、俺!子供の頃から拳法使いになるのが夢だったんです!だから俺に今から拳法を教えて下さい!」
「そうじゃない。」
「分かってます!きっと物凄く辛い修行なんだと思います!でも俺!中途半端な気持ちでおじさんに弟子入りしようと思ってません!どんな辛い修行が待ち受けていようとも!俺!頑張ります!子供の頃から拳法使いになるのが夢だったんです!」
「そう言う意気込み的な話じゃなくてだな。今ここで拳法教えてくれって、今ここは超高層ビルの99階なんだぞ?しかも俺達は今、ゴンドラに乗って窓の清掃をしてる最中なんだぞ?」
「はい!」
「いや、そんなキラキラした目で返事をされてもだ。別に今からじゃなくて、明日からでもいいだろ?」
「今がいいです!今からがいいです!」
「たから!状況を考えろよ!」
「でも今から拳法教え欲しいってなっちゃったんで!」
「子供かよ!」
「大人です!」
「そんなの見たら分かるよ!でもこう言う場合ってのは、そう言う感じの事を言うだろ!」
「言います!俺!子供の頃から拳法使いになるのが夢だったんです!」
「それはもう聞いた。だから、明日からでもいいだろ?」
「ダメですよ!」
「何でだ!明日から教えるって言ってんだからいいだろそれで!」
「明日からじゃダメです!」
「何がだ!もう教える事は確定してんのに何がダメなんだ!」
「もしかしたら師匠が今晩、闇の拳法使いに寝込みを襲われて殺されるかもしれないじゃないですか!」
「どんな設定で俺を捉えてるんだよ。そんな組織とトラブルなんかないから安心しろ。」
「闇の拳法使いに寝込みを襲われて殺されないかもしれないけど!拳法使いなのに帰り道、ダンプに轢かれて死ぬかもしれないじゃないですか!拳法使いなのに!」
「拳法使いはスーパーヒーローじゃない!」
「でも!ダンプがこう来たら!瞬時にダンプの構造上1番弱い部分を、はいぃぃぃ!ってやって運転手は無傷でダンプ粉々にすれば轢かれずに助かりますよね!」
「まず、ここで大きな動きをするな!で、漫画読み過ぎだし映画観過ぎだ!」
「出来ないんですか!?」
「それに近い事は出来るが、お前が描いてる想像とは大きく掛け離れてる!」
「師匠!」
「大きく掛け離れてるって言ってるだろ!いや、そもそもだ!さっさと目の前の仕事を終わらせなきゃ、社員の人に怒られるぞ!」
「そんなの師匠の拳法で社員の人をやっつけちゃえばいいじゃないですか!」
「正統な理由で怒る相手を!正統な理由で怒られてる俺が!何で拳法でやっつけなきゃならないんだ!」
「だって相手は武器を使って怒ってくるかもしれないじゃないですか!それに武器を使って怒ってくる相手は!必ずしも1人とは限らないじゃないですか!」
「ゲームかなにかのやり過ぎだろ!」
「じゃあもう、この際、社員の人がとか関係なく!武器を使って沢山の悪者が襲って来たら師匠はどうするんですか!」
「どの際だ!今、話が社員の人から怒られるってとこから逸脱してどうすんだ!」
「どうするんですか!師匠!」
「お前の想像とは大きく掛け離れるが、やっつけるよ。」
「師匠!」
「絶対!お前の想像とは違うからな!」
「はいぃぃぃ!!って感じですね!」
「地面殴って大勢を吹っ飛ばすような拳法じゃない!俺のは!って、大きく動くなって言ってるだろ!とりあえず清掃しよう!なっ!」
「超高層ビルの窓を清掃して俺は拳法使いになれるんですか!」
「超高層ビルの窓を清掃したって拳法使いにはなれない。なれないが、仕事な!これは仕事!アルバイトしてお金を貰うために超高層ビルの窓を清掃するバイトの面接受けたんだろ?強くなる為にじゃないだろ?」
「目の前のお金より!目の前の拳法使いなんです!」
「だからその熱い気持ちは十分分かったから、明日からじゃなくて、仕事終わった今日から教えるから、なっ?」
「今がいいです!」
「何でだよ!この後教えるって言ってるだろ!」
「もしかしたらこのゴンドラが落ちるかもしれないじゃないですか!」
「何でそうマイナス思考な事を言いたがる!普通に作業してればそんな事にはならないから安心しろ。むしろ逆にここで俺がお前に拳法を教えた方が危険だ!」
「覚悟の上です!」
「どう言う覚悟なんだよ!」
「本望です!」
「どんな本望なんだよ!おかしいだろ?一瞬だけでも拳法を教えて貰えればそれでいいのか?この仕事終えて下に行ったらこれからずっと拳法を教えて貰えるんだぞ?」
「今がいいです!今からずっとがいいです! 俺!子供の頃から拳法使いになるのが夢だったんです!」
「何回も聞いたよ。でもな?時と場所を選ぶのが大人だろ?」
「じゃあ俺!大人辞めます!」
「大人辞めますって宣言して辞められるもんじゃないだろ!大人って!分かった。お前がどうしても今じゃなきゃ嫌だ。仕事終わってからじゃ嫌だって言うなら考えがある。」
「お願いします!」
「今から拳法の修行をするって事じゃない!その逆だ!どうしてもお前が気持ちを抑えられなくて今からじゃないと嫌だって言うなら、俺はお前に拳法を教えない!」
「それは俺に子供の頃からの拳法使いになるって夢を諦めろって事ですか!」
「違うだろ!我慢しろって事だ!」
「分かりましたよ。窓拭きしますよ。子供の頃からの拳法使いになるって夢を人質に捕られたんじゃ仕方ないです。」
「言い方おかしいだろ!」
「こうなったら師匠!さっさと終わらせましょう!早く!」
「何でちょっと俺が悪いみたくなってんだ?」
「ところで師匠?」
「今度は何だ?」
「師匠の使う拳法は、何拳なんですか?」
「俺の使う拳法は少し変わってる。」

四百六十七話
「屁拳」

「それは握りっ屁だ!」
「握りっ屁とは大きく掛け離れてる!」

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